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僕と記憶とメガネと精霊と  作者: 風紙文
入れ替えの章
12/20

入れ替わりの日

時刻は既に夜遅く…ベッドの中に入った僕は横断歩道で出会った精霊についてピスラと話していた。

『ひょっとしたらあの子、凄い力の持ち主かも』

『凄い力?』

『いくら入れ換えの精霊だからってあんな簡単に拠り所じゃない物を操るなんて出来ない筈だよ、ましてや拠り所無しであんなに力が使えるのもおかしい』

『あの信号が拠り所じゃないの?』

『あの子もはぐれ者なの、風来坊みたいに色んな所を回ってるんだって、しかも、いたずらの旅だーとか言ってたし』

いたずらの旅…やっぱりあの精霊はあんな事を続けているんだ。

『全く…あの子には一度痛い目に会ってもらうしかないね』

『確かに悪い事だけどさ、そこまでの事じゃ…』

『そこまでの事だよ。あの子は何か西の方から来たとか言ってたけど、後二回で百回だってさ』

つまり九十八回も似たような事をしてきた事になる。

『後2回もあの信号でやるとか言ってたから、その前に何とかしないと』

『何とかって?』

『うーん…それは、これから考えるよ』

『そっか、何か手伝える事があったら言ってね』

『ありがと、晶…そろそろ寝よっか』

『うん。おやすみピスラ』

『おやすみ、晶』


…そして次の日の朝

「おはよう剛」

先に来ていた剛に挨拶する。

「おぅ…」

「? どうかしたの? なんか元気ないけど」

「聞いてくれよ晶、今日部活の朝連に遅刻しかけてな」

「遅刻? 剛が珍しいね」

「あの横断歩道でな、全っ然信号が変わらねぇんだよ」

「え…?」

「ずーっと赤でな、いざ変わったと思ったらあっという間に変わっちまったんだ。それで横断歩道が渡れずに立ち往生…表方が『無視すれば良いーんだよー』って言ってくれなっかたら完全に遅刻してたぜ」

「……」

それは、絶対あの精霊の仕業だ…剛が引っかかりやすいのもあるけど…これで九十九回、

後一回で百回になってしまう。



三限が終了した。

僕は剛、東真さん、裏井さんと先程の授業について話していると、ガラガラと大きな音をたてて教室の扉が開かれた。

クラス中の視線が向けられたそこには、

「ん? 南野じゃねぇか」

南野さんがいた。

クラスの皆は、なぁんだという感じで各々の行動に戻った。

南野さんは僕達の所に来て、

「おっはよ~!」

声高らかに挨拶した。

…え?

「おぅ、おはよう」

「おはようございます」

「おはよう」

三人は挨拶を返したが、僕は固まっていた。

「どうした? 晶」

「あ、いや…ううん」

「おっはよ~晶」

「お…おはよう…」

…おかしい、

南野さんはこんな事をする人じゃない筈だ。

「いや~さっきの授業が大変だったよ~」

「何だったんだ?」

「英語、本文訳すのって疲れるよね~」

「分かる分かる」

「そっちは何だった?」

「こちらは歴史でした」

「そっちも大変だね~」

「……」

普通に会話が行われている。

何でだ…明らかにいつもと違うのに…。


「うぉりゃ~!」

昼休み…僕と剛と裏井さん、そして南野さんが購買に来て昼御飯を求めている。

確か…南野さんは昼休み前に購買で買う筈だったのに…

やっぱり、おかしい

「晶、ちょっと来て」

購買を出た僕は、南野さんに引かれて体育館裏に来た。

「…ねぇ、晶」

「はい」

急に南野さんの声が小さくなった。

「…もう、気づいてると思うけどさ…あたし…」

「…うん。分かってるよ」

「……」

「…青さん、だよね?」

「…ふっふっふっ」

南野さんは髪に手を置いた。

すると、ズルリと髪が取れ

「ちぇ~、気づいちゃってたか~」

「もう二度目ですしね」

「むぅ~でもこの中紫さんなら大丈夫だと思ったんだけどな~」

カツラを振りながら青さんが言った。

「まぁいっか、他の皆にはバレてないし」

「そういえば、南野さんは?」

今先程までのは全て青さんだった。では本人は何処に

「お姉ちゃんなら寮だよ」

「寮?」

「今日は私とお姉ちゃんが入れ換わる日なんだ」

「入れ換わるって…」

「ご覧の通り、中紫さん以外は先生でさえ私とお姉ちゃんが入れ換わった事に気づかないんだ。だからたまにこうしてるの、前の中紫さんには説明したよ」

「そうだったんだ」

「だから、今日は私の事を南野さんって呼んでね」

青さんはカツラを被った。

「うん、分かった」

それにしても、本当に似てるな…、

行動が普段と全く違うから分かったけど…。


五限終了後の休み時間。

南野さんと入れ換わった青さんが教室に訪れて、僕達と話をして戻っていった。

「じゃあねぇ~」

扉が閉まった所でチャイムが鳴り、剛は席へと戻り、東真さんは前を向いた。

「中紫」

ふいに裏井さんが僕の名を呼んだ。

「はい?」

教室はまだざわざわしているが、いつ先生が来ても平気なように皆席へと戻っている。その中で裏井さんは僕に小声で言った。

「…あの南野だが」

なんだ、裏井さんも分かっているんだ。

「うん、そうらしいよ」

「…やっぱりか、さすがにD組にいるだけあるな」

「え? どういう事?」

クラスに何の関係が?

「知らないのか? D組は学年の特に変わり者を集めているクラスなんだ。南野は、いわゆる二重人格だと言う事でD組にいると聞いたが…」

「!!」

二重人格? 特に変わり者?

「そ、それは…」

南野さんがD組にいるのにはそんな理由が…?

「そんな…訳じゃ…」

「どうした?」

「い、いや…何でも…」


『そんな決まりがあったんだ』

『うん…そうらしい』

寮の自室。黒石より一足先に帰ってきたらしい僕は南野さんの事をピスラ達と話していた。

『それで、どうするつもりなの?』

『どうするって…』

『何かが出来る訳じゃないよね?』

『…うん』

『じゃあどうしようも無いじゃん』

「……」

確かにそうだ…けど、どうしても分からない事がある。

何故南野さんは青さんと入れ換わっているのかだ。

せめてそれだけは聞いておきたい、

『…明日、何故そんな事をしてるのかを聞くよ』

『それで?』

『…それだけかな』

『それだけ?』

『よく考えたら、別に誰かが困るとかじゃないしね』

『そっか』

『あ、あの…』

『ん? どうしたのアクア』

『あの入れ換えの精霊さんはどうなったんでしょう』

『あー…あの子か』

『そっちもどうにかしないといけないね』

『ほっとけばいいじゃん』

『そうはいかないでしょ、本当に怪我人が出るかもしれないし、そんなのピスラも見たくないでしょ』

『…そうだけどさ』

『私達が説得するしかないですよ』

『…だよね』

『?…どうかしたのピスラ、何だかあの子の話になった途端に』

『…別に、何でもないよ…でもさ』

『でも?』

『あの子…根は悪い子じゃないと思うんだ』


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