おお勇者!死んでしまうとは、情けない……とは言うが、蘇生するこっちの身にもなってくれ
「おお勇者!死んでしまうとは、情けない……そなたに、もう一度機会を与えよう」
「へへっ、あざーっす王様!」
……いや、勇者よ。ヘラヘラと笑っておる場合か?
そなたの役目は、一刻も早く魔王を倒して世界に平和をもたらすことじゃと何度言えば——
「陛下!陛下っ……!」
「何じゃ、大臣」
そばに立つ大臣は、眉間を必死に指差している。
ふむ、どうやらワシも気付かぬうちに皺を寄せていたらしい。
危ない危ない。勇者の機嫌を損ねるのだけは、避けなければ……
「とにかく、そなたは世界のただ一つの希望……世界が魔王の手に落ちる前に——」
「わかってますってー!じゃ、俺らはこれで!」
そそくさと玉座の間を後にする勇者一行。
扉が閉まり、その背中が見えなくなると、大臣たちは一斉にため息を漏らした。
うむ、気持ちはわかるぞ?ワシも、連中には言いたいことが山のようにあるんじゃが——
「人の話くらい、最後まで聞かんかぁぁあ!!」
玉座の間に響き渡るその声が小さくなると同時に、思わず深くため息をつく。
「大臣よ、これで何度目じゃ?」
「大変申し上げにくいのですが……48回目です」
「よ、48……もう50近いではないか。いつになったら、ヤツは魔王を討伐してくれるんじゃ?」
「……」
すまん、大臣。思わず本音が……
何より、最大の問題は——
「今回の蘇生にかかった、総額は?」
ワシがそう問うた瞬間、玉座の間が静寂に包まれる。
わかるぞ。ワシも、もう考えたくもないわい。
良い機会じゃ、勇者一行が全滅するたびに発生する、国王であるこのワシの業務を挙げてしんぜよう。
・蘇生費用の財源確保
・民衆に不安を広げぬよう、また魔王軍にバレぬよう教会への根回しと情報統制
・腕利き冒険者を招集しての勇者一行の遺体——いや、棺桶の回収
・装備紛失時の補填
・王国議会への説明
更にこれらに付随する諸々に加えて——
「次はいつ、勇者様が亡くなられるんでしょうか……?」
……こうして胃を痛める、大臣たちへのケア業務。
勇者よ!こう何度も死んでしまうとは、本当に情けない……!
厳しい道のりなのは、ワシらも理解しておる。
理解しておるんじゃが——
「今週、もう三度目の蘇生費用を国庫から出す、ワシの身にもなってくれぇぇ!!」
そう叫んだ数時間後。ワシの目の前に並ぶ4つの棺桶——
「……大臣、今回の死因は?」
「た、大変申し上げにくいのですが……ミミック、だそうです」
「は?ミミック、じゃと……?」
いやいやいや、49度目にもなってミミックぅぅ!?
確かに、判別魔法の精度は100%ではないとはいえ……せめて、そのミミックを退治できると判断してから開けんかぁぁ!!
「……仕方あるまい。すぐに、教会に連絡を」
「かしこまりました」
そのまま下がる大臣を見送って、ワシはメモ帳を取り出す。
「『49度目。死因:ミミック』、と」
次で、記念すべき50度目——いやいやいや、記念はすべきではない。
が、そう考えねばワシの精神がもたんのじゃ……!
チラリと羅列された死因一覧に目を向ける。
1度目:底なし毒沼で全滅——なぜ、毒沼に突っ込む?これ以降、毒消しを常備させる
6度目:勇者が呪いの剣を装備、錯乱して全滅——「何かカッコよかったんで、つい〜」ではない!!鑑定士による、鑑定魔法の重要性講座を受講させる
13度目:近道しようと崖から転落して全滅——目の前にある道を使え。頼むから、道を使ってくれ
23度目:ドラゴンの寝床に気付かず全滅——あれほどまでにデカいモンスターの寝床に、なぜ気付かんのだ!?焼け石に水だが、炎耐性のマントを4枚支給する
37度目:借金返済のためにカジノで装備品を売り払い、直後ダンジョンで全滅——少しの息抜きなら構わん。が、そなたらの役割を忘れるでないぃぃ!!なお、財務大臣が泡を吹いて倒れた模様
43度目:そこらに生えていたキノコを鍋に入れ、全滅——いや、拾った訳の分からんものを食うでない。幼子でも知っておろう??
