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第十七話 月夜に暴く

 ホームズのおかげで捜査が進み、城内は一気に慌ただしくなった。

 その影響か、将軍が白面に撃たれた話や、城内にもう一本の妖刀が存在すると噂が流れる。


「ホームズちゃんが言うには絶対城内に弾丸と妖刀があるらしいわ! 天井裏や地下倉庫の中に保管されたもん全部ひっくり返してでも探し出せ! 怪しいもん見つけたやつは奉行所から金一封渡すでぇ」


 その理由はゼニガタが声を張り上げて犯人へつながる情報を周囲に流したからだ。

 犯人は男で左利き、刀の達人。将軍暗殺未遂かつ次期将軍のカルマに濡れ衣をきせようとした辻斬り犯。

 機密情報をべらべらと話し、下手をしたら懲罰ものだ。

 しかし凶器がどこにもなかったのか、彼は天守閣最上階にいるセンシの場所へ押しかける。


「センシ様、ちょっとええか? 武器庫の中もみたいねんけど、門番が中に入れてくれへんのや。あそこの管理人はあんたらしいやん。一緒に来てくれや」

「ええ、かまいませんよ」


 部下を引き連れたゼニガタはセンシと共に武器庫に向かう。彼の一声ですぐに武器庫は解放され、中に入ったゼニガタたちが捜査を開始する。

 城内の侍たちの武具がすべてここに保管されているため、屋内は二階建てで奥行きは二十メートル以上ある。


「ホームズちゃんの推理やとここが一番ある可能性が高いらしいわ。弾隠すなら弾の中。刀隠すなら刀の中ってことや」

「なるほど。ここは私の管轄です。私も手伝います。銃の弾丸は二階の二十三番、刀は一階の六番にあります」

「よっしゃお前らそこ中心に探せや!」


 蔵の柱にはそれぞれ番号札がかけられている。すべてをひっくり返すには効率が悪いので、センシの言葉通りにゼニガタたちは彼に言われた場所を探す。

 しかし日が暮れ始め蔵が暗くなり始めてきた。


「くそっ! ここも外れかいな。どないんっとんねんホームズちゃん。お前ら今日は終いや。明日も引き続き探すぞ。センシ様ご迷惑かけてすまんかった」


 暗い場所では見つかるはずのものが見つからない可能性がある。ゼニガタはためいきをつき、センシに謝罪して引き上げていく。


 結局何も見つからず、城内はさっきまでの喧騒が嘘のように静まり返り夜が訪れる。

 すると蔵の中から人が出てきた。警備に紙を渡してその人物は去ろうとする。


「中に異常はありません。引き続き警備を頼みます」

「「はい!」」


 昼間中に部外者を入れたため、中のものを盗まれた可能性がある。だからセンシはこの時間まで弾薬確認や武器の整理をしていた。

 仕事を終えて一息つき、彼は天守閣に戻ろうとする。しかし足を止めた。目の前にホームズがいたからだ。空には月が昇り、黒いコートをまとった彼女は不気味に見えた。


「どうかしましたか? 昨日のこともあります。戻った方がいい」

「犯人がわかったのであなたに教えようと思ったんです。僕の推理ではあなたが犯人です」


 センシはホームズの言葉を聞いてあきれたように額をおさえる。


「なぜ私が辻斬り犯だと? 私にはアリバイがあるはずです。犯行時刻銃声を聞いてすぐに天守閣最上階に戻ったっていうね」

「それは簡単なトリックだ。時計の時間をずらしていただけだ。昼間確認したら五分ほどずれていたよ。もし昨日の段階で時計がずれていたらきみにも犯行は可能なんだよ」

「ほぅ具体的には?」

「食堂の時計と将軍の部屋の時計を遅らせておくんだ。そして悠々と犯行を行い、何食わぬ顔で部屋に戻ったら犯行時刻ちょうどすぐってわけだ。それとこの音聞こえるかい?」


 ホームズは空に向けて銃を発砲する。

 それが合図だったのか熱せられた薪がはじけるような音が四回どこからか響いた。


