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【元素娘】~元素118種、擬人化してみた。聖メンデレーエフ女学院の元素化学魔法教室~  作者: 我破破
【1. 水素ちゃん】明るく元気いっぱいで、誰とでもすぐに打ち解けるムードメーカー。好奇心旺盛で新しいことが大好き。ちょっぴりドジ
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しゅわーっと大捜索!常温では安定しない事件発生!?窒素ちゃんと水素ちゃんの周期表消失事件簿!

しゅわーっと大捜索!常温では安定しない事件発生!?窒素ちゃんと水素ちゃんの周期表消失事件簿!

 聖メンデーレフ魔法女学院の学長、メンデレーエフ先生は、学院の象徴ともいえる存在だ。

白く長い髭を蓄え、常に首から大切な周期表のペンダントを下げている。

その周期表は、元素娘たちを象徴する根源的な魔法陣であり、学院全体の安定を司る特別なものだった。



 そのメンデレーエフ学長が、今、学院内を駆け回っている。

普段はゆったりと歩く彼が、これほど慌てている姿を見るのは珍しい。



「大変じゃ!大変じゃ!私の大切な周期表のペンダントが無くなってしまったのじゃ!」


 彼の声は学院中に響き渡り、生徒たちの間に動揺が広がる。

周期表のペンダントがないなど、想像もつかない事態だった。



 水素ちゃんは、寮の部屋で相棒の酸素ちゃんと一緒に水遊びをしていた。

水に浮かべたおもちゃを「しゅわーっと」吹っ飛ばして遊んでいると、外の騒ぎが聞こえてきた。



「あれ?なんか、学長が騒いでるね!どうしたんだろ?わくわくするね!」


 好奇心旺盛な水素ちゃんは、すぐに窓辺に駆け寄った。

騒ぎの理由を聞いて、目を丸くする。



「周期表のペンダント?あれが無くなっちゃったの?大変だ!」


 彼女は、学長の困った様子を想像して、胸が締め付けられる思いがした。

誰かが困っているのを見ると、放っておけないのが彼女の性質だ。

それはまるで、あらゆる物質と結合して安定しようとする水素の性質に似ていた。



 酸素ちゃんは心配そうに言う。



「あれは学院にとってすごく大切なものだよ?早く見つけないと…!」


「うん!私、探しに行ってくる!」


 水素ちゃんは軽量化と高速移動の魔法を発動させると、文字通り「しゅわーっ」という音と水滴と共に部屋を飛び出した。

彼女の速さは、宇宙で最も軽く、秒速数キロメートルで運動する水素分子を思わせる。

あっという間に学院の廊下を駆け抜けていく。



 一方、窒素ちゃんは、静かな図書室で読書に耽っていた。

窓の外が騒がしくなってきたことに気づき、眉をひそめる。

彼女は騒がしい場所や状況が苦手だ。

「…常温では安定しているというのに、なぜこうもざわつくのかしら」と内心で呟く。



 学長の声を聞いて、彼女は静かに本を閉じた。

周期表のペンダント。

それは単なる装飾品ではなく、元素の秩序と安定を示すものだ。

それが無くなるということは、学院の根幹が揺らぐことになりかねない。

普段はあまり感情を表に出さない彼女だが、学院の安定が脅かされる事態には、知的な危機感と、自身もその秩序の一部であるという責任感が湧き上がってきた。



「…別に、私が探さなくても、誰かが見つけるでしょう」


 そう口には出したが、彼女は立ち上がった。

やはり、気になってしまったのだ。

彼女の「世話焼き」な一面が、こんな形で現れるとは、自分自身でも少し意外だった。

誰かに必要とされたいという深層心理が、この危機に反応したのかもしれない。



 廊下に出ると、猛スピードで駆け回る水素ちゃんに遭遇した。



「あ!窒素ちゃん!周期表のペンダント、無くなっちゃったんだって!わくわくするね!一緒に探そうよ!」


 水素ちゃんは、大変な状況にも関わらず「わくわく」という言葉を使ってしまう。

それは彼女にとって、未知の状況や新しい出来事に対する純粋な好奇心と探求心の現れだった。



 窒素ちゃんは、その能天気な言葉に一瞬苛立ちを覚えたが、すぐに表情を消した。



「…別に、興味ないわ。でも、学長が困っているのなら…仕方ないわね。あなた一人で探しても、ただ騒がしくなるだけでしょうから」


 普段の彼女なら絶対に出さないような、少しだけ協力的な言葉だった。

渋々といった態度だが、一緒に探すことを承諾したのだ。

水素ちゃんは「しゅわーっと!やったー!」と嬉しそうに飛び跳ねた。



 捜索が始まった。

水素ちゃんは高速移動の魔法で学院内を縦横無尽に駆け回り、匂いを頼りに探し始めた。

