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姉、弟、恋敵


 俺達はソート姉に案内され、路地裏の隠れた喫茶店に来店する事になった。

 店内は落ち着いた雰囲気で、家族の長い別れの間に積もっていた話をするには最適の場所だった。



「ここは私のお気に入りの場所なんだ、自由に飲み食いして欲しい。それにしてもまさか、シェイドもサザンカに来ていたなんてね! それも沢山のお友達を引き連れて……お姉ちゃん、誇らしいよ」



「ソート姉も知ってるだろ? 俺の昔からの友達のマリアとルナ。それと……」



「妾はローゼ、シェイドの母じゃ」



 ローゼがそう言うと、あからさまにソート姉は困惑と微細な怒りを浮かべた。

 目が点になる、と言う言葉がこれ程当てはまる瞬間はないだろう。



 ソート姉は点になった目を瞑り、手元のコーヒーに口を付ける。



「私達の母は若くして死んだんだ。そう言う冗談はよして欲しいな──シェイド、随分不謹慎なお友達を作った物だね?」



 ……ヤバい。

 めちゃくちゃに気まずいし、空気が悪くなった。


 ローゼは俺の母親が若くして亡くなったのを知らないし、仕方の無い事だ。

 きっと母性と心配から来る、俺への最大限の気遣いではあったんだろう。



 気まずさに耐えきれず、ちらっと横を見るとマリアとルナはあからさまに気まずそうに髪の毛を弄っている。

 しかし、ローゼはこの雰囲気の中でも変わらず威風堂々とした立ち振る舞いをしている。



 ──それにしても、昔から思っていたがソート姉はいつもはおちゃらけているが真面目になった瞬間に空気が張り詰め、凍る様な雰囲気がある。



「ソート姉、ローゼは俺達の母親が早い内に亡くなったのを知らないし、ローゼなりの気遣いとか、冗談みたいなものなんだけど。許してあげてくれ……」



「妾も申し訳が立たぬ……シェイドの親族を不快にするつもりは無かったのじゃ。許してくれとは言わん」



 俺とローゼがそう言うとソート姉は瞑っていた目を開き、こちらに優しく微笑みかけた。

 許して貰えたんだろうか──許して貰ったと思う事にしよう。



「えっと……お姉ちゃんに自己紹介するね! この二人はルナ、ローゼ、ボクはマリア! ボクとルナはシェイドのお嫁さ」



「なんて言ったんだい?今」



「お嫁さ」



 マリアが自信満々にそう言おうとする度に、ソート姉の笑顔が消える。

 ……怖すぎる、この人。



「冗談はその位にして!! うん!! こ、こほん……腹の探り合いはこの辺にして、気分が良い話をしないか? 最近の事情とか、やってる事とか!」



 俺は速攻で話題を切り替えると、早速先陣を切る。

 俺は最近あった出来事を話すことにした。


 勿論、魔王と名乗ったルナとマリアの仲間ににギルド本部が壊されたのを目の前で目撃した──とかのネガティブな話題はなしで。



 温泉に行った事とか、旅を始めた事とか。

 ソート姉は俺が何かを話す度に、楽しそうに相槌を打ってくれる。

 やはり家族は話しやすい、そう実感した。



「シェイドがこんなに立派になるなんて、お姉ちゃんはもう涎と涙が止まらないよ……」



「涎は止めてくれよ……。そうだ、ソート姉。プラチナ級になったって本当なのか?」



 俺は一番気になっていた、本題とも言える話に入る事にした。


 ──プラチナ級。

 伝説とも呼ばれる程の偉業を成し遂げた冒険者しか辿り着けない至高の境地。



 父さんに続いて、家内にプラチナ級が二人も居るなんて──プレッシャーと同時に、誇らしい気持ちで満ち溢れる。



 ソート姉は待ってました、と言わんばかりにギルドプレートを取り出した。

 そこには煌めく宝石の装飾と共に、プラチナ級という確かな証明があった。



「シェイドが頑張っているから、お姉ちゃんも頑張らないと……そう考えていたら、いつの間にか辿り着いていたんだ。これもひとえにシェイドのお陰、私はそう思っているよ」



 全てはソート姉の実力で俺は特に何もしていないが──褒めて貰っているのなら、素直に受け取るのが筋だろう。

 


 姉はこんなに立派になっているのに、ランスに固執して燻っていたオレに嫌気が刺す。

 マリア、ルナ、ローゼ。

 


 ──この三人におんぶにだっこなままで、本当に良いんだろうか。



 楽しい雰囲気だったのに、こんな事を急に考えてしまうのは俺の悪い癖だ──楽しいことを考えて、今は楽しい話をしよう。



「そうだ、ソートさん! ボクら、一緒に旅してるんだけど……良かったら、一緒に来ないかな? プラチナ級ならこの世界の知識とか人脈が豊富だろうし。それに、ボクらは恋敵だけど──きっと良好な関係が築けると思うんだ!」



「実の姉に恋敵言うな! まぁ、でも……ソート姉が一緒に来てくれたら、心強いよ」



「シェイドの親族が来てくれると、昔のシェイドの話が多く聞けそうじゃ。丁度良く、妾の欲を満たしてくれそうじゃのう……ふふ」


 ソート姉は俺達にそう言われ、目を閉じ顎に手を持って行き、少しの時間考える素振りを見せた。

 結論が出たのか、目を開きこちらに回答を出す。



「良いよ、私も同行しよう。最近は歯応えのない依頼ばかりでつまらなくてね──箸休めに、旅でもしたいと思ってたんだ。それに、愛する弟と共に旅に出るなんて、子供の頃に考えていた最高の事じゃないか!」



 ソート姉は俺に向かって満面の笑みを浮べる。

 マリアも『私が言いだしました』のドヤ顔を披露していた。



「妾も、お主が来てくれた方が名誉の挽回のチャンスが生まれるからのう。シェイドを愛する者同士なのじゃ、仲良くしようぞ?」



「はは……昔から本当に、シェイドは愛される子だね。もう一度言うけれど、誇らしい気分だよ──早速、サザンカを案内しようじゃないか。ここが初めての到着地点なんだろう? 今ではここは私のホームベース、拠点の様な場所だからね」



 ソート姉は手元のコーヒーを飲み干すと、立ち上がり上からこちらを見つめ『着いて来い』と言わんばかりに歩き出した。



 マリアは急いでメロンソーダを飲み干すと、立ち上がる。

 俺とローゼも立ち上がり、ソート姉に着いていく。



「待って」



 突然、この会話で常に沈黙(ただずっと飲み食いしてただけ)を保っていたルナが口を開いた。

 俺達全員、ルナの方に視線が行く。



「……まだ、私が頼んだ魚介スープが来てない。シメとして頼んだのに食べれないなんて、勿体ない」



 ガクッ。

 俺達は全員、横転しかけていた。

 もう一度席に座り直すと、黙ってルナの魚介スープを待つ事になった。



「ふふ……随分、愉快な友達だね?シェイド」



「あぁ、俺もそう思うよ……」

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