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第八話 次期将軍は助手である

 ホームズが周囲に聞こえる声でカルマが犯人ではないと言う。

 それに一番驚いているのはカルマだ。ずっと容疑者として周囲から疑われ誰も信じでくれず、ここ最近は人を近づけないようにしていた。


「信じてくれるのか?」

 

 やっと現れた自分を信じてくれる人にカルマの声は震えている。


「容疑者は刀を左手で振るう。それに対し君は刀を右手で振るっていた」


 ホームズの言う通りカルマは襖を開けるときや筆を右手で持っていた。 

 この時点で容疑者と相違がある。


「犯人が本当は右利きなのに左手で刀を振っていたらどうするんだ? 両利きの可能性だってあるだろ」


 多数いる野次馬がばれないと思って疑問をぶつける。まだカルマが犯人だと思っているのだろう。


「カルマは生粋の右利きだよ。ここに来るまででもそれはわかった。筆を持つのも右手。襖を開けるのもね。刀だけ左利きの可能性もあるがそれもない」

「な、なんでだよ?」


 兵士の疑問に答えるためホームズはカルマの側に戻ると彼の両手を見る。そして優しく握るとほほ笑んだ。


「この手を見て触るときみの努力が伝わってくる。右手で刀を振るうことが多いから右手の皮が左手より分厚くなってる。それに左手の親指と人差し指の間に傷跡がある。これって鞘に刀を戻すときに誤ってできた傷だろ?」


「ああ。これはまだ未熟だったときにつけた傷だ」

「あんな苛烈な剣技を見せるきみにも未熟なところがあったと思うと可愛く思えるね。それでだ、日頃から刀を振るう君たちはこれを見ても彼が左手で刀を振るうと思うかい? 確かめたいというなら握ってみるといい」


 もしカルマが犯人なら左手の皮が分厚くなっているはずだ。仮に犯行だけ左手で刀を振っていれば、新しいマメやタコができているはずだがそれもない。

 ホームズの言葉に侍たちは何も言わなくなる。

 完全にカルマの容疑がはれたことで今度こそホームズは帰ろうと踵を返す。


「待て」


 しかしカルマがホームズの手を掴んで止めた。

 振り返ったホームズが見たのは、顔を真っ赤にしたカルマの姿だ。

 別に鈍感なわけではないホームズはわざとらしく首をかしげてみせる。


「まだ何かあるのかい?」

「俺を信じてくれてありがとう。そしてさっきは色々すまなかった。改めてこの国にはお前の力が必要だ。どうか力を貸してくれホームズ。俺にできることならなんでも手伝う」


 数分前の様子が嘘のようにカルマは真剣な眼差しでホームズに頼んでいる。

 さっきのこともあり断られるのではないかと不安も見て取れる。

 二つ返事でホームズはすぐに頼みを引き受けるつもりだった。ここで帰って代わりをよこせばその間にも誰かが犠牲になるかもしれないからだ。

 しかしカルマの言葉でホームズは何かを思いついたような顔をする。そして怖くなるほどの優しい笑みを浮かべる。

 ホームズの怪しい笑みのせいでカルマは素直に喜べなかった。


「いいよ。ただし条件がある。なんでも手伝うというなら、きみには僕の助手として働いてもらおうかな」


 一国の領主の跡取りをホームズは自分の下で働かせようというのだ。立場をわきまえぬホームズの行動に、ざわざわとまた周囲がうるさくなる。

 しかしこれは何もふざけて言ったわけではない。カルマの協力があればムサシの奥深く、裏社会の調査にも有効だと考えての発言だ。


「俺なんかでいいのか? 切れ者ならそこのセンシ、武芸全般ならミツヒデの方が優れていると思うが……」

「君だからいいんだ。乱暴な口調だが垣間見せる他者への気遣い、戦闘中妖刀で直接攻撃しなかったのは僕を傷つけないためだろ? その優しさがあるからきみを必要だと考えたんだ」


