第一話 どうにもとまらない
題名は山本リンダのどうにも とまらないです。
岩佐歩は孤独だった。彼は性同一性障害であった。男なのに気持ちは女だった。
このことを両親には告げなかった。彼は自己表現が苦手なのだ。両親は厳しいが優しく接してくれる。親が信用できないのではなく、自分のことで煩わせたくなかったからだ。
歩には兄がいた。康と言って真面目な青年だ。彼には幼馴染の秋本美咲がいた。彼女は金髪碧眼の美少女だが、学校では孤立していると康がぼやいていた。
あまりに美しすぎると女性にはやっかみをうけ、男性には性的な目で見られているというらしい。
康は普段おとなしいが、美咲のことになると感情的になることが多かった。両親はあまり美咲と付き合うことを嫌っていたが、康は頑として応じなかった。普段は両親の期待に応えるべく勉強に勤しんでいるが、美咲だけは別であった。
正直歩は美咲を嫌っていた。康を取ったからだ。学校では友達はおらず、康以外話し相手がいないそうだ。。小学六年生の頃になると彼は国立大学に通っているが、実家から通っているので問題ない。だが食卓では美咲の話をすることが多く、歩は不愉快だった。美咲は私立の名臣大学に通っているが、彼女が所属するサークルと付き合いがあった。演歌サークルでかの大物演歌歌手、横川尚美も所属していた由緒あるサークルらしい。尚美が五〇歳の時に新設された大学で、彼女が入学して話題になった。なんでも理事長は尚美のファンで彼女のために大学を作ったという。
歩にはひとりだけ友達がいた。二年年下の女子生徒で、泉香菜という名だ。
お笑い芸人の娘だそうだ。両親は蒼井企画の片足棺桶というコンビを組んでおり、五〇歳の頃に生んだそうだ。香菜には兄が三人いるが全員一〇歳を超えずに夭折したという。それで両親は身体が弱い自分を憎み、ボディビルに没頭したという。おかげで香菜は丈夫な体を得て生まれたのだ。
テレビでは活躍していないが、代わりにネット配信で活躍しているという。周囲はテレビよりネットの方が好きで、香菜の両親のことは知られていた。学校も片足棺桶をよく呼んでおり、香菜は人気者だった。その一方で彼女は気が利いており、親の七光りだけではなかった。
「うちの両親は厳しい人なんです。将来自分たちの介護をさせないように、独り立ちするよう教えているんですよ」
「それって面倒なことはやりたくないってことなの?」
「いいえ、面倒みさせないためですよ。気遣いは業界にとって命綱なんです。人に嫌われる人に仕事は来ないから」
香菜は大人であった。歩はそんな彼女を年下ながら尊敬していた。
歩は六年生の頃、いじめを受けていた。理由はない。ただなんとなくだ。教科書を隠されたり、無視されたりしていた。ノートに落書きされていたのを康が見つけ、それで彼は怒り狂った。学校に押し込み怒鳴り込んできたのだ。
もっとも大学生の彼が教職員たちに抗議しても彼らはのらりくらりといじめを認めなかった。それを助けたのは父親だった。彼は見た目は禿げ頭でちょび髭を生やした四〇歳の親父だが、弁が立ち、教師たちを言いくるめた。いじめた相手にも心に問題があるとして説得したのだ。そしていじめっ子たちの親も口車に乗せられ生活を改めさせた。歩の学校からいじめをなくしたのである。
「パパってことなかれ主義だと思ってた」
「子供の危機に立ち上がらない親はいないよ。とはいえ信用されないのは悲しかったな」
歩が父親にそう言った。だが父親の顔は晴れやかであり、太陽のような輝きだと思った。
「ごめんな。俺は全く役に立たなかった」
康は謝ったが歩は首を横に振った。
「お兄ちゃんは悪くないよ。むしろ嬉しかった」
歩が康を見る目は熱がこもっていた。まるで恋をする乙女のようであった。
それが歩の人生を変えたと言ってもよい。歩は母親から自分の心情を告白し、化粧の仕方を習った。
その日から歩は女性として扱われ、女物を着るようになった。
自分が女として生きられる喜びというよりも、愛する人を見つけられた喜びに満ちていた。
その気持ちはどうにも とまらないと思った。
歩と香菜は同じ小学校にしました。セイレーンに惚れた男の舞台とは違います。
思い付きで執筆しましたが、こちらの方が面白いと思いました。




