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第二十七話 仮面の正体

 将軍暗殺未遂事件はセンシの犯行だと決まったはずだ。

 だが彼は口封じに殺され、それ以上の情報は得られなかった。


「あの事件に何か進展があったのか?」

「はい。僕を助けてくれた人がいろいろ教えてくれたんです。将軍が撃たれたときあの現場に怪しい人がいたと。その人物は左肩に銃創があったようです。カルマの弾は当たっていたんですよ」


 左肩の銃創と聞いてカルマとトモエがミツヒデのほうを見る。

 ヨシツネが襲われたとき左肩に傷を負っていたのは彼だけだからだ。

 ホームズたちに疑惑の眼差しを向けられたミツヒデは、がっかりしたようにため息をつく。


「確かに拙者には銃創があります。でもあなたが無実を証明してくれたはずだ。拙者に撃ち込まれた弾丸は白面のものだと」


 確かに診療所には弾痕がある鎧や摘出された弾丸が置いてあった。

 その弾丸もホームズのものではなく白面のものだと彼女自身が証明した。


「あの鎧今思えば少し不審なところがあったんだよ」

「不審なところ? レンゲ殿は何も言いませんでしたが……」


 レンゲとは診療所の医師で、ヨシツネが撃たれた事件は発生したときに、けがをしたミツヒデの治療した人だ。

 ホームズはゼニガタからもらった写真を見せる。

 それには診療所で見たミツヒデの鎧が映っている。左肩部位には弾が貫通した穴を囲むような焦げたあとが残っていた。


「不審に思ったのは弾痕付近にあった焼け焦げた跡だよ。前から撃たれたのは確かだが、あれは銃口を鎧にひっつけて撃ったことで火薬が燃焼しできた跡だろう」

「突然現れた白面に撃たれたせいでできたものです。あなたも俺から摘出された弾丸を確認したはずです」

「確かにあの弾丸を見ればそう思うのも無理はない。でもそれが自分への容疑をはらすためにわざと作ったものなら? 自分で自分を撃ったから鎧に焼け焦げた跡が残ったんだ」


 カルマに撃たれた弾丸は幸いにも貫通し体内には残っていなかった。だから体内に白面の弾丸を残すよう自分を撃てば容疑を自然にはらすことができる。

 鎧にも弾痕を残したらまるで捜査中に白面に撃たれたという状況が残る。


「弾丸を体内に残す方法は鎧をまとったあと、左肩を背にして木にでも押し付けたのかな? そして銃口を自分の左肩にある銃創に合わせ撃ち抜いた。そうすれば弾は鎧は貫通しても木に阻まれて体内にとどまる」

「見事な推理ですな。自身の犯行を隠すために左肩を自ら撃ち抜くとは」


 自身で撃ったと思われる証拠を突き付けてもミツヒデは犯行を認める気はない。

 しかしこれも想定内だ。たった一つの証拠で犯人が捕まるとは思っていない。

 それにホームズはミツヒデが犯人だと思ったときから、彼との過去の会話を思い出していた。そして会話の中でひとつ不審点を見つけて聞きたいことがあった。


「それに君は診療所でおかしなことを言ったんだ。君は辻斬りと将軍を撃った奴が同じであるような発言をしたんだよ。彼は妖刀を使うことに固執し続け犯行を繰り返していた。でも将軍は銃で撃たれた。武器が違うのになぜ君は同一犯だとわかったんだ?」


 診療所でミツヒデは辻斬りとヨシツネを殺そうとした犯人が同じような言い方をした。

 このときはまだ事件も捜査段階で犯人像すらわかっていなかった。辻斬り犯が逃亡するときにヨシツネと遭遇し撃ったのか、別犯人が騒ぎに便上して撃ったのか。

 ヨシツネが辻斬りの犯人だと疑われていたほどだ。


「聞き間違いではないでしょうか? それにセンシが襲ったのはムサシ最強の刀神です。刀で敵わないと思って銃を使ったのでしょう」


 ホームズが疑問に思っている過去の会話の不審点は、録音もしておらず証拠としては弱い。

 それにミツヒデの言う通り、センシが襲ったのはムサシ最強の剣士だ。刀で敵わないのはわかっているので、銃を使うというのは十分ありうる思考だ。

 しかしそれならセンシは持っていなければならない物がある。


「そうだ。僕もそれは思ったよ」

「では――」

「でもおかしいんだよ。辻斬りに使った妖刀は見つかったのに、彼が使ったと思われる銃がまだ見つかってない。弾丸は見つかったのにね」


 ミツヒデの言葉をさえぎりホームズが話す。


「それはおかしくないか? だって銃は犯行の証拠なのに武器庫から出た時に持っていたはずだろ」


 カルマがホームズの推理に疑問をぶつけてくる。


「いや、それは勘違いだ。センシが死亡したとき、彼は武器庫から将軍を撃った物証になる銃を持ち出していなかった。将軍を撃ったと自白したのにだ。じゃあ何が考えられるかな、助手くん?」


