Do episode-001・・・刻まれた一言
合コンの帰り道、明里の心にはひとつの言葉が全神経を支配していた。
"もう少し痩せたら可愛いかもね"今はかわいくないの?なになに・・・・たったそれだけの、何気ない一言。何気ない会話の一節、通過したらそれで終了できるはずなのに・・・
笑いながら、冗談半分に発声した言葉かもしれないのに・・・でも明里には胸の奥に浸透して神経を循環しはじめていた。
ショーウィンドウが映す自分の姿をじーっと見つめた。グレーのフレアスカーとの裾には白いレース、白いブラウスリボンのブローチ。少しぽっちゃりとしているシルエットが急に足を止めたのだった。
アレルギーの薬を服用し始めてから、体質・体型が変わったのかなと感じてはいた矢先の出来事だ。
もやもやする気持ちに囲まれ、明里は小さなため息をついた。その日を境にふとした瞬間に、思い出すようになった。日に日に、"痩せたい"という気持ちが募っていく。
食事・着替え・鏡を見るあの、何気ない言葉は容赦なく、耳の奥でやまびこのように繰り返しする。
そんな時、バイト先で小さな出来事が起きた。
「好恵、ちょっとやせたんじゃないのぉ~」
休憩室で拓也が、好恵の変化にいち早く気付き、声を掛けた。
「うん、わかるぅ、そうなの、そうなの、最近少しね、体重は減ったのよ、でも自分では何も実感なかったの・・・」
とそれはそれは、嬉しそうに声まで弾んでいるように、明里の耳に運ばれてきた会話だった。明里が訪ねようとしたら、同僚の和美が先に
「何かしてるの? 運動?」
興味津々で聞き出すと、好恵は自慢げに笑った。
「違う、はずれー、実はね、ネット診察のみなんだけど、それで処方したものを使用しているだけよなのよ
内緒にして、ひとりで、ワクワクして、ドキドキしてたんだけど、こんなに早くバレちゃうなんて、びっくりね」
"薬"?なんだ・・・明里の心はかすかに揺れた。
(簡単に痩せられる、その方法があったのね・・・医療も進化してるわ~、知らないうちに、ダイエットは永遠のテーマ)
明里は、黙って缶コーヒーのプルタブを開けた小さな音は休憩室を響かせた。