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第10話 兄弟船

 題名の兄弟船は鳥羽一郎の曲です。昭和歌謡曲のレコチョクをチェックして気に入った題名を拾ってます。

「どうも~、ポーパルバニーの並木栄人なみき えいとで~す!」

「同じく、並木葉月なみき はづきで~す!」


 レストラン月世界に岩佐歩いわさ あゆむが来ていた。来年大学を卒業する予定である。ファミリーレストランだがウェイトレスがバニーガールという変わった店だ。バニーと言っても露出が少なく、肩や股間に白いフリルがついていた。

 一般的な料理が多いが、月に一度は地方の料理を楽しめるので、そこそこ人気がある。


 さらに一風変わっているのが、店の隅にある簡易ステージだ。ここで土日に蒼井企画の芸人が漫才を披露するのである。

 栄人は24歳で黒髪のおかっぱだ。美少女に見える。衣装はホワイトボアのへそ出しバニーだ。うさ耳のカチューシャで耳の中はピンクだ。首元がもこもこしたタンクトップに、しっぽのついたブルマ、アームウォーマーにロングブーツを履き、白いシームレスの網タイツを履いていた。よく見れば男と分かる体つきだ。背が低いので遠目では女性と間違われてもおかしくない。

 

 葉月は茶髪のくせっけがあり、栄人と顔が瓜二つである。二人は双子なのだ。

 今日はここに来たのは、歩の先輩である根本美鶴ねもと みつる増田啓介ますだ けいすけに誘われたのだ。二人とも筋肉隆々だが心は乙女だ。美鶴は黒髪のオールバックにミラーグラスをかけ、ひげを生やしていた。

 啓介は日焼けした肌に禿頭であごひげをはやしている。歩は二人に挟まれて座っていた。今日の限定メニューは秋田のうさぎ汁定食だ。ウサギの肉や骨をすりつぶしてつみれ状にし、汁に入れたものである。他にはハタハタの塩焼きや大根の燻製から付けたいぶりがっこという漬物がついている。

 美鶴たちはきりたんぽ鍋を注文していた。一人で食べている。


 実はポーパルバニーの二人は美鶴たちの恋人なのだ。大学で知り合ったそうである。同じくお笑いサークルに入っており、二人は大学卒業後、蒼井企画に入り漫才コンビを組んだのである。

 正確には在学中から入っていたが、本格的な活動は卒業後だ。美鶴と啓介もすでに卒業しており、同じく蒼井企画に入った。鎧乙女という漫才コンビを組んでいる。

 今日はオフなので恋人の漫才を見に来たのだ。


「僕らは可愛いの大好き!! この格好も可愛いから大好きです!!」

「大好きとスキヤキ、どっちが好き?」

「どっちも大好きです!!」


 二人は軽快に話を進めていくが、どうも受けてない。最初の頃はそんなものだ。客も食事に夢中で漫才には気にも留めず、スマホをいじるありさまである。

 歩も面白いと思えず、食事に集中していた。

 客の一人がウェイトレスに大声で注文しており、誰も二人の漫才など聞いていなかった。

 美鶴と啓介はきりたんぽ鍋を食べながら、ため息をついていた。


 ☆


「いやー、今日は滑っちゃったね!!」


 着替え室で栄人が舌を出しておどけていた。ここには栄人と葉月の他に美鶴と啓介、歩も来ていた。歩は一般人だから遠慮したが、二人が無理やり引っ張ってきたのだ。


「今日どころじゃないだろ、俺たちの漫才が受けたこと全然ないじゃんよ」


 葉月がこぼしていた。彼が兄である。こうしてみると口調は完全に男だ。だが声は女性声優が少年を演じているように甲高い。電話ではよく女性と間違えられることが多いそうだ。