 ホームズが最後まで推理するのかと思っていたカルマは、「え?」と驚いたようにつぶやく。まさか自分にも推理しろと言われるとは思っていなかったのだろう。

 だがカルマは仮にもホームズの助手だ。ゼロがホームズをどこかに隠したという証拠を見つけた実績もある。


「武器庫に忘れるとか馬鹿なことをセンシはしない。考えられるのは最初からセンシは親父を撃っていない。別の場所に隠した。銃は真犯人の手元にある。こんなところか?」

「そうだ。今ゼニガタさんの部下が必死に探しているよ。でも一昨日から探してまだ見つかっていない。ということはここにあるかもしれないということだ」


 犯行の凶器を遠くに捨てるとは考えにくい。もし見つかれば入手ルートなどを調べられ誰が犯人か判明するかもしれないからだ。

 だから近くにあるとホームズは推理してゼロに目配せをする。

 何が言いたいのか察した彼は深くうなずいた。


「会場の捜索、および見つかった銃の線条痕を確認しよう。そして先ほど毒物検査のときに使った手袋も検査しよう。ホームズの推理が本当なら、ミツヒデが使ったものに毒が付着している可能性がある」


 ゼロの提案にホームズはうなずく。

 すると会場に拍手が鳴り響いた。手をたたいているのはミツヒデだ。彼は左手の皮を掴むとまるで手袋のように外す。

 そこにはメタリックの義手があった。


「おめでとう。あの子供がこんなに厄介な存在になるとは思わなかった。やっと犯人にたどり着いたなホームズ!」

「じゃあやっぱりお前が……!」

「そうだ。俺がスカーズの棟梁白面だ。この左手はお前の母につけられた傷を消すために切り落とした」


 義手の手をホームズに見せびらかしながら、ミツヒデは不気味な笑みを浮かべる。

 仇をやっと見つけたホームズは震える銃口を向ける。だがそれは恐怖によるものではない。怒りによるものだ。

 銃口を向けられながらミツヒデは指を鳴らす。すると彼の近くにいた侍が刀と銃をミツヒデに渡す。

 さらに一部の兵士や貴族、給仕たちが会場に隠されていた武器を取りだす。

 ホームズは戦闘の意思を見せたミツヒデに向けて発砲する。それに対し、彼は刀を抜き迫る銃弾を切り伏せた。それは薄く赤色に輝く妖刀ミタマだった。


「なんでまだ妖刀があるんだよ……」


 妖刀を継ぎ、センシの妖刀を折ったカルマはもうないはずの刀を見て驚きの声を出す。


「お前ら、雑魚の相手をしろ」


 ミツヒデに命令を受けて彼の部下たちが攻撃をしかけてくる。

 その間にミツヒデが窓から出ようとしたため、ホームズが銃を撃とうとする。

 だが彼の前にスカーズが並び射線を遮る。

 カルマが背中の大太刀ムゲンを抜いて敵を斬り、道を作ろうとするも間に合いそうにない。

 すると人ごみの間にあるわずかな隙間をかき分けて何かが飛ぶ。それは刀で窓枠に手をかけたミツヒデの手元に深く刺さった。


「待てよ。うちに歯向かってただですむと思うなよ、ミツヒデェ!」

「気がついたのか。だがお前の言うことは間違っているぞ。最初に歯向かったのはお前たちだ……!」


 刀を投げたのはヨシツネだ。立っているのもやっとな状態で、壁に手をついているが放つ怒気は敵味方なく手を止めるほどだ。

 しかしミツヒデは勝るとも劣らない怒気で迎え撃つ。


「追ってこいホームズ。あの場所で決着をつけよう」


 そう言ってミツヒデは窓から出ていく。同時に城になだれこんできたスカーズがホームズたちの背後から現れる。

 はさみうちにされた中、ホームズはカルマと背中合わせに武器を構える。

 しかしカルマの横を通り過ぎ、たった一人敵に向かう姫騎士がいた。

 漆黒の大剣を引き抜き荒々しい魔力が敵を吹き飛ばす。


「前の道は私が切り開くからあいつを追って。ゼロ、後ろは頼んだわよ」


 そこかしこに大勢の敵がいる。無茶な要求を受けたゼロはため息をつき、部下に預けた剣を受け取る。


「ホームズ、決着をつけてこい。探偵としてではなく、世界を救う勇者になるために」


 ゼロは背中を向けながらホームズに語る。

 その思いにこたえるべくホームズは結んだリボンを解く。誰もが変化したホームズの髪と赤い瞳を見て驚く。


「カルマァ! 負けんじゃねぇぞ!」

「しっかりホームズを守りなさいよ!」


 敵を切り伏せながらヨシツネとベラミーがカルマにエールを送る。

 それを受けてカルマはホームズに微笑む。

 ホームズもいい仲間と上司に恵まれて嬉しそうだ。


「行こうぜ、相棒」

「そうだね、助手くん。託されたからには絶対勝とう」


 ホームズとカルマが駆け出すと同時にベラミーが剣を振るう。そして道が切り開かれた。

 ほかの騎士や侍の協力のおかげで敵は阻まれ、ホームズたちはその道を通り窓から降りる。

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