1.転生最高
友人と飲んでる時に出た話をなんとなくライトノベル風に文書に起こしております。
自分の頭の中を整理しながら話を組み立てているのでちょこちょこ話が変わるかもしれません。すいません。
転生系の話もあまりよく知らないので被っていたりするかもしれません。すいません。
著作権侵害してるようなところあればご指摘ください。なおします。すいません。
お目汚し頂ければ幸いです。
また、眠れない。
朝暗いうちに出て、一日中重い腰道具をぶら下げながら働いて。クタクタになって帰ってくる。
半場治の毎日は典型的な労働者の毎日と言える。狭いユニットバスに浸かる気も起きず、シャワーを浴びて、発泡酒を飲みながら動画を見て寝落ちする。そんな毎日だ。
たまに中途半端に目が覚めてしまう時がある。
酒が抜けてないから頭はぼーっとしている。ぼーっとしてるのに嫌なことばかり思い出す。午前2時。飲み直すと明日の仕事に差し支える。いや、もう今日か。
オサムはいつもついてない。自覚がある。高校受験の日は発熱し、第一志望に落ちた。滑り止めと思っていた高校の受験日は腹痛でトイレから出れず、棄権扱いになった。ギリギリのところで担任が工業高校をみつけてくれてそこに滑り込んだ。大学受験でも同じ様な結果となったが、今度は助けてくれる先生もなく、高校の就職案内で見つけた会社に就職した。
社長はいい人だ。いつもオサムに声をかけてくれる。
だが、人間関係には問題がある。全部で7人の小さな会社だか、先輩たちはいつも苛ついているし、事務の女の人は見た目が良いが、電話も取らない。
それでもオサム自身は事務所にいることは少なく、工事現場に入れば自分の受け持ちの作業をこなすだけなので、多少のギスギスした時間をやり過ごせば、建築現場特有のの喧騒の中に埋没できる。身体はキツイがオサムにとっては満更でもなかった。
仕事に行き、酒を飲み、くだらない動画を見て寝る。もう何年もこんな暮らしをしている。当然彼女なんかいない。
もう寝よう。酒が身体に残ってる間に寝なければ…。寝なければ…。
憎々しいほど明るい朝を現場で迎えた。朝礼が終わり準備体操が終わるとビルの谷間から日がさした。頭はスッキリしないが「朝だ」と身体が認識した。
「今日も頑張ろうな」社長が声をかけてきた。今日は社長と二人きりかと思うと少し気が楽だった。白髪で父親ほど歳が離れているが未だ現場で作業をしている。経営者でありながら現場作業員。面倒見のいい人で、色々気遣いもしてくれる。大変そうだなぁとは思うし、すごい、とも思うが憧れはしない。オサムはある程度の給料で人のいうことを聞いているのが良かった。気が楽だ。
「…ておけよ」
作業指示が出た。工事現場特有の騒音で言葉は聞き取れなかったが、状況から考えて、やることはわかる。床に置いてあった電線がドーナツ状に円くまとめられた物を両肩に一つずつ持った。酒が残ってるのか、少し身体が重い。
そもそも電気工事の道具は重い。ドライバ、スパナ、ペンチ、ニッパー…、それらのものを腰回りの道具袋に入れて持ち歩く。さらにヘルメットと補強の入った安全靴。慣れてはいるが、軽くはない。その上防寒着を着れば歩き回るだけでも一仕事だ。
「…○◇△☆×!!」
何か社長が叫んでる。鉄を叩く様な音がそれを遮る。あれ?持ってく場所間違えたか?
方向転換をしようとしたら青空が見えた。雲一つない青空。ああ、ほんとに憎ったらしい青空だ。酒のせいかとも思った浮遊感で、オサムは足を踏み外したことに気づいた。
ああ、俺はいつもついてない。
背中と頭に強い衝撃を受けた。一瞬呼吸が止まった。落ちた。と確信したが意識はあった。相変わらずの憎ったらしい空が視界いっぱいに広がっていた。
ああ、転生とかってしないのか。自殺なんて度胸もなく、なんとなく生きていた。浮遊感を感じたとき、ワンチャンあるかとも思って少し嬉しかった。そういえば、落ちる瞬間に見た社長の顔が笑っていたように見えたが、見間違いだったろうか。
しばらく動けなかった。いつのまにか呼吸は落ち着いたが身体を動かせなかった。そのうち誰か助けに来るだろうか。さすがに人が落ちたとなれば現場監督が飛んでくるか。昔は人が工事現場で落下すると、現場監督を落下場所を確認し、自分たちに嫌疑がかからないように偽装してから救急車を呼んだ。なんて都市伝説もあったが、どっちでもいい。どのみち身体は動かない。
防寒着のせいか寒くはない。風が吹いた。思ったより優しい風が頬を撫ぜる。カサカサカサと何かが擦れ合うような音たちに耳が包まれた。…暖かい。心地良い。やっぱり死ぬのかな。太陽の温もりと日差しを全身で受け、重さのない布団でくるまれているような心地良さがあった。思いもよらぬ気持ち良さに大きく深呼吸した。
草と地面の匂いがした。こんなに自然の匂いを感じたのはいつ以来だろう。と思ってさすがに気づいた。ここは工事現場だろう?鉄や土の匂いはあっても草の匂いはない。
勢いよく上半身をあげた。見渡す限りの緑。奥には少し盛り上がった丘が見える。もしかして、転生した!?感情の盛り上がりが身体に追いつく前に頭上から何かが空を切り裂く音がし、そちらに視線を振る。
