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エピローグ

 事件から一年後。再び宝剣祭の季節がやってきた。

 結局去年は儀式が中止になったので、今年は例年以上の盛り上がりだ。

 城内は忙しそうに給仕が動いていて、その様子をトモエが横目で見ながら歩いている。

 腰には二振りの刀を下げていて、服も袖と裾が短い和服を改造したものをまとっている。

 まるで姫武者のような出で立ちだ。


「宝剣祭で毎年この城に来てますがこんなに賑やかなのは初めてです。父上から見てどうですか?」

「俺も初めてだよ。まぁ去年は中止だったからな。ていうかせっかくの祭りなのに一国の姫がなんて恰好してやがる。貰い手がなくなるぞ」

「かまいませんよ。それに鬼姫をめとる者はそれこそ鬼神のように強くなくては」


 一年前と違い守られるだけだったトモエの姿はもういない。かつて刀神とうたわれたヨシツネに鍛えられたせいで鬼姫と呼ばれるまでの強さになってしまった。

 将来をあんじたヨシツネはため息をつく。


「なぜため息をつくんですか?」

「いやなんでもない。それよりも今年は例年よりも賓客が多いから挨拶とかは先に済ませておけよ」

「それは確かにそうですね。行きましょう」


 トモエの威圧感にヨシツネは冷や汗を流す。しかし無理やり話題をそらすことで事なきを得た。ヨシツネは内心でほっと息をつく。

 それからトモエたちはハロイドの貴族や他国の王族に挨拶をすませる。


 次にトモエたちが向かったのはハロイド王国の現国王であるベラミーの部屋だ。

 彼女はロンドから正式に玉座を継いだのだ。

 部屋の前につきノックをすると部屋の主から入室を許可される。

 一年前と変わらず去年交換するはずだった宝剣ライヘンを彼女は背負っている。

 唯一変わったのは髪型で長い銀髪を首元で切りそろえていた。

 

「久しぶり、ね……。一年見ない間にずいぶん強くなったようね」

「えへへ、そうですかー」

「そりゃ俺の娘だし、俺がこの手で鍛えたからな。才能があるのは当然だ」


 トモエたちが入室したときベラミーは窓から城下を見ていた。振り向きながら挨拶をして、トモエが一目見て強くなったと直感で理解する。

 剣聖とうたわれるベラミーに褒められたトモエは恥ずかしそうに頬を染める。

 ヨシツネも自慢の娘が褒められて嬉しそうだ。


「でもたった一年でここまで強くなるなんて。一体何があったの?」

「強くなりたかったんです。もう守られるだけは嫌なので」


 ベラミーは立場上強さを求められた。自分から強さを求めたトモエに、ベラミーは尊敬の眼差しを送る。


「あなたは私にないものを持ってるのね。きっともっと強くなれるわ」

「そ、そんなに褒めても何も出ませんよー」


 褒められたトモエは嬉しそうな顔で頬に手を添えて首を横に振る。


「そういえばホームズは元気?」


 ずっとベラミーが気になっていたことだ。

 ホームズは現在アカメを辞めてムサシに住んでいる。

 ベラミーは友人の身を案じて定期的にホームズに手紙を送っていた。

 手紙では元気そうだが、ベラミーは身近な人の安心できる言葉が欲しかったのだろう。

 友人想いのベラミーの優しさにトモエは笑みを浮かべてうなずく。


「ええ、元気ですよ。この会場にも来ています。きっとベラミー様に会えたらお姉さまも喜びます」

「そうなんだ。じゃあ会わなきゃね。そろそろ儀式の時間だし一緒に行きましょ」


 久しぶりに友人に会えるとわかったベラミーは嬉しそうに鼻歌を口ずさむ。

 会場につくともう大勢の人がいた。皆食事を食べたり会話をしている。

 すぐに見知った黒いコートを見つけて声をかけようとする。だがベラミーの知るホームズと違い、黒髪ではなくブロンドヘアだった。


「ホームズ?」


 あくまで後ろ姿なのでベラミーが確認するように恐る恐る問いかける。

 振り返った少女は血のように赤い瞳でベラミーの方へ振り返る。

 そして久しぶりの再会を喜ぶように笑みを浮かべる。


「ベラミーじゃないか久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

「ホームズもね。でもいつもの黒髪じゃなくてびっくりしちゃった。リボンはもういいの?」


 今までホームズは自分の血筋を隠すために姿を偽っていた。しかし今の彼女は本来の姿に戻っている。母の形見であるリボンは右手首に結ばれていた。


「自分を偽るのはもうやめたんだ。因縁はもう終わったしね。ベラミーは見慣れた前の方がよかった? 一応ポニーテールのままにはしてるんだけど」

「そんなことないわよ。今のあなたも素敵よ」


 姿が変わり少し心配だったホームズはほっとする。

 今髪に結っているリボンは何の魔術もかかっていない普通の赤いリボンだ。


「新しい生活はどう?」

「ハロイドとはやっぱり違うよ。気候はムサシのほうが熱いし、ずっと雨が降る季節がある。でも春や秋は山がきれいだし、冬は一面雪景色になるんだ。それに季節ごとのごはんも色々あっておいしいよ。人の優しさもハロイドと変わらない」

