第二十八話 三本目の妖刀
ホームズとカルマは仲間に背中を押されてミツヒデを追う。
空には照明弾が登り、いたるところから火の手があがっている。おそらくミツヒデが城下に潜む部下たちに合図を出したのだろう。
そして前の時間軸と同じ、ホームズが毒を飲んで死んだ高台についた。
ミツヒデは火の手があがる城下を見下ろしている。
「前の時間軸の俺もこの光景を見たのだろうか。お前なら知っているんじゃないのか、ホームズ?」
後ろを振り向けばホームズたちが追い付いていた。いつでも戦闘を行えるよう二人は武器を構えている。
言葉の意味がわからないカルマはホームズの方を横目で見る。
カルマの様子を見たミツヒデは何かを察したように、邪悪な笑みを浮かべる。
「そうか。話していないのか。お前はひどい女だな」
「やめろ! 話すな!」
ミツヒデはホームズの謎をカルマに伝えようと考えているような表情だった。
そう思ったホームズは威嚇射撃を行う。だがそんなもので止まるならこんな凶行をするわけがない。
ミツヒデは首を少し曲げて銃弾を避ける。頬を銃弾がかすめたにもかかわらず、彼は笑うのを止めない。
「では教えてやろう」
「やめ――」
「そいつは死ぬたびに自分の都合のいい時間に巻き戻しているんだよ。ムサシの辻斬り事件でトモエを守れたのは奴の死を見たからか? その男が生きているのも毒殺された光景を見たからだろ!」
ホームズの静止もむなしくミツヒデはすべてを話す。
すべてミツヒデの言う通りだ。辻斬り事件でトモエが襲われると予測できたのも知っていたからだ。カルマが毒殺されずに済んだのも知っていたからだ。
すべて暴露されたホームズはカルマの方を見ることができない。
「この能力でその女は母や村人を見捨てて、お前の父の剣の道を奪ったんだ! 死に戻りすれば助かったのになぁ!」
これもミツヒデの言う通りでもある。ホームズはリスクを天秤にのせて、より最悪な未来が来ないように魔法書の記録をした。
もっと抗っていれば母たちが助かった未来や、ヨシツネが大けがをしないで済む未来が得られた可能性もある。
カルマにとってホームズは父の未来を見捨てたも同然だ。
あざ笑うミツヒデの声などホームズにはどうでもよかった。それよりもカルマに嫌われると思った彼女は、泣きそうな顔で赤い瞳を揺らし剣を下げる。
そんな彼女の頭を乱暴になでてから守るようにカルマは前に立つ。
「俺はこいつの選択を否定しないし尊敬する。最善の未来のために自分の命を懸けれるこいつは真の勇者だ。お前なんかが馬鹿にしていいわけがない」
そう言ってカルマは優しい笑みをホームズに向ける。
「俺たちを守ってくれてありがとな。今度は俺にお前の未来を守らせてくれ」
なぜ彼のことを疑ってしまったのか、ホームズは馬鹿な自分に対し、瞳に涙をためながら笑みを浮かべる。
死ぬ間際に告白してくる人だ。それに三度斬られれば死に至る妖刀を持っている敵との闘いにもついてきてくれた人だ。
だからホームズはこの瞬間、彼のことを本気で心の底から好きになった。
もう彼を失いたくない。その想いがホームズに戦う勇気をくれる。
「何言ってるんだ。僕は勇者だ。守られるだけなんて性に合わない。さぁ行くよ!」
「おう!」
大事な人を失い、その仇をようやくとれる。やっと因縁の過去から解放され、前に進めるという想いでホームズの頬は自然と緩む。
ミツヒデもホームズと時の魔法書を手にいれるために妖刀を抜く。彼もやっと夢がかなうと思い嬉しそうだ。
「決着をつけるぞホームズ!」
夕日により照らされた妖刀は通常よりも赤く不気味に見える。それでもホームズたちはひるまず前に踏み出した。
妖刀に斬られぬようホームズたちは互いに死角からの攻撃を防ぎあう。
ミツヒデは死角からの攻撃も戦闘経験から対処し刀一本でしのぎ切る。
「どけ、ホームズ!」
カルマが魔力をためた飛ぶ斬撃を放つ。無限の魔力を生む宝刀ムゲンの縦三連の斬撃は地面を砕きながらミツヒデに迫る。
さらにホームズは魔抗弾を放つ。もしこれに被弾すればミツヒデは魔力を使えなくなる。
ミツヒデは回避と迎撃をして魔抗弾だけは受けないようにする。その結果、斬撃を受けてしまい右腕から血を流す。
血を流した右腕を一瞬見てから、ミツヒデはカルマの方を見る。
「その剣技、あと二年もすればヨシツネを超えるだろう。まったく厄介だな。だから狙うべきは……」
今まで使ってこなかった魔術をミツヒデは使う。魔抗弾による毒素で魔術は使えなくなるが一週間もあれば毒は抜ける。
ムサシのときに自分で撃った毒が抜けていたことにホームズは舌打ちをする。
大地が盛り上がり、地面からとがった岩が突き出てホームズを襲う。
