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第十五話 銃創

 ヨシツネに撃ち込まれたと思われる弾丸の線条痕は、ホームズの銃の線条痕と一致した。


「嘘だろ。もう一度確認してくれ!」

「何度もしたさ。でもほとんどが一致した。そっちの鑑識さんも確認してくれ」


 ホームズの言葉が信じられないカルマが彼女の肩を掴み揺さぶる。ホームズも信じたくはなかったのか、その顔には怒りよりも困惑が見える。

 彼女にとってヨシツネは幼少期から宝剣祭で見た尊敬すべき人物だ。そんな彼が両親や村人、城下の人を殺害したと思いたくなくなかった。

 だから自分の鑑定が間違いだったと願いを込めて鑑定に銃弾を渡す。しかし彼らの答えも一緒だった。

 血痕と被疑者の倒れていた位置、そして銃弾からヨシツネは白面だと答えが出てしまった。


「認めてたまるか……。まだなにかあるはずだ」


 帽子のつばを掴みホームズは必死に無実になりうるヒントを今までの記憶から探す。

 思い出すのは前の時間軸のことだ。ヨシツネはカルマを信じていたと悲痛な表情で語っていた。そんな彼が犯人の可能性は低い。もし犯人なら役者になれるだろう。

 いっそもう一度やりなおしてしまおうかとホームズは考える。戻るのは昨日の事件発生時刻だ。

 しかし過去が変わることでさらに悲惨な未来が待っているかもしれない。今度は誰かが死ぬかもしれない。

 葛藤しているとカルマが彼女の両肩を掴んだ。ホームズははっとして顔を上げる。


「どうかしたの?」

「いや、なんかお前が遠くに行ってしまいそうだったから」

「気のせいさ。探偵が事件を放り出してどこかに行くわけないだろ。この状況だって犯人が将軍に罪を着せるために作った現場かもしれない」


 勘がいいカルマに一瞬驚くもホームズは死に戻りの選択を除外する。

 すると拍手が響く。手を叩いていたのはゼニガタだ。


「わしも同意見や。なにより将軍には辻斬りをする動機がない。この現場かてうまく出来すぎとるわ」


 わずかに怒りをにじませた表情で、ゼニガタは膝を曲げて地面の血痕をなでる。彼も将軍に仕える身で、この状況を見てもヨシツネが犯人ではないと信じているのだろう。

 立ち上がった彼は手のひらが切れるのではないかというぐらい強く拳を握った。


「真犯人がどこかにおるはずや。ホームズちゃん、わしらはもう一個の証拠の妖刀を探す。お前らは診療所に行って銃創がある奴来たか確認してくれや」

「わかった。でもその前にそっちがつかんだ情報をこっちにも提供してほしい」

「そういうことならええで。ほれ、持ってき。でもあとで絶対返してや。でないとわしの首が飛んでまう」

「ありがとう。必ず返すよ」


 ゼニガタは捜査手帳をホームズに渡す。どうやら彼女のことを認めたようだ。

 彼に感謝しながら二手に分かれる。

 犯人はカルマに撃たれて体のどこかに銃創があるはずだ。もし見つけることができれば容疑者になりうる。

 診療所の場所を知らないので案内はカルマに頼み、トモエも一緒にいる。

 ホームズはその間借りた手帳の中身を確認する。


 初めの数ページはセンシの事情聴取の結果が記されていた。

 ホームズが襲われた時刻は将軍と共に天守閣最上階で仕事をしていたらしい。それは給仕が菓子を持ってきて確認済みだ。事件発生二十分前に部屋を抜けて、給仕のものも含めて三人分のお茶を入れに部屋を出て、犯行時刻は食堂にいたらしい。しかし銃声が聞こえてすぐ将軍の安否を確認しに急いで部屋に戻ったが、そこに将軍はいなかった。部屋にいた給仕によると酒の酔いを醒ましに外に出たようだ。