「さっきの音はあなたにも聞こえたはずだ。僕の部屋とトモエの部屋で、ゼニガタさんの部下が発砲した音だ。室内で発砲したせいでここにいてもほとんど聞こえない」

「それが何か?」

「おかしいんですよ。事情聴取によれば犯行時刻あなたは食堂にいた。こことは天守閣をはさんだ反対側にあるね。そこで銃声なんて聞こえますかね」

「おいホームズちゃん! うちの部下はほんまに撃ったんか? 部下たちに聞いても聞こえへん言うてんぞ」


 食堂側から飛び出してきたゼニガタがその場で声を張り上げる。 

 夜なのにかなり迷惑な声量だ。しかし彼の後ろにいる数十人が聞こえないなら、事件当時のセンシにも銃声は聞こえていないだろう。


「聞こえた気がしたんですよ。私は耳がいいので。それに時計のアリバイが本当ならヨシツネ様も怪しいのではないですか?」


 自身のアリバイが崩れてもセンシは焦った様子はない。しかも時間のアリバイ工作が本当なら、酔いを醒ましに外に出たヨシツネも犯行が可能ということになる。

 ヨシツネの部屋なら彼にも時間のアリバイ工作は可能なのは当然だ。酒の酔いを醒ますと言って外に出て、ホームズたちを襲撃した可能性がある。


「ヨシツネ様には銃創があった。逃げるときに撃たれたような、斜めから入った弾をあなたはどう説明するのですか?」


 時間のアリバイが崩せても、トモエの支城から外に出て続く血痕や、ヨシツネの斜めにできた銃創の理由は不明なままだ。


「それについてはさっき現場をもう一度見てきたんだけど面白いものを見つけたんだ」


 ホームズは一枚の写真を投げ渡す。

 かがり火に照らされ、それは将軍が撃たれたと思われる現場だとすぐわかった。写真には背中を向けたカルマが上から撮られた状態で映っている。


「斜めの銃創は木の上から撃ったものだ。木の周辺からは硝煙反応が出てるし、枝にはそこに立った証拠になる泥がついてる。さらに将軍の服の背中側から多量の発射残渣が出た。これは近距離で撃たれた証拠だ」


 写真をよく見れば木の枝にわずかに泥があった。水で湿ったものが渇いたものだと見ただけでわかり、昨日の夜、ここに誰かが立っていたと証明するものだ。


「しかし私からは銃を撃った証拠になる硝煙反応が出なかった」

「そんなもの長袖のコートと手袋でどうとでもごまかせる。さらに中の服を捨てて手を洗ってもいい。そして将軍から硝煙反応が出たのは彼に銃を持たせて発砲したからだ。地面に向けて発砲すれば弾は回収しやすいしね」

「あの血痕はどう説明するのですか……?」


 トモエの支城の外には足跡と撃たれたせいでできた思われる血痕が残っていた。


「負傷した将軍を背負って後ろ向きに歩いたんだ。そして同じ足跡を踏み元の場所に戻って将軍を下ろした。そうすれば負傷して血を滴らせながら歩いたように見えるわけだ。証拠に人一人分にしては足跡はやけに深かった」


「なるほど。そしてヨシツネ様にローブを着せればあの方が犯人の状況ができあがると」

「そうだ。ちなみに将軍を呼び出す方法は人手が足りないとでもいって呼び出せばいい」


 これで現場の謎は解けた。銃創はカルマが城から身を乗り出して撃ったのではなく、木の上から撃ったものだ。

 血痕と足跡は誰かが負傷した将軍を背負いつけたもので、ローブをまとわせて銃を撃たせれば彼が辻斬りと偽装できる。


「でも私がやったという証拠はありませんよね? 第一私には犯人を示す銃創がない」


 しかしこれはヨシツネの無実を証明しただけだ。時間のアリバイが崩れても、センシが犯人足りうる決定的証拠ではない。


「それは僕もカルマに騙されたよ。僕もカルマの銃弾が当たったと状況から判断してしまった。でも実際は当たってなかったんだよ。夜だから見間違うのは無理はない。そして犯行の証拠はあなたが今持ってるはずだ。奉行所に押収されないためにね」