 面と向かって褒められたカルマは恥ずかしさをまぎらわすように腕を組んで顔を逸らす。


「勘違いするな。妖刀を使わなかったのはこの国で死なれたら面倒なだけだ」

「む? そうだったのか。優しいと思ったのは気のせいか。てっきりこの国で僕を死なせたくないから必死に勝とうとしていると思ったんだが……」

「そ、そんなわけないだろ!」

「だったらなんでだい?」

「それはえーと、そのー……」


 上目遣いで問い詰められたカルマはうまく答えを出せずしどろもどろになる。

 なぜか見ている方がイライラする漫才のようなやり取りに周囲の侍たちは呆れだす。各々訓練に戻り見守るのはミツヒデとセンシだけだ。


「それでこれから具体的にどうするのですか? この広い ムサシで白面一人を探すのはかなり苦労しますよ」

「そうだ! とりあえず犯行現場でも見にいくか? 俺なら案内できるぞ」


 センシの言葉は今のカルマにとって助け舟だった。

 ホームズは考え込むように顎に手を置く。


「それはここに来るまでに二十七か所全部見てきたから別にいいかな。犯行の手がかりみたいなものは何も残っていなかったし」

「二十七? 犠牲者は二十九人ですぞ」

「へ?」


 情報の間違いがあったのかとホームズは疑問の声を出す。

 センシとカルマもうなずいているためホームズの情報が間違っているようだ。


「事件が起きたのは昨日の夜なので情報に行き違いがあったのでしょう」

「夜か。それなら何か残ってるかもしれない。行くよ助手くん。犯行現場へ案内したまえ」

「助手くんって……。まぁいいか。ついてこい」


 将軍の息子であるカルマは基本的に誰かの上に立つ人生を歩んできた。誰かの下で働くという経験は初めてなのか最初は戸惑いを見せる。しかし悪い気はしなかったためすぐにうなずきホームズの案内をする。


 連れてこられたのはムサシの城下町から外につながる橋の下だ。ホームズの正面には綺麗な川がある。カルマは顔を見られぬようフードを被っている。


「昨日に警備中の侍が二人襲われて死んでいる。外傷は致命傷に至らないはずの切り傷が三か所あって、ミタマによる犯行だって奉行所は結論を出した」

「ふーん。ていうかよくこの場所を見つけられたものだね。夜はここ結構暗くなりそうなのに」

「見つかったのは朝だ。散歩中の人が見つけたらしい」

「なるほどね。そういえば犯行時刻って何時ごろが多いんだい?」

「夜ということしかわからない。それで朝に遺体が見つかることが多い。暗いせいで見落とすんだろうな」

「やけに詳しいね助手くん。自分に疑いがかかってるから色々調べたってところかな」


 カルマの手を見れば糸で背を縛られた手帳がある。自分なりに調べたのだろう。

 図星だったのか彼は恥ずかしそうに後ろに手帳を隠した。


「わ、悪いかよ」

「いいや上出来だ。僕は犠牲者の数と犯人の姿しか知らなかったからね」


 話しながらホームズは現場の小石の裏を調べたり、血痕がないかとしゃがんで調べていた。すると突然ホームズは何かを見つけたのか小石をどかして何かをピンセットで拾う。それを傷つけぬよう優しく小瓶の中に入れた。