……改めて見ると、酷いのぉ。
本当に、魔王を倒してくれるのか?
むしろ、ワシらが直接交渉する方がまだ可能性があるのでは——いやいやいや、勇者は魔王軍に対抗できる唯一の手段。
ワシらの役目は、勇者一行を支えることじゃ……しかし——
「このままでは、財源がぁぁあ!!」
頭を抱えたところで、税収が急に増えるわけでもない……何なら、魔王の影響で税収は減っておるくらいじゃ。
王宮内のアレコレも売り払って、今着ているこの服ももう何代も前の国王の着ていたもの。
この調子で何度も勇者一行に全滅されては、魔王を倒す前に——我が国が、破綻する。
「何としてでも、勇者には早々に魔王を退治してもらわねば……」
思わず、低くそう漏らす。
流石に、49度も全滅すれば勇者も学習するであろう。
もし、次また全滅するようなことがあれば——
「全てを、賭けるしかない」
ふと顔を上げると、くすんだステンドグラスの向こうには、雲一つない青空が広がっている。
……今度こそ、大丈夫な気がする。
小さく笑みを浮かべた翌日——ワシらは、50度目の勇者一行の蘇生に奔走していた。
いつものように生き返った勇者一行を、王宮の一室に押し込む。
「そなたらも、旅の疲れが溜まっておるじゃろう?今日は、ここでゆっくり休むと良い」
「あざーっす!夕飯、期待してまーす!」
屈託なく笑う勇者に苦笑いしつつ、ワシは扉を閉めた。
「今回は食費も追加、か……」
いやいやいや、それよりも今はもっと重要なことがあるのじゃ……!
勢いよく玉座の間の扉を開くと、大臣や王国議会のメンバーが勢揃いしている。
よしよし。皆、きちんと招集に応じてくれたようじゃな。
まだ、ワシの威厳も保たれている……ということか。
「さて、皆の者に集まってもらったのは他でもない」
皆が息を呑む中、ワシは意を決して考えに考え抜いた案を口に出す。
「これ以上、勇者を死なせぬための会議を始める」
ざわつく大臣たち。
そのうちに、議会メンバーの1人が手を挙げた。
「一行の移動経路の監視を提案いたします!地図師と偵察兵を同行させましょう!」
それを皮切りに、次々と案が上がっていく。
「なんなら、鑑定士も同行させては?ミミックや呪いの装備の対策になります!」
「勇者一行の装備に売却防止のための刻印を。『王国貸与品』と記しておけば、買い取る店もありますまい」
「食糧支給量を増やしましょう!料理長に相談して、安全なものをご用意します!」
「ご一行に、賭博禁止令と禁酒令を出してはいかがでしょうか?娯楽であれば、他にも安全な選択肢はいくらでもありますゆえ」
うむ、良い。非常に良いぞ……!皆の者、もっともっと案を出してくれぃ!
ああ、何故もっと早くこうしなかったのか……いや、今更悔やんでも仕方あるまい。
「よし、国の総力を挙げて、勇者一行を魔王の下まで『生きたまま』送り届けるのじゃぁぁあ!!」
「「「うぉぉお!!!」」」
そして、対策を練りに練った数週間後——
「へっ、陛下っ!!」
勢いよく扉を開けて飛び込んできた大臣。
まさか、51度目の——いや、大臣のこの安堵の表情。ひょっとして……
「勇者様が、魔王を討伐されましたっ……!!」
「何じゃと!?」
つ、ついに……ついにやり遂げおったか……!
思わず大臣と歓喜の抱擁を交わす。
グスグスと泣いている大臣につられて、ワシも涙が……
「やりましたね、陛下っ……!」
「長かった、ここまで本当に長かった……!大臣もよくやってくれたのぉ」
「陛下こそっ!」
抱き合って号泣するジジイ2人……絵面は最悪じゃが、今日くらいは許せっ!
