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第二十九話 同じ時間を

 ホームズの雷撃でミツヒデが落ちるのが先か、ホームズがミツヒデに窒息させられるのが先か。

 両者は互いに一歩も引かず、相手の意識を刈り取ろうと力を込める。

 だが時間の経過と共にホームズの雷撃の魔術の出力が低くなる。

 そして光が収まれば、口から煙を吐く黒焦げたミツヒデがフラフラと揺れている。そのまま彼は後ろに倒れこんだ。

 ホームズは力が抜けたように膝をつき、ミツヒデの脈を確かめる。一応生きてはいるようだ。


「勝ったよ、みんな」


 全力を出し切ったホームズも横に倒れそうになる。だが優しく抱きかかえられた。

 ゆっくり目を開ければカルマがいた。どうやら抱きかかえられているようだ。彼女の無事と勝利がうれしいのかカルマは泣きそうな顔をしている。

 ホームズはこの戦いが始まる前のことを思い出して頬を赤くする。


「それで話したいことって何?」

「その顔わかってんだろ。別の俺が言ったのか? なら言わなくても――」


 カルマの言葉を遮りホームズは口づけをする。

 すぐに離れた彼女は恥ずかしそうに視線をそらす。カルマも顔が真っ赤だ。


「これが僕の答えだ」

「そ、そうか。なぁ前の俺は告白の返事を聞けたのか?」

「うん、でも失恋とか言ってたけどどういう意味だろう……」

「好きな人と一緒にいることがもうできなくなるんだ。俺にとっちゃ失恋みたいなもんだ」


 カルマ自身の言葉でホームズは納得したようにうなずく。

 前の時間軸でカルマを失ったとき、言いようのない喪失感に襲われた。あれが失恋だとホームズも理解する。

 すると高台を行き来する階段から大勢の足音が聞こえてきた。


「大丈夫ホームズ!」


 現れたのはベラミーだ。部下を引き連れていてゼロもいる。

 さらにカルマを心配したトモエや松葉杖をつくヨシツネもいる。

 気を失っているミツヒデを見たゼロは驚く。そしてホームズたちが無事でいることにほっと息をつく。まさか倒すとは思っていなかったのだろう。


「よくやったな。あとは残党だけだが俺たちに任せてお前たちは休むといい」

「ではお言葉に甘えて。正直魔力がすっからかんで」


 ホームズはカルマに手を貸してもらいフラフラと立ち上がる。

 そのまま高台を出ていく二人をゼロは見届ける。

 その間に彼の部下がミツヒデを拘束しようとするが。


「まだだ! まだ終わってない!」


 突如意識を失ったはずのミツヒデの声が響き渡る。彼は騎士たちの拘束を振り払い、まるで銃を撃つように義手の人差し指をホームズに向ける。


「ホームズ!」


 カルマの悲痛な叫びと同時に銃声が鳴り響いた。

 ミツヒデの義手の人差し指の先端は折れ曲がり、今まで隠されていた銃口が突如現れる。その場所からは煙が出ていた。

 この時間軸のミツヒデは戦いでは負けた。しかし唯一勝つ手段がある。

 それはホームズに死に戻りをさせることだ。

 そうすれば己ではない誰かが勝ち世界を取るかもしれない。

 この弾丸はミツヒデにとって希望を込めた一発だった。

 一瞬の油断のうちに行われた凶行にゼロは歯を食いしばる。

 ミツヒデにこれ以上抵抗させぬよう、ゼロは銃を発砲して彼の義手を破壊する。 

 再び多数の兵士に抑えられた彼は不気味な笑みを浮かべながらホームズを見る。


「さぁ、お前はどんな選択をするんだ?」


 ミツヒデの弾丸はホームズには当たらなかった。

 いち早く反応したカルマがホームズをかばったからだ。

 糸が切れた人形のようにカルマは倒れそうになり、ホームズに支えられる。

 彼女の手にはべったりと血がついている。


「そんな、また……。医療班早く!」


 天国から地獄に落とされるような出来事にホームズは泣きそうに顔を歪める。

 カルマが撃たれた場所は胸部だ。前の時間軸と同じように彼の服が赤く染まる。

 ホームズは布を巻いた手を置き出血を抑えようとする。