 そして捜索隊を使い、先ほどの場所で重傷を負ったヨシツネをセンシが見つけたらしい。

 発見時彼は血で染まった黒いローブをまとっていたようだ。


「おかしな点はないか……。ねぇ助手君、トモエの部屋から天守閣最上階までだいたい何分ぐらいかかる?」

「どれだけ急いでも十分だな。屋根伝いなら五分ぐらいで行けるだろうが」


 ここに長年住むカルマなら正確な数字だろう。犯行を終えてすぐ部屋に戻るならもっと時間がかかるはず。

 だが彼は銃声が聞こえてすぐに部屋に戻ったというアリバイがある。そのため彼は犯人になりえない。

 なにより彼には銃創がないと手帳に書かれている。

 それからしばらく歩くと城外にある木造二階建ての診療所についた。

 中に入り呼び鈴を鳴らすと、奥から可愛らしい女性の声が聞こえてきた。現れたのはホームズと同じぐらい低身長の赤髪の女性だ。


「あら姫様とカルマ様じゃありませんか。あなたはホームズちゃんね。私は医療部隊棟梁のレンゲよ。話は聞いてるわ。怪我でもした?」

「いえ、ケガではないです。ちょっと話を聞きたくて。昨日夜から今までで銃創の治療に来た人はいますか?」

「ああ、それなら一人いるわ。こっちよ、ついてきて」


 まさか今いるとは思わずカルマとトモエは緊張した面持ちだ。

 しかしホームズは自然と笑みがこぼれる。真犯人を暴き、捕縛できるかもしれないからだ。

 高鳴る心臓の鼓動を抑えるように胸に手を置き、ホームズは深呼吸をする。そしてレンゲの後に続いた。

 部屋の前につき、こちらの心の準備が整う前に、レンゲは間を置かず襖を開ける。


「ミツヒデさん、お客さんだよ」


 まさかミツヒデとは思わず三人はぎょっとする。


「なっ! 皆さまなぜここに?」


 部屋の中にいたのはミツヒデだ。包帯を変える途中だったのか、現れたホームズに驚愕し、慌てて傷口を隠す。

 わずかに見えた左肩の傷口は縫われているが銃創だろう。他にも火傷痕や切り傷、完治した銃創が体のいたるところにある。

 しかし白面である証拠となる左手の十字傷はなかった。

 まるで着替えを見られた乙女のような態度のミツヒデにレンゲはため息をつく。


「今更その傷だらけの体を見られて困るもんじゃないだろ」

「いえ、武士にとって傷とはいつまでも不名誉なものなので、あまり見せたくないのです」

「そういうもんか。それで何を聞きたいんだい?」


 レンゲはミツヒデの包帯を巻きながらホームズたちの方を見る。手際もよくあっと言う間に巻き終えた。


「まさかミツヒデさんも撃たれていたとは思いませんでした。その傷はやはり昨日撃たれたものですか?」

「はい。ホームズ殿や姫様を襲った者を探しているときに撃たれました」

「弾は前から左肩を貫いた。でも鎧までは貫かず止められて、ばらけた弾丸の摘出が大変だったよ」


 ベッドの横には左肩部位に穴が開いた鎧があった。穴の周囲はわずかに焼け焦げた跡があり、後ろ側は銃弾が貫通しかけたのかわずかにへこんでいる。

 レンゲの話し方から彼女が弾を摘出したのだろう。


「摘出した弾丸はここにまだあるのか?」

「あるよ。犯人への証拠かもしれないからとっておけってミツヒデがいうもんでね」


 銃弾の重要性をさっきの捜査で知ったカルマが問いかける。

 レンゲはミツヒデの横に置いてあった木箱を見せる。中には砕け散った黒い弾丸が入っていた。


「これ少し借りるよ」


 弾丸を受け取りホームズは近くの椅子に座る。眼鏡をかけて自分の弾と比べるように観察する。

 その間レンゲがお茶を用意してくれたので、ホームズは弾丸を見ながらそれに手を伸ばす。