「相変わらず食い意地ははってるのね。じゃなくてカルマとの生活はどうなのかってことよ。順調?」


 ホームズはあの事件以降カルマと交際している。そのためムサシのカルマの居城に住んでいるのだ。

 カルマのことを聞かれたホームズは恥ずかしそうに頬をそめる。


「まぁ順調だよ」

「少し詳しく言うならこちらが嫉妬するぐらいの夫婦ですよ。城内の侍がたまに血涙を流しています」

「ま、まだ夫婦じゃないよ! でもこれからは気をつけるよ」


 夫婦扱いされたホームズは顔を真っ赤にして声を荒げる。

 だがまだと言うことはそのうちとでも考えているのだろう。

 彼女の様子と言葉から今十分幸せそうだ。

 少し複雑な表情をしたあと、ベラミーは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 すると会場の扉が開けられてこの祭りの主役の一人が現れる。


「なんだ、みんなもう集まってたのか」


 現れたのはカルマだ。正式にヨシツネから将軍の位を継ぎ、今はムサシのカルマ将軍だ。

 しかし見た目はあまり変化がなく、背中には宝刀ムゲンがある。


 あの事件でカルマは重傷を負い一時生死の境をさまよったが無事に助かった。

 そしてホームズは魔法書に記録を行い本当の意味で事件は終わった。


 残党もアカメとカルマが新設した隠密部隊アカカゲにより捕縛された。

 アカカゲを率いるのはホームズだ。金時計に代わり赤い羽根のネックレスをつけている。


 主役の遅い到着にホームズは頬を膨らませる。


「遅いよカルマ。何してたの?」

「ちょっと緊張をほぐそうと散歩をしててな」

「まぁお前は儀式事態も初めてだし、この盛り上がりだ。緊張するのも無理はねぇさ。でも失敗すんなよ」

「余計な圧力かけないでくれよ」


 ヨシツネは笑みを浮かべながらわざとカルマに圧力をかける。

 それにカルマは困ったように頬に汗を流す。

 そしてついに儀式を始める時間となった。

 カルマとベラミーはバルコニーに出る。

 クロリアの領主レオンが高価なトレイを持ち、そばに控えている。トレイには二人分の酒が注がれたグラスが置いてある。

 誰もが去年見たかった光景で、ホームズもこの光景を待ち望んでいた。


「まさかこんな近くでこの光景を見れるなんてね」


 今年の儀式は正真正銘の平和の祭典だ。今までならスカーズの影があり、心を落ち着けることができなかった。

 安堵したホームズの目元には涙が浮かび指でそれをぬぐう。

 そして黙ってカルマとベラミーの儀式を見る。

 カルマたちは互いが持つ宝剣と宝刀を交換する。


「先祖が作り上げた平穏を未来永劫守ることをムサシの守護将軍カルマが誓う!」

「ハロイド王国国王ベラミーも平穏を守護することを誓おう」


 二人はグラスを太陽に向けて掲げる。そして同時に酒を飲みほした。

 これで儀式は終了して大歓声が起きる。

 短い儀式だが去年は中止され、この光景を再び見ることができた国民は歓声をあげる。

 ホームズも拍手でそれを見届けた。


 儀式も終わりまだ宝剣祭の余韻は冷めず夜でも城下は明るいままだ。

 ホームズは父に教えられたいつも儀式を見ていた高台に来ていた。

 ここはミツヒデを倒し、ホームズの長い未解決事件を終わらせた場所でもある。

 柵に手を置いて城下を見下ろす彼女の隣にはカルマがいた。二人は指をからませている。


「お疲れ様。これでやっと本来の形になったわけだ。明日からまたいつもの日常だ」

「そうだな。でもまだやるべきことは残ってる。儀式よりも大切なことがな」


 カルマはホームズの手を握りながら膝をつく。

 夜の街灯に照らされて彼の顔は赤くなっているのがわかる。

 だがまっすぐとホームズの目を見ていた。


「俺はお前を愛している。俺の命をかけてお前のこれからの時間を守るから、同じ時間を隣で歩んでほしい」


 時が止まったようにホームズは驚いて一瞬固まる。そして赤い瞳から一筋の涙を流す。だがその表情は嬉しそうだった。


「僕も君のことが大好きだ。僕なんかでよければ、これからも君の隣で同じ時間を歩ませてほしい」


 ホームズはカルマの手に自分の手を重ねる。

 立ち上がったカルマはホームズと抱擁を交わし、月を背後に静かに口づけをした。


これにて完結です。

ここまで読んでくれてありがとうございました。

面白かったって思ったらぜひブクマや下にある評価で星五をつけてくれると嬉しいな。

モチベーションにはなります。マジで。


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