 魔術で治癒しようにも弾丸を摘出しなけれれば意味がない。

 そのため迅速に医療班がホームズに代わり処置にかかる。

 治療を受けるカルマを見ながらホームズは血に濡れた手を見る。

 カルマの死は彼女にとってもうトラウマに近く、息が荒くなり頭が真っ白になる。

 だがこの悲劇を回避する手段だけはミツヒデに言われて浮かんでいた。

 ホームズはいつも腰にある銃を取ろうとする。だがホルスターに銃はなかった。

 そしてカルマに貸していたことに気づく。

 ならば剣で、と思ったところで銃声が五発空に響いた。

 音がした方向を見ればカルマが銃を空に向けていた。銃口からは煙があがっているので彼が撃ったのだろう。


「何をするつもりかしらないが早まるなよ」


 肺に血がたまっていたのかカルマは吐血する。

 カルマはホームズが自害すると思い銃弾を使いつくしたのだろう。

 弱った彼の姿は前の時間軸と似ていた。ホームズはそんな彼をこれ以上見たくないのか、泣きそうな顔で視線をそらす。


「俺はもうお前をおいていなくならない。だから安心しろ」

「本当に? 約束してくれる?」


 ホームズは涙を流しながら弱弱しい声音で問いかける。

 彼女のお願いにカルマは力強くうなずいた。そしてホームズに向けて手をのばす。

 彼が何をしてほしいのか理解したホームズはカルマのそばに行って膝をつく。そしてカルマの手を優しく握った。


「好きな人残して二度も死ねるかよ」


 前の時間軸でカルマは無念にもホームズを残し死んでしまった。

 今度はそんなことを起こさないために、カルマはホームズを安心させようと微笑む。

 彼の告白を聞いたホームズは恥ずかしそうに頬を染めて笑みを浮かべる。


「まったく君って人はこんなときに何を言ってるんだ」

「はは、こんなときだからだよ……」


 カルマは力が抜けたようにホームズの手を離す。そのまま意識を失った。

 彼の右腕は点滴につながれていて医療班が担架を持ってくる。


「麻酔をかけました。あとは我々におまかせください」


 カルマは担架に乗せられて竜により医療施設に運ばれていく。

 それを見届けたホームズはほっと息をつきミツヒデの方を見る。

 腕を動かせないように鎖で繋がれ、不審な動きをしないように多方面から銃を向けられている。


「なぜだ……。なぜこんな小娘たちに俺の計画が……」


 ホームズが自害を選択しなかったことがミツヒデには予想外だったようだ。

 己の野望が完全についえたことを理解した彼は、さっきまでの闘志が霧散して顔からも気力がなくなる。

 もはや立つこともできず、騎士に支えられながら連行される。

 すべてが終わりホームズは沈み行く夕日を見る。


「これで全部終わったんですよね?」


 ホームズは隣に並ぶ、同じように夕日を見ているゼロに問いかける。

 だがゼロは首を横に振った。


「いやまだだ。この事件を終わらせるのはお前の手にかかっている。お前が記録しなければ誰も先に進めない」


 今のホームズにはもう一度宝剣祭を繰り返す選択がある。

 だが魔法書に記録をしたら、捕らえられたミツヒデの野望は完全についえる。

 唯一の懸念はまだカルマの無事が確実ではないことだ。

 それが気がかりでホームズは答えを出せない。

 彼女の不安を察したゼロは大きな手でホームズの頭をなでる。


「今すぐ決める必要はない。もうお前に命の重荷を背負わせる奴はいないからな。カルマ様の無事を確かめてからケリをつけろ。お前もいい加減に俺たちと同じ時間を歩め」

「同じ時間……」


 ゼロの言葉をホームズは繰り返す。

 いろいろ解釈できる言葉だが、ホームズに使われる言葉はそのままの意味だ。

 死に戻りしたことでホームズはもう他者と時間がずれている。

 ゼロの言葉の意味を深く考えながらホームズはうなずいた。

 

 こうしてスカーズ宝剣祭事件は終幕した。


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