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またどこかで  作者: かさ


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最終章 またどこかで

俺の体は、もうほとんど影になっていた。


指の輪郭が崩れている。


触れても感覚がない。


父親はそれを見ても驚かない。


「みんな最初はそうなる」


周りには無数の影。


誰も動かない。


ただ、そこに立っている。


俺は聞く。


「ここに来たら……どうなる」


父親は言う。


「特に何も」


「消えるわけでもない」


「生きてるわけでもない」


影を見渡す。


「ただ、ここにいるだけだ」


俺は苦く笑う。


「……地獄じゃねえか」


父親は少し笑った。


「でもな」


「終わりじゃない」


俺は眉をひそめる。


父親は続ける。


「人間は必ず孤独になる」


「喧嘩する」


「別れる」


「誰かを失う」


そして、あの日の言葉をなぞるように言った。


「一人の方が楽だ」


胸が少し痛む。


その時だった。


空間の奥で、闇が揺れた。


何かが生まれる。


影が形を作り始める。


父親が小さく笑う。


「来たな」


「新しいやつだ」


俺はその影を見る。


ぼんやりとした人の形。


まだ顔は分からない。


だが。


その影はゆっくりこちらを向いた。


そして――


手を見た。


細い指。


震えている。


その瞬間、胸がざわつく。


見覚えがある。


どこかで見た手だった。


影は小さく震えている。


何かを探しているみたいに。


俺の影の体が、少しだけ前に動く。


その時。


影の口が動いた。


声は出ない。


だが確かに言っていた。


「……どうして」


その言葉で、俺の中の何かが崩れた。


その声。


その震え方。


その仕草。


思い出す。


離婚の日。


あの夜。


ドアの前で言われた言葉。


「あなたのお父さんと同じね」


影の顔が少しだけはっきりする。


俺は、ようやく気づいた。


「……お前」


その名前を言おうとした瞬間。


影の口が、もう一度動く。


「またどこかで」


その言葉を見た時。


俺は理解した。


この世界は終わらない。


孤独を選んだ人間がいる限り。


影は増え続ける。


そして俺は。


目の前の影を見つめながら、小さく呟いた。


「……また会ったな」


暗闇の中で。


影が、また一つ増えた。


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