「もしや昼間の騒ぎはあなたが仕向けたことですか?」

「ああ。一度捜査が入って明日も来ると言われたら、犯人は犯行の証拠を隠しにここに来ると見張ってたんだ。そして訪れたのは君だけだ」


 ホームズの推理を聞いてセンシはため息をつく。


「もう逃げられないようですね」

「犯行を認めるんですね」

「はい。寺から妖刀を盗み、城下で辻斬りをして将軍を撃ったのは私です。そして邪魔なあなたを殺そうとした」

「ふざけんな! なんでそんなことしたんだよ!」


 城から降りてきたカルマもホームズたちと合流する。

 センシは刀を抜き月に照らす。それは紛れもなく妖刀ミタマで、センシは愛おしそうにその刀身を見る。


「この刀は私の先祖がハロイドとの戦争に勝つために打ったものです。でも戦争は起きずこの刀はただの妖刀として畏れられた。ろくに役目も果たせていないのに」

「役目だと?」

「刀の役目はただ一つ、命を奪うこと。この妖刀はそれに特化した力を持っていた。でも!」


 センシは誰も反応できない速度でカルマに切りかかる。ぎりぎりで反応し、鍔迫り合いに持ち込んだがカルマは押され気味だ。


「タケダ家によるおよそ千年前の下剋上以降平和が訪れ、この刀は役目を失った。私にはそれが許せなかった。ハロイドに対し戦を挑もうともせず、先の下剋上は先祖の想いを踏みにじる侮辱に等しい行為だ! だから私が先祖の想いにこたえるべく魂をささげたのだ!」

「無駄な抵抗はやめろセンシ!」


 ホームズがセンシに銃を向ける。だが体を動かしたカルマが射線上に立った。まるで撃つなと言っているようだった。


「撃つなホームズ。これは将軍家の問題だ。けじめは俺がつける」

「一度も私に勝てたことがないあなたにそれは無理だ」

「無理じゃない。俺は将軍になる男だ。どのみちあんたや親父を超えなきゃだめなんだ」

「ではやってみるといい。今日タケダ家を終わらせ、この国は生まれ変わる」


 互いに妖刀で斬りあう。一撃でもかすれば致命傷につながる攻撃なのに、二人とも常人の目には追えない速度で切り結ぶ。

 下手に援護射撃をすればカルマが劣勢になるかもしれないので、ホームズは見守ることしかできなかった。


「勝てよ、カルマ……!」


 ホームズの声が届いたのか、カルマの剣筋が研ぎ澄まされていく。何もカルマは次期将軍の立場だけで戦っているわけではない。ホームズの助手としての想いも背負い戦っているのだ。

 次第に押されてきたセンシに顔に焦りが出る。


「終わりだ」


 センシの体幹を崩してカルマは刀を振り上げる。そしてセンシの妖刀を根元からたたき折った。

 折られたことで妖刀としての機能を失ったのか光を失い、普通の刀のようになる。

 膝をついたセンシはそれを呆然と見ていて、カルマが刀を突き付ける。


「なぜ刀を壊したのですか? あなたなら殺せたはずです」

「お前なら親父を殺せたはずだ。でも殺さなかった。その理由を聞きたい」


 カルマの言う通りセンシならあの森でいつでもヨシツネを殺せたはずだ。

 しかし殺すどころかセンシはヨシツネを助けた。

 その疑問にセンシは高らかに笑い声をあげる。


「あいつを殺す? いや生き地獄を味合わせるべきだ。刀神とうたわれたあいつの腕を奪い、魔人としての生を終わらせる。それを愉しんでから殺すつもりでした。さぁどうぞ斬ってください。せめて私の魂をミタマに……」


 もう抵抗する意思はないかのようにセンシは両腕を広げるが、カルマは刀を鞘に戻した。


「斬る価値もないし、お前の命を背負って俺は生きたくない。今まで世話になったな。捕えてくれ、ゼニガタ」


 少なからずセンシには世話になっていた。別れを告げるカルマの表情は悲しそうだった。

 ゼニガタが手錠をかけようと近づいた瞬間。夜の闇に不釣り合いな大きな銃声が響く。


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