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第十二話 暴かれた名探偵

 ホームズの意識は約一時間前の魔法書を書き終えた時間に戻る。目の前に窓枠から覗き込む月が見える。

 彼女は机の上に置かれた銃を手に取ると突然外に向けて二発発砲した。


「貴様まさか?」


 前の時間軸ではこのあとすぐ襲撃を受けた。この時間軸でも同じように襲撃されると予想し、ホームズはいち早く周囲に知らせるため発砲したのだ。

 やはり白面は後ろにいて彼の驚いた声がホームズの耳に届く。

 後ろを振り向けば前の時間軸と同じように白面がいた。


「お前さては戻ってきたな」

「銃に反射するお前の姿が見えただけだよ。すぐにカルマたちが来る。逃げ道はないぞ白面。無駄な抵抗はやめて投降しろ」


 部屋の外からはカルマたちの足音が聞こえる。逃げ道をふさぐためにホームズは窓際に立ちふさがる。

 銃を突き付け、何か白面が不審な動きをすれば迷わず引き金を引くつもりだ。


「何があったホームズ! 誰だお前⁉」


 前の時間軸と同じようにカルマが現れる。

 その瞬間、白面はホームズに向けて駆け出した。舌打ちをしながらホームズは発砲する。

 殺さぬよう機動力を奪うため足を狙ったが白面は神速の抜刀術で銃弾を切り伏せる。


「四年前の続きを始めよう」


 前の時間軸と同じ言葉を吐きながら白面はホームズの横を通り過ぎる。

 すぐに振り返り再び発砲しようとするが、ホームズの頬を何かがかする。そして背後の柱が砕ける音が響いた。


「銃はお前だけの専売特許ではない」


 白面の左手には銃口から煙があがる黒いリボルバーが握られていた。

 そのまま白面は窓から飛び降り逃げて行った。

 後を追おうとカルマも窓に近づくがホームズがその手を掴む。


「警戒網は敷いておいてくれ。僕らはトモエのところに向かう。質問は受け付けないよ」

「おい! 待てって! お前ら、ホームズに言われた通り警戒網を敷け」


 指示をだしている間にもホームズは部屋を出て行く。

 指示をだしたカルマは急いで彼女の後を追った。


「いい加減説明しろ。何が起きてるんだ」

「この混乱に乗じて白面はトモエを殺すつもりだ。急ぐよ」

「なんだと⁉」


 なぜ、どこでそれを知ったのかという疑問がカルマに浮かぶ。

 しかし必死な形相で走るホームズの横顔を見てカルマは何も聞かなかった。

 前の時間軸で白面はホームズたちの追跡中にトモエを殺した。今回の時間軸で白面はホームズがループしたともう察しているだろう。

 そのため計画を変更し、すぐにトモエを殺す可能性がある。

 ここでトモエが死んでいたら、母たちのときのように詰みが発生し、助けられないかもしれない。だからホームズは今度こそ助けるために必死に走るのだ。


「センシ様から誰も通さぬように仰せつかっておりますのでそこで止まってください!」


 支城の門番が止まるように忠告し武器を構える。

 白面が城内に侵入し戦えない姫の守りを固めるのは当然だ。

 しかし前の時間軸で白面はこの警備をかいくぐりトモエを殺した。ここで時間を食うわけにはいかない。


「緊急事態だ。通してくれ。トモエの命が狙われている」

「駄目です。センシ様から何人たりとも通すなと命令が出ているので」


 話が通じぬ門番にホームズは焦り眉間にしわを寄せる。

 銃を構えて脅迫でもしようかと思った瞬間。


「今現場は命令系統が混乱している。侵入者は戦闘のプロだ。側でトモエを守るように親父から指示が出たんだ。頼む、通してくれ」

「あ、頭を下げないでください! どうぞお通りください」


 カルマは頭を下げる。その横にいたホームズには彼が笑みを浮かべているのが見えた。

 そうとは知らず門番は門を開けてホームズたちを通す。

 急いで城内に入り廊下を進み階段を駆け上がる。城内も巡回する侍たちがいた。警備は強く、この中を到底侵入できるようにホームズは思えなかった。


「きみもなかなかの悪だね」

「俺があそこでやらなければ強行突破してただろ?」

「よくわかってるじゃないか」


 話しながらも階段を駆け上がり、ついに最上階のトモエの部屋の前につく。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 前の時間軸と同じようにトモエの悲鳴が響く。

