ネズミのピンヒール・ザ・エンド
ネズミのピンヒールの続き、、、、
廃墟の工場
シーヴァン、シドニー、ジジの3人はバスに揺られて20分程たった。
バスの中は一向に静かだが、乗客は増えていった。その中でシーヴァンとジジはシドニーを挟んで言い合いをしている。
「それで、ネズミ?だったと?出身は下水管か?」シーヴァンはにやけながら小馬鹿にした口調で言った。
「そうよ、私は北シーナの下水管で生まれた」ジジは真面目な顔で答えるが、わざとのようにも見受けられた。シドニーの困り果てた表情が視線の先の窓ガラスに写り、自分の表情を見つめ続ける。
「どうやって人間になれたんだ?」
「女神様のおかげよ、意外と人間に化けた動物ならいるんだから、人間っていうのは自分たちの世界がこの世を全てと信じ込んでいるのよ」
「お前、どこの宗教の人間だ?」
「いや、、、はい?」
シーヴァンの嘲笑う表情を見て戸惑うジジは、やっと自分が馬鹿にされていると自覚し、「あなた、私の事馬鹿にしているでしょ?」と率直に聞いた。
「いやいや、バカになんてしてねぇよ、ただ動物が人間なれるんなら、俺はライオンにしてもらいてぇなって思って」シーヴァンは笑いながら答えた。真ん中で聞いているシドニーはそれがバカにしていると気づいているが、当の本人はあっさりとシーヴァンの言葉を飲み込んだ。
駅はマテリアに着いた。ジジから先に降り、続いてシドニー、シーヴァンが降りた。
「ここよ」とジジは2人を案内した。マテリア駅から離れるほど通りの人数は減り、ドーム状の屋根をした建物が見えてきた。おそらく廃墟となった工場だ。
ここからは町外れの堺のように、ついさっきまでいた町がやがて小さく見えていく。周りに建物がなくなってきたところから、徐々に寒くなってくる。
廃墟の工場の後ろは森が広がり、その先には海になっている。
「ここって、昔飛行訓練場があった場所じゃんか」シーヴァンの3人の中で一番ヴェノピアの地図に詳しい。なにせ、生まれ育ちこの国なのだから当然だ。
工場は目の前に来ると、すごい巨大な建物だ。飛行訓練場と言われれば納得する。
「いつ飛行訓練場だったの?」シドニーがそう質問すると、「相当昔だ、第一次世界大戦よりもな、俺が子供の頃」と言った。
3人は大きな入口の前にやってきた、入口は3mほどの高さで大きく、幅もそのくらいで前回に空いたままだった。
中は広く、いくつもの機械が立ち並んでいた。そして、一番手前の機械の横で木の椅子に座って手を組んで眠っている男がいた。
「なぁ、こいつじゃないよね?」シドニーがジジ聞くと、「知るわけないじゃない、寮にきた男2人組を見てないのよ」と言った。
しかし、こんなところでスーツに豪華なロングコートを着た人がいるのはおかしい、この人に間違いないと確信した。
シーヴァンは警戒しながら、ジジを除けてゆっくり男に近づいた。
「何をする気?」シドニーが小声で言うと、「もしかしたらパスポート持ってるかもしれないだろう」と言った。
ジジとシドニーもシーヴァンに並んで男に近づいた。
近づいて気づいたが男はかなり爆睡している状態だ、ひそかにいびきが聞こえてくる。
シドニー 「これ以上近づいたら危ないんじゃない?」
シーヴァンは動きを止め顔だけを後ろに向けると、ジジの後ろにいるシドニーを慎重に見ながら言った。
「いや、パスポートはおまえのだし、聞きたいことがあるとか言って、すぐに返してくれないし、そんな奴を相手にしてる方が時間の無駄だぜ、それよりさっさと探し出してすぐ帰るぞおまえ」
真ん中にいたジジが「確かにそうね、こいつら警察でも兵隊でもなんでもないし、捕まったりなんてしない」と言った。
シーヴァンは無言で正面に向き直ると、腕を伸ばせば触れられる距離まできたがそこからより近づく事は躊躇い、前越しになって地面に垂れたコートの左右ポケットに手を入れる。シドニーとジジの方向からだとシーヴァンの突き出したお尻しか見えず、左右に顔を動かしながら、前の様子を確認する。3人とも一列になり、緊張からか動ける範囲が狭まっていた。
コートに入ってない事を確認すると、ゆっくりとスーツの胸ポケットに腕を伸ばした。するとジジがシーヴァンの耳元で急に口を開き、シーヴァンは肩を震わす。
「ねぇ、そもそもパスポートを持ち歩いてるかもわからないわよ」
「急に話しかけるな、あほ!」
ジジは目を開いて顔をゆっくり下げた。でもたしかにジジの言ってる事も理解できる。必ずしも体のどこかにしまってるとは限らない。
しかし、他にも保管する場所など見当たらない。そしてこの男1人しかおらず、ここで「今ここにはありません」なんて呆れた事はやめてほしいものだ。
シーヴァンはとりあえずポケットを全て探ることにした。
手の感覚だけを頼りに右の胸ポケットに手を入れた。腕時計のようなもの、ペンのようなものがごちゃごちゃと入っている。 左の胸ポケットに手を入れると、手帳のようなものに触れた。袋に入ってるようだが、形はパスポートに近い「これだ」シーヴァンはゆっくり引っ張り出すと、それはやはりパスポートだった。
パスポートの形にフィットした透明袋に入れられており、シーヴァンはそれをシドニーに見せて、にこっと微笑んだ。
3人は男に背を向けないように後ろに下がり、ある程度距離をとったところで袋を開けてパスポートのページを開いた。
「シドニー・アレクス・リーバー・ノラ」と記載されていた。ページに貼られた写真もシドニーだ。
シドニーは安心したように微笑むと、「よし、この場を立ち去ろう」そう言い、シーヴァンを見た。シーヴァンも息を切らしながら優しい笑みを見せていた。
2人が見つめ合ってる中、真ん中にいるジジが「おっとー、2人とも問題発生よー」と小声で言った。ジジが見ている先に目をやると、2人の男が立っている。
男の1人は椅子で眠る男と服装が同じだ。そしてもう1人は金髪頭で、帽子とケースを左手に抱えて立っていた。
「おい!お前ら何者だ!」スーツにロングコートを着た男が怒鳴った。後ろで寝ていた男はびっくりして椅子から転げ落ち、焦りながら転がった帽子を被り直すと、入り口前に立つ男2人と、目の前の3人を交互に見る。
そして、3人は唖然としながら固まった。男はシドニーの顔を見て、しばらくして目を見開いた。
「お前、偽造パスポートの持ち主か!」
シドニーとシーヴァンの背筋は凍った。なぜ、このパスポートが偽造だと気づかれた?スパイでも近くにいるのか?この男は何者なのか?
頭の中はテンパリ始め、今どうするべきか全く判断できない。すると真ん中にいたジジが口を開いた。
「どうしてここがわかったの?」
ジジは慣れ親しみある人物に話してるように喋る。金髪頭の男はジジに言った。
「見つけるのは簡単なのだよ、ミスターボーンズから情報をいただいたのでね、君の昔の主人がお探しだよ、問題は君が大人しく首を渡すかなのだよ、、、」シュタインは笑みを浮かべる。
ジジは目を細め、シュタインを睨みつける。「この人、誰?」シドニーが小声で聞いた。「あの人はシーザンが雇ってる探偵シュタイン、私の首を狙ってる」
「は?なんで?シーザンって誰?」
「お前たちがちょうどここに集まってくれたおかげで、片付けが簡単だ」ジョンが言った。
「何が、どうなってる?」シーヴァンは眉間に皺を寄せ、後ろにいる男に警戒しつつ、こっそりと逃げ道を探る。
「なんで、なんでバレるのよ?」ジジがそうぼやくと、ジョンが言った。
「君がジジ・ジョークか、話を聞きたい?これが面白い話なんだ、、、」ジョンは高い声で笑いながら、左の胸ポケットから小型のピストルを取り出した。
そして、話を始めるが話しながら銃に弾をセットしていく。その様子を緊張しながら見続けた。
バス駅を頼りに地下鉄の入り口を見つけたジョンは、階段を降りる途中、ふっと気がついた。
シュタインがネズミと言っていた人物の名前、たしかジジ・ジョークとか、、、そして、ウィリアムズ邸の地下にあったメイドの部屋にはパスポートと、テーブルに置いていた手紙、、、日本行きの船を出航とか、宛名はジジ・ジョークだった。
そして、メイド寮に訪問した時、あの金髪のメイドの子がジジというメイドの名前を出したのを思い出した。
あの空撃があった時、邸宅にいたのはジジ・ジョークとパスポートの持ち主だ。そして、ジジはシーザンが買っていたネズミ?と言ったところか、シーザンと関わりがあるなら、ペトラ・ソーナのダイヤの存在とその価値を知ってる可能性も高い。
シュタインはメイド寮にネズミが隠れてると探りに来たのだ。
行き交う人混みの中、1人立ち止まって考え始めた。後ろから歩いてきた黒のヒールに赤毛の女性が背中にぶつかり、不満そうな顔でジョンを避けて歩いて行った。
ジョンはこのメイドとパスポートの持ち主とそれからダイヤの歯が関係していると考えた。
そこで提案が閃いた。シュタインはパスポートのことを知らないだろう、メイド寮に行ってたのは、ネズミを探る為。
ここで取引のアイテムを手に入れた。青年のパスポートを使えば、ダイヤもネズミも誘き寄せられるかも、、、
ジョンはタクシーをつかまえ、行った道を戻った。ロック・デンラー・レストランへ。
タクシーはロック・デンラーの前に止まった。シュタインがいかにも好みそうな外観の豪華なレストランだ。この通りは空隙の被害がなかったのか、崩れた建物はなく、通りも綺麗のままだった。セレブな服装の通行人が多く、この町の中でも裕福層の集まった通りである事がわかる。
早歩きでレストランに入ると男性のウエイターが止めるように前に出てきた。
「お客様、ご予約は?」
「いいえ、こっちに入った客に用があるんだけど、シュタインっていうやつだ」
「少々こちらでお待ちいただけますか?」ウエイターはジョンを入り口で止めると、シュタインのテーブルへ確認をとりに行った。
ウエイターはすぐに戻ってきて、「失礼しました、こちらへどうぞ」とジョンを案内した。
レストランの奥へ行くと、大きなシャンデリアの真下にあった2人用のテーブルの席についてるシュタインが、こちらに手を振っている。
ジョンは気持ちを落ち着けて、シュタインのテーブルに着く前に呼吸を整えた。
