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第十六話 高所の時計

 ホームズが空腹なため一行は食堂に向かった。まだ昼飯には少し早い時間で人はあまりいない。一角にゼニガタと彼らの部下が集まり食事をとっていた。

 ホームズたちに気付いたゼニガタは手を振り、ホームズたちは彼らの元へ行く。


「きみに言われた通り診療所にいったら、一人昨日の夜左肩を撃たれた人がいたよ。ムサシ武士団棟梁のミツヒデだ。でも彼は白だった」

「ほぅ。あのムサシ最強の男がか。そんで無実やいうその根拠は?」

「摘出された弾丸があって、その線条痕が僕の部屋に撃ち込まれたやつと一致した」


 ホームズは診療所で受け取った弾丸をゼニガタに見せる。

 彼はそれを目視で確認後手に取り様々な角度から眺める。しばし眺めたあともとに戻す。そして大きなため息をついた。


「ホームズちゃんたちは手柄たててるのにわしらはまだなんも見つけられてへん。妖刀が見つかれば犯行も抑えられて、うまくいったら犯人挙げられんのにな……」


 妖刀が見つかれば周囲に犯人の痕跡が残っているはずだ。毛髪や指紋、足跡。目撃証言など色々ある。

 皆が悩んでいると場の空気を壊すようにホームズの腹が鳴る。ゼニガタや彼の部下、近くにいた城内で働く人に見られる。

 恥ずかしさで顔を真っ赤にしたホームズは涙目だ。すると彼女の席に昼飯のどんぶりが置かれた。どうやらカルマが頼んでいたらしい。

 だが小柄な少女が食うにはかなり多いどんぶりだ。ゼニガタは怪訝な目でカルマを見る。


「カルマ様、これは頼み間違えたんじゃ……」

「大丈夫だ。こいつなら食える。なぁ、ホームズ?」

「うん、余裕」


 割り箸を割ってホームズは美味しそうにかつ丼を食べ始める。見てる方が笑顔になりそうなほどの食べっぷりで、ゼニガタも食欲を刺激されたのか同じものを頼み食べ始める。

 そしてあっと言う間に食べ終わり、今はデザートのアイスを食べている。


「そういえばセンシさんはどこに行ったの?」

「今頃気付いたんか……。将軍の守りにつかせたわ。犯人は将軍を殺そうとした。でも一命をとりとめ計画は失敗に終わった。せやからまた命狙われる危険あるやろ」


 今のヨシツネは意識もなく無防備同然だ。仮に意識を取り戻しても魔術を使えず、怪我のせいで前の時間軸で見たような神速の剣術も使えないだろう。

 再び狙われれば死は確実だ。

 そうならないために犯人を急ぎ捕らえる必要がある。ホームズはデザートをさっさと食べて立ち上がる。

 まさかもう仕事を再会するのかとカルマたちも急いで昼食を口に運ぶ。


「じゃあそろそろ僕は捜査に戻るよ。次は城下で聞き込みでもしようかな」

「おうおうホームズちゃんは仕事熱心やな。でも朝から動き続けて疲れたやろ。それはわしらがやっとくから、ホームズちゃんは少し休んどき」


 ゼニガタは素直にホームズたちの心配してくれているようだった。ここで動けば彼らを信用していないということになるため、ホームズは諦めたようにため息をつき席に着く。

 何時まで休憩しようかとホームズは金時計を取り出して時間を確認する。


「時計ならあそこにあるぞ」

「ん? ほんとだ。……あれ?」


 ホームズは自身の金時計と厨房上の壁にかけられた時計を交互に見る。金時計の時間は十一時二十八分。食堂の時計は十一時二十三分。五分だけずれていた。

 金時計は別名魔力時計とも呼ばれ、大気の魔力を吸収し、内部に備わった水晶を振動させて正確な時間を割り出している。世界の標準となる時計であり時間を間違うことはない。


「助手くん、あの時計時間ずれてるよ」

「おかしいな。魔力時計だからずれないはずなんだが」


 カルマは梯子を借りて時計の時間を直そうと直接針を動かそうとする。

 この時計は正確な時間を刻めるが、誰かが針を動かせばずっとずれたままなのだ。

 梯子を登ろうとするカルマを見て、何かに気づいたホームズは慌てて後ろから抱き着く。


「待った! 助手くん、ゼニガタさん呼んできて。それとさっきの現場に向かおう」

「お、おう」


 急に抱きしめられたカルマは顔を真っ赤にする。さっきまで時計の時間を直そうとしていたことも忘れ、頭が真っ白になった。恥ずかしさのせいでホームズの顔を直視できず、彼は逃げるように食堂を出て行った。

