表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

第3話 上を向いて歩こう

 上を向いて歩こうは坂本九氏の歌です。

「私は恋をしています」


 泉香菜いずみ かなが爆弾発言をした。傍には岩佐歩いわさ あゆみ烏丸からすまりあがいた。歩たちはすでに中学3年生。香菜は一年生だ。

 彼女たちは屋上に続く階段の近くで昼食を取っていた。歩は手作りの弁当を、りあは焼きそばパンとコーヒー牛乳、香菜は手作り弁当を食べていた。歩はたこさんウインナーに卵焼き、プチトマトにブロッコリーなどいろとり豊かだ。香菜はコロッケやホウレン草のお浸しなど冷凍食品などを中心だ。


「恋って誰に恋したのよ。まさかお兄ちゃんじゃないでしょうね?」

「お笑い芸人の伴裕貴ばん ゆうきさんです」


  するとりあは飲んでいたコーヒー牛乳を噴出した。それがかかって歩は慌てる。


「伴裕貴って43歳のおじさんだよね!? どこがいいの!!」

「伴さんはかっこいい人だよ。子供の頃からの付き合いですよ」

「確かご両親も芸能人だよね。そっちの関係で?」


 りあが訊ねた。伴裕貴は蒼井企画に所属するタレントだ。七三分けで身体がふっくらした丸い男だ。

 漫才コンビを組んでもすぐ解散してしまうので有名だった。

 最初は堺駿子さかい しゅんこで結婚までしたが、すぐに離婚した。かといって不仲というわけではなく、マネージャーとして彼を支えていた。コンビを解消した人間も彼を悪く言う者がまったくいないのである。


「あの人は自分だけ面白いのが嫌なんだよ。コンビを組んでもまったくかみ合わないのが難点なんですよ」


 香菜はうっとりとした笑顔で答えた。完全に恋する乙女の顔である。


「私も伴裕貴の漫才は動画で見たよ。でもあの人だけ鋭すぎて誰もついていけない感じがしたよ」


 歩が思い出しながら言った。伴の漫才は完全に別世界のものであった。相方を無視しているというより、ついていけない印象があった。SNSではコンビを解消した相方は伴さんについていけない自分が情けないと書き込むのがほとんどだった。彼は自分だけが目立つことを嫌っていた。辞書によると彼は孤児であり、孤独の人生だった。それ故に自分だけが目立つことを嫌い、家族を愛そうとした。

 駿子と離婚したのは駿子が言い出したという。彼はどんなに仕事が忙しくても家族の時間を守ろうとした。身体がボロボロになっても家族サービスをかかすことはなかったという。それ故に駿子は見てられなくなり、離婚したのだ。友人としての付き合いは未だに続いていた。


「そうなんですよ!! 伴さんの漫才は伴さんにしかできない特別なものなんです!! それを咬み合わせるのは私だけなんです!!」


 弁当を食べ終えた香菜が立ち上がった。歩は驚いた。りあはコーヒー牛乳を飲んでいる。


「香菜、夢を見ない方がいいよ。いや妄想の類だよ。ありえない!!」


 歩は香菜を否定した。自分ですら兄の康に思いを打ち明けられないのだ。男同士で愛せるわけがない。家族はともかく周りの人間が許さないだろう。

 

「ありえます!! 私と伴さんの年はたった30歳なんですよ!! 押せば何とかなります!!」

「押してもどうにもならないでしょ! その人がロリコン呼ばわりされるでしょうが!!」

「伴さんは悪くない!! 責めるなら私を責めればいいわ!!」


 歩の言葉に香菜は声を強くした。まるで未来が確定したような口ぶりであった。

 それを聞いて歩は呆れていた。

 だがりあは考え込んでいた。


「いや、案外いけるかもね」


 りあは正反対の意見を出した。彼女は学校では芸能人であることを鼻にかける嫌味な女として有名だった。その一方で言い寄る男たちを言葉巧みに動かしていた。野球部の男子生徒が告白したらキャプテンになったらいいよとおだてていた。その際に丁寧に部員の言葉を聞く、人の嫌がる仕事をすると人望を得られると吹き込んだ。さらにそいつに恋する女性を焚きつけ、手伝いをさせていた。