「何事かね、ミスターボーンズ」シュタインは食事をやめる事はないが、まるで気難しい上司のような視線でジョンを見る。
ジョンはシュタインの前に座ると話し始めた。
「なぁ、シュタイン、メイド寮にネズミがいるって言ったよな?もし、ネズミがペトラソーナのダイヤに関わっていたらどうする?」
シュタインは眉を顰め、お皿の中のステーキからジョンに目線を移した。「それで、使える手がかりでも見つけたのかね?」と言った。「あぁ、そいつはウィリアムズ邸が空撃に合う時から中にいたんだ、1人の青年と」
「ほお、その青年とやらは見つけたのかい?」
「いやまだだ、ただ必ず会いに来る!俺がパスポートを持ってるからな」
「なるほど」シュタインはフォークとナイフを置くと、ワイングラスを手に取り言った。
「ミスターボーンズ、君は何しにここにきたのかね?」そう言って、ワインを口に注ぎ、口を膨らませ飲み込んだ。
「俺はあんたに取引しに来た」
「何をかね?結論を先に言うんだミスターボーンズ」シュタインは長ったらしく話すジョンに少し苛立ち始めるが、おいしい話に間違いないとにおった。
「わかった、ペトラソーナのダイヤは俺に譲ってくれ、その代わりネズミはあんたにやるよ」
ジョンの発言にシュタインは声を張り上げて笑った。
「ネズミのジジ・ジョークとその青年とはどんな繋がりなのかね、青年のパスポートを持っていたところでどうなる?」
ジョンはやけになりながら話した。「そのパスポートはウィリアムズ邸の暖炉の下にあるメイドの部屋で見つけたんだぜ、そこに落ちてた、、、」
シュタインは少し驚いた表情で聞いた。
「暖炉の下?キッチンにあった地下の部屋か?」
「そうだとも」
実はシュタインもその部屋の存在に気づいたが、ウィリアムズ邸に入った頃にはメイド達の業務は再開していた為に、探る隙がなかった。ジョンとヴェルヴィンが尋ねた時こそが絶好のチャンスだった。
「そうか、、、、」シュタインは少し考えていった。
「では、もしパスポートを餌に人間に化けたジジ・ジョークがそのパスポートの持ち主なる青年と姿を現したならば、その取引を引き受けよう。ペトラソーナのダイヤの調査など、わたしにとっては二の次三の次にすぎないわけなんでね」
「よし、いいな、パスポートを必ず受け取りに来る。」
弾がこめられた銃を軽く拭きながら、ここまでの経緯を話した。
「そんなバカな」ジジは眼球を天井に向けて絶望的な表情になった。
「待った!」ここで緊張しながらシドニーが口を開いた。
もう一つの疑問はなんで、このパスポートが偽造だと言った?シドニーの質問に横にいたシュタインが答えた。
「それなら調べるのは簡易だったよ、、、」
シュタインは地下にあったパスポートと聞いて、それはユダヤ人狩りがあった時に地下に隠れ逃れた使用人ではないか?と疑問を持ったからだ。
ジョンの言い分では、シドニーという青年はエドワードに全く関わりのない人間だと言い張るが、もし地下に隠れて逃げ延びたユダヤ人だった場合、パスポートは常に持ち歩くだろうし、なによりわざわざ自分の身元を証明するためのパスポートを持って街を歩き回るか?という謎があった。
ダビデの星をつけずこっそり生きてる者はいるだろが、外してしまえばユダヤ人かなんて判断しづらい。
そこでシュタインの最も強力な武器、それこそ人脈だ。裏社会と深い関わりを持つシュタインは、シドニー・アレクス・リーバー・ノラという名の偽造パスポートを探り当てた。
それを偽造した裏の人間を見つけ出したのだ、それも数時間での話だった。
シュタインは話の流れで、シーヴァンとシドニーを圧倒させる事実を話した。
「君の友人のカルロスという青年はかなりお金に困っているんだな、お金欲しさにユダヤ人の友を売るとは、人は儚いものだ」
シーヴァンの目にかすかに涙が溜まりながら、苛立ちが隠せない。信頼し、つい昨日一緒に食事をしていたというのに、、、
あいつがまさか俺を売った?
シュタインは笑みを浮かべながら、話を続ける。
「君をベトラ兵に教えたのは彼なのだ、君は親しき人たちを信頼しすぎたのだよ」
「なぜ、カルロスが?でも家にベトラ兵が来たのは昨日の話だ!いつ売られた?」
「ベトラ兵も忙しいのだよ、君がシーヴァンさん宅で食事をゆっくりしてくれたら、すぐにも連れて行けたという話だ、もしその日に捕まらなくとも、次の日がある」
「シドニーくん、いや、、、アーサ・クリスチャン、、、、幸いにもどこのアパートに住んでるのかだけはバレなかったのはなんとも不思議だね、偽名を使ったの一度やニ度ではないね?」
本名まで言い当てられたシドニーは全てが終わった気分だった。人生最大の大ピンチだ、最大の恐怖に誘われる。
シーヴァンは言った。
「なぁ、でもカルロスはお前のアパートの場所も知ってるぞ!なんでベトラ兵に密告しなかった」
その点に関してシドニーは心当たりがあった。シーヴァンの方を振り向いて言った。
「あいつ、俺の部屋に来た事がない、俺の住んでるアパート、周りにも似たアパートがいくつも立ってるんだよ、シーヴァンみたいに何度も来ないと、きっと迷うんだ」
「どのアパートかわかるくらいお前の住んでるアパートは古かっただろ!」
「空撃に合って、どれもこれも似てたんだよ、崩れてるアパートだってあった、俺の住んでるところより一瞬にして古びた建物だったあんだから!」
シュタインは咳払いし、「よし、とにかくミスターボーンズの言った通りターゲットはみんな集まった、今日シーザンさんがここに来るのだよ、君の首とペトラソーナのダイヤを回収しに」
ジジは目を見開き、驚くもそのそぶりを一瞬に隠し、急に惚け出した。
「何の話かね〜、ミスター・ヴァン、あなたの言うその者は一体私と何の関係があるのかしら!」語尾を怒鳴り声に変え、同時にポケットから金色の銃を取り出した。
そして、ジョンとシュタインに向けた。シーヴァンはジジの持つ銃にくぎったけになってる後ろの男に向きを変え、おもいっきりこぶしを振るった。
ジョンは焦って銃をジジに向けたが、構えが遅かった、ジジの最初に放った一発は上手くジョンの銃に命中し、ジョンは頭を下げると同時に銃は端の方へはき飛ばされた。
シュタインは右手に持ってたケースを盾にし、ジョンの方へ駆け寄った。シドニーはジジの後ろにつき、その後ろにはシーヴァンがつく。
「兄さん!兄さん!大丈夫か?」ヴェルヴィンがシーヴァンに気をつけながら、ジョンの心配をしている、しかしその隙を狙ってシーヴァンが2度目の拳を振った。今度はちょうど顔面に的中。
「ヴェルヴィン!大丈夫か!」ジョンもヴェルヴィンのことを心配しつつ、ジジに集中しなければならず、互いに視線を一瞬一瞬ずらす程度でしか見守る事ができない。
この状況を有利だと考えたジジは、銃で目の前の2人を脅しながら、後ろにいるシドニーに小声で言った。
「兄さん、後ろ、逃げ切れる場所なんかない?ないの?」
シドニーは焦りながらも360°眼球を動かして逃げ切れる場所を探した。しかし、入り口は一箇所、それもここは町から少し離れた場所である事に気づき、完全に殺すか殺されるかの狭間にある事に気づいた。
「もう、無理じゃん!」
シドニーが命乞いをすると、シーヴァンが怒鳴った。
「諦めるな!死なない!こんなところで俺たちは死なない!」
ジジの目についたのは、ヴェルヴィンの後ろにあるドラム缶と、入り口近くに立てかけられた台車が2台。
ジジはシュタインとジョンが自然とヴェルヴィンの方へ行くように追い込んでいった。
ヴェルヴィンはシーヴァンと素手で戦っている。ヴェルヴィンが左腕でパンチを喰らわせようとするも、シーヴァンは素早く避け、伸びた腕を掴み、片方の腕で肘鉄を喰らわれた。
ヴェルヴィンは思いっきり顔を天井に向けて地面に叩きつけられ、ジョンは次第にヴェルヴィンの方へ近寄っていった。
しかし、シュタインは馬鹿じゃない、ドラム缶に存在と、端に追いやられた銃の事を忘れていない。
彼はヴェルヴィンの方へは行かず、背を向けないようにしつつ壁に向かって後退り。
ただし、互いの距離感を離すことに成功した。「よし!」ジジはそう言うと、シーヴァンが完全にヴェルヴィンからら離れてシドニーのすぐ前まで来たのを確認してからこう言った。
「2人とも、後ろにある台車見て!」シドニーとシーヴァンは斜め先にある台車に気づいた。あれを盾にしながら街へ向かうよ!」
「はー?どうやって?」シーヴァンが言った。
「あれを引っ張って走って!撃たれそうになったら、取手部分を地面につければ、車輪の部分が上がって盾になるでしょ!」
ジジを媚を怒り口調で言うと、合図もなしにドラム缶を撃った。誰かが「この馬鹿!」と怒鳴ったが、そんな声も一瞬にかき消すほどに大きい音でドラム缶が爆破した。
町で休んでたヴェノピア島の兵士たちも戦闘モードに入った。シドニーが台車をおし、中にジジが乗った。
その横でシーヴァンも台車をおし、入口を飛び出した。建物は煙ったくなりシュタインとジョンと寝ていた男の生命は確認できなかった。ただ、逃げるのに必死になって、定期的に後ろを確認しながら走った。
町へ近づいて行くにつれ、戦車がこちらに向かって来ていた。
戦車から頭を覗かせているのはヴェノピア島の兵隊だった。
「おーい!大丈夫か!」その声を聞いて、ジジはとっさに嘘をつく事を提案した。
「花壇で使わなくなった土をあの森に返してきた帰りに、ここで爆発みたいなのが起こった、、、って言うのよ!」ジジはシドニーとシーヴァンに掛け声を上げるように言った。
2人は走るのに必死で聞こえてるが、答えられない。やがて戦車が近づいて来ると、兵隊が「怪我はないか!」と声をかけてきた。
シドニーとシーヴァンは台車を一旦止めると、息を切らしながら「大丈夫です。」あの建物の中で何か起こったっぽいっす!とシーヴァンが言って兵隊を流し、彼らが廃墟の工場に向かってる間に町に戻った。
台車を道路に捨てると、3人は駅の前で立ち止まり、ちょうど先から走ってくるタクシーを止めた。
「シガニー通りへ!グベラード・パティエに向かってくれ!」シーヴァンがそう言うと、シドニーを強くタクシーに詰め込むと、ジジは助手席に乗ってこの通りを後にした。
