転生したらチート能力「不死身」をもらえたオレですが、ヤンデレ美少女ネクロマンサーがめちゃくちゃ殺しにくるので困ってます。
「死んで♡」
美しい少女がつぶやくと、暗黒極大魔法『 ベイル オブ ダークネス』が空に満ちた。
「なっ……!?」
その中心には男がいた。正確には、その男が【落下地点】の中心だ。
男が地平を見渡す。1kmほど先に陽光が指している。男はそれが【攻撃半径】だと直感した。そして。
ゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
耳をつんざく轟音。押しつぶされた大気が爆風と化しているのだ。その圧力だけで大地に張り付けられ、男は仰向けのままぺしゃんこになりかかっていた。
「ぐおおおおおお!!!」
苦痛で叫びたくて叫んでいるのか、肺が押しつぶされて呼気が喉を鳴らしているのか男には判断できない。いや、判断する時間はそもそも無かった。
ドゴオオオオオオオオオオ!!!!!!
暗黒極大魔法は一瞬で地表に到達し、その質量を受け止めきるまで大地を蹂躙する。天まで届く規格外に巨大な闇の柱は地形を1秒ごとに変えてゆき、全ての動物は放射状に散らばって逃げまどう。そして国中の人々がその天変地異を目に耳にして恐怖におののきながら神に祈った。
ズウウウゥゥゥゥン……………………
残響と共に『ベイル オブ ダークネス』は世界から消失した。それは少女のつぶやきから、わずか10秒足らずのことであった。
〜◆〜
「さて……。」
あれだけの事象を引き起こした張本人は、馬上で満足そうな顔をしながら探索を始めていた。膝まであろうかという長さの銀髪に黒のヘッドドレス、これもまた黒を基調としたドレスを着ている、灰色の瞳の美しい少女。そして……馬の身体は骨だけで構成されている。
「地形が変わりすぎて現在地がわかりませんわ〜!」
自分で地形を変えておきながら少女は不満を漏らし少し怒ったような顔になる。だが、何かを思い出したのかポンッと両手を打ち鳴らす。
「ワンちゃんを連れて来ていたのを忘れてましたわね!ワンちゃ〜ん、おいでくださいまし〜!」
少女が呼びかけると犬が駆け寄ってきた。一見して犬種はわからない……。なぜなら身体が骨だからだ。
「ワンちゃん、ヒロ様の香りを覚えてらして?」
骨犬がワン!と鳴く。どうやって声を出しているのだろうか。
「最高に賢いワンちゃん!では案内をお願いしますわ〜!」
骨犬は再びワン!と鳴き、西へ向けて走り出した。それを骨馬で追う少女。
「ヒロ様〜!今、アストリアが参りますわよ〜♡ぜひ無事に死んでてくださいまし〜♡♡」
少女の名はアストリア。魔王の地位を捨て、一介のネクロマンサーとなった最強の存在で、ヤンデレである。
そして、ヒロとは……。
〜◆〜
目を覚ますと、男は温かい水たまりに寝転んでいた。周りを見回すと一面の泥。赤茶けてたり黒ずんでいたり、白っぽいところもある。こういう温泉があると聞いたことがあるが、そこか?気持ちよすぎて寝てたのかな?と男は思った。
だがよく考えたら着衣だ。着衣で温泉に入るはずがない。それに着衣だが服はボロボロで原型を留めていない。そういえばなんかすごい出来事があったような気がする……。
その時だった。
「ええええええええええええええ!!!???」
上から少女の叫び声がした。何かに驚愕している感じだ。男が声のする方向を見るとこちらへせり出した崖の上に黒ずくめで銀髪の美少女がいて、困惑の表情でこちらを見ていた。二人の目が合った瞬間、少女がへたり込んだ。
「そんな……暗黒……極大ですわよ……?攻城どころか国を滅ぼせる極大魔法中の極大魔法……。」
ボソボソとした呟きが聞き取れず、崖の上の美少女に男は話しかける。
「なあ、どうしたんだ?なんか嫌なことでもあったのか?」
少女はそれを聞いてキョトンとした顔をしたあと、すぐに号泣して叫んだ。
「ヒロ様が生きてるのが嫌なんですわあああああ!!!」
えーんえーんと美少女は天を仰いで大声を上げて泣き続けたので男は弱った。というか怖くなった。
「お、お嬢ちゃん……何言ってんのかわかんねえけど、生きてりゃそのうちいい事あるよ。じゃ。」
触らぬ神に祟りなしとばかりに男が去ろうとすると更に美少女は声のボリュームを上げて泣いた。
「いつものようにアストリアと呼んでくださいましいいいいいいいい!!!!!!ヒロ様ああああああああああ!!!!!」
