序章 君といつまでも
岩佐歩。金髪で日焼けした肌がまぶしいギャルである。キラキラした衣装に派手なネイルと今時のギャルに見えるが、男であった。所謂男の娘である。
そんな彼はバ美肉Vチューバー、玄姫やすむとして活躍していた。もっともバ美肉どころか現実の本人とそっくりであり、空想か現実の境界線が曖昧であった。
玄姫やすむはムジナックス所属のタレントであり、毎週決められた時間に生配信を行っていた。
言動とゲーム実況が受けてたちまち人気者となる。
彼が男でも構わないファンが多く、SNSではにぎわっていた。
『君といつまでも』
それがやすむのフレーズであった。だがファンというよりも一人の男に対しての言葉だった。
そんな彼の実生活は不明である。プライベートではストーブの解体修理の免許や、布団の打ち直しなど様々なスキルを身に着けており、ムジナックスから所属を秋本美咲が代表を務めるセイレーンに移籍した後、その手の実況中継をしており、意外な側面が受けていた。
やすむと仲良しのタレントはおらず、ムジナックス時代ではまったく同僚と付き合うことはなかった。逆にセイレーンだと所属タレントや事務所の職員と写真をSNSにアップするようになっている。
岩佐歩は二二歳。花も恥じらう女子大生だ。だが小学校時代の同級生はこう証言している。
「岩佐は地味な奴だったよ。自己主張もしないし、人との付き合いもまったくだった。小六の時にいじめに遭ったんだけど、お兄さんが怒鳴り込んできたね。それ以来人が変わったようになったよ。そう今の玄姫やすむみたいにね」
「あの子、性同一性障害なんだってね。男だけど女だと思っているみたい。自分の性癖を知られるのが嫌でずっと押し殺してきたんだってさ。可哀そうに」
記者がやすみにインタビューを試みても、彼は応じなかった。セイレーンはおろかムジナックス時代でも彼のインタビューは断り続けてきた。代わりにブログで自分の心境を綴っていた。マスコミを信用していなかったのだ。今は雑誌よりもSNSの方が情報が速いし、マスコミが都合よくインタビューを改ざんする恐れがある。
だがやすむには心に秘めた男性がいた。それは義兄の岩佐康だ。
これはやすむの小さな恋のものがたりである。
新連載です。玄姫やすむが主役です。最初は考えてなかったけど、面白そうだと思い、急遽連載を考えました。
君といつまでもは加山雄三氏の曲です。昭和の歌謡曲を題名にしました。