夕方頃、グベラードホテルのスウィートルームで、シーザンはシュタインと連絡がつかない事に苛立っていた。テキーラを1杯飲んで、激しく貧乏揺すりしている。
静かに流れるインドの曲が部屋の中をいっそうオレンジ味を出していた。
シュタインと待ち合わせするはずが、ジョンも一緒だったとは、雇った探偵と部下に過ぎないがふたりが手を組んだその様子は、シーザンの心をざわつかせる。何を企んでいるんだ?あいつら?とひとりぼやいた。
この世界では誰がいつ裏切ってもおかしくない。もし、ペトラソーナのダイヤを手にしてここへ届けず、そのまま姿を晦ましたなら、北シーナから部下を呼び寄せて、あいつらの首を狙ってやる。
シーザンの妄想は酷くなり、怒りが増した。
シーザンはペトラソーナのダイヤに関して警戒心を強く尖らせ、あえて部下を連れて来なかった。いつもなら、何かあれば直ぐに動き出せるように秘書やらがつけているが、今は動かすこまがない。
しばらくして、ドアがノックされた。シーザンがやっとか!とばかりにドアを開けた。
前に立っていたのは、コートの至る所が焼けて焦げて、顔には黒の灰で汚れたシュタインとジョンだった。
2人とも帽子も破けて使いようがなくなっている。惨めな姿の2人を見てシーザンは思わず爆笑した。
何があった?!と言いたいが笑いに負けて喋れない。腹を抱えながら2人を部屋に迎え入れた。
ジョンはシーザンから笑わい者にされる事には慣れていたが、シュタインはプライドが許さなかった。
ご機嫌斜めになりながら、平気を装う。
ジョンとシュタインはソファーに腰掛け、シーザンは向かい合わせで座った。「お前ら、何があった」つっかりながら聞いた。シュタインは四角形に畳んだ無地のハンカチで軽く顔を拭きながら言った。
「ペトラソーナのダイヤを奪ったやからを見つけたのですが、逃してしまいまして、、、」
「そうだろうよ、、、見りゃわかる、お前たちの見た目が物語ってるぜ」小馬鹿にする様に言った。
煙草の箱から煙草を一本取り出し、マッチで火をつけた。煙を吐くとシーザンは真顔に戻り本質の狂気を放つ。
「おい!、、、お前ら、逃しましたの報告をしに、わざわざそのドス汚い見た目で俺の前で座ってるわけか、そのダイヤはその目で見たのか?」
「いいえ、まだです。しかし奴らが持ってるのは確かです!」ジョンが言った。
「見てない!?それでよくも奴等が持ってるのは確かですだと、お前、そいつが持ってるって証拠は?」
「空撃があった日、ユダヤ人狩りでウィリアムズ邸には大勢の使用人たちがベトラ兵に連れて行かれました。しかし、2人残っていたやつらがおりまして、そのうちの1人がパスポートを落としていったのが手がかりになりました」
「それでなんでそいつが持ってると言える?もし犯人が納棺師だったらどうする?エドワードの遺体をきれいにする時にとった可能性もあるだろ!」
苛立つシーザンに対して食い気味にシュタインが答えた。
「それは、絶対にありませんミスター・オルフ。今は戦で息を引き取った兵隊達の身元確認するためにくり出されてますぞ、エドワードの遺体を整えたのは彼の使用人立ちであります。ですからこのご時世でありながら葬式も素早く行えた。
そして、何よりエドワードの雇ってるメイドの中にある者がおりました」
シュタインの次の言葉にシーザンは目を見開いた。
「メイドの中に人間に化けたジジ・ジョークが潜んでおりました。
ペトラソーナのダイヤはあのネズミが持ってるいるかと、、、」
シーザンはジョンとシュタインの間に視線を移し、しばらく考えると「あいつはこの近くにいるんだな?なら、必ず追いつめろ!その時は俺が行く」
19時メイド寮、ジジは慌てて荷造りをしていた。居場所がシーザンにバレている事に気づいた、あの工場から町に逃げて乗り込んだタクシーの中でシーヴァンから頼み事をされた。
昼間はあっという間に過ぎ、夕方の色が目立ち始めた頃、タクシーの中はさほどやかましくないが、今にも耳を塞いで縮こまりたいほどに危険な音が鳴ってるようだった。その音は互いの焦った話し声だ。
「お前!この国を出ろ!今すぐこの国を出ろ!」シーヴァンはシドニーの胸ぐらを掴み喋るたびに揺らしている。
シドニーはシーヴァンの手を止めながら言う。「分かってる、分かってるよ!」
何も知らない運転手から見れば喧嘩しているように見えるだろう。
「いいか、あいつらお前の首を狙ってる!お前は友達に裏切られた!もう誰も信用するな!」
「分かってるよ、」シドニーの声は落ち込んでいた。
シーヴァンもカルロスの名前を出した事を少し悔いた。そして沈黙が続いた後、窓から外の景色を見てぼーっとしているジジに話しかけてきた。シーヴァンとまともな会話するのはこの時が初めてだった。
「ジジ、日本に行くんだよな?こいつも連れて行けないか?」
「え?」ジジはシーヴァンかれシドニーに視線を移し、落ち込んでる姿に少し同情した、そして面倒なトラブルにこんな気弱な青年を巻き込むんじゃなかったと後悔した。「ねぇ、兄さん、あんたは行きたいの?日本に?」
シドニーは少し考えた。もし、自分が日本に行ったらここに残るシーヴァンやビアンセも危険なのではないかと、また彼らの家にベトラ兵が押し寄せてきたらどうする?
いろんな考えが張り巡った。無言なシドニーに代わってシーヴァンはジジに言った。「大丈夫、行くって」と答えた。
するとシドニーは「まだ俺は行くとは言ってない」と返した。シーヴァンはさっきまでの喧嘩腰の声で言い返した。
「お前!正気か、ここにいたら殺されるぞ!何を心配してる?」
「俺が行ったら、シーヴァンはどうなる?安全と言い切れないのは一緒じゃないか!」
「俺の心配より、自分の心配をしろ!他人に気を使うな!」
「他人じゃない!家族だ、、、よ」シドニーは涙目にそう言うと、シーヴァンはやけになって頭を掻きむしる。バックミラーに涙目になった2人が映っていた。
ジジはそれを見て提案した、「北シーナに行けば?そこなら安全よ、向こうは第一次世界大戦で完全に独立して冷戦が続いたから、この戦争が起こる前から準備万端、だからナチスの魔の手は届かない」
もちろん、北シーナについて説明しなくともシーヴァンはそれを知っている。その歴史を知らないシドニーに向けてジジは説明をした。
しかし、ヴェノピア島の人々は北シーナに対して独裁国家というイメージが強い。そこから来たジジにとって故郷そのもので、ヴェノピア市民が思うほど残酷ではないと言い切れる。かつてはそうだったが、今はそうではない。
シーヴァンも北シーナに対してそのイメージは強いのだろう。しかし、戦争が終われば、このヴェノピア島にすぐ戻れる。
そして何より避難場所として一番手っ取り早い。
「分かった、日本が嫌なら北シーナに逃げろ、そこなら会いたい時、すぐ会えるだろ」シーヴァンは優しい声で言った。シドニーは涙を拭ってシーヴァンにハグした。
「北シーナまでの避難手段は任せて」ジジは2人の方へ目線を移し直し、「伝手があるから」そう言って微笑んだ。
茶色のトランクに趣味で集めていた天使の小さな銅像を押し込めていた。そしてエドワードの愛人から盗んだピンクのドレスと、ダイヤのピアスも入れた。ジジが荷造りしている途中、部屋にケリーが入ってきた。
「ジジ、今日行くの?」
「ええ」
「日本に?」ケリーは寂しげに聞いてきた。
「うん、北シーナ経由でね」ジジは微笑んで見せると、ケリーも微笑む。だがその目はどこか虚だった。
ジジは荷造りに戻ってトランクの中に目線を戻した。「ケリー、あんた達も北シーナに行くでしょ、生きる残る為に!」
そう言うとケリーはゆっくり頷いた。そしてジジは続けて言った。
「あんたも今から来ない?なるべく早く出たいなら、今がチャンスよ。アンナマリーも連れて行く」
ケリーは誘ってもらえた事が嬉しかったのか、瞳も微笑んでいた。「いいの?邪魔にならない?」そう聞くと、ジジは笑いながら「あんたがいなくなったら寂しいって、無駄な存在はないのよ、どこにも」と言い返した。
「今すぐ荷造りして、メイドにそんな大量の荷物はないでしょ?」
「さぁぁね!」ケリーはそう言って部屋を出た、そして廊下から顔だけを部屋に覗かして「ブリトニーも誘っていいよね?」と聞いた。
「いいわよ、あと兄さんも来るから」
「兄さん?」
「シドニー」
ケリーは目を見開き、「あの人はどこまで深くエドワードの殺人に関わったの?」と聞いた。
ジジは笑いながら「あの人は関わってない、ただペトラソーナのダイヤにふれただけ」と言った。
ケリーは何かいいたげな表情だったが、荷造りをする為に自分の部屋へと戻った。
アンナマリーは荷造りを済ませ、チョコレート店に行った。お世話になったメアリー・ステラに最後のチョコレートを渡して去りたい。店の中は客がわんさかいた。外は暗いが、店の中は金箔の世界のように光っている。いろんなチョコレートが並ぶ中、家族連れやカップルで来てる人が行き交っていた。
カウンターに黒のタキシードを着た若い青年に「どのチョコが一番人気ですか?」と聞いた。
「人気なのはこちらのホワイト・ルージェです。今売り場に追加したばかで、1時間もしないうちに売り切れますよ」
「なら、これを3つ」アンナマリーは指で3と示しながら答えた。青年は微笑みながら、「うちは初めてですか?」と聞いてきた、「はい、こんなところにチョコレート店があるなんて知らなかった」と伝えると、「初めてなんですね、でしたら少しサービスしてあげます。またぜひお越しください。」青年はそう言うと、ホワイト・ルージェと赤い包み紙に包まれたハート型のチョコレートを2つ追加してくれた。
その後も他のチョコレートをいくつか選ぶと、リボンのついた茶色の箱を持って店を出た。アンナマリーの出て行く後ろ姿に青年は見惚れている。
まだ20歳そこらの若者だ。とても、シドニーさんにそっくりな青年だとアンナマリーの頭の中ではシドニーこそが男の基準になっていた。
これから北シーナへ行くが、まさかシドニーさんまでついてくるなんて考えてもなかった。もしかしたら、彼は私を選ばないかも、正直なところ彼に愛されたいと願っている。
