05 最終話 指名以来で爵位を授爵されそうになったので逃げることにしました。
冒険者ギルドで魔物を買い取ってもらって、僕達は馬場へと戻った。
「二日であれだけ乗り回すことが出来るとは、よほど相性が良かったのでしょう」と褒められて、僕とユースは恥ずかしくなった。
「時間のある時はユースに会いに来てあげてください」と言われて「僕も会いたいです」と答えた。
王様からユースは報奨として与えると言われて、これからどこでどうやって飼えばいいのか頭を悩ませることになった。
本部長に言うと、魔法ギルドにも厩舎があるから心配いらないと言われて、ほっと胸をなでおろした。
僕が出発する日の朝に、魔物が湧き出てくる場所を浄化して、魔物と大型害獣を退治した。
今日倒した魔物の全てを冒険者ギルドに売り、僕は王都を後にした。ハウツールに戻るのに、十四人という大所帯で向かうことになり、冒険者と役に立たない六人は仲が悪かった。
何をやっても完璧な冒険者たちと、何をやらしてもまともに出来ないけれど、偉そうな二つのグループは仲が悪くて当然だった。
初めは冒険者たちが色々口と手を出していたけれど、あまりの態度の悪さに、一切関わらなくなった。
その途端、役に立たない六人はテントを立てることもできなくなり、偉そうに冒険者にテントを建てろと言い出した。
カスバルト様が口を出さないので、僕も黙って、自分のことだけをして、僕は時折皆からはぐれて獣を狩って回った。
王都で吐き出した分の食材を補充しておきたかったのだ。
農村を見つけては肉と交換に野菜を分けてもらい、時には川で魚を獲って、補充に務めた。
その日食べるものは冒険者さん達が用意してくれたので、僕は野菜を提供した。
パンが焼けるいい匂いがする。
その家をノックして、冒険者で、これからまだ旅が続くことを伝えると、お肉とそのパンを交換してくれた。
明日もまた取りに来るので、ぜひ作り置いて欲しいとお願いすると、それはお金での取引に応じてくれた。
僕は半分だけ支払って、明日、商品と交換で、お金を支払う約束をして、その日はその村で休息を取ることにした。
カスバルトと役に立たない六人は村長宅へと世話になりに行き、僕達はホッと息を吐いて、自由を謳歌した。
土魔法で浴槽を作り、水魔法で水を張り、火魔法を水に落として適温作り体を洗う。
体から汚れた水が出なくなると湯をため、冒険者たちと一緒にゆっくり浸かる。
僕は冒険者の人達とは仲良しだ。
僕の実力を知ってくれているし、役割分担をきっちり理解している。
カスバルト様達は僕の姿が見えなくなると毎回大騒ぎするが、冒険者さん達は気にもかけない。
僕が死ぬ時は、全滅するときだと知っているからだ。
夕方少し前、僕は鳥の群れを一気に撃ち落とした。
冒険者のリーダーパックさんに七羽今日の夕飯にしましょうと言って渡して、後は処理してから収納した。
一人の男の子が僕達のところにやってきて「食べ物の残り物でもいいのでもらえませんか?」と言ってきた。
理由を尋ねると尋ねると父親が狩りで亡くなって、母親が頑張っていたが、倒れてしまって、母親に食べさせるものが欲しいのだと言った。
僕は残った食べ物と、鳥を二羽渡した。
母親のもとに一緒に行って、内緒だよと言って回復魔法を掛けてあげた。
僕は少し離れた獣の多い所に行き、獣を沢山狩った。
少年の家にイノシシを一匹渡して、村にも二匹渡した。
翌日パンを大量に焼いてもらって、お金を払い、僕達はその村を後にした。
冒険者達と「いい村だったよな〜」と話していると、王家からの役に立たない人達はあまりいい目にはあわなかったらしかった。
ハウツールの街に着くと「ユアックお帰り!!SSSランク昇進おめでとう」と垂れ幕があって、凄く恥ずかしかった。