「あっつ!」


 だが容器が熱いので反射的に手を離す。お茶がこぼれそうになるが手袋をはめた右手で茶器をつかみ、転倒を防げてほっと息をつく。


「入れたばっかりのお茶が熱いのは当たり前だろ」


 カルマたちはお茶が少し冷めるのを待っている。


「お茶は熱いものがいいのです。レンゲ殿のお茶は相変わらず素晴らしい」


 一方ミツヒデは熱さを気にせずおいしそうにお茶を飲んでいる。

 時計の針だけが進み数十分。ホームズは眼鏡を机の上に置き大きくのびをする。

 トモエは結果がどうなのかと緊張した面持ちでホームズの言葉を待つ。


「これは僕の部屋に撃ち込まれた弾丸の線条痕と一致した。つまり白面が撃ったものだ」

「ミツヒデの疑いは晴れたのですね。良かったです」

「え? 拙者疑われていたのですか?」


 まさか自分が疑われていたとは思わずミツヒデは驚く。

 だが薄々彼が犯人ではないとホームズは思っていた。彼がカルマに撃たれた白面なら弾丸を残すへまなどするわけないからだ。

 ここに残っていたらホームズの銃の弾丸と線条痕が一致し彼が犯人ということになる。そんな馬鹿が犯人なら四年前に捕まっているはずだ。


「あ、ついでなんだけどミツヒデさんは昨日犯行時刻は何してたの? 探偵としての性でね、参考人の事情聴取はしておきたいんだ」

「どうせ部下と酒盛りでもしてたんだろ。運び込まれたとき酒臭かったからね。そのせいでえらく出血したよ」

「はい。もうすぐ宝剣祭なので部下たちの気合を入れようとしてました」


 まさか当てられるとは思わずミツヒデは恥ずかしそうに後頭部をかく。

 城下に辻斬りがいるのに何をしているんだとカルマは呆れたようにため息をつく。

 そしてホームズは借りた弾丸を彼に返そうとする。


「それはホームズ殿が持っておいてください。我々では辻斬りを捕えることができませんでした。でもあなたなら奴を捕えることができると拙者は信じています。どうかヨシツネ様を傷つけた報いを奴に……!」


 ミツヒデは顔を伏せ悔しそうにベッドのシーツを掴む。

 自分どころか守らなければならない人を守れなかったのだ。武士としてそれがたまらなく悔しいのだろう。


「任せてくれ。だって僕はアカメの探偵だからね。じゃあゼニガタさんに合流しようか。行くよ二人とも」

「それではお大事に」


 一人容疑者がいなくなったことに安心したホームズは、外に出て大きく伸びをする。すると彼女の腹が可愛らしく音をたてた。

 顔を赤くして振り向けば、ニコニコ顔のトモエと気まずそうに顔をそらすカルマがいる。


「そういえば朝から何も食べてないですね。食堂に行きませんか?」

「そ、そうだね」


 年上としての威厳をなくしたホームズはこくりとうなずく。

 まだ恥ずかしさが残っているのかホームズの顔は赤く、帽子を深くかぶっている。

 するとやけに警備が厳重な蔵が視界に入りホームズは足を止める。


「あの蔵は何があるの?」

「あれは武器庫だ。昨日の一件もあって警備を厳重にしたようだな」

「ふーん……」


 周囲に建物はなく見晴らしはいい。しかも天守閣のすぐそばで侵入しようと考える人はいないだろう。

 何か引っかかるが空腹のせいで頭が回らない。また腹が鳴ったので門番の人ににらまれる。ホームズは恥ずかしそうに顔を伏せカルマのマントをつまむ。


「早く食堂に行こう。頭が回らないし」


 警備員に会釈をしてそそくさとホームズたちは食堂に向かう。

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