いつ彼が私を誘うかなんて分からないが、今がその時ではないことくらいアンナマリーは理解している。るんるんな気分で街を歩いて帰った。ふっと周りを見渡すと、通りの端っこで数匹のネズミたちが猫と格闘していた。そのネズミの中に1匹白いネズミがいて、そのネズミが猫のターゲットにされている。それを見ると、どこの世界でも少数派がやられてしまうものだと思った。その白いネズミをシドニーさんと重ね合わせると、ユダヤ人というのは大変なものだと更に実感した。
メイド寮のドアをこっそり開け、二階へと上がった。ジジとアンナマリーの部屋を開けると、ケリーとブリトニーも荷物を持って待機していた。
「アンナマリー、例のものは買ってきた?」ジジ聞かれアンナマリーはチョコレートの箱をジジに見せた、ジジは「ありがとう」と言って箱を受け取った。
「やっぱりみんなも行くのね?」アンナマリーがそう言うと、ブリトニーが「もちろん」と答えた。
ケリー「仕事探さないと」そう言うと、少し間を空けて「あんたのこと心配だしね」と言い、アンナマリーの鏡台で長い黒髪をくしで研ぎ始めた。
「出る前にステラさんにお別れ言うんでしょ?」ブリトニーが聞くと、「その為のチョコレートよ」ジジが言った。
ケリーはメアリー・ステラを良く思っていない、ただ性格が合わないわけでない、今までメイドたちの面倒を見てきたなら新しい行き場を見つけるべきだと思っている。そのため、メアリー・ステラには別れの挨拶をする気はなかった。
ブリトニーは既にお別れを言ったが、素っ気ない反応だったとか、ただ落ち込んでいるだけかもしれない。
ジジは箱に入ったチョコレートを持ってメアリー・ステラの部屋へ向かった。
ノックを3回すると、部屋の中からどうぞーと聞こえてきた。
ジジはゆっくりドアを開けると、メアリー・ステラは椅子に座って服の整理をしている。顔だけをドアに向けていた。
ジジはチョコレートの箱の上にメッセージカードを付けていた。
「お世話になりました。
これからここのメイド寮を去ります。
どうか、神の御加護を」
チョコレートの箱を受け取ったメアリー・ステラは微笑みながらそのメッセージを読み、口を開いた。
「ジジ、あなた喋れるでしょ?ほんとは」メアリー・ステラの声はいつもより優しかった。今までジジが喋れないふりをしていた事はバレていたのだ。そして、続けて言った。
「あなた男の子?女の子?どっち」と聞いてきた。
ジジは初めてメアリー・ステラの前で口を開く。
「はい、お気づきだったんですね、私は男の子です」
メアリー・ステラの反応は予想外で、ジジの答えに優しい笑みを浮かべて言った。
「そうでしょうね、だって女の子にしては不器用すぎるわ」
ジジは微笑み返すと、メアリー・ステラは更に続けて「あなたが何者で、どうしてメイドの中に隠れてるのかは、分からない。何かしら意味があるのでしょ?
エドワードさんのペトラソーナのダイヤの歯を取ったのはあなたよね?」と言ってきた。
ジジは唖然として答えた。「ええ、どうしてそれを?」
「私は長年メイドをやってきた。エドワードさんのダイヤの歯についても誰よりも知ってるつもりよ、昨日メイド寮に来た男の人2人はそのダイヤの在処をさぐっているやからね、ブリトニーはそれを知ってるの?」
「いいえ、多分知らない」
「なら、私がブリトニーにしらばっくれたのは正解ね、あなたがエドワードさんを殺した?」この質問にはさすがに緊張が走るが、ジジは正直に答えた。
「はい、私です」
「そう、、、」メアリー・ステラは正面の暖炉を見つめながら話を続けた。
「私、聞いたことあるのよエドワードさんから、1匹のネズミの話。そのネズミは神様の力で人間になれたと、そのネズミってあなたよね?」
メアリー・ステラは目を見開き聞いてきいた。まるで今まで探ってきた謎解きの答えを目の前にしているかのように。
「その話は事実です。私は昔ネズミだったんですよ、にわかに信じ難い話ですが」
ジジがそう答えると、メアリー・ステラ
は「知っていたわ」とさっきよりも大きな声で返した。
そして、さっきの優しい笑みを残しつつ、うつろな瞳でジジを見つめた。それから、隠してきた真実を話した。
「あなたに謝らないといけないわ、ごめんなさいね、あなたがヴァン・シュタインにバレたのは私のせいよ、あなたの居場所を教えたのは私、彼は私にシーザン・オルフの裏切り者がいそんでいると伝言をくれたわ」
「あなたが?」ジジは信じられなかった。あのメアリー・ステラがまさかそんなわけないと、誰よりも誠実でしっかり者で周りから慕われたこの人が?
メアリー・ステラは言った。
「あなただとすぐに察しがついた。誰よりも謎めいてて、喋れないなんて嘘をついて、そのメイクもね、、、でもあなたがなんの理由もなく人を傷つける人だとは思わない、エドワードさんを殺した事もね」
その言葉はジジの心の底に隠した罪悪感を掘り上げた。だがそれは救いであった、神様はこの人を通じて学びをくれてる気がする。
ジジは何も言わずにメアリー・ステラに背を向けて部屋を去ろうした、ドアを開けて外に出る直前、「ジジ、生き抜くのよ」メアリー・ステラはそう言うと、ジジは顔を横にして頷き、部屋を後にした。
2階の部屋に戻る前に暗い雰囲気をただそうと目を真ん中にした変顔をして表情を柔らかくした。気持ちを整えいつもの平常心を装い、自分の部屋のドアを開けた。
ブリトニーとケリー、アンナマリーの3人は北シーナに着いたら最初に何をするかの話で盛り上がっていた。
「ねぇ、ステラさんどうだった?」ブリトニーの質問に「うん、普通」と、そっけない反応になってしまった。
メアリー・ステラはみんなを見捨てたくて見捨てたわけではない、きっと申し訳なくて、悲しくて、でもみんなにその気持ちを察知されないようにそっけなくなってしまったのだろう、ジジはそう思った。
ジジはすぐに話を戻して北シーナに行くまでの流れをみんなに説明した。
「これから、レーウィン・エイデルズに会うわよ、日本行きの船を出してくれる船長、この人にあんた達みんなを合わせて、もちろんあの青年も、少し大回りだけど、安全に北シーナに行ける、その後は私とはお別れ、私は日本へ行く」
「シドニーはどこで待ち合わせ?」ケリーが聞いた。
「兄さんは今から迎えにいく、少し準備あるのるんだって、うまく行くといいけど、、、」
「なんの準備?荷造り?だったら私が手伝うのに」ブリトニーがそう言うと、「ばかね、そうじゃないのよ、彼はユダヤ人だから背負ってるトラブルをこの数時間の間で片付けないといけないの」
ジジの言葉にみんなが驚愕した。あの人ユダヤ人だったの?とざわめいた。たった数人しかいないのに、大勢並みの騒めきようだ。「あんたたち!うるさい!」ジジが怒鳴ると、シーンと静まった。
そしてケリーが口を開いた、「あんた、あの人がユダヤ人ってわかっていてアンナマリーを渡そうとしてたの?!」
「なわけないでしょ、私も知ったのは最近よ、パスポートも偽造だったの自分の身を守るためにね、でも悪い人ではない」
「でもユダヤ人よ、一緒にいるだけで危険なのに、、」
「だから、北シーナに避難するんでしょー」ブリトニーがぼそーっとつぶやいた。
ケリーも言い返せず、気に食わない様子だったが、「いいわ、確かにあの人はいい人よね」と皮肉たっぷり言った。
アンナマリーが「えぇ、シドニーさんは誠実な人よ、あの人なら信じれるかも」といい、「は?まだ数回会っただけで?」とケリーが言い返した。
これ以上話してるとキリがないと、ジジが話を遮った。
「わかったケリー、兄さんとしっかり話せばわかる!これからそのタイミングもあるはず、アンナマリー、シドニーに可能性はあるのよね?」ジジは真面目に聞いた。
「ええ、あるわ」アンナマリーも本気の表情で答えた。
4人は会話を終わらせ、24時にロッテンマテルの港で待ち合わせをした。ジジはシドニーとシーヴァンのところへ行く予定だ。
シドニーはシーヴァンの物置になりかけの亡くなった祖母の家に行っていた。ビアンセはここで身を潜めており、シーヴァンとシドニーの為に料理を作っていた。
シーヴァンはビアンセがカルロスを誘っているのではないかと気が気ではなかったが、今日はカルロスの姿を見る事はなかった。
ダンボール箱の山があちらこちらにあり、ダイニングだけが使えるように整頓されていた。
部屋中の窓は板で塞がれ、部屋の中は少し煙ったい。
「おかえり、大丈夫だった?」安心感と不安感が入り混じったビアンセの喋り方はいつもより早口だった。
「あぁ、大丈夫だったよでもこれからシドニーを北シーナに連れて行く」シーヴァンの発言に驚くビアンセ。
「え、あの国に?危険じゃない」そう言いながらシーヴァンのコートと帽子を受け取る。その横でシドニーが脱いだコートを床に落とす前に腕を伸ばして受け取った。
シーヴァンはビアンセの口にキスすると、「ここよりは安全だから大丈夫」と優しく言った。
シドニーはビアンセと目が合うと、シーヴァンの言った事を正当だと頷いた。何があったのかよくわかってないビアンセだが、彼女に今日の出来事を話すには時間がなかった。
ジジはもう少ししたらパティエに来る頃だろう、それまでに荷物を準備し念の為の銃も隠し備えた。これから行く北シーナまでの経路は決して合法ではない。
ビアンセの作った食事をつまみ食いしながら、荷造りをしていた。そして、この家の住所とパティエの住所をメモった紙と、いかにも北シーナ人らしくする為、パーマの髪はヘアースプレーで固め、前髪は横ながし、ダークブルーの深い色をしたらロングコート、少し清楚な風貌を装った。
ビアンセは料理を弁当に分けると、シドニーに渡した。シドニーはビアンセの伸びる手を見つめ、そして最も最悪な事実を言う決意する。
「ビアンセ、、、カルロスなんだけど、」
「カルロスがどうかしたの?」
シドニーとシーヴァンは見合わせ、シーヴァンが続けて言った。「アーサーがバレたのはカルロスのせいだった、あいつが密告したらしい」
「え?どいうこと?」ビアンセは目を垂らし、その茶色の瞳がブルブルと震えている。