 襖を開けて中に入れば、さきほど逃げた白面がトモエの部屋に侵入していた。窓が開いていておそらく外から侵入したのだろう。

 白面はトモエに刀を振るおうとしている。

 銃を撃とうにも白面の間とホームズの間にトモエが立っている。発砲すれば彼女が被弾する可能性がある。

 だからホームズはトモエを守るために彼女の両腕を掴み押し倒すように攻撃を避ける。

 そのとき白面の斬撃がホームズの左腕をかすめた。


「ちっ! 愚かなことを。今日は引くか」


 彼女を斬るつもりがなかった白面は刀を下ろし再び窓から逃げようとする。


「待て! 逃げんな!」


 カルマが床に落ちたホームズの銃を拾い窓から身を乗り出して発砲する。

 全弾撃ち尽くし撃鉄がカチカチと音を立てる。そして白面は暗い森の中に落下していく。


「急いで捜索隊を出せ。相手は負傷しているはずだ。血の跡をたどれ。急げ!」


 駆け付けた侍たちにカルマは指示をだす。

 侍たちが去ったあと、カルマは悔しそうな顔をして拳を握り壁を殴る。

 ムサシで大勢を殺し、さらにホームズの両親を殺し、ホームズも傷つけた辻斬り。それを目の前にいたのに逃がした自分の至らなさが悔しいのだ。


「その傷……。私のせいで申し訳ございません」

「かすり傷だよこんなもの。君の命に比べたら安いものさ」

「でも……」

「大丈夫。大丈夫だから。よく頑張ったね」


 助かったとはいえ殺されそうになった恐怖はまだ残っている。さらに自分をかばって傷を負ったホームズを見てトモエは瞳を潤ませる。

 ホームズが斬られたのはただの刀ではなく妖刀だ。どんなかすり傷でも三度斬られれば死に至る。ショックを受けるのは当然だ。

 ホームズの言葉にトモエは幼子のように泣き出してしまいホームズに抱き着く。 

 見た目はホームズの方が年下だが、実際は彼女の方が年上だ。左腕の痛みを我慢してあやすようにトモエの頭をホームズはなでる。


「すまないホームズ。俺が動けていたらこんなことにはならなかったのに」

「君まで泣きそうな顔するなよ。とにかく傷の手当てをしたいから道具を頼むよ」

「わかった。すぐに手配する。行くぞトモエ。お前なら治療道具の場所ぐらいわかるだろ?」

「え? それは……わかりました。ついてきてください」


 ホームズから何かを感じ取ったカルマはトモエの肩をたたき案内を頼む。

 トモエも兄の表情から何かを感じ取ったのか、兄に手をひかれ部屋を出て行った。

 部屋の中はホームズだけとなった。人の気配が完全に消えたのを確認してホームズは緊張の糸が切れたのか大きく息を吐く。

 左手の震えをおさえるように右手で押さえる。


「あと一回か……。僕は大丈夫。勇者の血を引いてるんだ。大丈夫だ」


 ホームズは母の形見のリボンをほどき右手で握り締める。

 髪は生来のブロンドヘアに戻り瞳は赤く変化する。

 恐怖を勇気でごまかし必死に自分を落ち着ける。心拍数が安定化したところでホームズはカルマたちが戻る前にリボンを結びなおそうとする。


「ホームズ、傷薬とか色々持ってきた――誰だ?」

「どことなくお姉さまに似ている気がします」

「は? お姉さま?」


 正体がばれたという驚きよりも、急にトモエにお姉さまと呼ばれたホームズは声をだしてしまう。

 その声を聞いてトモエは驚いたように口元を覆う。


「カルマ様! 警戒網を徐々に狭めましたが白面を発見できませんでした! ミツヒデ様が腹を斬らせろと言ってます!」

「いつの時代の話だ! そこまでせんでいい! 報告はあとで聞くから警戒を維持しろ!」


