山ガールと遭遇
通路ラッシュが終わり、一息ついた車内。
秋の日差しは柔らかく、そして包みこんでくれるような優しさ。
車掌は鼻唄を歌いたいくらい、長閑で穏やかな一時だった。
ーこの時間帯が1番、気が楽なんだよな。
問題も起こらないし、皆、殺気を放っているわけでもないし、本当に心から息を吸う。
川の匂いがふわりとしそうな雰囲気の中、
「嫌だ、もう!!」
おや、と車掌は思った。
静かだと思っていたが、若い女性3人組が日差しを受けながら、明るく会話している。
年は20代くらいだろうか。
おしゃれな格好をしており、その姿に見覚えがあった。
ー山ガールか。
山ガールとは、おしゃれな格好をして、山登りをする女性のことで、彼女達はまさしくぴったりだった。
ボブカットと長髪の娘が椅子に座り、髪の毛を縛った娘が立って、つり革に掴まっている。
ーどこに行くのかな?
車掌は多分、あそこだろうと目星をつけながら、彼女達の会話を聞いてみる。
「今日、いい天気で良かったね」
「うん!! カメラもバッチリ!! あとでインスタグラムにあげるんだ」
「え? サークルのインスタグラムにあげるの?」
「そう。そのほうが私達の活動を紹介しやすいじゃない」
「だから嫌だ、もうって言ったのに」
雀が楽しく会話するみたいに、彼女達からは明るい雰囲気しか伝わってこない。
サークル、という言葉から、大学生かと目星をつける。
ーこれはお知り合いになりたいな。
本当は話に加わりたくて、思いきって女性達に声をかける。
「あの」
「あ、車掌さん!! どうしたんですか?」
「私達、うるさいですか?」
「いや、うるさくないから大丈夫」
「そうですか。あー良かった」
「あんたの声、うるさいものね」
「あのね、聞きやすいって言ってくれる?」
また3人で話しそうだったので、車掌は早口に言う。
「苗場山に行くのかな?」
ここら辺で有名といったら、そこしかないので聞くと、女性達がにこにこと嬉しそうにしてくる。
「そうなんですよ。よく分かりましたね」
「ま、格好が格好だしね。あとは気力と体力の問題」
「大丈夫!! この日のために、身体を鍛えてきたんだから」
3人はおしゃべりが得意なようで、一言言うと、賑やかに返してくれる。
車掌も思わず微笑むと、彼女達の正体を聞く。
「君達、大学生?」
「はい、3年生です。S大学の登山サークルに入っているんです」
「S大学…。なるほど、頭が良さそうだ」
「そうですか? えへへ」
3人が笑顔になると、車掌は眩しそうに見つめる。
3人とも顔が整った、今どきの学生であり、知り合うなら今しかないと、車掌は積極的になる。
「私も一緒に登りたいな」
「車掌さんも? いいですよ、皆で登れば楽しいから」
「ただ仕事が忙しくて…。連絡先を教えてくれると助かるんだけど…」
「連絡先」
3人が顔を見合わせたので、車掌はストレート過ぎたかと思ったが、3人は「あはは」と車両が明るくなる声を上げる。
「いいですよ。スマホは…」
「え? 本当にいいの?」
「いいですよ、車掌さん。あとでインスタグラムにあげるので、写真を撮ってもいいですか?」
「いいけど…。とりあえず連絡先を」
スマホを取り出すと、3人と連絡先を交換する。
意外とスムーズに交換できて、心の中でうきうきする。
ー若い子と知り合いになってしまった。
男としては嬉しいに決まっている。
大事にスマホをしまうと、3人組に話しかける。
「写真を撮るなら、今、お客さんが少ないから、どうぞ」
「え!! いいんですか!! やったあ!!」
3人は急いで車掌の周りに集まると、一眼レフのカメラを使って、パシャリと撮る。
「もう1枚、お願いします!!」
「はい」
なるべく男らしく写るように、顔を調節する。
パシャリとまた音がして、3人がカメラの画面を覗き込む。
「うわ、かっこいい!! やっぱり車掌さん、いい男だよ」
「独身なんですか?」
「えっと…」
彼女達のアプローチに、車掌は少し戸惑う。
独身には独身なのだが、正直に言っていいものか、迷ったのだ。
「独身だよ。だから君達が眩しくて。まだ社会人のしがらみに縛られていないし、自由の身だから」
「社会人のしがらみ…? 大変なんですか?」
「色々とね。あと少ししたら分かるよ」
言葉をはぐらかすと、車掌は3人組に言う。
「苗場山の写真、楽しみにしている」
「OKてーす!! きゃ!! 喋っちゃった」
「もうさっきから、この娘は…!! うるさくないでしょうか?」
「もう喧嘩しないの」
女3人が寄れば何とかやら、車掌は素直て若い3人組から元気をもらっていた。
「将来、何になるの?」
「公務員!!」
「私は薬剤師になろうかと」
「私は似たもので、医者になりたいです」
「薬剤師に、医者!? すごいね、君達」
お金の困らない3人組らしく、どうりで育ちがいいと思ったと納得する。
余裕のある雰囲気なのだ。
ーこれは、絶対にGETしなくては。
男心がむくむくとわきあがり、車掌はより優しく言う。
「山登り、気をつけて。最近、熊も多いし。滑落する人もいるみたいだから」
「はーい!! 大丈夫です」
「大丈夫じゃなくて、気をつけますって言うの。ここは」
「もういいじゃない、何でも」
キャキャと騒ぐ姿は、懐かしさをくれる。
「じゃあ、私は行くから。降りる時に声をかけてくれると、いいんだけど」
「分かりました。そうします」
3人は手を振ってきたので、車掌も手を振り返す。
ふふと1人で上機嫌に笑うと、他の車掌にも教えてやろうかと企てる。
ー現役女子大学生なんて、滅多に会えないしな。
ふんふんと鼻歌を奏でると、車掌は凛々しい顔つきとなり、違う車両へ移動したのだった。