「ビアンセ、あいつのことは忘れろ、話せば長いけど、今は時間がない、だから特にかく後で話すから、今はカルロスに絶対に連絡するなよ、あいつが来たら隠れてろよ」シーヴァンは動きを止めてビアンセに言って聞かせると、小型のナイフをビアンセに差し出した。
「俺はすぐ帰るからな、あいつが来たら2階のばばぁが使ってた部屋のタンスの中に隠れろよ、ナイフを握りしめとけな」
ビアンセは一歳口を開かず、唖然とシーヴァンの話を聞いた。
シーヴァンはさぞ辛く不安だろう、なにせ大切なビアンセにきつく言いつつ、一旦シドニーを送り届ける為にそばを離れなくてはいけないのだから。
荷造りを終えたシドニーは大きめのトランクを持ち上げ、「うわっこれ重い」と言うと、シーヴァンはビアンセの頬にキスしてそのままシドニーの方へ向かい、「あまいこと言うな!」と言ってトランクの中を開けて、不必要なものを取り出していった。
取り出したものの中に懐中電灯が入ってたのは意外だったが、シーヴァン曰く向こう側は月の光が年中明るく、冬は特に懐中電灯は必要ないらしい。
2人はとうとう家を出る時、ビアンセが2人を止めた、「私も行く」。
その言葉に完全否定をするシーヴァン、シドニーもそれは反対だった。もし、ここでベトラ兵に見つかるような事になったらビアンセも危険なのだ。だが、ビアンセは聞く耳を持たず、シーヴァンは苛立ち気味に止めた。
「危険なのはどこに行ってもいっしょでしょ、ここだって結局私1人で危険じゃない、もし私がベトラ兵にでもレイプされたらあなたを恨むわよ」そう言って、彼女もロングコートを着て、紫色の大きなハットを被った。マダムのようなショルダーバックはシーヴァンの祖母のものだ。
結局、ビアンセにおれたシーヴァンは一緒に連れて行く事にしたが、片時も手を繋ぎ離さなかった。
ロッテンマテルの港で対戦
3人は、パティエに向かった。夜21時10分、20時前の賑わいようが幻だったかのように町は夜の闇に包まれ静まり返っていた。
十字路を右に曲がり、先へ進むと大きな噴水が目印の町の中央へ出た。
噴水を超えて、斜めに左に向かいそこをまた右に行くとパティエが見えてきた。今にも雪が降りそうな雰囲気を漂わせ、運の悪い事に昨日の夜よりもさらに寒かった。
何事もなくパティエについたが、肝心なジジがまだ到着していなかった。
「あのメイドまだ来てねぇのかよ」シーヴァンはそう言ってパティエのドアを開けた。「中で休もう」
「ココアってあったかしら?」ビアンセがそう言うと、シーヴァンはしばらく考えシドニーを見た。そして、シドニーもココアの粉を完全に使い切ってない事を思い出し、「あっ、あるよ」と返した。
しばらく3人は厨房に椅子を向かい合わせ、ココアを飲んだ。シーヴァンは使いきれなかった板チョコを「食べるか?」とビアンセに差し出した。
ひとつまみ口に入れると、目を見開き「美味しい」と言って次から次へとチョコを食べた。シドニーはそんなビアンセをぼーっと眺めてた為、「アーサー、あんたは食べないの?」と聞いてきた。
「いや、いいよありがとう」と返した。「なんで、こんな時にチョコで幸せを感じれる?」なんて思ったが、同時に羨ましかった。命が狙われているのは他の誰でもないこの俺だと、わざわざ関係のないシーヴァンとビアンセを巻き込んだ自分を責めたい。そして、同じく命が狙われていて、もはや自分より危ない状況下にいるジジが側にいてくれたら安心するだろう、この戦場に1人ではないと感じるからだ。
厨房の光は表のドアから漏れている事に気づいたシーヴァンは、念の為ベトラ兵がうろついてたら危険だと言いドアを閉めに行った。
シーヴァンは店の前に止まった車に不信感を抱いた。ライトはついたまま、まるで待ち伏せてるかのようだ。
厨房は静かだが、しばらくしてシーヴァンの急ぎ足音が近寄ってきて厨房入り口前にシーヴァンが見えると、「隠れろ!」と叫んだ。しかし、語尾のところでシーヴァンの声と何発もの銃声音が響き、最後まで聞きとることはできなかった。
鼓膜が破れ耳は聞こえず、ただその場で体を丸め頭を塞ぎ込んだ。視線を横に移すとビアンセも倒れた椅子を盾にして入り口付近にやたら気にしている。
シドニーは揺れる目線でシーヴァンを探した。シーヴァンの姿を見えない。銃声が鳴り止む事はなく、微かにビアンセの叫び声が聞こえてくる。
銃声が止まり、銃弾の当たった壁や小物が落ちる音が響いている。そして、厨房の真ん中にある作業台の後ろから四つん這いでシーヴァンが避難してきた。ビアンセの方へ行くと彼女を強く抱きしめた。そしてシドニーを見て怪我がないのを確認すると一息つき、2人を厨房の真ん中に集めかたまった。
「何?、なんなの、何が起こってるの」
小声で出せる全力の声量でビアンセがシーヴァンを問いつめた。
入り口付近を警戒しながら、「ナチス兵だ」と答えた。シドニーは死を悟った、「今日、俺ここで死ぬんだ」そう命乞いすると、「あほ、変な事考えるな」とシーヴァンが小声で返した。「なんでナチス兵がここにいるの?」ビアンセのこの問いは、今起こってるトラブルとは全く関係のないナチスのヴェノピア島上陸なのか?という事だ。ベトラ兵であれば、まだ話がわかる。シーザン・オルフはベトラの上層部に伝手がある可能性は高い。ただし、店の入り口前で見た兵隊数名はナチス兵だった。
整理もつかないまま、身動きも取れないでいた。
入り口からゆっくりと数名の足音が聞こえてくる。確実にここへ近づいてきている。もう終わりだとさすがのシーヴァンもそう悟った。
そして、作業台の手前までやつらが到達した頃、2度目の銃声が響く。
今度の銃撃は弾の当たり方がバラバラであちらこちらに当たり散るように攻撃された。銃声が止むまで頭を抱えうずくまった。銃声が止んだ後、目の前にナチス兵たちが銃を向けて俺たちは外に連れ出されるに違いないと覚悟を決めた。
だが、しばらくして作業台手前のナチス兵たちが倒れ、頭だけが作業台の端からは弾を覗かせた。瞬きをしない青い目がじーっとこちらを見つめていた。
棚に置かれたお城の模型の置き時計が転がったナチス兵の帽子の中に入った。
わけもわからないまま、シドニーは四つん這いになり警戒しながらゆっくり表に顔を出した。
するとマシンピストルを持ったジジが立っていた、銃はナチス兵から奪ったものだろう。息切れで、肩を大きく動かしながら呼吸をしている。
「ナチス兵にまで賄賂を渡したのね」ジジはそう言うと、斜め下に目線をずらした。
シーヴァンはビアンセを落ち着かせ、抱きしめている。シドニーは右腕に体重を支えながら立ち上がった。
「ジジ、、、大丈夫?」
「私わね」ジジはマシンピストルを左手で持ちシドニーに見せつけた。
「兄さん、そっちの方こそ大丈夫なの?」
「俺たちは、、、大丈夫」シドニーはシーヴァンとビアンセの方を見た。そしてジジも作業台の後ろまで来ると2人を見て、「あの女誰?」とシドニーに小声で聞いた。
シドニーは「シーヴァンの妻」と言った。
「おまえ、遅かったな」シーヴァンは息を切らしながら言った。ビアンセはこの人がジジ・ジョークって人かと言わんばかりに目でじーっと見つめている。聞いて通りインパクトがあるのだろう。
「さっきの銃声音でヴェノピアの兵隊がここに向かってくるんじゃない、はやく逃げないと」
シーヴァンとビアンセも立ち上がると、ふらつく体をお互いに支えた。
「なんでナチス兵が来てんだよ?」シーヴァンがジジに聞くと、「私も分からないわよ、シーザンが告げ口でもしたんじゃない」とジジが答えた。
シドニー 「とにかく、はやくここを出てロッテンマテルの港に向かおう!」
シドニーを先頭に入り口を警戒しながら外を出た。この建物には裏口がない。
いくつかの建物の暗い窓からうごめく影が見える。そこいる人たちが戦争か?!と焦っているに違いない。
全員帽子にロングコートという怪しいコーデで今にも疑われてもおかしくないが、今は顔を見せないのが鉄則だ。ジジは帽子をかぶってないがサングラスをかけ、紫色の豪華な毛皮のコートを着ている、おそらくこれもエドワード・ウィリアムズの愛人から盗んだものだろう。
元々の計画ではタクシーに乗ってロッテンマテルの港へ向かう事になっていた。タクシーの運転手はギザという男で、ジジの知り合いだとか何とか。しかし、ここに来るまでにジジも何者かに尾行されていると感じ、パティエ近くの裏通りで降りると、建物の壁で隠れながらここへ向かってきた。
「おそい!タクシーはどこ?」シーヴァンはキレ始め、ナチス兵が乗ってきた車のドアに触れ、「これで行こう!」と言い出した。
「シーヴァン!正気か?殺されるって!」シドニーが止めた。
「タクシーも来ねぇじゃねぇか!、どうせ北シーナに行けば誰も捕まらねぇよ」
「シーヴァンは来ないだろ!」
「行くよ!北シーナに!ここもバレた上に銃弾食らってんだぞ!こいつも死にかけた!」こいつというのはビアンセの事だ。
「えぇ!私達も行くの?」ビアンセが口を挟むが彼女の言ってることはシーヴァンの耳に入っていない。
「何も持ってないのに?」シドニーの質問に間もなく答えた。
「お前に渡したトランク、あの中に入ってるだけでも生き残れる。それだけで十分だ!だから重いんだろ!」シーヴァンはビアンセを腕に引き寄せたまま、怒り口調で答えると、「分かったわよ、そうねぇー、ナチスの車で行きましょ」ジジが呆れたように言った。4人はナチス兵の車に乗った。
ジジが助手席に乗ろうとした為、「運転は?」とシドニーが聞くと「あんたがするのよ」と当たり前かのような顔で運転を任された。
車のランプで照らされる真っ暗な道路を走行した。シドニーはハンドルを握りながらジジにありがとうと伝えた。
真っ暗なサングラスに隠れた目でシドニーを見ながら「何が?」と聞いた。
「あの時、ナチス兵から助けてくれただろ、ジジがいなかったら死んでたかも」
ジジは鼻で笑うと、「私は人殺しの慣れっこよ」と冗談交じり言った。
すると、シドニーは幼い頃の話を始めた。「俺がまだ子供の頃、母さんの職場に強盗が入って、そいつが持ってた銃の弾が母さんに当たって、母さん、死にかけた事があるんだ、学校が終わって家に帰った時、いつも家にいるはずの母さんがいなくて、代わりに警察が家に訪問に来た。