 階段を上がってきた侍が報告に来る。ホームズからは見えないがカルマは瞬時に状況を理解し、これ以上目撃者が増えないように新たな指示を出し追い払う。

 そして室内にトモエを押し込み、自分も周囲を確認して中に入り襖をぴしりと閉めた。


「ホームズなんだな?」

「その姿も大変綺麗ですお姉さま。昔読んだアカメ伝説に出てくる勇者のようです」


 カルマの疑問に無言でうなずく。その間トモエが消毒をして傷口に治癒魔術をかける。すぐに傷口は少しずつふさがり完全になくなった。

 その間トモエはなぜか頬を染めてホームズのブロンドヘアを手でなでていた。

 アカメと聞いてホームズはびくりと震え髪を縛りなおす。するとさっきまでの黒髪と黒い瞳に戻った。

 その様子をじっとカルマは観察していた。


「伝説の一つにあったな。アカメは世界を救ったあと町娘に恋をして辺境の村で過ごしたと。俺が何度もトモエにガキの頃読み聞かせた話だ」

「な、なにが言いたいのかな?」


 どうやらホームズは探偵のくせに追い詰められたらぼろを出すようだ。

 汗を流し目は泳いでいる。


「お前アカメの子孫だろ。そんな血のように赤い人間は今まで見たことがない」

「くっ! それを知って僕を脅す気か?」


 ホームズは涙目でカルマを見上げてにらむ。

 まるで悪者のような扱いを受けているようでカルマはため息をつく。


「そんなことしねぇよ。俺をなんだと思ってんだ。正体を隠してるってことはばれたくないんだろ? 墓まで持ってってやるよ」

「……ありがとう。助かるよ」

「ふん! 勘違いするな。トモエを守ってくれた借りを返しただけだ」


 しばし疑いの目を向けるがホームズは彼を信じることにした。

 素直ではないカルマにホームズたちはきょとんとする。

 顔を見合わせるとくすっとほほ笑んだ。

 カルマはなぜ二人が笑うのか意味がわからず首をかしげている。和んでしまった空気を変えるため彼はわざとらしく咳ばらいをする。


「それでこれからどうするんだ? この暗さじゃ状況証拠とか探しにくいぞ」

「でも僕が襲われた場所の検分はしたいし……」

「あの部屋には誰も入らないよう見張らせてある。奉行所の連中も来るからお前らはもう下の客室で休め。あと護衛しやすいよう固まっておけ。俺も一応外で待機しとくから」


 手練れのカルマが直接守ってくれるならありがたい。しかしホームズは検分を済ませたいのか周囲を見渡す。

 するとトモエがホームズの袖を引っ張った。


「お姉さまが休まないなら私も休みません」

「さっきから思ってたんだけどそのお姉さまってなに?」

「颯爽と駆け付け私を助けてくれたからです。それに……」


 トモエはちらっとカルマの方を見る。


「お似合いですよ。さぁ行きましょう」

「何が? 説明になってないよ。ねぇ!」


 意味深な言葉を残して、ろくな説明もせずトモエは強引にホームズの手を引く。

 探偵のホームズも恋愛ごとには疎いようだ。

 そして下に用意された寝室に行くと、トモエはホームズの体幹を崩し布団に寝かせた。アカメに所属するホームズもびっくりの早業である。

 そのすぐ横にはぴたりとトモエの布団が敷いてあり彼女もすぐ横になる。手を握られ逃げることもできない状況だ

 ため息をついたホームズは天井を見上げる。


「助手くん。明日太陽が昇ればさっそく検分を始める。護衛は任せたよ」

「あぁ。任せておけ」


 寝室の外からカルマの声が聞こえる。

 どっと疲れが押し寄せホームズはそのまま眠りについた。


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