それが自分が持っていた配線の巻物だと認識した時、オサムの意識は暗転した。
目を開くと見慣れぬ天井だった。慣れぬどころじやない。木製の天井。こんなの漫画でしか見たことがない。
さらに違和感があるがわからない。とりあえず起きてみれば開け放たれた窓からは日差しと柔らかい風が入ってくる。
記憶の糸を辿る。電線が落ちてくるのは見えたが咄嗟に避けたのだろうか。頭は痛くないが腹が痛い。と思って自分の手荷物のことを思い出す。ヘルメット、腰道具! 辺りを見渡せば広くはない部屋の隅に腰道具とヘルメットが置かれていた。ベットから立ち上がれば服も見たことのないデザインの服を着ていた。誰かが運んでくれた。助けてくれたことは間違いないだろう。まとめられた手荷物からヘルメットを拾い上げれば、後部が割れて無くなっていた。
コンコン、とノックがあった。驚いたが、それはそうだと気がついた。助けてくれた人だろう。オサムはドアを開けた。
「て…旅の方、お加減いかがですか?」
同年とも年上とも取れる顔立ち。素朴な服の上からもわかるスタイルの良さ。青い目、青い髪。今まで動画の中でしか見たことのないような美少女にオサムは思わず息を呑んで固まった。…青い目?青い髪? もしかして、と窓に駆け寄れば、その向こうは多少の樹々があるだけの草原が広がっていた。
「転生だぁ!!」
叫んだ。浮かれて小躍りしたところで来訪者と目が合った。転生してもこういう気まずさは変わらないんだなぁと顔を赤らめた。
「あ、あのー、旅の方、体調はいかがですか?ゆっくりお休みになれましたか?」
「あー、もうすっかり…」
よくなりました。と言いかけて戸惑う。自分の服じゃない。ひょっとして…。彼女が着替えさせてくれたのであればやはり恥ずかしい。
「すいません、昨日のことあまり覚えてなくて」
彼女は優しく微笑み「朝ごはんの支度ができてますのでお食事をしながらお話しします」と言って先導した。
一階の食堂に行くまでに扉が4つほどあった。雰囲気的には宿屋なのかとも思ったが、広さは一軒屋とも思える広さだった。木製の階段を降りると広間となっており、数脚のテーブルセットがあった。やはり宿屋かなと思えば2階の部屋の数に比べてテーブルの数が多い気がした。テーブルの一つに朝食が用意されていた。タイミングよくお腹がグゥー、となれば、彼女はクスクスと笑った。恥ずかしさもあったが、彼女の笑った顔に見惚れて顔が赤くなった。
朝食は数個のパンと大きめな目玉焼き。ハンバーグとサラダ、と健康的なメニューだった。ケチャップやドレッシングはなかったが、味付けはしっかりしてあったので気にならなかった。腹が減ってるせいもあるだろうか。
彼女の名前はエミリア。苗字にあたる部分はないそうだ。お父さんと二人でこの店を切り盛りしているという。普段は飲み屋なのだが、酔い潰れた客や旅人に対して宿を貸すこともあるのだという。
オサムを運んできたのも、着替えさせたのもそのお父さんだということで少し安心した。お父さんは町まで買い出しに行っており、帰りは夕方になりそうだとのことだった。
「夜はけっこうお客さんは来るんですよね。だから準備とかも大変で。ハンバ様はお酒とか飲まれるんですか?」
こんな美少女に「様」づけで呼ばれる日がくるなんて…。まるで天にも登る気持ちだったが、よくよく考えれば元の世界でも銀行などでは様付けだったか。と冷静さをもちなおした。
「まあ、それなりには…。最近は発泡酒ばっかりですけど」
「ハッポウ…シュ?」
エミリアの言葉が止まった。あれ?ひょっとしてこの世界にはビールとかないのか? 酒を飲んで寝るのが習慣なのに、まいったなぁ。
「すいません。ハッポウシュというのはないんですが、ビールならご用意できますよ」
あるんかい!と心の中でツッコミを入れた。
「ウチで作ってるビールはアルコール高めでけっこう人気あるんですよ」
「えっ!ここで作ってるの!?」
思わずタメ語になる。が彼女は気にせず話を進める。
「はい。元々は市場まで買いに行っていたみたいなのですが、おじいちゃんの代からここで作るようになったみたいです。離れにビールを作っているところがあります」
天国。俺は天国に転生した。美人の女の子に、作り立てのビールが飲める環境。もうこれ以上は必要ない。名も知らぬ神様に感謝した時、同時に脳裏にある単語が浮かんだ。
「金!」
ネガティブな思考からの呼びかけは「いくらかかるんだろう?」というものだった。転生した世界だから金はいらないんだろか?でもゲームの中ですら金のやり取りはあるし! 貨幣価値は?日本の紙幣なんか使えないだろ? 様々な考えが頭を駆け巡り、オサムは部屋に戻った。
財布は腰道具と共にあった。不思議と着ていた服はないが、手持ちのものはスマホや腕時計など一通り揃っていた。財布を開く。数枚の紙幣と小銭。まさか電子決済なんか使えないよな。
「どうしました?」食堂を飛び出したオサムを追ってエミリアが到着した。オサムは泣けなしの紙幣を取り出し、「これ…」と恐る恐る差し出した。
「大丈夫ですよ。この地域では旅の方からはお金を取らない決まりになっているんです。安心してゆっくりしていってください」
転生最高!圧倒的高揚感は違和感をまるっと飲み込んだ。