もう会えなくなるんじゃないかって心配したけど、母さんは病院で命を取りとめたんだよ、銃は嫌いだけど人の命を救う事もあるとなると、必要なものなのかもなって思って」
シドニーの話を静かに聞くジジは素っ気ない態度でふーんと適当に反応した。
しばらく車を走らせ、ロッテンマテルの港に着いた。しかしジジは様子がおかしいとすぐに察知した。
レーウィン・エイデルズの船が光を付けて待ってるはずだったが、港は町と変わらず暗く、車を止めた先に人影が写った。
両サイドにコンテナが並び、その人影は一番奥の左側のコンテナに隠れた。
奥のコンテナの先は岸壁になっている。シーヴァンはビアンセを心配し、車で待っとくよう説得し、シドニーとジジの3人で車を出て先へ歩き出した。
歩いてる途中でシドニーが懐中電灯を踏んづけ転びかけた、「懐中電灯が落ちてるよ」シドニーはそう言うと、懐中電灯を広い光を付けて先頭に前を歩いた。
シーヴァンはそこら辺に落ちてた鉄の細い棒を両手に握りしめた。
奥の左のコンテナのところまで差し掛かったところで、ぼぞぼそと話し声が聞こえた。
覗くように顔を突き出し先の様子を確認した。1番後ろにいたシーヴァンの足元で数匹のネズミがうろついた。
それに気づくと、「わ!きもっ!」とかれた小声で促し、足を掻いた。隣のジジは「私たちを助けようとしてるのよ」と言って手でネズミ達を別の方へ誘導した。
シドニーは隠れながら先を確認するには限りあるのと、早く先へ進まないとという焦りから思いきって前へ出た。
先に誰かいるのは確かだ、とうとう懐中電灯の光を先へ照らした。光に映ったのは女性の姿で、どこかで見たことある容姿だった。小柄で黒髪の女性、その後ろに背の高い男が絡みつき、そいつが持っているナイフの刃先が光を反射させた。
その瞬間、横で停泊している船の灯りが先を大きく照らした。
目の前には2m超えた高身長でスレンダーのイタリア人の男を前に、そのまわりに廃墟の工場で激戦したボーンズ兄弟とヴァンシュタインと、ボーンズ兄弟に銃で脅されてる、ブリトニーとアンナマリー。シュタインに捕らえられている男は初対面だが、その薄汚れた服装と粗末に生えっぱなしの口髭からして船乗りらしい、おそらくこの男がレーウィン・エイデルズだろう。
船側には荷物がまとめて粗末に投げ捨てられている。
そして1人前に出されてる女性はケリーだった。ジジとシーヴァンはシドニーの後ろまで駆け寄った。「は!みんな、、、」ジジは動揺した様子を見せながら、目の前の男に視線を移し、「シーザン・オルフだ」と呟いた。
「おい!久しぶりだなジジ!俺のネズミがどこへ行く気だ?」
シーザンは悪そうな笑い声を響かせた。そして続けて言った。
「足跡消すのは下手くそだなぁ、ネズミのクセに」
ジジはシドニーを盾にしてシーザンに言い返した。「あんた、相変わらず弱い者イジメが好きね〜、もう少し大物相手にしてら?」
「あっは、ジジ・ジョークは弱者だったか、もしかしてこいつらもネズミだったんじゃないだろうな?」
シーザンはケリーの首に向けてるナイフをボーンズ兄弟に捕らえられているメイド達を指した。
ケリーは呼吸するのに必死で今にも息がどりそうな気分だ、他のメイドたちも泣き目をシドニー達に向けている。
シドニー「メイド達は関係ないだろ!狙いは俺とジジだろ?」アンナマリーの姿を見ていると自分が犠牲になっても助けなくてはと気持ちが働く。
「俺が欲しいのは、あいつの首とペトラソーナのダイヤだぜぇ、それをよこせ、そしたらっ、こいつらを離してやーるーよー」
ペトラソーナのダイヤはメイド寮を離れる時にアンナマリーに渡したジジの荷物の中に入ってた。
シーザンは今ジジ持っていると思い込んでいる。シドニーもシーヴァンもその事はもちろん分からない。
「おい!ジジ!よく分からんけど、ペトラソーナのダイヤを渡せ」シーヴァンがジジに言った。
「えー、だって、、、」
「いいから渡せ!死ぬぞ!」
「結局私が渡したところで、助かるのあんた達だけでしょ!」
シーヴァンとジジはシーザンを前に言い合いを始めた。シドニーはアンナマリーから目が離せない。銃を突きつけられ、もしジョンが間違って引き金を引いたらどうなってしまう?そんな心配が頭を横切った。
「お前がこいつらを巻き込んだんだろ!責任取って死ねー!」
「は?何言ってんの兄さんはそもそも勝手にウィリアムズ邸に入ってきたのよ、不法侵入罪よこいつ!」
「エドワードから歯を抜くを手伝ってもらっただろうが!感謝しろ!」
2人の言い合いは次第に爆裂し、シーザンは苛立ち始め、「おい!どーすんだ?」と会話を遮ろうとするも、2人は話を聞かない。もう、殺されてもおかしくこの状況に感化され、無双状態になっていた。
シドニーは理性を保ち、「おい!2人とも、ねぇってば」と言い合いを止めるがそれも聞かない。
ジョンの背後からシーヴァンとジジの言い合いを見守っていたアンナマリーは、自分に被っている影が動いてることに気づいた。船の上にあるものの影だと思っていたが、あまりに生き物のような動きしている。気になって上を見上げると、貿易船の窓をから誰かがここに合図を送っている。
その男はハンチング帽を被った男の人だ。清楚で英国紳士の様な雰囲気を放っている。その人はライフルを持っており、アンナマリーにジョンを指さして何かを合図していた。
しばらく何を言ってるか分からず首を傾げると、さっきよりも手の動きと口で焦りながらジェスチャーしている。
そして、やっと理解できた。アンナマリーはブリトニーを腕で合図すると、ブリトニーはまゆと目を垂らして、涙を堪えた表情を見せた。ブリトニーに手で私についてきて!と手話で伝えると、しっかり握った。
そして、ゆっくりジョンに近づくとおもいっきり飛び蹴りした。ジョンがバランスを崩し地面に倒れるまでの瞬間に船の上から男がライフルをジョンに発砲した。
シュタインは捕らえてる男を盾に、銃声のした船に体を向けながら後ろに引き下がった。
ヴェルヴィンは銃声に気づくとジョンを庇って左胸に銃弾をくらった。
シーザンが後ろを振り向くと、ジョンが喝声を上げるヴェルヴィンに寄り添っている。その右側にはブリトニーを抱きしめたアンナマリーが震えながらも、ジョンを睨みつけた。
シーザンの隙を狙って、彼のナイフを持った手に2発目の銃弾が的中。ケリーが倒れ、シーザンは絶叫して嘆き右手で左手をおさえた。怪我してない事を確認すると彼の怒りは爆発、シュタインが捕らえてた男を殴り飛ばすと、シュタインが持ってたハンドガンを奪い取り、シドニーに向けた。
だが、前に視線を移した頃にはシーヴァンが左のコンテナの方へ駆け出してるところだった。
シーザンの銃弾はシーヴァンの右足に当たり、シーヴァンが唸る。
シドニーは目を見開いてシーヴァンの方へ戻り、ジジはシーヴァンの肩に手を添える。
シーヴァンはコンテナにもたれかかり、戻ってきたシドニーに対して落ち着いた声で言った。
「俺はいいから、先に行ってこい」
「無理だよ、、、無理だって」シドニーはシーヴァンが手で抑える右足の傷に上から乗っけておさえながら動こうとしない。
すると、シーヴァンはシドニーの胸ぐらを掴むと「誰も死んでほしくなきゃ、早く行け、ここであの巨人を相手にしてる間に人質を助けろ、でなきゃ先へ進まないぜ、あの髭もじゃの男がレーウィン・エイデルズかもしれん」
「いいえ、あればギザよ。今日ここまで送ってくれるはずのタクシー運転手」
シドニー 「え?あの髭もじゃの男が?」
「えぇ、私と通りで一旦離れた後に捕まってたみたいね。」ジジが言った。
「じゃあ、レーウィン・エイデルズは?」
「船から銃を撃ってきた人、あれがレーウィン・エイデルズよ、シーザンはギザをあの人と勘違いしてるんじゃない?」
「あいつが銃で助けてくれたのか、神からの槍だと思ったよ、まぁ、信頼できるぜ」シーヴァンは苦笑いしながら言った。
とにかく今はみんなを救う事が優先だ、シドニーはそう決意するとシーヴァンに誓った。「絶対誰も死なない」
ジジとシドニーはシーヴァンをおいて、並ぶコンテナの間を抜けてた。シーヴァンを下手に殺さない、ペトラソーナのダイヤの為に人質にするだろう、だが怪我しない保証はない。焦らせるために拷問することもありえる。
シーザンはコンテナから飛び出る影が動く度にコンテナの端に命中を定めて銃をぶっぱなした。
「おい!まだいんのか?」周りに警戒しながらゆっくりコンテナに近づいていった。
「うー、はっなーせー!」と声を剥いあげるのはギザだ。彼はシュタインと戦っている。2人の隙を見てアンナマリーとブリトニーはケリーを腕に抱き寄せ、後ろへ駆け出している。
シュタインの右拳がギザの顔面に当たり、バランスを崩した隙に腹に膝蹴りをくらわせた。
ギザは呻いてお腹を支えながら地面に横たわる。しかし、シュタインは彼にとどめをささず、ジョンが持ってた銃を奪い、横たわるギザの顔面に一蹴りいれると、逃げていったブリトニーとアンナマリー、ケリーを追った。
ジョンはヴェルヴィンを目の前にあったコンテナまで脇を掴んで運び休ませた。
シーザンとジジはアンナマリーとブリトニー、ケリーがどこまで逃げたのか分からず、とにかく敵がどの位置にいるかという事に意識を集中した。アンナマリーとブリトニー、ケリー3人はレーウィンが目を離さないでくれるだろう、そう信じた。
シーヴァンが大声でシーザンを煽った「おい!北シーナのはぐれ者!東シーナの空気はどうだ?お前にはもったいねぇけど、この卑怯者!」
シーザンはわざと笑い、「今そこにいるのはお前だけか?他はどうした?」
「知らねぇーよ」
「誰がさっき銃を撃った?」
「それも分からねぇ、お前さん今無鉄砲だぜ、手下もいなくてどこから命狙われてるかも分からねぇ、人質だけが救いか?」
シーヴァンの発言にシーザンは倒れるギザを見た。そして小声で呟いた。「あぁ、そうだな」
そして周りをより警戒しながら見つめ、真横に停泊する貿易船の窓が空いてることに気づいた。レーウィン・エイデルズ?
