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01 死なないために、入らずの森へと行く決心をした。

 僕は間違いなく両の掌に握りしめていた。

 掌よりも大きな透明な水晶を。

 手を離した覚えもないのに、手の中にあったはずの水晶はどこにもない。


 周りを見回すが、もちろん、転がり落ちているようなこともなかった。




 自分の能力を知るためには、銀貨一枚を払って調べて、自分に定着してもらう以外の方法は一つしかない。

 入らずの森の奥にある、水晶の谷へ通りて、自分の水晶を見つける。その二つしか方法はないのだ。

 普通なら銀貨一枚を払うところなのだけど、その日食べることも苦労する、ユアックには銀貨一枚を用意することは死ぬまで叶うことはないだろう。


 ユアックは盗みと、スリで少額のお金を手にして、食べるものを買い、ズタ袋に詰めては入らずの森へと向かった。


 入らずの森は、名前の通り、入っては行けない森。

 その理由は諸説あり、恐ろしい獣がいるからだとか、入らずの森に入らなくても、手前の森で十分な狩猟が出来るからだとか、その理由ははっきりとはしていない。


 入らずの森の手前の森で十分な狩猟をして食べ物を十分に揃えたと思ったユアックは、覚悟を決めて入らずの森に一歩一歩踏み込んでいった。


 この森は、未開の地で、どちらに向けば水晶の谷へと向かうのかすら解らない。

 木が大きく育っていて太陽の位置を確かめたくても、それすらも叶わない。

 木が切り倒されていることもないので、切り株で方角を確かめることもできず、ユアックは一歩一歩前進することだけを考えていた。


 谷なのだから、いずれ下らなければならないはずだ。

 今はずっと上っているけれど、その先に水晶の谷はあるかも知れないと希望を胸に自分を鼓舞していた。


 真っ暗になり、木の洞を見つけたのでその前で火を起こして、手に入れた肉を炙って、硬いパンと水で食事を終えた。

 本来なら聞こえるはずの夜の森の獣の鳴き声は聞こえず、ただシーンとしていた。


 思い起こせば、この森で獣を見かけたことがなかったことを思い出す。

 入らずの森はやはり、どこか普通ではないのだと、洞の中で小さくなって眠りについた。


 ユアックはどうしても魔法の力が欲しかった。

 今のままでは成人するまでに満足に食べられずに死んでしまうか、誰かに邪魔だという理由だけで殺されてしまうと思っていたからだった。

 

 ささやかな魔法の力でも、魔法が使えると、魔法ギルドに行くと、仕事がもらえる。と聞いている。

 その仕事をコツコツこなすと、ギルドが保証人になってくれて、部屋を借りることが出来る。


 そうすれば、邪魔だといって殺されることはない。

 空腹で死ぬこともない。

 何としても魔法の力が欲しかった。


 ユアックは、気がついた時には一人だった。

 それまでは誰かと一緒でなければ生きてはこれなかったはずなので、誰かに育てられていたと思うのだけれど、その誰かのことを記憶していなかった。


 周りにいた大人たちに聞いてみたけれど、ユアックのような子供に興味を抱く人はおらず、何も解らないままだった。

 誰かに捨てられたのか、その誰かは死んでしまったのか、そんな理由だろう。

 

 目が覚めると周りが明るくなっていたので、熾火に火を入れて、また肉を炙り、硬いパンを半分だけ食べて、水で腹を膨らませた。


「谷を見つけるまで何日掛かるか解らないから、節約しないと・・・」


 火に砂をかけて、火が消えたことを確認して、ユアックは立ち上がって、行くべき方向を思案した。

 木の棒を立てて、倒れた方向に進むか、昨日からずっと上っている山を登り続けるか考える。


 ユアックは首を振って考えるより一歩でも多く先に進むことだと思って、木に進む方向の印を残しながら、山を登り続けた。


 それから下ったり、平坦だったり上ったりしながら、三日歩き続けてユアックは水晶の谷へと辿り着いた。

 そこには色んな色の水晶が何万と転がっていた。

 その中に踏み入っても自分の水晶は見つからなくて、もしかして自分には魔法の才能はないのかも知れないと焦り始めていた。


 日が暮れて、真っ暗になってもユアックは自分の水晶を探し続けた。

 陽が明けて、水晶に光があたって、とても綺麗だったけれど、ユアックは空腹に負けて、火が起こせる場所まで這いずって上がった。


 火を起こして残り僅かな肉を炙り、パンを四分の一だけ食べて、水をごくごく飲んで、腹を膨らませた。

 ほんの数分か、それとも数時間か眠ってしまい、目が覚めると水晶の谷へと転がるようにしてまた降りていった。


 探しても探しても自分の物だと思えるものがない。

 ユアックはおかしくなり、水晶の谷の真ん中で仰向けになってクツクツと笑い声が漏れ、それはだんだん大きくなり、大笑いが止まらなくなってしまった。


 ころりと横を向くと、一m程先に虹色に輝く水晶があって、それが自分のものだとなんとなく思った。

 今までそこも探していたのに見つからなかったのに、諦めた途端に見つかるのかとまたおかしくなった。


 今までの水晶とは違って心が惹かれる。

 その水晶の場所まで這って行って、手に持った。

 それは他の物よりも二周り位、大きくて虹色に輝いていた。


「見つけた!!俺の水晶だっ!!」

 仰向けに寝転がり、水晶をわずかに射している陽にかざし、水晶の美しさを堪能して、その後どうすればいいのか解らなかった。

 

