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第7話 飾りじゃないのよ涙は

 題名は飾りじゃないのよ涙はは中森明菜さんの曲です。

 岩佐歩いわさ あゆむは18歳になると大学に通っていた。金髪に染めてツインテールにして、日焼した。Vチューバー、玄姫くろひめやすむと同じ格好だ。大学でも歩のファッションが評判になり、よく声をかけられている。


「岩佐さんてやすむそっくりだね!!」「本当に男なの? 信じられない!!」「バ美肉どころかネットから抜け出たみたいだ!!」


 歩は地味な性格で騒がれるのが苦手だ。しかし所属事務所のムジナックス、木常狸吉きつね たぬきちの指示で明るく振る舞っていた。キツネ御殿のメイクリストで日高雄二ひだか ゆうじが施したのだ。こちらも金髪に染めた黒いギャルだが、オネエだ。営業の緒方真世おがた まよと恋人だが、子供を二人生んで、性転換した。オネエとおなべのベストカップルである。

 二人の指導の下、歩は陽ギャルに生まれ変わったのだ。あと護身術も習った。


 歩はお笑いサークルに所属した。後輩の泉香菜いずみ かな曰く、おすすめだという。

 蒼井企画所属のタレントがいた由緒あるサークルらしい。他にも演歌サークルがあり、演歌の大御所、横川尚美よこかわ なおみが入っていたという。こちらは秋本美咲あきもと みさきはもちろんだが、雄二と真世もいたそうだ。


 サークルはサークル寮にあり、鉄筋コンクリート造りであった。どこか古びており、廃墟に思えた。その割に大勢の人間が出入りしており、にぎわっていた。

 歩が部屋に入ると、中にはテーブルにパイプ椅子。本棚に食器棚、電子ポットに電子レンジが置かれていた。

 椅子にはウェーブのかかった女性が座っており、もう一人テーブルの上で高いびきをかいている女性がいた。


「あら、入部希望?」


 ウェーブのかかった女性が言った。眼鏡をかけて白いだぶついた服を着ていた。


「あっ、奥迫おくさこ先輩、おひさしぶりです!!」


 歩が挨拶した。すると奥迫と呼ばれた女性はきょとんとしたが、すぐ思い出したようだ。

 彼女は奥迫未夢おくさこ みゆ、歩の高校時代の先輩だ。大学に通いながら蒼井企画に所属しているという。


「あらら、あなたは岩佐さんじゃないの。玄姫やすむそっくりだわね。ほらまさる先輩、起きてください」

 

 未夢が優と呼んだ女性の肩を掴み、揺り起こす。まるで少年のような顔立ちだ。口からよだれが出てる。


「んあー、なんだ未夢。出前が来たのか?」

「出前じゃないです。ほら玄姫やすむですよ」


 優は目をこすりながら歩を見た。目の前に金髪の黒ギャルが立っている。


「なんだ? 新入生か? 今時珍しくもない恰好じゃないか」

「あれで男なんですよ。すごいでしょ?」


 すると優は目を見開いた。そして歩に一気に近寄る。歩は迫力に押され、たじたじになった。


「おお!! 胸がない!! まるで俺みたいだ!! 本当にポンチがついているのか!!」


 優は興奮していた。そこに未夢がパイプ椅子を持ちだし、優の頭を思いっきり叩いた。

 優の目から星が飛び出た。


「なんだよ未夢!! ここはリングの外じゃねーぞ!!」

「相手が怯えてますよ、少しは落ち着いてください!!」


 未夢に怒られ、優はしゅんぼりとなった。呆然としていたが改めて歩は挨拶をする。


「岩佐歩です。普段はVチューバーで玄姫やすむを演じてます」


 歩は礼儀正しくぺこりと挨拶した。


「そうなのか!! 俺はやすむとか知らないけど、なんかいいな!! 男なのに女にしか見えない!! 男を何十人も食い散らかしているんだろうな!!」


 優が叫ぶと、未夢がさらに追い打ちをかける。パイプ椅子の角で思いっきり叩いた。優は目を丸くし、倒れてしまった。


「ごめんなさいね岩佐さん。この人は多田優おおた まさるといって4年生なの。私と同じ蒼井企画の所属なのよ」

「いえ、面白い人ですね」

「他にも根本先輩と増田先輩がいるけど、今日は来てないの。ふたりは性同一性障害でね。男性だけど心は女性なの。でもあなたと別に筋肉を鍛えて男らしくなろうとしていたのよ」