「なにか見つけたのか?」

「これだよ。犯行に関する重要な証拠品だ」


 ホームズがカルマに見せたのは小石ほどの金属の断片だ。それが何かわからずカルマは首をかしげる。


「ムサシ武士団はみんな甲冑をまとっている。それと斬りあいになれば刀はどうなる?」

「そりゃすり減るだろ。……まさかそれって犯人が使ってた刀の欠片か? でも被害者の刀の欠片って可能性もあるんじゃないのか?」

「それをこれから調べる。ちょっと失礼」


 ホームズはカルマのマントをつまみあげ影を作る。そこに先ほど拾った刀の破片をかざした。すると破片は鈍く赤い光を放つ。

 それを見てカルマはぎょっと驚き、ホームズはにやりと笑う。


「この輝き間違いない。ミタマだ。助手くんのミタマも確認したいから見せてくれるかい?」

「わ、わかった」


 ホームズに言われた通りカルマはミタマを抜く。太陽の下でも刀身は少し赤く見える。

 それをホームズは触れないよう注意深く観察する。研ぎ澄まされ傷一つない刀身だ。しかしそれを見てホームズは何かに気付いたように首をかしげた。


「ねぇ、ミタマって二振りあるの?」


 カルマが持つミタマには刃こぼれ一つない。そのためミタマの欠片が落ちていることはありえないのだ。


「そんな話聞いたこともないな。ミタマは一振りしかないはずだ」

「でもここにある欠片は間違いなくミタマのものだ。つまり君のもつ刀は二振り目がある」


 カルマが犯人ではないと確証したときから薄々予感はあった。ミタマは二振りあると。

 その事実にカルマは言葉を失う。危険な妖刀がなぜもう一本あるのか。これを父は知っているのかなど色々疑問が出てくる。

 どう声をかけるべきかと思っていると、ホームズの腹が空腹を知らせる。時刻は午後四時。夕食にはまだ早い時間だ。

 腹の音を聞かれたホームズは恥ずかしそうに顔を赤くして、腹をおさえてカルマをにらむ。


「頭をよく使うとすぐお腹が減るんだ」


 気が抜ける音に、悩んでいたのがばかばかしくなったカルマはため息をつく。


「はいはい、そうですか。すぐ近くに焼き鳥屋があるしそこ行くぞ」

「焼き鳥!」


 事件のことなど忘れホームズの頭は焼き鳥で埋め尽くされる。

 それからすぐ近くの店で焼き鳥を買ってきた二人は、先ほどの事件現場付近に戻る。

 川辺で二人は腰を下ろし、ホームズは美味しそうに買ったばかりの焼き鳥を食べている。


「なぁ俺との戦いでお前が消えたように見えたのはどんな魔術なんだ?」

「ああ、あれは魔術なんかじゃないよ。ただの視線誘導と武術の組み合わせだよ」

「マジかよ。なんでそれだけで消えた風に見えるんだよ」


 急にカルマに質問されホームズはすぐ口の中を空にして答える。

 魔術を使っていないと聞いたカルマの食事の手は止まっていて、ホームズの話に興味津々だ。


「きみは僕との戦闘中どこを見てた?」

「そりゃお前全体だよ。一挙手一投足すべてだ」

「嘘だね。もしそれなら最後腹部に銃口を当てられることはなかった」


 ホームズの言う通りだ。すべてに集中していたなら腹部に銃を当てられる前にその手を止めていたはずだ。

 厳しい指摘にカルマはうなり声をあげる。


「戦闘中一番注視するのは敵の攻撃手段である武器だ。続いてそれを握る手、足とかの激しく動く場所だ。じゃあ武器を握る手が大きく動いたら?」

「そりゃ身構えるだろ」

「それも囮だよ」

「はぁ? でもそうだったな。そのすぐあとお前が魔術を使ったみたいに一瞬で距離をつめて来たんだ」


 カルマはさきほどの戦闘のことを思い出し体を震わせる。

 ゆらゆらとコートが動き、レイピアは一定間隔で振り子のように揺れていた。しかしそれが大きく動いたときがあった。そして気付いたら距離をつめられていた。


「大きな動きで武器に視線誘導した瞬間、アカメで習う縮地と視界の構造上苦手な縦の動きで一気に懐にもぐりこむ。これが消える原理だよ」


 視線誘導で大きな動きをしてレイピアにカルマが注目している頃には、ホームズはもう足を動かし攻撃をしかけていたのだ。

 動きだすタイミングを相手に悟らせず、重力を利用した高速移動の縮地。

 人の目の構造上、横の動きは強いが縦の動きには弱い。縮地と人の視界の性質を利用すればあたかも消えたように相手に錯覚させることができるのだ。


「それに僕の場合ち、小さいから相手の視界から外れるのは得意なんだ」

「自分で言って傷つくなよ。ほら俺の一本やるから」

「わーい、ありがとう!」


 ホームズの場合、小柄な体形なので相手の視界から消えるのが早いのだ。

 しかし自分でそれを言った彼女はとても辛そうだ。

 幸いカルマが焼き鳥を一本与えたことですぐに機嫌はよくなった。

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