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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

時の児

掲載日:2026/06/16

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 は? やば、いつの間にか眠っていたような。

 時間は……よかった、まだちょっとゆとりがある。ん? あれ、こーちゃん、来てたんだ。寝る前は部屋にこもりきりだったと思うけど、ひと段落ついたのかい?

 あまった時間の過ごし方で、誰でもできることって、まずは眠ることだと思うんだよね。

 確かに趣味とかあれば、どばどば脳内物質が出て、興奮しながら時を過ごせるだろう。でも、確かに疲れは残っていてどこで影響が出てくるか分からない。本人の気持ちこそが大事だから、些末なことかもだけどね。

 それもなく、空いた時間をぽんと渡されたら、まあ寝るかなあ。そして寝ている間の時間感覚はなくなっているから、すさまじい時間の経過に、ちょっとした浦島太郎気分になれちゃうかもね。

 今のところ、人間がもしタイムスリップするとしたら、この睡眠が実現性の高い有力な方法じゃないかと思う。いわゆる、コールドスリープってやつ?

 長く眠って、はるか未来に目覚める……ロマンはあるだろうけれど、自分ひとりでも構わない覚悟がいるだろうな。記憶的にも、知識的にも、存在的にも。

 僕が考えられちゃうんだ。はるか昔に生きていた者なら、とっくに考えて試しているかもしれない。今に至るまでもね……。

 時間は、あと少しくらいあるな。こーちゃんも、ネタが欲しくない?

 友達から聞いた話なんだけど、耳に入れてみない?


 時の児。

 こーちゃんは、そう呼ばれる存在を知っているだろうか?

 先ほどコールドスリープの話はしたと思うけれど、現在でもそのような存在が眠っているという話さ。その総称が時の児てわけ。

 こいつがどこに現れるのか、どのような存在なのか。はっきりとしたことを説明することはできない。現在の人類がたどり着けていない領域か、あるいは忘れ去ってしまった知識なのかもしれないけれど。

 そして、友達が時の児と出会ったのは8歳のときだ。


 当時、通っていた学校の裏山で、クラスメートたちと鬼ごっこをしていたという友達。

 面積は広いから、鬼に補足されないうちはかくれんぼの要素も強い。固まるよりも、ばらけたほうがいいということで、ひとり山の裏手へまわっていった友達。

 そこの下り斜面に差し掛かったあたりで、うっかり木の根に足をとられた。根が折れたような音と感触があり、崩れた体勢を立て直すことはできずに坂道を転がり落ちてしまうかっこうに。

 それでも声はあげない。鬼に位置が知れる。

 さいわい、崖などの危ない地形にはつながっておらず、ひとしきり転がったところで動きが止まった。

 けれども、痛みをこらえて立ち上がろうとし、手をついたところで何かを潰したような気配が掌を走る。

 そう、気配だ。感触というよりも明らかに掌の下と地面の間を、そいつはかさかさかさと通り過ぎていった、と友達は語る。

 いざ手を持ち上げてみると、そこにあったのは真っ黒い小エビのようなもの形をしたものがあったらしい。頭をとった、ブラックタイガーが近いとのこと。

 しかし、尾の部分にあたりそうな断面からのぞくのは、緑色のもの。身は身でもエビの持つそれではなく、葉々の上を這うようなイモムシのごとき姿だったとか。

 脱皮とも違う、不可解なアンバランスさ。鳥肌が立つのを感じながら、友達は鬼ごっこから離脱する旨を他のみんなへ伝えると、すぐ家へ逃げ帰ったらしい。

 いま、ここで見たものを誰かに聞かないといけない。そう、頭の中で何かが訴えかけてきたような気がしたから、と。


 それが時の児かもしれない、と教えてくれたのは祖母だったらしい。

 ずっと昔に、失われた業を使って眠り続けている存在。祖母はおそらく、不老不死を求めた試行錯誤のひとつじゃないのか、と考えているのだとか。

 祖母もまた自身の母からそれを聞き、実際に出くわすこともあった。祖母のときは、真っ青な身体をした人の赤子のごとき姿だったという。


「時の児は、本来の時間のことわり。約束事から外れてしまった存在。そいつが目覚め、動き出すならば、再び眠るまで時間の常識が狂ってしまうんだと。ばあちゃんのときは、すでに死んでいた父ちゃんの姿を見かけた。

 亡くなってから、ずっともぬけの殻になっていた父ちゃんの部屋で、平然と安楽椅子に腰を下ろしていたよ。

 一度だけ。それもせいぜい数分の間だけだ。怖くて話しかけることも近づくこともしなったよ。死んでいるであろうことは、すでに何年も経て自分なりに心の整理をつけていたからね」


 あんたも、くれぐれも注意しな、と忠告をもらったらしい。


 そうして友達が、学校へ行った翌日のこと。

 ランドセルから教科書を出していると、底のほうにまだ別の何かがうずくまっている気配がした。

 あの時の児のような感触じゃない。毛にあふれて、ふさふさとした柔らかいものだ。

 片手で握り込めるサイズの、獣毛を模したアクセサリーのように思えたという。が、それならば持ち手や、引っかけるためのホルダー部分がくっついていそうなところ。でも、それらが見当たらない。

 もちろん、自分がこのようなものを入れた記憶はなかった。友達はすぐさま、それをティッシュにくるんでクラスのゴミ箱、奥深くへ埋めるようにして捨ててしまったそうだよ。


 そして帰り。

 一匹の野良犬が車にひかれる、その瞬間にたまたま友達は居合わせた。

 犬は直接タイヤの下敷きになることは免れたものの、尻尾部分をはさまれる。重く、速い車のエネルギーに耐えるすべはなく、それが根元からちぎれて、友達の足元へ転がってきた。

 それはちょうど、朝に友達が捨てたランドセルの底にあったものとうり二つだったそうな。

 すでにゴミは出してしまっていて、例の捨てたものを確かめることはできなかった。けれども、もしあれが祖母のいう時間の常識の狂いであるならば、未来の予告だったのだろうか。

 あるいは異なる時間から訪れたものだったのだろうか。答えは分からずにいるとか。

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