月曜日のヒーロー ~昭和五十八年生まれの強敵(とも)~
毎週、月曜日。
週明けはいつも憂鬱な気分になった。だけど、楽しみな日でもあった。
それは僕のお気に入りの週刊少年マンガの発売日だったからだ。
放課後、いつもは友達の家に遊びに行く僕も、その日ばかりは家にこもってそれを読んだ。
それだけで、月曜の憂鬱な気持ちを吹き飛ばしてくれた。何度も何度も、夢中になって読みふけった。
そこには夢があり、憧れがあった。自分もこんなヒーローになりたいと思ったものだ。
一週間の小遣いが200円の僕に毎週170円の出費はかなり痛かったけど、絶対に買い逃すことが出来ないお楽しみだった。
今週は僕の大好きなマンガが表紙だった。
表紙には筋肉隆々の男が描かれていて、読者に向かって無数のパンチを放っている。
『あたっ! あたたたた』
その絵を見ているだけで、そんな叫び声が聴こえた。
僕は頭を振ってその拳を全てかわす。
『ほぉ~。いっケンシロウとに見えるが、お前、かなり出来るな。どうやら、この漫画を読む資格があるらしい』
表紙の筋肉男がニヤリと笑う。
「ああ。このトキを心待ちにしていたからな」
僕は筋肉男へと答えた。
いつもはこんな喋り方ではないけど、この漫画のキャラクターのマネをして話した。
「それじゃあ、読ませてもラオウか」
表紙をめくった瞬間――。
『あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!』
秘孔でも突かれたように、ページをめくる手が止まらない。
『おわったぁ!』
最後のページへとたどり着き、僕は大きく息を吐き出した。息もつかせぬ展開に呼吸すら忘れていた。
読者投稿コーナー、巻末コメントも堪能し、僕は黒くなった指先でマンガを閉じた。
「今週も面白かった~」
ベタな感想を口にする僕に、表紙の筋肉男がニヤリと笑って、こう言った。
『お前はもう読み終わっている』