冒険者達は冒険者ギルドへ、カスバルト様達は領主の屋敷へと向かった。
僕は魔法ギルドへ向かうと、魔石の魔力込めが大量にあった。
通りすがりに魔力込めをして、ギルドカードを渡すと、リリッカさんは両手で「ははっーー!!」と言って受け取った。
「人生でSSSのカードを見ることがあるとは想像していませんでした・・・」
皆で回し見ている。
「もう、恥ずかしいので勘弁してください!!」
そうお願いしても、全員が手にするまでカードは戻ってこなかった。
支部長と王家からの依頼を受けることになったことや、向こうであったことなどを話して、皆でおかずやお酒を持ち寄ってワイワイと楽しく過ごした。
リリッカさんに「お風呂に入りなさい」と言われ、僕はお風呂へと入りに行った。
翌朝は支部長と、カスバルト様が話をしていて、僕は大人の会話に参加することは控えた。
冒険者ギルドにも顔を出してらっしゃいと送り出されて冒険者ギルドに行くと、そこはもう、驚くほどの騒ぎになっていた。
僕は自力で歩かずに、冒険者ギルドの奥に運ばれて、座ると、冒険者カードを見せるように要求されて、渡すと、また一巡するまで帰ってきそうにはなかった。
「王家からの指名依頼が来ている」
「はい。聞いています」
「この街を中心にしてもらいたいところだが、魔物で困っている人たちがたくさんいる。助けてやってくれ。魔物は冒険者ギルドで買い取れるから、冒険者ギルドがある街の一覧表を書いておいた」
「ありがとうございます」
「ただし、ここだけは行くな」
「へ?」
「ここの冒険者ギルドは他の冒険者ギルドとは違う、独自のギルドなんだ。正しい買い取りもしないし、依頼を達成しても、認められなかったりする。街自体は普通の街だから、泊まっても問題はないが、決してギルドには行くな」
「解りました」
一行だけ赤文字で書かれた冒険者ギルドを僕は見つめていた。
カスバルト様の都合で、三日ほどゆっくりしてから旅立つことになった。
その三日間は僕はすごく忙しくなった。
食材の買い占めと(迷惑にならない程度に)、最近現れた獣の退治と、魔石の魔力込めと、旅の必需品の購入に明け暮れた。
王都に行って、何が必要かよく解った。
僕は寝袋一つで済ませていたけれど、テントがあるのとないのとでは、人がたくさんいる場合は違うのだと知った。
王都からの人達、本当に口ばかりで役に立たない。
何とか置いていけないものかとカスバルト様に言う「あきらめてくれ」とあっさりと言われてしまった。
「足を引っ張っていますよね?」
「そうだな」
出発して一週間、日に日に険悪になっていく冒険者と役に立たない人達。冒険者達は離れた場所に寝床を作り、その中間に僕が一人でポツンと寝て、カスバルト様達七人がまた離れたところで、テントを建てられずにふて寝をしている。
僕はもう仲を取り持つのは止めていて、ため息をついて、その日も寝た。
朝方、大型の獣が出て、僕が倒している間に冒険者たちがマジックバックに獣を収納して、一段落ついた所でカスバルト様達は起きてきた。
冒険者と僕は一眠りすることにしてカスバルト様に「昨夜大型の獣が複数現れて、殆ど眠っていないので、少し仮眠をとります」と言って一時間ほど眠った。
それからさっさと食事を済ませ、出発しようとしたら、カスバルト様達が出立の用意ができてなくて「何をしていたんですか?」と聞いたが、返答がなかった。
不仲なまま街から街を移動して、冒険者ギルドに肉を売る。
必要なものを各々買い揃えて、次の村や街へと向かう。時折、村への資材を配送の依頼を受けている。
医薬品の依頼の時は僕一人が急いで走る。
見えなくなると、細切れにて転移して、先を急ぐ。
魔物の発生地を七つ潰した時、感覚的に後六つだと思った。