「どうも二人ともバニーを生かせてないと思うな」


 歩が言った。それを聞いて栄人と葉月の目が細くなる。彼の言葉は矢となり、心の的を射抜いたようだ。


「どうせならもっとバニーというか女の子らしくやればいいんじゃないかな。例えばパントマイムで自分は巨乳なんだとか」

「なるほどね。イマジナリーの胸を揉んで感じるのか。面白そうだな」

「それを栄人が俺の胸を揉むしぐさをするのも、いいかもな。思いっきりあえぐのも悪くない」


 歩の思い付きの言葉に二人の話が盛り上がった。さすがにファミレスであえぎ声を出すのはよくないが、パントマイム芸を披露するネタは面白いと感じた。


「ありがとう!! えっと玄姫くろひめさんだっけ? 君のおかげで素晴らしいアイディアがひらめいたよ!! 今度みっちゃんがケーキを焼いてプレゼントするね!!」

「あなたじゃないんですか?」

「僕よりもみっちゃんの方がすっごくおいしいんだよ!! ねー!!」


 そう言って栄人は美鶴の右腕にしがみついた。みっちゃんはあだ名だろう。美鶴はまんざらでもなさそうだ。


「それならけいちゃんにマフラーを編んでもらいなよ。俺たちの着ているセーターやマフラーはみんなけいちゃんが編んでくれたんだ。いいお嫁さんになれるよ」


 葉月が啓介をほめた。啓介は赤くなる。ちなみに並木兄弟は同性愛者ではない。美鶴と啓介は性同一性障害で自分を女性と思っている。兄弟は二人をベッドの上では女性として扱っており、美鶴たちもそれが嬉しいのである。


「…お二人は男が好きなんですか?」

「違うよ。みっちゃんだから好きなんだよ。彼女は僕たちよりずっと女の子なんだよ。外見だけで中身がない僕らと違ってね」


 歩の問いに栄人は自傷気味に答えた。二人は外見が女性に見えるため、学生時代から女々しい人間と扱われ、いじめられてきた。丸刈りにすればせっかくの髪をなんだと思っているんだと女子たちに責められ、おしゃれをすれば男らしくないと罵声を浴びる。そんな人生だった。

 二人は身を持ち崩し、学校には通わず、喧嘩に明け暮れていた。自分たちの悪口を言う者はすべて拳で黙らせてきたのだ。


 それを止めたのが高校時代の美鶴と啓介だ。二人は並木兄弟の拳を正面から受け止めた。女性の気持ちを捨て去るため、毎日ジムに通い、食生活にも気を使ってきて、筋肉を身に着けた。

 どうしようもない気持ちをぶつけられず、堕落した二人を見て、自分たちと重ねたのだ。

 殴ってもケロッとしている二人に対し、拳を痛めた兄弟は初めて自分たちを止めてくれたと思った。

 

 それ以来4人は付き合うことになった。兄弟が一年年上だが、放課後や休日はそろって過ごしていた。

 ある日、レストラン月世界の求人を見て、アルバイトに来たがそこのマネージャーからお笑い芸人を目指さないかと声をかけられた。まずは横川尚美よこかわ なおみが卒業した大学を卒業してからだという。学費はうちで稼げばいいと言ってきた。どうせ将来の希望もないため、面白半分で芸人を目指すことにした。


 先輩にはアビゲイルの安倍登志夫あべ としお後藤繁ごとう しげるが調理を担当しており、美鶴と啓介は調理免許を取るよう言われた。大学時代は地方に赴き、様々な郷土料理を食すことで勉強したのだ。


 バニラアイスの安倍朋子あべ ともこと後藤ゆうは並木兄弟に接待を教えた。二人とも美少女に見えるのでバニーをやるように言われたのだ。それが自分たちの着ている衣装である。


「なんか、いいですね」


 歩は4人を見て羨ましいと思った。自分も性同一性障害で女装というより、本当の姿である。

 思い人の兄、やすしは幼馴染の秋本美咲あきもと みさきに夢中だ。正確には彼女のために仕事をもらうため奔走しているのだが。友人の烏丸りあのせいでもある。


「歩ちゃん。私たちだって最初から確信を得ていたわけじゃない。断られてもおかしくないのよ。でも自分の気持ちを偽り続ければ、いつかは壊れてしまう。裏切られても思い通りにならなくても、自分で洗濯したことが大事だと思うな」


 美鶴が優しい声色で言った。歩はその通りだと思った。


「みっちゃんとけいちゃんは僕たち兄弟船に乗った家族だよ。危害を加える奴は絶対に乗せないね」


 栄人は胸を叩いた。美鶴たちが自分をここに引っ張ったのは、彼らと会わせるためだと、歩は心の中で感謝した。

 ポーパルバニーは男の娘な漫才師です。鎧乙女の恋人にしたのは後付けです。

 ですが意外と似合っていると思いますね。

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