第6話 危険なふたり
危険なふたりは沢田研二の曲です。1973年に発売されました。
『だから私は社長に進言したのです!! 暴力団と繋がっている奴なんか追い出せと!!』
テレビでは18歳の烏丸りあがワイドショーで喚いていた。司会のタレントはにやにや笑っている。
題名は横川尚美と暴力団の繋がりとあった。演歌歌手の尚美は何度もそれをネタにされていた。相手は指定暴力団、三門会の会長、三門順吉だ。尚美より3歳年下で彼女が15歳の頃同じアパートに住んでいた。りあだけでなく、尚美を嫌っている人間が繰り返しネタにしていた。
ただし順吉は暴力団の息子ではない。18歳で暴力団を立ち上げたのだ。つまり尚美と順吉は幼馴染だが、暴力団とは関係ない。しかしりあを含めた連中はしつこく繰り返していた。
『でも横川さんは三門会会長は付き合いがないですよ。コンサートにも来ないし、後援会にも名はありません』
『黙れ!! 芸能界は暴力団と関わってはならないのだ!! 鉛筆を借りるだけでも繋がりはできる!! あのババアを追い出さない限り芸能界に明日はない!!』
禿げ頭の芸能レポーターが言うと、りあはヒステリーを起こした。
その様子を岩佐歩と烏丸りあは一緒に見ていた。ここは中華料理店の特別室だ。部屋は赤く、調度品も高級品が多かった。
テーブルの上には中華料理が並べてあった。さらに席にはもう二人、70歳の女性と60代後半の男が座っていた。
女は赤毛のパーマで紅い縁の眼鏡をかけていた。肉が盛り上がっており、威圧感がある。横川尚美だ。
もう一人は達磨のように丸く、全体がふっくらとしているが、逆立った髪形に日焼けした肌が目立つ。見た目は肥満体の中年に見えるが、大仏を目の前にしたような錯覚になる。
三門会会長、三門順吉だ。彼は派手な赤いシャツを着て、ウーロン茶を飲んでいた。彼は下戸だった。
「縁起臭いねぇ。もう少しどうにかならないのかい」
「どうせ気にしませんよ。視聴者は刺激的な話題しか興味がありませんから」
尚美が唐揚げを豪快に食べていた。りあは麻婆豆腐を少しづつ食べている。なぜ歩はここにいるのか。
りあに食事へ誘われたのだ。そこで尚美と順吉も待ち構えた時は、心臓が止まるかと思った。
りあはほとんど学校に来なくなった。恋のキューピットである彼女は割と人気があった。歩からりあのことをたずねる者も多かった。
りあの服装は派手だ。悪趣味なアクセサリーをつけており成り金に見えた。しかしりあはうんざりしていた。この格好は不本意なのだ。
「尚美先生は暴力団とつながりがないと聞いていたので、驚きです」
「間違ってないよ。僕は彼女のレコードを買う程度の付き合いだしね。年賀状も出したことはないよ」
歩の言葉に順吉はエビチリを食べながら答えた。むしゃむしゃと食べる姿は豪快だった。暴力団の会長には見えないが、大物であることはわかる。
「いわゆるガス抜きだね。わたしゃキツネ御殿をやめても、人気があるからね。私に嫉妬する連中は足を引っ張るネタを探し回っているから、定期的にあのネタを出しているのさ」
尚美は箸を動かしながら答えた。自分のスキャンダルを堂々と出す。暴力団と関係する芸能人は次々と追放されたが、彼女の場合はあくまで幼少時に知り合いで、尚美が知らない間に暴力団を立ち上げたため、無関係ということになった。
だが尚美を嫌う人間が時折、過去のネタを掘り起こして話題にして、鎮火するの繰り返しだ。
「昔から横川先生の話を聞きました。先生の身の回りのトラブルは三門会が解決していたって。でもあくまで噂だけですね」
「……スパロウ教団というのがあってね。私に広告塔をやれと言ってきたのさ。それを断ったら教祖の雀野親都は信者に私の暗殺を命じたそうだ」
歩の問いに尚美ははいいボールのグラスに口をつけながら言った。それを聞いて歩は驚いた。