それさえ潰してしまえば魔物が溢れてくることはない。
大型害獣は獣なので、冒険者達が数人うまく組めば倒せる。
カスバルト様に「多分なのですが、後六箇所魔物が湧き出てくるところがあります。それさえ浄化してしまえば、魔物は出てこないと思います」
「なら急いでその六箇所を塞いでしまおう」
「解りました」
一箇所一箇所丁寧に浄化して、魔物も倒していく。
取りこぼしている魔物もいるだろうけど、浄化が先だ。
最後の一箇所を浄化して、魔物を狩って、これで終わりだと思った。
一旦王都に帰ることになり、王都へと向かうと城壁は開け放たれ、沢山の人の出入りがあった。
カスバルト様は一旦自宅に戻り、王城へ使者を立ている間に王に謁見する準備を整え、王城へと向かうことになるそうだ。
僕の身柄は魔法ギルドで、連絡を着くようにしていてくれと言われ、魔法ギルドの職員寮で泊めてもらうことにした。
魔石の魔力込めをして、お風呂に入ってのんびりした。
翌日冒険者ギルドへ行って、肉の買い取りをお願いして、王家からの依頼の終了を届け出た。
今まで一緒にいた冒険者さんたちともここでお別れになる。
式典などで顔を合わせることはあるだろうけど「今までのようにあくせく働かずに、ゆっくりするよ」と言っていた。
「お世話になりました」
「いや、こちらこそ、稼がせてもらったよ。ありがとう」と逆に礼を言われて、僕のほうがオロオロしてしまった。
指名依頼の完了の報告を陛下へカスバルト様がして、ご苦労だったと声を掛けていただいて、これからも何かあった時は頼むと言われて、男爵位を授爵させると言われたが、それは断りたかった。
カスバルト様に「僕はスラム出身者なので、爵位はいただけません。爵位をいただいても、誰かにいいように扱われて、取り上げられるのが関の山です」と伝えた。
何も心配することはないと言われたが、絶対に受け取れませんと拒否した。
僕は魔法を得て自由になったのに、束縛されるなんてお断りだ。
僕は、受け取るものだけ受け取って、爵位ははっきりとお断りして、ユースの元へと転移して、ユースとともにハウツールの街に転移した。
魔法ギルドへ飛び込んで爵位を断ったことを説明して、僕は国に飼われるつもりはないと憤った事を支部長に伝えた。
「僕は他国へと逃げます!!」
支部長は渋い顔をしたけれど、ユアックの人生はユアックのものだから好きにするといいと言って、僕のギルドカードを、世界のどこでも使えるようにしてくれた。
「たまには帰ってきて、魔力込めしに来てくれ」と言って、僕はユースとともに、入らずの森の反対側の国へと転移した。
新しい国に入るのに少し緊張したけれど、ギルドカードを見て、どの国も歓待してくれた。
僕のすることはいつも一緒。
魔力込めをして、魔物を倒して、魔物が湧き出るところを浄化して、逃げて、次の国へ行って・・・繰り返し繰り返し・・・・・・。
転移を繰り返している時に、人の住まない島を見つけた。
綺麗な水があって、山の実も、動物もたくさんいた。
僕はこの島で暮らすことに決め、自分が住む家を作った。
土魔法と、植物を操る魔法を合わせて作った家だ。
必要なものはマジックパックに入っている。
僕は家族を持つことはなく、一人のまま。
時折街に降りて、魔力込めして、必要な物を買って、島に戻る。
島での生活は楽しかった。
獣達が僕を一番の強者と認めたために、僕を襲わなくなった。
港町でちいさな船を買い、船に揺られて釣りをする。
海の魚はとても美味しい。
リリッカさんに何度も言われたから、一日の終りにはお風呂に入って、コーヒー牛乳を飲む。
この先、また気が変わってなにか別のことをするかもしれないけど、今はこれが僕の幸せだ。