2/10
第一章 離婚
「あなたは仕事ばっかり。」
リビングに重たい沈黙が落ちる。
時計の秒針だけが、やけに大きく聞こえた。
「家族より仕事。昔からそうよね。」
テーブル越しに立つ妻の顔は、怒っているというより、もう諦めているように見えた。
俺は黙っていた。
言い返す言葉がないわけじゃない。
だが、どれも言い訳にしかならないことを、自分でもわかっていた。
妻は続ける。
「あなたのお父さんと同じ。」
胸の奥が、少しだけざらついた。
「親が親なら子も子よ。」
その言葉が落ちた瞬間、何かが終わった気がした。
沈黙。
長い沈黙。
俺は立ち上がる。
「……俺は」
言葉を探す。
でも出てきたのは、思っていたより冷たい言葉だった。
「俺は一人の方が楽だ。」
妻は何も言わなかった。
ただ小さく息を吐いて、視線を逸らした。
その顔を見て、ほんの少しだけ後悔した。
だがもう遅い。
俺は玄関へ向かう。
ドアを開ける。
背後で妻が言った。
「そう。なら好きにすれば?」
俺は振り返らなかった。
ドアを閉める。
静かな音だった。
だがその音は、まるで何かの始まりみたいに、妙に耳に残った。