 その結果男子生徒は野球部のキャプテンになり、地区優勝を果たした。しかしその時は支えてくれた女子生徒と付き合っていたのだ。

 

 りあは男の才能を見抜き、正しい道へ導くのが得意だった。さらに女子生徒をそいつとくっつけるのもお手の物だった。りあに告白し口車に乗せられた男子生徒のほとんどは振られた後も別の女子とくっつくことが多く、彼女は恋のキューピットとして人気が高かった。


 ただ友達はいなかった。母親が芸能人でない人間と友達になることを許さず、娘のスマホをチェックするので友達ができずにいた。実際はスマホを二台持っており、母には芸能界用のスマホを見せていた。

 歩とだけ付き合っているのは、他の生徒に写真を撮られないためだ。


 ちなみに歩も芸能人として活動している。実際はワイチューバーとしてだが。顔出しでゲーム実況をしており、それなりに人気がある。キツネ御殿の社長の息子、木常狸吉きつね たぬきちが経営していた。その事実を社長は知らないという。金勘定だけが趣味で、それ以外に興味がないそうだ。もっともりあの母親は歩を認めない。ワイチューバーは素人でテレビこそ最強だと決めつけていた。


「香菜の強引な性格と伴裕貴の自分だけが持つ世界は相性がぴったりだわ。でも中学生ではだめ、20歳になってからの方がいいわね。伴さんもどうせ女性には縁がないだろうし、香菜が結婚できる年齢になればいいわ」

「いや、りあ。それ本気で言っているの?」


 りあの冷静な言葉に歩は突っ込んだ。歳の差が激しいのにうまくいくわけがないと思った。

 香菜は嬉しそうで小躍りしていた。


「本気だよ。ついでに言えば歩とお兄さんもいけると見たね。あの人は押しが弱いわりに我慢強い。美咲みさきさんと一緒でも絶対に手を出そうとしてないしね」


 りあが言った。歩の顔が曇る。秋本美咲は大学を卒業後、キツネ御殿に入り芸能活動を始めていた。それ以前に高校時代から動画配信で演歌を歌っており、前々から注目を浴びていた。元々美咲の師匠である横川尚美よこかわ なおみと美咲の外祖母は友人で、彼女を芸能界入りすることは決定していた。

 歩の兄、康は国立大学を卒業したにもかかわらず、キツネ御殿に就職し、美咲のマネージャーとなったのである。歩の両親は激怒したが、これは康を思ってのことだ。

 ちなみに表向きはりあと美咲は不仲を装っている。知っているのは尚美の関係者だけだ。りあはキツネ御殿を潰すために裏工作の真っ最中だ。


「私がお兄さんに色目を使っても、きっぱりと断るからね。真面目で有能、気の利く性格は女性にもてるね。でもあの人女性に煙たがられているのよ」

「なんでよ」

「私がお兄さんの事、男にしか興味がないと言いふらしたの。本当の恋人は血の繋がらない弟のあなたってね」


 りあがにやりと笑うと、歩は目を見開いた。そのせいで美咲は康が男好きと疑うようになった。りあが歩の友人だと知っているからだ。


「ありがとう、りあ!!」


 歩は目を輝かせてりあの両手を取った。それを横で香菜が目を丸くしていた。

 歩は上を向いて歩こうと思った。

 この作品は新キャラを出さず、セイレーンと俺たちは挑戦者だのキャラのみ出そうと思ってます。

 りあのキャラが別物と思うでしょうが、本編には出てませんからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これは……玄姫やすむさんの株がめちゃくちゃあがりそうな予感がしますね。 素晴らしく心を動かされるドラマが展開されております。 確かに色々セイレーンのことも思いだしますけど、このコがスピーチヒーロー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