 カルマが去りホームズは不敵な笑みを浮かべている。それを見たトモエは首をかしげる。


「どうかしたんですか?」

「僕の勘が正しければ、まだ将軍の無実を証明する証拠があそこに残っているはずだ」

「本当ですか⁉」


 静かな食堂で大声を出したせいでトモエは周囲から注目を浴びる。しかしそれが気にならないほど、彼女の表情は明るかった。


 それから数分後。カルマがゼニガタを連れて食堂に来た。彼は満面の笑みでホームズの両肩をつかみグラグラと揺らす。


「犯人わかったんか! 誰や!」

「ま、まだだよ。でも将軍の無実を晴らせるかもしれない。この城にはさ、時計があんまり置いてないそうだよ」


 揺さぶられながらホームズは何とか言葉を紡ぎだす。カルマたちは彼女の言葉の意味がわかってないようだが、ゼニガタは何かに気づいたように怖い笑みを浮かべる。


「そういうことか。鑑識はそこの時計と梯子の指紋調べぇ。あと食堂の奴に聞き込みや」


 ゼニガタはホームズの言葉の意味を理解して周囲に指示を出す。

 何かここにあると理解した彼の部下たちはいっせいに行動を開始する。


「そんでホームズちゃん。指紋がでぇへんかったらどうするんや? 指紋を残すようなへませぇへんと思うけど……」

「ここで捜査をしたという事実が大事なんだ。これを知った犯人は今頃内心慌てているだろう。僕たちはさっきの現場に戻ろう。銃創のトリックが解明できた。たぶんまだ物証が残ってるはずだ」

「ほぅ。ほな行くか。アカメの推理楽しみや」


 上機嫌なゼニガタがスキップをしながら食堂を出ていく。もしこれで見当違いなことを言えばどうなるかわからない。

 そんな重圧に負けず、ホームズは自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら後に続いた。

 そしてすぐに先ほどの将軍が見つかった現場につく。ホームズはそこで下ではなく上を見て何かを探していた。血痕付近の木をしばらく見上げていると彼女は笑みを浮かべる。


「助手くん。この木の上に行きたいから手を貸してくれ」


 とりあえずカルマは自身の手を重ねて足場を作る。そこにホームズは足を乗せてカルマに上にあげてもらう。枝に届けばもう大丈夫だ。ホームズはするすると上へ登っていく。


「猿みたいだな……」

「誰が猿だ! ていうか上見るな変態!」

「す、すまん。ていうか誰が変態だ!」


 ホームズは今ローブをまとっているとはいえ、その下はスカートだ。上を見られれば下着が見られてしまう。

 顔を赤くて怒鳴るホームズにカルマは慌てて視線を逸らすが、変態扱いされてホームズをにらむ。だが彼女は何かを見つけたのか嬉しそうに微笑んでいた。


「やっぱりあった。助手くん、将軍が撃たれた場所に立ってくれ」


 変態扱いされたカルマはとぼとぼとヨシツネが撃たれたと思われる場所に立つ。そしてホームズはそこから写真を数枚とった。枝の上から見える景色と足場の写真を。


「ゼニガタさん、ここらへんで硝煙反応が出ると思うから調査をお願い」

「おう。任せとけ。そんでそこから降りれそうか?」


 山育ちのホームズにとって木登りは日常だ。降りることなど造作もない。

 だがここで事件が起きた。枝がバキバキと音を立てて折れてホームズは足を滑らせたのだ。態勢を整える前に地面に落ちるだろう。来る痛みに目をつむる。だがいつまでたっても痛みが来ないのでホームズはゆっくりと目を開ける。


「けがはないか?」

「あ、ありがと」


 膝の裏と肩を固い手で抱きしめられている。ホームズはカルマにお姫様抱っこをされていた。すぐ近くに彼の顔があってホームズは恥ずかしそうにお礼を言う。

 優しく地面に降ろされてホームズはしばし呆ける。だがすぐに我を取り戻し、ゼニガタに先ほど撮った写真を見せた。


「ほぅ。こりゃええ証拠や。ついでに再現実験して被害者についた残渣反応とか確認するのもええかもしれんな」

「うん。この距離から撃たれたなら服にも多量の発射残渣が出るはずだ。あと地面にもね」


 不気味に笑うホームズとカルマは真実を暴くヒーローというより、悪事をたくらむ悪役のようだった。


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