彼女の嗅覚は非常に鋭敏で、微かな手がかりも見逃さない。



「どこかなー?周期表さん、どこに行ったのー?」


 彼女が駆け回るたびに、空気は撹拌され、床や棚の埃が舞い上がる。

その様子は、単独では不安定で、常に何かと結合しようとする水素の運動性を思わせた。



 一方、窒素ちゃんは、空気中の窒素ガスを操り、微かな匂いの分子をピンポイントで集めようとしていた。

彼女の空気操作魔法は、大気の大部分を占める窒素を自在に操るため、学院中の匂いを収集・分析することが可能だ。



「…微かな金属と、古書の匂い…そして、何かの食べ物の匂いが混じっているわね…」


 彼女は集中して空気の流れを操作し、匂いの情報を解析しようとする。

しかし、水素ちゃんがドタバタと駆け回るたびに、埃や他の匂いが混ざり合い、窒素ちゃんの繊細な分析を邪魔してしまう。



「しゅわーっと邪魔しちゃった?ごめんね!でも、こっちにも周期表さんの匂いがする気がするんだ!」


 水素ちゃんが申し訳なさそうに言うと、窒素ちゃんは眉間に皺を寄せた。



「…いい加減にしてちょうだい。あなたのせいで、せっかく集めた情報が台無しだわ」


 苛立ちを隠そうとしない声だった。

彼女にとって、計画通りに進まない状況はストレスだった。

特に、自分のペースを乱されることが苦手な彼女は、水素ちゃんの予測不能な行動に振り回されるのが我慢ならない。



「うーん、でもでも、こっちだよ!こっちに行こう!」


 水素ちゃんは、直感を頼りにさらに奥へ進んでいく。

窒素ちゃんは呆れながらも、彼女の気配を追った。

水素ちゃんの直感には、時々驚かされることがあるのを知っていたからだ。



 二人は学院中を探し回った。

教室、図書室、実験室、寮、中庭…。

どこにも周期表のペンダントは見当たらない。

学長はますます意気消沈していく。



 夕方になり、二人は食堂に立ち寄った。

何か手がかりはないかと、辺りを見回していると…


「あ!学長!」


 水素ちゃんが、食堂の隅のテーブルで肩を落としているメンデレーエフ学長を見つけた。

彼のテーブルの傍らには、食べ終わったらしい定食のお盆がそのままになっている。



 窒素ちゃんは、学長のそばに近づき、冷たい声で尋ねた。



「学長。周期表のペンダントは、その後何か…」


 そこまで言いかけて、窒素ちゃんは言葉を失った。

そして、アイスブルーの瞳を大きく見開いた。



 学長のお盆の上に、湯呑茶碗の隣に、探していた周期表のペンダントが、当たり前のように置かれていたのだ。



「…え?あ!あった!」


 水素ちゃんは、それを見つけると同時に「しゅわーっと!」と叫び、学長に飛びつかんばかりに喜んだ。



 学長は、お盆の上のペンダントを見て、キツネにつままれたような顔をした後、ハッと気づいたように額に手を当てた。



「おお!これじゃ!いつの間にここに…!」


 彼は、どうやら昼食を食べている最中に、無意識に周期表を外して、お盆の上に置いていたらしい。

そして、そのまま忘れて探し回っていたのだ。



「…呆れたわ」


 窒素ちゃんは、心底呆れたように呟いた。

あんなに学院中を探し回ったのに、まさか学長自身のすぐそば、しかも食堂の定食のお盆の上に無造作に置かれていたとは。

彼女の知的で論理的な思考をもってしても、この事態は予測できなかった。



 水素ちゃんは、そんな窒素ちゃんの横で、ぴょんぴょん跳ねている。



「しゅわーっと、見つかってよかったね!学長!」


 学長は照れくさそうにペンダントを首に戻しながら言った。



「いやはや…お騒がせして申し訳なかったじゃ。そして、水素さんと窒素さん、探してくれてありがとうじゃった」


 窒素ちゃんは「…別に、私に構わないでくれて結構よ」と、いつものように素っ気なく返したが、その表情には微かな安堵の色が浮かんでいた。

そして、水素ちゃんの純粋な喜びを見ていると、彼女自身の心にも、ほんの少しだけ温かいものが流れ込んできたように感じた。



「…まあ…一件落着ね」


 彼女は小さく微笑んだ。

それは、彼女のクールな仮面の下に隠された、世話焼きで優しい一面が垣間見えた瞬間だった。



 こうして、宙に消えたかと思われた周期表のペンダントは、最も意外な場所から発見された。

ドタバタの捜索劇を通して、普段は反発しあう水素ちゃんと窒素ちゃんの間に、共通の目的のために協力するという、わずかな繋がりが生まれたのだった。

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