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山ガールと遭遇

作者: WAIai
掲載日:2026/08/14

通路ラッシュが終わり、一息ついた車内。

秋の日差しは柔らかく、そして包みこんでくれるような優しさ。

車掌は鼻唄を歌いたいくらい、長閑で穏やかな一時だった。

ーこの時間帯が1番、気が楽なんだよな。

問題も起こらないし、皆、殺気を放っているわけでもないし、本当に心から息を吸う。

川の匂いがふわりとしそうな雰囲気の中、

「嫌だ、もう!!」

おや、と車掌は思った。

静かだと思っていたが、若い女性3人組が日差しを受けながら、明るく会話している。

年は20代くらいだろうか。

おしゃれな格好をしており、その姿に見覚えがあった。

ー山ガールか。

山ガールとは、おしゃれな格好をして、山登りをする女性のことで、彼女達はまさしくぴったりだった。

ボブカットと長髪の娘が椅子に座り、髪の毛を縛った娘が立って、つり革に掴まっている。

ーどこに行くのかな?

車掌は多分、あそこだろうと目星をつけながら、彼女達の会話を聞いてみる。

「今日、いい天気で良かったね」

「うん!! カメラもバッチリ!! あとでインスタグラムにあげるんだ」

「え? サークルのインスタグラムにあげるの?」

「そう。そのほうが私達の活動を紹介しやすいじゃない」

「だから嫌だ、もうって言ったのに」

雀が楽しく会話するみたいに、彼女達からは明るい雰囲気しか伝わってこない。

サークル、という言葉から、大学生かと目星をつける。

ーこれはお知り合いになりたいな。

本当は話に加わりたくて、思いきって女性達に声をかける。

「あの」

「あ、車掌さん!! どうしたんですか?」

「私達、うるさいですか?」

「いや、うるさくないから大丈夫」

「そうですか。あー良かった」

「あんたの声、うるさいものね」

「あのね、聞きやすいって言ってくれる?」

また3人で話しそうだったので、車掌は早口に言う。

「苗場山に行くのかな?」

ここら辺で有名といったら、そこしかないので聞くと、女性達がにこにこと嬉しそうにしてくる。

「そうなんですよ。よく分かりましたね」

「ま、格好が格好だしね。あとは気力と体力の問題」

「大丈夫!! この日のために、身体を鍛えてきたんだから」

3人はおしゃべりが得意なようで、一言言うと、賑やかに返してくれる。

車掌も思わず微笑むと、彼女達の正体を聞く。

「君達、大学生?」

「はい、3年生です。S大学の登山サークルに入っているんです」

「S大学…。なるほど、頭が良さそうだ」

「そうですか? えへへ」

3人が笑顔になると、車掌は眩しそうに見つめる。

3人とも顔が整った、今どきの学生であり、知り合うなら今しかないと、車掌は積極的になる。

「私も一緒に登りたいな」

「車掌さんも? いいですよ、皆で登れば楽しいから」

「ただ仕事が忙しくて…。連絡先を教えてくれると助かるんだけど…」

「連絡先」

3人が顔を見合わせたので、車掌はストレート過ぎたかと思ったが、3人は「あはは」と車両が明るくなる声を上げる。

「いいですよ。スマホは…」

「え? 本当にいいの?」

「いいですよ、車掌さん。あとでインスタグラムにあげるので、写真を撮ってもいいですか?」

「いいけど…。とりあえず連絡先を」

スマホを取り出すと、3人と連絡先を交換する。

意外とスムーズに交換できて、心の中でうきうきする。

ー若い子と知り合いになってしまった。

男としては嬉しいに決まっている。

大事にスマホをしまうと、3人組に話しかける。

「写真を撮るなら、今、お客さんが少ないから、どうぞ」

「え!! いいんですか!! やったあ!!」

3人は急いで車掌の周りに集まると、一眼レフのカメラを使って、パシャリと撮る。

「もう1枚、お願いします!!」

「はい」

なるべく男らしく写るように、顔を調節する。

パシャリとまた音がして、3人がカメラの画面を覗き込む。

「うわ、かっこいい!! やっぱり車掌さん、いい男だよ」

「独身なんですか?」

「えっと…」

彼女達のアプローチに、車掌は少し戸惑う。

独身には独身なのだが、正直に言っていいものか、迷ったのだ。

「独身だよ。だから君達が眩しくて。まだ社会人のしがらみに縛られていないし、自由の身だから」

「社会人のしがらみ…? 大変なんですか?」

「色々とね。あと少ししたら分かるよ」

言葉をはぐらかすと、車掌は3人組に言う。

「苗場山の写真、楽しみにしている」

「OKてーす!! きゃ!! 喋っちゃった」

「もうさっきから、この娘は…!! うるさくないでしょうか?」

「もう喧嘩しないの」

女3人が寄れば何とかやら、車掌は素直て若い3人組から元気をもらっていた。

「将来、何になるの?」

「公務員!!」

「私は薬剤師になろうかと」

「私は似たもので、医者になりたいです」

「薬剤師に、医者!? すごいね、君達」

お金の困らない3人組らしく、どうりで育ちがいいと思ったと納得する。

余裕のある雰囲気なのだ。

ーこれは、絶対にGETしなくては。

男心がむくむくとわきあがり、車掌はより優しく言う。

「山登り、気をつけて。最近、熊も多いし。滑落する人もいるみたいだから」

「はーい!! 大丈夫です」

「大丈夫じゃなくて、気をつけますって言うの。ここは」

「もういいじゃない、何でも」

キャキャと騒ぐ姿は、懐かしさをくれる。

「じゃあ、私は行くから。降りる時に声をかけてくれると、いいんだけど」

「分かりました。そうします」

3人は手を振ってきたので、車掌も手を振り返す。

ふふと1人で上機嫌に笑うと、他の車掌にも教えてやろうかと企てる。

ー現役女子大学生なんて、滅多に会えないしな。

ふんふんと鼻歌を奏でると、車掌は凛々しい顔つきとなり、違う車両へ移動したのだった。





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