「さて……勇者一行を、王国を挙げて盛大に出迎えねばならんの」
「お戻りになられるまでに、祝勝会の準備を整えましょう。陛下は少しお休みください」
「いや、そなたらに負担をかけるわけにもいくまい。宴の後、皆でゆっくり休暇を取ろうではないか」
思わずそんな前向きな話をしながら、ワシらは勇者一行の帰りを待った。
そして、いよいよ——
「キャー!勇者様よ!」
「これで平和に暮らせる!勇者様ご一行ばんざーい!!」
歓喜の声に包まれる王都。
民衆からの称賛の声を浴びながら、まっすぐに王宮前に向かってくる勇者一行。
うむ、これが平和というものか……悪くないの。
ワシは大臣たちと一瞬目を合わせてから、勇者たちに歩み寄る。
「勇者よ、そなたらの働きで世界に平和が戻った。礼を言わせてくれ」
「いやぁ……このくらい、勇者の俺にかかればちょちょいのちょいっすよ〜」
その瞬間、穏やかだった大臣たちの表情が一斉に能面のように変わった。
ワシも思わず声を上げそうになるも、何とか抑えて笑顔で勇者に向き直る。
「さ、今日は勇者の功績を讃えるための祝勝会を開く。そなたらも、存分に楽しみなさい」
「あざーっす!あっ、でも禁酒令解いてくれません??」
「うむ……それもそうじゃな。くれぐれも、羽目を外すでないぞ」
「わかってますってー!んじゃ、ゴチになりまーす!」
軽い足取りで会場に向かっていく勇者たち。
その背中を見送りながら、ワシは思わず深く息を漏らした。
終わった……ついに、終わった!
蘇生のたびに国庫を気にする必要も、冒険者を募る必要も、教会に支払いを待ってもらうべく土下座する必要も——ない!
もう、勇者を生き返らせなくても良いのじゃ……!!
やっと、肩の荷が降りた……もう、後進に王位を譲って隠居しても良いんじゃないかの?
そんなことを考えながら、ワシは大臣や議会メンバーと静かに飲み明かした。
そして、翌朝——
軽い足取りで玉座の間に入ったワシの目の前には、見慣れた棺桶が4つ。
思わず口をあんぐりと開けて、それらを指差してしまった。
「大臣、これは?」
「……棺桶でございます」
「ああ、もう旅が終わって必要ないから処分をということ——」
「陛下、大変申し上げにくいのですが……」
暗い大臣の表情。
いやいやいや、ワシは認めぬぞ。
どこの誰じゃ!?勇者に嫉妬した不届き者の仕業か!?それともまさか、魔王軍の残党が入り込んだのか!?
なぜ……なぜ、勇者がまた死んでおるのじゃぁぁあ!?
ようやく、蘇生祭りから解放されると思っていたというのに——
「急性アルコール中毒、だそうです」
「……は?アル、コール??」
ワシの脳裏に、昨日の勇者とのやり取りが鮮やかに蘇る。
まさか、ワシが禁酒令を解いたからなのか……?
いや待てぃ!羽目を外すなと申したはずであろう!?
しかも、よりによって4人揃って死ぬとはどういうことじゃ!?
……じゃがしかし、今の勇者たちは国の英雄。死なせたまま、というわけにもいくまい。
「……大臣、教会に連絡を」
「はい……かしこまりました」
その後、51度目の蘇生を果たした勇者一行を見送ったワシと大臣は、揃ってため息を漏らす。
「まさか、魔王討伐後もこうなるとは——」
そう口にした瞬間、はたと言葉を切る。
いや、ちょっと待て……魔王を倒したところで、勇者は勇者のままじゃ。
あやつは国の英雄、世界の希望——ひょっとして、老衰して自然死するまでワシらが面倒を見なければならないのでは……?
思わず大臣と顔を見合わせる。
向こうも同じことを考えていたのか、顔色が良くない。
ワシもこんな想像はしたくなかった。したくなかったのじゃが——
「あと数十年も、これが続くのかぁぁあ!!」
早朝の玉座の間に、ワシの嘆きが響き渡った。
—fin—