 未夢はため息をついた。他人を思うため息だ。歩もそうだが世間の風が冷たいのだろう。未夢のような理解者がいて本当に良かったと歩は思った。


「ここはね、お笑いタレントをいくつも出しているのよ。ネット配信のみだけど、アビゲイルとバニラアイスという面白い漫才コンビがいるの。動画を見せてあげるわ」

「そんな奴ら知らねーよ」


 突如見知らぬ男たちが数人入ってきた。体育系で日焼けしたマッチョが多い。ちゃらちゃらしていそうだ。


「お前らお笑いサークルは害虫なんだよ。テレビに出たことがない芸人なんて底辺だろ? そんなんで芸人を名乗るなんて馬鹿じゃねーの?」


 オールバックでサングラスをかけた髭の生やした男が見下しながら言った。


「ここは俺たちテニスサークルのやり部屋にするんだよ。お前らは出てけよ!!」


 禿頭で日焼けした肌に顎髭を生やした男の一人がテーブルを蹴り上げた。テニスをするよりも女性と関係を持つのが狙いのようだ。


「地味で男勝りな奴しかいねぇサークルなんか存在する価値はねぇ!! とっとと消えやがれ!!」

「まっ待ってください。大学側の許可を取っているんですか? 勝手にそんなことは許されませんよ」


 歩が前に出た。足が震えているが、勇気を振り絞って飛び出てしまった。男たちはいかがわしい目で舐めるように見た。


「あん、何だよお前。男のくせに女装している馬鹿か?」

「でも可愛いじゃん。こいつ見た目だけなら女そのものだぜ」

「よぅし、こいつを相手に楽しもうぜ。どうせ男のものを何人も咥えこんだんだろ?」


 男たちがにやりと笑う。歩は違うと払いのけようとしたが、体育系の男の腕力には敵わず、腕を握られて動けない。歩は途端に怖くなった。がたがたと震えている。男たちは怯える歩を見て小動物をいじめたくなる顔になった。


「たっ、たすけ……」


 すると男は手を離した。サングラスを外し、頭を下げる。


「怖がらせて申し訳ない。これはお芝居なんです」

「私は増田啓介ますだ けいすけで、こちらは根本美鶴ねもと みつるです。他は別の演劇サークルの友人なのです」


 全員が歩に頭を下げた。増田と根本、サークルの先輩だと聞いたが、彼らがそうだったのか。


「ごめんね岩佐さん。新入りには芝居を見せるのがお約束なの」


 未夢が説明した。根本と増田はかなり体格がいい。ボディビルダーのようだ。

 歩はそれを聞いて、腰が抜けた。


「ひっ、ひどいよぉ……、こっ、こわかったぁ……」


 歩は泣き出した。根本と増田はますます恐縮し、頭を下げる。まるでウサギのように縮こまっていた。演じているときはまるで熊のような迫力があった。これが演じるということか。


「でも人生で本当にこんな場面が出てくることもあるよ。今のうちに鍛えておかないと取り返しがつかなくなるわよ」


 未夢が言った。これは新入りをからかうよりも教育するためであった。それにしてもお笑い芸人なのに演技がうまいのはどういうことだろうか。


「お笑いはギャグを言えばいいわけではないぞ!! どんな演技も演じることが大事なんだ!!」


 今まで寝ていた優がぴょんと起きた。彼女と根本と増田は同じ年で、蒼井企画に所属しているらしい。蒼井企画はネット配信が主だが、お笑いだけでなく福祉施設などで演劇もやっているそうだ。

 この件は歩のトラウマになった。だがこれをきっかけに護身術に力を入れるようになったのだ。特に根本と増田は熱心に教えてくれた。優は見た目は活発そうだがへなちょこで未夢の方が上であった。


「でも飾りじゃないのよ涙は」


 歩は怒っていた。恐怖で流した涙は演技ではない。お芝居とはいえ人を騙すのは良くないと思った。


「もっともです」「奥迫さんから話を聞いて調整はしたつもりですが、怖がらせて申し訳ない」


 根本と増田はますます恐縮した。その仕草はまるで女性だ。自分と同じ心は女性なのだと思った。

 調べてみると鎧乙女の根本と増田は24歳で、バニーレンジャーの優も24歳でした。

 最初から計算しておらず、適当に作って後付けする。それが捜索の面白さですね。

 大晦日ですが、連載はまだまだ続きます。

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