それをホームズは常人離れした動きで回避する。
「お前を人質にカルマを俺の操り人形として使おう」
ミツヒデは死に戻りするホームズを殺せない。正体がばれたせいで死に戻りされれば、次はもっと戦いが不利になるからだ。
しかもカルマを殺せばホームズは迷わず死を選ぶだろう。
最善の手段はホームズを人質にしてカルマの戦闘の意思をそぐことだ。
それはホームズ自身も理解している。
「邪魔だ!」
これはおそらく最後の戦いになる。だからホームズは今まで敵に見られたくないので使ってこなかった魔術を使う。
空に浮かぶ魔術式から雷が降り注ぎミツヒデが作った岩のとげを破壊していく。
道は開かれた。そこをカルマが駆けていくミツヒデに突きを放つ。
刀がぶつかりあい火花が散る。妖刀が目の前に迫ってきてもカルマは恐れるどころか力を込めて鍔迫り合いに持ち込む。
「妖刀は二本しかないはずだ。なぜまだあるんだ」
「それはお前の勘違いだ。妖刀は元々三本ある。お前のそれも影打だ。俺の持つ真打には到底及ばない!」
刀を滑らされてカルマは体幹を崩される。しかしミツヒデは深追いせず、カルマの腹に蹴りを入れて距離をとる。
ホームズが銃で狙っていたからだ。
「なんでお前がその真打を持ってるんだよ!」
カルマの問いに答えるためか、ミツヒデは右手を見せてそこに魔力を込める。すると手の甲に漆黒の龍がとぐろをまく家紋が浮かんできた。
「お前たちならこれが何か知っているだろう? これは千年前にお前の先祖タケダ家に滅ぼされたリュウイン家の家紋だ。俺はその生き残りだ」
「じゃあこれは下剋上の復讐か?」
千年前。アカメが発足されたときムサシの将軍はリュウイン家だった。モリアーティの死後、ムサシは国力が低下したハロイドに戦争を仕掛けようとしていた。
それを仕切っていたのはリュウイン家だ。だがそれは家臣であるタケダ家の下剋上により阻まれた。
「ああ、そうだ! 俺はムサシを取り戻す。そして時の魔法書を奪い、宝剣と宝刀を使って世界を取りに行く」
ミツヒデは家紋が浮かぶ右手をカルマに向けて伸ばす。まるで手をとれと言っているようだった。
「お前の剣の腕は世界に通用する。こんな国だけで終わらせるのはもったいない。俺とこい。ともに世界をとろう。素晴らしい世界を見せてやる」
本気で言っているのかとホームズは言葉を失う。
誘われたカルマも最初は言葉が出なかった。そして誘いに対する返答はもう決まっていた。カルマは腰をひねりながら、刀身を地面と水平に構える。
まるで抜刀術でもするような構えだった。
「断る。それに俺の世界はもう十分素晴らしい。家族も民もいるし、ホームズにも出会えた。だから世界なんていらない」
「そうか、残念だ」
ミツヒデもカルマと同じように構える。
「ホームズ、この戦いが終わったら話がある。だから勝つぞ」
「ああ!」
集中力を高めて宝刀に魔力を込める。
カルマの戦闘力なら自分の首に届く。そう考えているミツヒデは彼の動きに注視する。
だがその瞬間、ミツヒデの視界からホームズが消えた。
気づけば懐に入られていて、ミツヒデは剣で左肩を貫かれる。
ホームズはカルマに視線誘導をして、瞬歩で距離をつめたのだ。
そして彼女の剣に青い稲妻が走る。
何をするのか理解したミツヒデは、それを止めようと刀を振るおうとするが。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
雷撃がミツヒデを襲う。肉が焼けるにおいと体内の水分がはじける音が響く。
だがミツヒデは意識を失わず痛みに耐えながら刀を振るおうとする。
そこに銃声が鳴り響き、彼は刀を落とした。
音がした方向を見ればカルマが銃を持ち、引き金をひいた銃口から煙が出ていた。
「ここに来る前に渡しておいたんだよ。お前は僕が銃を持っていることを知っているからね。いい奇襲だっただろ? さぁいい加減気絶しろ!」
「このガキが!」
もうミツヒデに抵抗する手段は残されていないかと思えた。だが彼は抵抗をやめずホームズの首を掴む。
雷撃がホームズの方に流れて彼女は苦しそうな声を出す。
カルマが援護に入ろうとするが突如ホームズは雷撃の出力をあげた。
地面が雷撃により砕け、空に雷が登る。周囲の木々は雷が落ちてきて炎上する。
「「落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
ホームズが呼吸困難で意識を失うが先か、雷撃でミツヒデが落ちるか先か。
叫び声に呼応するようにホームズは出力をあげて、ミツヒデは首をしめる力をこめる。
そして周囲は光に包まれる。