スパロウ教団は30年前に流行った新興宗教であった。高学歴の信者を集め、理想郷を作るため選挙に立候補したりと活動していた。だが教団では化学兵器を製造しテロを起こす計画が練られていた。日本語が話せるのに、外国人故にその常識が通じない頭を持っていた。
ところが教祖の住むマンションが襲撃された。犯人は愚連隊3名でロシア人から買い取った拳銃で、教祖を含む信者たち13名を殺害したという。現場は血の海に沈み、地獄絵図と化したのだ。
犯人は全員18歳で、遊ぶ金欲しさにマンションを襲撃したと証言した。だが彼らは信者の財布を抜き取ったが、教祖の部屋にはベッドの下に数億円の札束が置かれていた。彼らは部屋を荒らすことなく、信者だけを殺害したのである。
三門会の幹部と知り合いだったそうだが、盃を交わしておらず、三門会も知らぬ存ぜぬを貫きとおした。結果彼らは10年後、死刑判決を受け、処刑された。彼らは処刑される最後まで落ち着いていたという。とても遊ぶ金目当てで人を殺したとは思えないと、看守たちは証言していた。
「実はそれが私と尚美先生をつないでいたんです。なぜなら教祖の雀野は私の祖父だからです」
りあの言葉に歩は驚きっぱなしだ。雀野は信者に手をだし、妊娠させた。それがりあの母親、烏丸鬼角だ。神の子を宿したとして別のところに住んでいたため、親子は死なずに済んだ。
教祖が死亡したため、教団の施設は警察の手入れを受けた。そして教団は壊滅した。
りあの祖母、優香は教祖を憎み、娘の鬼角の息子の善人を女ひとりで育てた。だが貧乏な生活に心がすり減ったためか、鬼角は金にこだわりを見せた。自分の祖父が教壇で一番偉い存在だったのも、鬼角の人生を狂わせた。自分がなんでみじめな生活をしているのか理解できなかった。弟の善人はそんな姉を見て反面教師とした。そのためか真っ当に育ったのである。
ぼんくらの男と結婚し、りあを産んだ。自分の苗字にこだわったのは、自分が男より偉いと思わせるためである。善人は結婚したが子供が生まれない体質のため、りあの妹、りかを養女にしたそうだ。
「もっともボクの命令じゃないんだよね。あいつらを少し脅してやれってね。けどあいつら化学兵器を所有していたから、教祖を始末したほうが正解だったな」
「そうだねぇ。死刑になった三人には気の毒だった。話を聞いた時は全員孤児で身寄りがなかったらしい。順吉のために命を捨てられるなんて幸福だと言い残していたそうだよ」
「幸せな死なんてなかなかない。あいつらが羨ましいよ」
順吉と尚美はウーロン茶とハイボールを交わして飲んだ。
「なんか危険なふたりだね」
「芸能界はああいう人でないと生き残れないよ。私はあくまで尚美先生の言いなりだからね。楽なものよ」
りあは餃子を食べながら言った。言いなりと言ってもりあはうまくやっている。キツネ御殿の社長を口車に乗せて操っているのだ。
「歩は思い切って玄姫やすむの格好にしたら? リアルでもやすむを演じることで世界観が変わるかもよ」
りあはウーロン茶を飲みながら言った。歩を誘ったのは最近悩んでいると思ったからだ。大物と会って気分転換できればいいと考えていた。
「やすむはあくまでキャラだし、顔出ししないから演じられるんだけど……」
「康さんは草食系だから待っても襲われないわよ。やすむになって康さんの恋人になりなさいよ。まあ美咲さんに先を越されるかもね。あの人ぐいぐいいくから」
りあはウーロン茶を飲み干す。それを横で見ていた尚美と順吉はほほえましく見守っていた。
三門順吉のモデルは小林亜星氏です。小林氏と差別化するため髪を逆立て、日焼させて眼鏡をはずしてます。名前は歌手の三門順子さんです。さすがに新キャラを出さないとだめになりました。
りあの家庭事情は思い付きです。
スパロウは雀で、雀野親都はすずめのおやどと読みます。悪人なのでありえない名前にしてます。