 取り敢えず持ち帰り、魔法ギルドでも聞けばいいかと考えて、両の手にしっかりと握り込んで、喜びを噛み締めていた。

 

 あとは少しでも有用な魔法が使えるかどうかだよな。

 有用な魔法であって欲しいと願いながら、両の手で大切に持ち、胸の上で抱いていた。


 手がぱふり重なり合って、持っていたはずの水晶がどこにもなかった。

「あれ?嘘?!」

 周りを見回しても、僕の虹色に輝く水晶は見つけられなかった。


 僕はパニックを起こして叫び声をあげると、それと同時に僕の中から何かが溢れて放出されていった。

 その放出されるものが魔法なのだと気が付き、僕が使える魔法の種類や、限界、それを伸ばす方法が自然と知ることができた。


 僕にとってどんな魔法が有用で、どんな魔法がそうでないのかは解らなかったけれど、街へ帰りたいと考えると、街のいつもの寝床の前にいた。


 僕は驚いて声を上げそうになったけれど、僕は掌で口を押さえて、声を上げるのを必死で押さえた。

 時間はまだ昼過ぎだ。

 僕は急いで魔法ギルドの扉を開いた。


 僕が戸を開けると、中にいた人達はすごく嫌な顔をしたけれ、一人のお姉さんが「何か用ですか?」と聞いてくれた。

「入らずの森の水晶の谷に行って、自分の魔法の水晶を見つけました」


 そう伝えると、お姉さんはびっくりしたような顔をして「ちょっとこっちに来てくれるかな」と僕をカウンターへと案内してくれた。

「適性検査を受けてもらうわね」と言って、僕の頭より大きな水晶の上に手をかざすように言った。


 僕が手をかざすと、水晶が虹色にカッと輝いた。

 奥から年配の男の人が出てきて、僕に「まずは風呂に入ろうか」と言ってくれて、人生で初めてお風呂に入ることになった。

 お風呂に入ろうと言ってくれたおじさんが、僕を何度も何度も洗ってくれて、綺麗にしてくれた。痒かった頭も痒みがなくなり、肌は少しヒリヒリした。


 お姉さんが「ちょっと髪を切るね」と言って、僕の髪を切りそろえてくれて、後ろで一つに縛ってくれた。


 お湯に温もりながら色々聞かれることに答えていると、気持ちよくて、僕はそのまま意識を失っていた。

 いや、眠っていた。


 魔法ギルドの仮眠室と言われる場所で寝かせられ、目が覚めたのはお風呂に入ってから、二日も経っていると言われて「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と謝った。


 お風呂に入ろうと言ってくれた人が、ギルド支部長だそうで、支部長が保証人になって、ギルドの最上階に部屋を貸してくれることになった。

 その代わり、仕事のえり好みはせず何でも受けることを条件だと言われた。


 どうしてもできないこともあるだろうから、それは気にしなくていいからと言われたので、僕は安心して頷き、名前を聞かれて「ユアック」だと答えると、石板に“ユアック”と書いてくれて「自分の名前を書けるようになりなさい」と言われて、僕は必死で練習をした。


 ギルドカードが作られて、カードに自分で“ユアック”と書いて登録は完了した。


 支部長が「まず学校に行って字を読み書きできるようになってくれ」と言って、学校へと連れて行ってくれ、これから毎日通うように言われた。

 僕は頷いて「頑張ります」と言うと、「学校から帰ったら、こっちの部屋に来て、ここに積んである魔石に魔力を補充してほしいんだ」


 支部長がやり方を見せてくれた。

 同じようにやってみせると、魔力込めは難なくできて、ホッとした。

「出来るだけでいいから、学校に行って、宿題や、勉強をちゃんとしてから、魔力込めをしてくれ」

「解りました」


「朝と夜の食事は職員用の食堂で食事をして、昼食は学校の給食を食べるといい。学校のない日は、昼食も職員用食堂で食べるといいからな」

「ありがとうございます。本当で良かったです」

「本当?ってなんだ?」

「魔力が使えると生きていけるって・・・」


「そうだな。ユアックはよく頑張ったよ」

 僕は支部長の顔を見上げて「はい!!」と答えて魔力込めを頑張った。

 

 空の魔石は全部入れ終わったので「お風呂に入りなさい」と、魔法ギルドで僕に一番に声を掛けてくれたお姉さんに風呂へと追いやられた。リリッカさんというらしい。


 お風呂に入って、着ていた服も洗う。

 しっかり絞って、ベランダに干す。

 毎日お風呂入ったり、毎日洗濯しなければならないのは面倒だったけれど、それが、こちらで生活するための当たり前なのよと言われて、僕は当たり前なら仕方ないと、言うことを聞くことにした。

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