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空いた蓋 ─マリア


 マリアが見つけた少し古びた銭湯に入り、店主らしきおばあちゃんに話しかけている。

 俺はその間、適当に置いてある雑誌類を読む事にした。


 ……なんか混浴とか不穏なワードが聞こえた気がするけど、気にせず。



「シェイド、もうお風呂入れるって〜! 混浴が無いかって聞いたんだけど、無いって〜……しょんぼり」



「逆にこのご時世であったら困るわ。マリアが良くてもルナが……」



「私は良いよ。シェイドに全部曝け出せるから」



「同意するのやめてくれよ……俺の立場という物がだなぁ……」



 二人は鼻歌混じりで脱衣所に入って行く。

 俺も立ち上がり、脱衣所まで歩いて行く。


 服を脱いで、入る準備はバッチリと言った所だ。

 浴場を少し覗いてみると、誰もいない。

 実質貸切状態だろうか、俺は年甲斐もなくテンションが上がってしまった。


 桶を手に持ち、湯船のお湯を体に流す。

 体全体が温まった所で、湯船に浸かった。


 静かな浴場で、頭が冴えてくる。

 少し色々振り返ってみることにした。


 突然だが正直、俺はあの2人の才能に嫉妬している。

 でも子供の頃に早く気付いたんだ、嫉妬してるだけじゃ何も変わらないって。

 あの二人には手足をばたつかせてどう足掻いても勝てる事は無いだろうけど……でも、自分にだけ出来る事だってあるはずだ。

 

 あの二人がどうしてここまで俺に懐いているのかはわからない、昔の記憶がどうしても思い出せない。


 突然、少し頭が痛む。


 記憶の奥底から、何かが浮かび上がってくる様な感覚がする。


──────



『シェイド、抵抗しないで……これはね? ボク達二人がずーっと一緒にいる為に必要な事なの。シェイドは頑張らなくても良いんだよ、ボクにずぅっと守られてて欲しいな?』



『シェイド、大好き。でもね、私以外を見るシェイドは要らないの、存在してはいけないの。私達はずっと見つめ合って生きていくの。シェイドは私を鳥籠から出してくれた、白馬の王子様だから』


──────


 誰かに蓋をされていたはずの記憶が、浮かび上がってくる。

 ルナと、マリアか……?こんな記憶、無い。

 無いはずなんだ、絶対に。


 あの二人は俺の事を無性に気に入っているけど、こんな事は無かったはずなんだ。

 蓋をしてくれ、もう一度蓋を。


 この記憶を思い出したら、二人とは、もう。

 ダメだ、嫌でも浮かび上がってくる。


 思い出したくない、過去の記憶。

 蓋をされていたはずの、二人の記憶。


 頭痛がする、最近二人のせいで頭痛が引き起こされる事は多かったがここまでの頭痛は久しぶりだ。

 思い出すべき、なのだろうか。


 考えても仕方が無い。

 俺は浮かび上がる記憶に、手を伸ばしてみる事にした。


──────


『ねぇ、マリア……俺、怖いよ……夜に山に入っちゃダメだって、お母さん言ってたよ?』



『シェイドは怖がりだなぁ、まぁ、そこが可愛いんだけど。……ここなら、ルナにもバレないかな』



 マリアは立ち止まると、こちらに向かってゆっくり歩き出す。

 深い森の中、きっとマリアはスキルか何かで暗視が出来ているのだろうが、何も持っていない自分には暗闇しかなかった。

 

『ふふ、可哀想なシェイド……ボクがいないと、もう帰れないね? ボクが守ってあげないと、怖い魔物に襲われるかもね……』


 マリアは俺を抱きしめると優しく背中をさする。

 何も見えない俺はマリアに縋り付くしかなかった。


『シェイドは、ボクに守られなきゃいけないの。私と組手して、理解してるでしょ? 絶対ボクには勝てないって。良い勝負だけどね、いつも』



『で、でも……お父さんは、絶対次は勝てるって言ってくれてるし……俺も次は勝てるって思ってるよ!』



『でもね、シェイド。いくら頑張っても、やっぱり才能には勝てないんだよ。だから、頑張らなくても大丈夫……ずっとボクが手を引いてあげるから、この暗闇の中みたいに、盲目的にボクに着いてこれば君は安泰なんだよ、シェイド』



 暗闇の中に、マリアの顔だけが見える。

 その瞳の中は、森の暗闇よりもドス黒い様に見えた。


『シェイド、抵抗しないで……これはね? ボク達二人がずーっと一緒にいる為に必要な事なの。シェイドは頑張らなくても良いんだよ、ボクにずぅっと守られてて欲しいな?』


 マリアは俺を抱きしめる力を強くすると、俺の唇に何度も口付けを交わした。

 子供ながらに、その行為に恐怖を感じて。

 俺はマリアを振り払い、何も見えない暗闇に包まれる。



『さぁ、シェイド! 鬼ごっこでもする? シェイドが捕まったら、一生ボクに手を引かれて過ごしてね! 逃げ切ったら……今まで通り、何もなかったみたいに過ごしてあげる! ふふ、アハハ!』



 俺は暗闇の中から聞こえるその声を聞いて、必死に元来た道を大して早くもない足で全力で走った。

 必死で走っているうちに、村の中に戻っていた。

 生物の本能なのかはわからないけど、村の位置が何と無く把握出来ていた。


 その晩、お母さんやお父さんにこっぴどく叱られた。

 次の日のマリアは、いつも通り元気な姿で昨日の事が無かった様だった。

 夢だったのかと思う程の姿で、俺はどうしようもない不安感に襲われていた。


 でも、一つだけ言える事がある。

 その日からマリアは、俺を見る目が少し変だった。


──────

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