倒れるギザの首に足をのっけ、「お前は何者だ?」と問いた。
声を絞りながら「俺がレーウィン・エイデルズさ」と答えた。「じゃあ、船にいるのは?誰だ」
「さぁぁな、知るか」ギザは見下すように笑う。これにキレ、シーザンはギザの顔を蹴り飛ばす。その顔は血だらけで口と鼻から血が溢れた。
「おい!ジョン!ヴェルヴィン!どこに行った?!」シーザンは苛立ちながら2人を呼ぶ。
コンテナとコンテナの間に隠れてシーザンが見えないが、その怒鳴り声からシーザンがどれだけ怒っているかが伺えた。
「兄さん、あいつのところに」ヴェルヴィンの声はどんどん息が混じり、小さくなっていく。
「無理だよ、おーいヴェルヴィン!死ぬなよ、死ぬなよ」ジョンは必死に叫んだ。
ジジとシドニーが走った先に彼らはいた。その頃にはジョンが泣きながらヴェルヴィンを腕に抱え込んでいる。2人が来た事もどうでもいいように。
シドニーはジジを見つめ、どうしようか?と目で訴える。その目は敵であるが一人の人間でもあるジョンに対する情の混じったものだ。
シドニーはジョンの元で腰を下ろし、「ごめんなさい」と言うが、ジョンはシドニーを見ようともしない。ヴェルヴィンの髪は風に揺られ、今にも目を開けそうなのに目を閉じたままだ。目を開いてほしい、ジョンの泣き続けるその姿は、自分を殺人犯だと決定づけるものだった。
ジジはじーっと見つめているだけでずっと、ジョンの泣きわめく声だけが音を埋めるだけだ。
ジジがシドニーの肩を軽く叩き、先へ行くよと顎をしゃくった。ジョンに頭を下げると立ち上がり、ジジと共に前へ進んだ。
アンナマリーとブリトニー、ケリーは真っ直ぐひたすら走った。しかし、シュタインに追いつかれた。彼らは「止まれ、止まれー」と怒鳴り、銃を2人に向ける。
ブリトニーが段差で転び、アンナマリーは後退りして彼女を起こす。2人を守るようにケリーが前に立ちはだかる。
「もう諦めるのだよ。お嬢様方、どの道助からんよ」シュタインのおでこはかすり傷がついている。
銃を向けられている以上、従わなければこの場で殺されるだろう。
シュタインはこの状況をより理解しており、この2人はペトラソーナのダイヤの交渉に欠かせないことを知っている。
2人に自分の元まで来るよう指摘し、アンナマリーとブリトニー、ケリーは背中を向けないようにシュタインを横切った。彼は2人の背後に立ち、銃口で前に進むように指示した。
ブリトニーのすすり泣く声とアンナマリーの声を聞き、シドニーとジジは2人の居場所を察知した。そしてコンテナの端際で待機した。
すぐ近くにはシーザンがいる、ここでタイミングを逃せば、またシーザン側が有利になってしまう。
声がより近くなってくる、ジジを先頭に飛び出す助走をつけて待った。シドニーはヴェルヴィンの死に責任を感じている。待機している間際、ジジにこんな事を聞いた。
「ジジ、1つ聞いていい?」
ジジは顔を顰めながら、「えー、何?」と言った。
「俺、ジョンが泣いてるの見て、責任を感じて、、、ジジは何も思わない?」
ジジはため息をつくがはっきり答えた。 「いいえ、何も思わない、、、私もあいつらに命を狙われてた。この世界は弱肉強食よ、今までもこの先も、誰かの犠牲があって、誰かが生かされてるの」
ジジは後ろにいるシドニーに視線を移すと、落ち込んだ表情を見かねて続けて言った。
「まぁ、ごめんねっとは少しくらいなら思うかも、、、兄さん、いつも他人目線になるなんて、優しい人ね。
でも偶には自分のことも主張してね、戦争が終わってもユダヤ人である事を主張するのよ、私は迫害されてもドレスを脱がない」そう言った、シドニーはその言葉に少し励まされ、ジジに微笑み返した、「ありがとう」と言って。
シュタインの声が近くまで聞こえてきた。この時シュタインの脅しで、アンナマリーとブリトニー、ケリーが一緒にいるんだと確信できた。ジジは前に視線を戻すと、シドニーも飛び出す覚悟を決めた。
少し腰をかがめ、目の前にアンナマリーとブリトニー、ケリーらが通り過ぎ、シュタインが目の前に出てきた瞬間、飛びかかった。
その俊敏さにシュタインの銃を向けるタイミングを遅らせた。おもいっきりのっかかり、背中越しに体全体でしがみついてる状態だ。ブリトニーの叫び声が響く、アンナマリーがケリーとブリトニーを連れてシドニーの方へ避難した。
シドニーは2人を迎え、コンテナの背後まで引っ張ると、ジジの様子を見に表に出た。シュタインが銃を拾い、右手でしっかり握りしめてるが、ジジはその右手を重ねて握りしめている。銃口はあちらこちらと無差別に向き、下手したら引き金を引かれて殺されるかも、しかしこのままだとジジが殺されてしまう。
シドニーはどのようにシュタインを仕留めようか考えた。そして、思いついた。貿易船の中にまだレーウィンがいるかもしれない、シドニーは両手を振って気づいてもらえるか試した。
こんなことしてる場合ではないが、シドニーに思いついた戦闘方は今のところこれくらいだった。
運のいいことに手を振ってすぐ船の中で人影が動いた。その瞬間、ヴェルヴィン・ボーンズを思い出し、大声でシュタインの足!足を撃てー!と叫んだ。
この声は届いていると思うが、なかなか撃たれない。おそらくジジが命中の障害になっている、シュタインとジジはしばらく揉み合いになっていたが、とうとうジジの体力が切れ、シュタインに蹴り飛ばされた。
銃をジジに発砲した。シドニーはシュタインの背後から腕を後ろに縛り上げた。
背が高いため、シドニーはつま先で立っていた。振り払われないように腕に力をつけるが、簡単に飛ばされた。
とうとう自分も終わった、と覚悟を決めたところで上から銃声がなった。その銃弾はシュタインの足に命中した。
「わっ!くそ!おのれ、このわたしを倒せるとでも思っとるのかね!人を殺す勇気もない若造が!」
シュタインは倒れ左足を押さえ、踠きながら怒鳴り続けた。シドニーはすぐさまジジの方へ向かった。運の良い奴だ、シュタインの銃弾はハズレ、ジジは怪我もせず生きていた。本人も怪我もしてないと確認すると「生きてる!生きてるわー!ほっほー」と喜び、ほっとからかシドニーはジジを強く抱きしめた。
そして2人の元へアンナマリーとブリトニー、ケリーも集まった。
「いやーん!大丈夫!?」ブリトニーの声が最初に聞こえてきた。
ジジはブリトニーの肩に手を添え、あんたは大丈夫だった?と聞くと「もう、無理よ」と大袈裟に頭を傾ける。ケリーはジジを強く抱きしめ「あんたは怪我ないのね?」と聞いた。「ないわよ」と答えると「私たちは生きてる!」と言った。
アンナマリーもハグを交わすと、彼女はシドニーと向かい合い、照れ臭そうに微笑みながら「ありがとう」と言った。
シドニーも微笑み返すと、率直に聞いた。「アンナマリー、この国を出て、、、出たら、俺と一緒に過ごしてみないかな?」
「えぇ、もちろん」とアンナマリーは答えた。
ケリーとジジとブリトニーは肩を組みながらその様子を見守った。だが、アンナマリーが答えて、間も無く「オッケー!相手は決定ね、さぁ、こんな事してる場合じゃないわ、シーヴァンが」とロマンチックなムードをさっさと終わらせ、ジジは全員を現実に戻す。
シドニーも再び焦りと緊張を備え、アンナマリーとブリトニー、ケリー、そしてジジも戦闘モードに切り替え、シーザンの元へ行った。
「おい!おまえ、いつまで時間稼ぎするつもりだ?」とシーザンはシーヴァンが隠れるコンテナの前を覗き込むが、その姿はなかった。
苛立ちが更に増し、コンテナを思いっきり蹴り飛ばした。そのコンテナの周りをゆっくりと徘徊する。「どっこだー?」と低い声で言いながら。
シーヴァンは足を引きずりながらコンテナを一周周り表に戻った。しかし、シーザンは背後から迫り、シーヴァンをおもいっきり地面に押さえつけた。
顔面を直撃すると、シーヴァンのうめき声をあげた。「ペトラソーナのダイヤはどこにある?」シーザンは聞いた。
「はぁ?ペトラソーナのダイヤ?あの歯のダイヤか?俺の歯の中だぜ」シーヴァンは煽るように笑い返した。
すると、シーザンはシーヴァンのもう片方の足に発砲した。血が飛び散りシーザンのスーツにも着いた。
「うわぁー」あまりの苦痛に声がでない。このまま死ぬならと、最後まで平気を装い、笑い続けた。
シーザン「てめぇ、俺をコケにしてるな?今からおまえの口ん中見てやるよ、もしダイヤがなかったら弾を口ん中にぶち込んでやる」殺気の目と冷静沈着にそう言うと、シーヴァンの口を人差し指と親指で無理矢理開けた。
シーヴァンは抵抗し、シーザンの指を噛みちぎるように歯に力を込めた。
とうとうシーザンが銃口を口元に持ってきたタイミングで、シーヴァンがさっき撃たれた時に落とした鉄の細い棒を何者かが振り上げ、シーザンの頭を右から左へと殴り飛ばした。
「あぁーーーー!」シーザンもその痛みから唸る。
シーヴァンの前に立っていたのは、心配した表情のビアンセだった。ビアンセはシーヴァンに駆け寄ると、「シーヴァン、シーヴァン!大丈夫、、、大丈夫じゃない」と震えた声で言ってる。
だが彼女以上に焦ったのはシーヴァンだ。「おい!来たらダメだろ!」精一杯の声でビアンセに言った。
