04 浄化するとお肉が手に入らなくなってしまいます
その日は王都周辺の魔物達を狩り尽くしたけれど、王都の南にある森に魔物や害獣がすごくたくさんいることが解った。
「どれくらいの数いそうだ?」
「正しい数は解りませんが、四〜五百以上はいると思います」
「討伐依頼を出したら受けてもらえるかな?」
本部長に尋ねられて「いいですよ」と答えた。
今回は最初から回収要員として三十人が集められた。
ギルドカードが返されたので、カードを何気無く見ると、SSランクになっていた。
「あの・・・ランクが・・・」
「倒した害獣の中にSSSランクでないと倒せないものも多数いたから、取り敢えずSSランクに上げておいた。これで、受けられない依頼は無くなるから」
「そうなんですね・・・。ありがとうございます」
王都にやってきた日はとても静かなところだと思っていたけど、たった一日で、にぎやかになっていた。
スラムへの配給を僕からの依頼として冒険者ギルドに出して、スラムの人達にも食べ物がいきわたるようにした。
僕は平気だったけれど、僕に付き合う人達が大変だからといって、一日休みになり、僕は魔法ギルドへ行って、魔力込めの仕事を大量にこなした。
僕の魔力込めを見て本部長は目を丸くして、口を半開きにしていたけど「空の魔石はこれで終わりですか?」と聞いたら、奥から特大の魔石を持ってきた。大人の握りこぶし二つ分の大きさがあるものだった。
「これにも魔力込め、出来そうか?」
「大丈夫だと思いますよ」
手をかざして、魔力を込めるだけだ。
ただ、石の大きさからもすぐには込めきれなくて、少し時間がかかった。
五分ほどで、入れ終わると、本部長は僕と魔石を何度も見比べて、僕の手を取って、何度も「ありがとう」と言ってくれた。ギルドカードを渡すと、びっくりするような金額が入金されていて「ただの魔力込めですよね?」と確認を取るほどだった。
職員用の食堂で、いつもの倍の量の食事をとる。
魔力がたっぷりと使われた証拠だ。
僕の食べっぷりに感心して、デザートをサービスで付けてくれた。
凄く嬉しくて、お礼を言ってありがたくいただいた。
きっと、最高のもてなしなのだろうと思った。
食べ物が手に入りにくい状況で、僕のために用意してくれたのだから。
僕は食堂用に肉と野菜を卸して感謝された。
翌日はまだ暗い時間から出発だ。
森に着く頃には陽が明けるだろう。
森の入口から大型害獣が待ち受けている。
僕は走り出して、次から次へと倒していく。
一匹も漏らさないように倒していく。
魔物の吹き溜まりのようなところがあって、そこはそのままにしておくと、魔物がどんどん溢れてくる場所だと解った。
お肉を手に入れるために、そこを浄化するのは一番最後にして、次から次へと魔物と大型害獣を狩り尽くした。
最後に魔物が溢れてくる場所に戻ってきて、メンバーの中で判断のできる人に尋ねることにした。
「ここを浄化しちゃうと魔物は出てこなくなると思いますが、浄化してしまってかまいませんか?」
即答で「勿論!!」と言ったけれど「今浄化してしまうと、お肉が手に入らなくなってしまいますが、本当にいいんですか?」と尋ねると、答えに窮したようだった。
「ここを囲って、外に魔物が出ないように出来るか?」
「できますよ」
「それはどの程度信用できる?」
「破れたら僕がすぐ解ります。それに多分敗れることは、そうはないと思います」
「なら、囲ってくれるか?」
「解りました」
魔物がたくさん出ても平気なようにちょっと大きめに囲って、外には絶対出てこないようにして、その日は帰ることにした。
その日、ギルドカードが戻ってくるとSSSランクになっていた。
僕は首を傾げて、考えてみて、納得するしかないんだから、納得しておこうと思った。
僕が王都にいる間、魔物の肉を狩って、食材にすることに決まった。
僕がいた街、ハウツールというらしいのだが、ハウツールに帰る日に浄化することになった。
王宮で表彰と、報奨が与えられると言われたが、辞退したのだけど「残念なことに、辞退はできないと本部長に言われた」
「でも、僕、本当はスラムの住人なんですよ。王様の前になんかいけませんよ!!」
「私も一緒に行くから、私がしているのと同じことをしていればいい。感謝の言葉として、ありがとうございます。ともったいないお言葉をありがとうございますを言えたらそれで十分だから」
僕はグズグズ言って嫌がったが、聞き入れてはもらえなかった。
衣装を超!特急で仕上げてもらい、その金額に目が飛び出して、髪を整えられ、着付けられて、本部長の一歩後ろを歩いて、付いて行った。
王様も、僕が元はスラムの人間だと言うことは知ってるらしいので、そこまで緊張しなくていいからと、本部長になだめられ、階段の上に豪奢な椅子が一脚置かれていて、その斜め後ろにV字型に椅子が七脚並べられていた。
