村人イナヤ
ロマリア王国にある小さな村、レトル村。
ここが俺の新しい故郷である。
オギャーと産声をあげ両親の愛情を貰いスクスクと成長し現在10歳。
「イナヤ、そろそろ休憩するか」
「わかったよ、父さん」
俺は持っている鍬を置いて父親と一緒に休憩を取った。
両親は生まれも育ちもレトル村の平凡な農家。
村内でも有名なおしどり夫婦である。
まぁ息子の前でもイチャイチャするのはどうかと思うが。
(この世界に生まれて10年か、赤ちゃんの頃から前世の記憶がある、というのは結構キツいもんがあるよな……)
お弁当のサンドイッチを食べながら10年を振り返ってみる。
赤ちゃんの頃は当然だが意思疎通は泣いたり笑ったりするしか無いので苦労した。
だって30年生きてきた記憶があっておしめやらミルクやら色々やられるんだよ、恥ずかしい事この上ない。
おまけに母さん美人でスタイルも良い、風呂に入る時は当然裸を見る訳で……。
うん、煩悩との戦いでした。
体を思い通りに動かせるようになってからはなるべく自分の事は自分でやるようになった。
『この子は自立心が早いね』て言っているがそりゃそうだ、見た目は子供、中身は人生に疲弊したおっさんなんだから。
「そういえば、もうすぐ教会で儀式があるな」
「儀式って?」
「説明しなかったか? 神様から『ギフト』が贈られるんだ。 それによってこれからの人生の選択肢が増えるんだ」
「へぇ~、父さんのギフトは何だったの?」
「俺は『戦士』のギフトだ、だから人より体力があるんだ」
「えっ、それだったら戦士になれるんじゃないの?」
「そりゃギフトだけだったらな、でも世の中ギフトだけじゃ上手くいかないんだ。 特に俺みたいな農家の生まれには過ぎたものさ」
なるほど、やっぱり地位とか影響するんだな。
「お前も期待するようなギフトが例え貰えなくてもクヨクヨするなよ」
ポンポンと頭を叩かれる。
父さん、それ何気に失礼じゃない? 実際そうかもしれないけどさ。