「逃げろ!逃げろ!」ビアンセは一切話を聞かない。その頑固な一面はシーヴァンに力を与えた。
撃たれた足を引きずり、ビアンセの両腕でしがみつきながら上半身を持ち上げると、ビアンセの前に座り込んだ。ビアンセはシーヴァンの顔を触って、「あんた、このままじゃ、どうにもならない」と泣きながら言った。
シーザンは立ち上がり、ふらついた体をどうにか安定させるとビアンセを睨みつけ「てめぇ」とぼやいた。
彼が立ち上がって、ビアンセに迫ってきているのに彼女はシーヴァンに気を取られ全く気づかない。
「ビアンセ!はやく逃げろ!はやく、はやく!」シーヴァンの言葉も虚しく、既にビアンセに銃を向けられていた。
「クソッタレ!」シーヴァンが叫んだ瞬間、シーザンの後ろから銃弾が一発、シーザンを横切ってコンテナに当たった。
そして二発目がシーザンの足元付近に、どちらにしろ外したが後ろにはシドニーが立ち、そのまた後ろにはメイドたちがギザを救出していた。
「あーー!もう!、どいつもこいつも」シーザンは怒鳴り、イカれたように頭をかきむしり、瞼を擦った。今シドニーとシーザンはお互いに銃を向け合っている。
ジジが前に出てきて言った。
「あんたにペトラソーナのダイヤは渡さない、あんたのネズミだった時代はもう終わった、わたしは自由よ!」両手を腰につけ、股を大きく開けて立つと、顔を斜め上に向け自信に溢れたポーズを見せつけた。
「てめぇはどこ行ってもネズミなんだよ!どこで何をしようと俺のペットなんだよ頭の悪い草食動物が!」
ジジはシーザンの言葉を間に真に受けることはなく、ふざけた返しを続ける。
「あんた、、、そんなに私が好きだったの?!」
「はぁ?ネズミの身分をわきまえろ!誰のおかげで人間になれた?願い事を檻の中からよくも横取りしやがって、、」
「あれはあんたが仲間同士で殺し合いに夢中になりすぎて、よそ見してたからよ」
「はぁ!!死ねーーーー!」シーザンはジジに銃を発砲、弾はジジの鼻を目掛けて凄まじい速さで向かった。だが、その後に遅れて聞こえてきた発砲音がその弾とぶつかりジジの目の前で真っ二つに割れるように破裂し、地面に落ちた。
シドニーは貿易船の中のレーウィンを見た。「よっしゃー」と言わんばかりの表情だ、そして息切れしている。船の中を走り回ったのだろう。
「くそっったれー!、ボーンズはどこに行った?」シーザンは大きい声で怒鳴るが、ジョン・ボーンズに関しては心配ご無用、皮肉だが彼は弟を亡くしたショックでもう戦う気力などない。
シーヴァンは笑って、「銃弾に余裕はあるか?」と聞いた。もちろん皮肉だ。
「ジジ、ペトラソーナのダイヤを」シーザンはかしこまったようにジジに交渉した。だが、ジジはそれすら無視してシドニーにこう言った。
「あの男の血と臓器、結構高い値で売れそうよ」
「売ってどうする?」
「黒魔術好きにあげれば喜ぶわよ、なにせ北シーナの大物だし、今は無様な様子だけどね」
シドニーは苦笑いしながら「それはよそうか」と言い、ジジは気にくわぬ表情を見せる。
そして「くらえ!ヒール攻撃!」ジジはそう言って、ピンクハイヒールをシーザンの股間を狙って投げ飛ばした。それは命中しシーザンは股間を抑えながらうつ伏せになった。
「お前たちまじになったら部下が首を狙いにくる、、、」シーザンは声を必死に絞り出して言った。
「こいつ縛っとけ、そのまま海に投げ捨てようぜ!」シーヴァンが言った。
貿易船の中から1人の男が顔を出した。レーウィン・エイデルズだ。ジジは後ろを振り向き、思い出したかのように荷物を取りに行くと、トランクの中から赤い箱を取り出し
レーウィンに渡した。
「これが約束のものよ」
レーウィンが中を開けると、中には歯型のダイヤが入っていた。ジジを見て微笑むと、「それでは北シーナ経由で日本行きの船を出そう、察が来る前にここを去らないとまずいぞ」
「もちろん、、、ありがとう」
「聞いてた人数より多いが、まぁどうにかなるいくつか罪を犯すけどな」清楚でイケメンのレーウィンは冷静沈着で、イギリス訛りの英語だ。
「みんな行くよ」ジジがみんなにそう呼びかけると、レーウィンを見て頷く。彼も何かを承知したかのように頷き返すと、ブリトニー、ケリーは荷物を取ると、軽く叩いて船に乗船していく。
シドニーがシーヴァンを背負い、ビアンセがシドニーの荷物を持って乗船していく。レーウィンはみんなを船に乗車させると、ギザの元へ駆け寄った。
「お前大丈夫か?」そう言い、銃を拭く用の長いタオルでギザの顔を優しく撫で血を軽く拭き取った。ギザは口を固め、目を閉じる。そして、「しっかり役目を果たしたな!」そう言った。
「あぁ、ペトラソーナのダイヤはこれからどこへ?」
「文化省に寄贈するんだよ、この事件に関わったやつはみんな命が保証される。
まぁ、思ったより巻き込んだ人数が多いけどな、、、」
「北シーナ政府はシーザン・オルフを許すと思うか?」
「いや、あいつはこれからブタ箱行きだ」
ギザとレーウィンは手足を縛られたシーザンの元へ近づき、「よし、北シーナの巨人、ゲームは楽しかったか?政府と賭け事なんて、、、」
「俺はまだ負けちゃいねぇよ、ドアホ!」シーザンは口を開けば罵詈雑言しか出てこない。
「アカラークの貴族は、上流階級の会員リストの権利をお前が持ってる事が許せないってさ、権利は政府の手にもどる」レーウィンがそういうと、「なんで、こいつは政府と権利の争いでこんな賭け事を?」ギザが聞いた。
「権利の68%を裏の権力者が握ってきた、残りは政府がな。それでその権利をこいつが受け継いだ訳なんだが、残りの権利も欲しいと企んだでな、政府に賭けに出た。北シーナの王家の象徴だったペトラソーナのダイヤの一部をエドワード・ウィリアムズの元に渡ったと知って、誰がそれを先に手に入れるか賭けに出たんだよ」
「こんな大事な賭けに一人自分の部下を連れないなんて、、、」ギザがそう呟くと、「政府はゲームの途中にシーザンに1つアドバイスしたんだよ、お前の周りにいる奴らの誰かが、ダイヤを政府のところへ持ってきてくれるぞ!って、だから誰にも頼らなかったんじゃないのか、それがまさか探し回っていたジジだった事も知らずにね」レーウィンは続けて言った。
「あいつがもともとネズミだったって話聞いたことあるか?」
「本人が自称してるやつだろう?」
「もしそれがホントなら、神様が北シーナを助ける為にネズミを人間にしたんじゃないかって俺は思ってる」
「えぇ?信じるの?」
「まさかネズミがシーザンの情報を握るなんて誰も思わないだろう、それに東シーナへジジを上流階級の会員リストを支配する権利を持つって事は政治も操れる。言ってみれば真の王権ってとこだな。」
「おもしろい話だな」ギザがそう言うと、シーザンは「てめぇ、俺はまた戻ってくるぜ、またすぐにな!北シーナが手に入ればお前らの首を最初に狙ってやる」とレーウィンとギザに忠告しと。
「できるもんならやってみな!」ギザが言った。するとレーウィンは「たしかに、まだ気を緩めるな、ペトラソーナのダイヤを政府が手にしたからといって、北シーナの裏社会が衰える訳ではないからな、ここまで権力を握られると、政府が全てを完全に取り戻すには時間がかかる」と言った。
ギザは思い出したように「あっ!ボーンズ兄弟はどうする?」
「あいつらな、弟の方を殺してしまったのは計画外だ。ジョン・ボーンズは見逃そう、だがペトラソーナのダイヤに関わった以上、ここに置いとく訳にはいかないから北シーナに連れて帰ろう」
「そうだな、可哀想だしな」ギザは言った。そしてレーウィンとギザでシーザンを船に乗せ、動物を輸送する時に使うコンテナにぶち込んだ。
コンテナの片隅でヴェルヴィンを抱きしめながら眠るジョンを見つけた。ギザがジョンを軽く叩くと、彼は起きなかった。
レーウィンで異変を訴えると、レーウィンがジョンを軽く押すと床に倒れ落ち、首から血が出ている。ヴェルヴィンの死体の後ろに小型のナイフが落ちてた。
首を切って自害したのだろう、ギザとレーウィンは帽子を外し頭を下げた。
そして早歩きで貿易船に乗り込み、とうとうヴェノピア島を後にした。
1945年、シドニーはアンナマリーと我が子と共にヴェノピア島へ帰国した、本名アーサー・クリスチャンと名乗って。シーヴァンとビアンセはそれより早い1943年に帰国、パティエを再開した。本当は42年には戻る予定だったが、この年はヴェノピア島が最も過酷な戦場となったのだった。
ブリトニーは北シーナに留まり、そこで婚約を果たした。何度か流産を経験した後、念願の子供が生まれた事を57年にアンナマリーに手紙で知らせた。
ケリーはシドニーの伝手を借りてイギリスへ渡った、その後どうなったかはシドニーも知らない。
シドニーにとって生涯忘れることのできない人、43年のあの日、ジジはピンク色のハイヒールを履いて、念願の夢だった桜の国へと渡り、北シーナを後にした。
そしてあの謎めいたメイドとは二度と会うことはなかった。二度と、、、
文字数制限の為、分けて投稿してます。
しかし、短編小説なので連載にはなってませ。
楽しんで頂けたら嬉しい!
これからも物語も投稿する機会があるかもしれないので、よろしくお願いします!