一番手前に王様が腰掛けて、そのすぐ後ろの両方に王妃様と、第二王妃様が座られて、その後ろに王子、王女達が座ると教えてもらった。
なにかの音が鳴って「陛下の御成」と聞こえた途端、本部長が片膝を付いて、俯いた。
僕は斜め後ろで同じ姿勢をとった。
陛下らしき人が「面を上げよ」と言ったので、頭を上げて陛下の方へと視線をやる。
王様ってこんな人なんだと感心して、後ろに座っている王妃様も側妃様も初めて見るような綺麗な人だった。
僕はちょっとの間放心していたが、問題はなかったようで、陛下が僕に感謝を述べ、褒賞を与えると言っていた。
ありがとうございますともったいないお言葉ありがとうございます。を駆使して、王様との謁見は無事終えた。
「SSSランクの誕生に心強く思う。私からの、お願いなのだが、国の中の魔物と、大型害獣の退治を頼まれてくれんか?」と聞かれて、本部長が用意してくれた言葉では返事が使用がないことだと気がついた。
僕は焦って、どう答えていいのか解らなくてワタワタしていると、本部長が「指名依頼で、ギルドへ依頼してくだされば、都合のつく時に受領すると思います」と返事してくれた。
「あい解った。指名依頼を出すようにしよう」
「ありがとうござます」と本部長が答えたので、僕も「ありがとうございます」と答えた。
立食パーティーだから、食べたい物をお皿にとって、好きなだけ食べなさいと本部長が言ってくれたので、僕は食事を堪能していた。
背後から女性の声で「SSSランク冒険者、ユアック」と声を掛けられて、僕は口の中のものを慌てて呑み込んで、振り返ると、僕より一つか二つ年上くらいの女性だった。
「はい・・・」
「この度は王都の窮地を助けていただいてありがとうございます」
「いえ、僕は僕の出来ることをしただけなので・・・」
「それでも感謝を言わせて下さいませ」と感謝とお礼を言われた。
それからは次から次へと人がやってきって、感謝と、お礼を言われて、食べる間もなくなった。
いつの間にか本部長が側にいてくれて、全てを捌いてくれていた。
僕はホーッと息を吐き出すと、背後から「まだ息を抜いてはいけません」と声がかけられた。
僕は背筋をピシッと音が鳴るように背筋を伸ばして、背後を振り返った。
「はじめまして。ユージュクト・カスバルトと言います。わたしの名前は必ず覚えてください。あなたの指名依頼に同行する内の一人になります」
「えっ?」
「冒険者の方も同行することになっていますが、王家からの人員として、私が同行することになります」
「そうなのですか・・・知りませんでした」
「ユージュクト・カスバルトです」
「ユアックです。よろしくお願いします」
「私の他に六人連れて行ってもらうことになります」
「えっ・・・?」
「役に立つかたたないかで言うと、役に立ちません」
「えぇぇぇぇぇ・・・」
「王家からの依頼なので、諦めてください」
「・・・解りました」
「ユアック様は馬に乗れますか?」
「乗ったことありません」
「では明日、魔法科ギルドに八時にお迎えに上がります。馬に乗れるように訓練いたします」
「・・・解りました」
「付いてくる冒険者も今頃厳選されていることでしょう。夜営に必要な事ができるメンバーと、魔物を回収するメンバーです」
「解りました」
「では明日、迎えに参ります。ユージュクト・カスバルトです。覚えてくださいね」
「解りました。カスバルト様」
カスバルト様はにっこりと笑って僕から離れていった。
王家の馬場に冒険者六人と共に連れてこられて、好きな馬を選んでくださいと言われて、僕は焦げ茶に前足の下の部分だけが白い子を選んだ。
選んだ理由はただ、気が合いそうだと思ったから。
頭絡と鞍がつけられた馬が僕の後を付いてくる。
手綱を持っているけど、適切な距離をとって付いてきてくれるのはこの子が頭がいいからだろう。
鼻面のところを何度が撫でて「名前は?」と聞くと「名付けてやってください」と言われて、僕は必死で考えた。
ユースと名付けて、ユースは僕を一切嫌がらなかった。
僕がまたがると、僕の出す指示が曖昧でも、僕の心を推し量ってくれているみたいで、全ての要求に答えてくれた。
僕は僕とユースに回復魔法を掛けて、馬場を駆け巡った。
翌日は遠乗りだと言われて、森へとユースを走らせる。
「ユアック様!!枝で頭をぶつけないように気をつけてください!!」
何度も声を掛けられて、ユースのことより自分のことで手一杯になった。
休憩をはさみつつ、一頭の馬の足の具合が悪そうだったので、回復魔法を掛けてあげると、頭をかじられた。
「魔物の発生地に行ってもらえますか?」
と言われて、その場所に行く。
「馬と一緒に中にはいれますか?と聞かれて、囲いを広げて、魔物が湧いているところへ入っていった。数頭、パニックを起こしていたけれど、乗り手が落ち着かせていて、僕は魔物を狩り始めた。
冒険者と王家からの役に立たないと言われていた人達が馬から降りて、マジックバックに収納して回った。