そこで男はヒロと呼ばれているのは自分なのだと気づいた。というか、よく考えたら自分の名前がわからない。他のことも思い出せないし、アストリアという名前も今初めて聞いた。困ったなと思った男はアストリアに向き直って話しかけた。
「なあ、アストリアさん。すまないけど、オレ……ヒロは記憶喪失になったみたいなんだ。ちょっと助けてくれないか?」
その一言で、アストリアはピタリと泣きやみ、満面の笑みで答える。
「おまかせくださいませ!」
ありがとう。と、ヒロが言おうとした瞬間、アストリアは前面におびただしい量の魔法陣を展開した。
「死んで!!!♡♡♡」
空にかかる虹やプリズムの光のように色とりどりの魔法が乱れ打ちされ、ヒロの視界が真っ白になる。
「ぐおあ!?」
ヒロは自分の身体が崩れていくのがわかった。風魔法で切り裂かれ、火魔法で焼かれ、氷魔法で凍り、雷魔法で感電し……膝から崩れ落ちた。
アストリアはヒロの生死を確認するために骨馬で崖下に落下する。その一瞬の時間で骨馬は器用に身体のパーツを組み替えて彼女への落下ダメージを緩和するためにバネのような形になる。バネは崖下に着地した瞬間に横方向に爆ぜて完全に衝撃を吸収し、アストリアはなんの負担も感じることなくヒロの方へと歩きだした。
一歩踏み出す度に胸が高鳴る。アストリアは満面の笑みをたたえたままヒロの元へ歩み寄り、しゃがんでヒロの頭部のあたりを観察するように見つめた。ヒロは膝より上は原型を留めていない。
「完璧ですわ……♡」
その言葉をきっかけに虚空に掌ほどの大きさの魔法陣が幾つも現れ、ヒロを覆い尽くす。
「ヒロ様……。我が最愛の存在。勇者でありながらワタクシのモノになる運命の咎人。……もう、永遠に離しません。」
魔法陣の集合がコールタールのような闇魔法を放ちヒロを蛹のように包み込んだところで全ての魔法陣は霧散した。アストリアは紅潮した頬を笑顔で彩り、蛹に向かって叫ぶ。
「さあ、闇を纏いし亡者ヒロよ!そなたの主、アストリア・セレナ・ノクティスの名を唱え、忠誠の契約を!!!」
ピシッ。と音を立てて蛹が割れる。そして割れ目から合掌の形で両手が現れ、蛹を両側へ引き裂いた。アストリアは目を見開き、さらに笑顔が紅潮する。声を上げようという意識も無く彼女は絶叫した。
「ヒロ様!!!!!♡♡♡♡♡」
「あのさあ……。」
蛹から現れた男は立ち上がるなりため息をついた。服は魔法でコナゴナにされたので全裸だ。
「ひどくない?めちゃくちゃ痛かったよ?転生して初めて記憶飛んだわ……。」
ヒロの口ぶりに、えっ。という口の形をしてアストリアは先程とは打って変わってポカーンとした顔をしている。死体を闇魔法で改造した上で契約を結んだはずなのになぜ無傷の人間の姿をしているのか理解が追いつかない。というか、名前を呼んでもらってないので契約が締結されていないのもショックだった。
「なんでええええええ!?!?!?!?こ、これは最も強制力のある契約魔法ですのよ!ネクロマンサーとしての私の全てをかけて編み出した愛の証の結晶!!!」
美少女が超絶混乱するとこんな表情になるんだなあと思いながら、ヒロは『いつものセリフ』を叫ぶ。
「だから死んでねえの!オレは不死身だからネクロマンサーはオレを絶対使役できないの!」
アストリアは一歩も引かない。
「いやだって、さっき原型なくなってたではございませんこと!?」
『いつものセリフ』パート2をヒロは怒鳴る。
「だからめちゃくちゃ痛えけどすぐ治るんだよ!何回も教えただろ!」
それを聞いたアストリアは膝から崩れ落ち、地面に両手をついて泣き出した……と、次の瞬間そこら中の地面から無数の死体が湧き出て動き出した。骨馬に飛び乗り、亡者の群れを引き連れ美少女は絶叫する。
「嫌です!!!♡♡♡絶対に死んでください!!!!♡♡♡♡ぜひワタクシだけのモノになってくださいまし!!!!!♡♡♡♡♡」
ヒロは全裸のまま、あてもなく全力で逃げ走る。
「痛いのは嫌だあああああああああ!!!!!」
男の魂の叫びは、暗黒極大魔法が作ったクレーター中によく響いた。
〜◆〜
ヒロは転生者。不死身のチート能力を持つ。彼は勇者となり、世界を救った。
だが、彼は最強ではない。魔王にだって、実は勝ってない。というか、魔王軍は勝手に瓦解した。「普通の女の子に戻りたい。」という魔王アストリアの突然の引退をもって。
つまりこれは、平和な世界で起こる【災害級のヤンデレ】と【生還してしまう男】そして運悪く居合わせてしまった者たちの物語である。