秘密のこどもたち
当然、育成計画表の難易度バク上がりよねぇぇぇッッ!! どうしましょう?
「朝の私はなんて無責任なこと言って…… リリム〜〜ッ!!!!」
自宅の官舎マンションの23時、魔宝石騎士に登場する兎の妖精リリムの巨大ぬいぐるみをハグして落胆する。
2本のモコモコ垂れ耳の間からテーブルにあるノートPCを見つめた。
点滅するカーソルが早う打て!と私を責めてる気がする。
「こ、こっちはルムチルドレンの新人とか初めてなんだぞ?!
……ダメだ、一旦お風呂入ってこよ」
立ち上がり、リビング&ダイニングキッチンを抜け洗面所の先の戸を開けた____その人間を口にするのが唯一の幸福となった病みつきのジェミニは理性や常識をどこへ飛ばしたか、体力と知力と夜行性の本能を犯罪に注いでくる。これまで共存してきた隣人とはとても思えない。
知ってる側からすれば、超イカれた怪物に思えるよ。実際。
……その怪物への有力な対抗者がルムチルドレン。熱いかな?
ルムチルドレンとは『国家主体のmālumプロジェクトにより産まれた特別な遺伝子の特性を持った子供』のことだ。
昔は日本の特許技術だったが、解禁された現在じゃ世界中で造られてる……ちなみにmālumはラテン語で林檎を指し、聖書の禁断の果実も意味する。
まぁ確かにOUTだもんね、私たちの存在。
だから、知られた界隈では『禁断のこどもたち』と呼ばれるし世間的には【絶対の秘密】なのだ。
「入るか」
お湯跳ねる浴槽から顔を上げた際、横顔の左耳裏に印字されたバーコードが鏡へ映った。
ちょっと顔をしかめ両耳から特注の耳栓を外す。
特性も日常生活において困ることしかない……「耳が良い」とか動物の兎じゃないんだからさ。あぁどうしよう。
「どうしてチルドレン同士のバディ案が通るわけ?
しかも、目の特性って何……透視??」
こう愚痴って湯船へ潜っても暦は進み____新年度4月3日。
与えられた公用車を背にして、その子と私は対面を果たした。資料で見たままの珊瑚色なショートヘアの女の子。眼鏡越しのヘーゼルアイがこちらを向く。
ドキッとした……でも、それは相手だってきっと一緒。
私服に風が通り抜けてって現実だと教えてくれる。私より先に握手の手。
「初めまして。毘乃木さんと巡特602号車に搭乗する廣目 瑛梨です。
すっごく色々不慣れかもしれないんですけど、よろしくお願いします!!」
おお。日本語できるんだ。学科で取ってたのかな……?
「毘乃木 沙与です。こちらこそ宜しくお願いします!
私、廣目さんの指導役も兼ねてますけどぉ……同じ階級・同い年なので気楽にどんどん聞いてください!……それじゃ、行きましょうか」
_24時間の長い長い夜が、今日もついに始まる____。