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第十話 光と影

 午後六時。城に戻るまでもう少しというところで強い雨が降ってきた。仕方なく二人は近くの寺で雨宿りしている。

 階段に腰を下ろしホームズは今日の出来事を魔法書に記している。カルマが犯人ではないという証拠や犯人への手がかりを手に入れることができたからだ。


「ホームズ、迎えがきたぞ」


 カルマの声を聞いてホームズは顔を上げる。

 そこには傘をさす桜色の浴衣をまとった美少女がいた。赤い長髪は一部を花がついた串で後頭部でまとめている。

 手には二人分の傘を持っていた。


「もう少し遅く来たほうがよかったですか?」

「いやちょうどいいぐらいだった。ありがとう。紹介は必要か、名探偵?」

「紅蓮の姫君トモエ・タケダだろ? その可憐な容姿から他国の貴族や王族からよく求婚を受けるそうじゃないか」

「か、可憐だなんて恥ずかしいです」


 トモエは顔を赤くして頬に手を当てる。その動作も愛らしく、同性のホームズも不覚にもかわいいと思ってしまった。


「そういえばなんで姫様は僕らがここにいるとわかったんだい?」

「あぁ、それはあそこの支城がトモエがいる場所だからだよ。ここからたまたま目立つ赤髪が見えたんで合図を送ったんだ」


 カルマの指さす先には天守閣より小さい支城があった。

 ムサシの中心にそびえる天守閣には三方にそれぞれ天守を囲むように支城があり、支城同士はそれぞれ渡り廊下でつながっている。

 ホームズたちのいる場所の数百メートル先にはトモエの支城がある。


 カルマは魔術で指先に光の玉を作り出し左右にゆらゆらと揺らす。それで城にいたトモエに傘を持ってくるよう頼んだようだ。

 傘を受け取りホームズは開く。小さな体にはやけに大きい傘だが、服がこれ以上濡れる心配はないだろう。


「そういえばお前護衛はどうした?」

「すぐそこなので断ってきました」


 城下町には現在凶悪な辻斬りがいる。それにも関わらず護衛もつけないトモエにホームズとカルマはため息をつく。

 なぜ二人がため息をついているのかわからずトモエは首をかしげた。

 するとホームズの腹がまた音を鳴らした。顔を真っ赤にして腹をおさえるホームズを見てトモエは口元に手を当ててほほ笑む。


「あらあら。それじゃあ今日は私が腕によりをかけて作りますね」


 恥ずかしさのあまり何も言えないホームズはこくりとうなずいた。

 すぐ横で笑いをこらえるのに必死なカルマを小突くぐらいの余裕はあるようだが。


 それから三人は天守閣の南西側に位置するトモエの支城に向かった。作りはカルマがいた城の作りと同じだが、色々改造して天守閣にもない屋根付きの露天風呂がある。

 とりあえず雨に少し濡れたので夕食を待つ間に入浴することになった。どうせならとトモエが一緒に入ろうと提案してきたが、正体がばれる危険もあり適当な理由をつけ断った。

 今ホームズは露天風呂に一人だ。リボンもほどき本来のブロンドヘアと赤い瞳に戻っている。


「なぁホームズ、現状怪しい奴って誰かいるのか?」


 隣は男湯でカルマの声が聞こえてくる。


「うーん、まだなんとも言えないかな。独自に捜査しているきみはどうなんだい?」

「俺もまだ何もわかんねぇよ。でも俺に恨みがあることはなんとなく想像つく」

「何か恨まれることした?」

「さぁな。身に覚えがねぇ」


 犯行時刻は夜で被害者発見まで時間が経過している。それなのに犯人の目撃情報があるのは不自然だ。誰かが噂を流したのだろう。例えばカルマに恨みがある犯人が。

 気づけば夕立は止んで雲の切れ目に夕日と沈みゆく太陽が見えた。

 ここで考えていてものぼせるだけだ。ホームズは風呂から上がる。

 髪を乾かし今度は宴会場に行く。城の者が集まれるようかなりの広さでそこにはもうトモエがいた。他にも家臣たちが二十人ほど集まり、もうかなりにぎわっている。


「へぇ、急な宴だってのにこんなに集まるとは。さてはあらかじめ企画してやがったな」

「最近辻斬り事件で皆疲労がたまっているようなので、そのねぎらいをしたいと姫様が声をかけたようです」


 ホームズたちのすぐあとにヨシツネとセンシも来た。

 皆がそろったところでこの宴会を企画したトモエが注目を集めるように手をたたく。


「皆さん今日はお集まりいただきありがとうございます。今日は日頃頑張る皆様のために私たちが腕によりをかけて色々作りました。ぜひ疲れを癒してください」


 トモエの合図で皆まってましたと言わんばかりに食べ始める。

 ホームズも魚の天ぷらを口に運ぶ。


「おいしい……」


 思わず感想が漏れ出てしまうほどの美味しさだった。


「お口に合ったようでなによりです。おかわりもありますよ」

「ほんと⁉ やったー!」


 何気なしに言った言葉だがトモエはすぐに思い知ることになった。この中で一番小さいのに誰よりもおかわりして色々平らげていく探偵の胃の大きさを。

 トモエだけでなくヨシツネや彼の家臣たちが驚く。


 それからお開きになりホームズは渡り廊下で月を眺めている。

 すぐ隣にはカルマが酔いを醒ますため涼んでいた。

 すると酒瓶を持った赤い顔のヨシツネが現れた。千鳥足でもうかなり酔いが回っているようだ。その後ろにはセンシが控えている。


「センシに聞いたぜ。カルマの潔白を証明してくれたらしいじゃねぇか。ありがとよ」

「礼なんていいですよ。それよりもあなたに聞きたいことがあるんです」

「なんだよ」


 ホームズは先ほど拾ったミタマの欠片をヨシツネに見せる。

 隣にいるカルマも父がどんな反応をするのか興味があるようだ。さっきまで今にも吐きそうな表情だったのに真剣な表情になる。


「これは今日辻斬り事件が起きた現場にあったミタマの欠片です。でもおかしな点がある。カルマの妖刀には欠けた形跡がないんですよ。ヨシツネさん、妖刀って二振り目があるんじゃないですか?」


 ホームズの疑問にヨシツネの雰囲気が変わる。酔った姿は演技だったようだ。

 それほどの威圧感が彼から発せられたのだ。

 髪を揺らす風が吹いたかと思うと、ヨシツネはいつの間にか左手に抜き身の刀を握っていた。首筋に刀を向けられてから、やっと命の危機が迫っていることにホームズは気付く。


「何やってんだよ親父!」


 さすがにカルマの酔いも覚めて眉間にしわを寄せてヨシツネに怒りを向ける。


「お前は黙ってろ。おい探偵、その話誰かに話したか?」

「カルマにだけ話したよ」


 嘘をつけば殺されそうな雰囲気なので、ホームズは冷や汗を流しながら正直に話す。

 しばし沈黙が流れ、ヨシツネは刀を鞘に戻しため息をつく。


「カルマ、お前が持ってる刀は真打ちと呼ばれるものだ。刀鍛冶ってのは刀を打つとき複数打つんだよ。一番出来がいいのは依頼主に、真打に及ばねぇ影打ちってやつは昔神社に納めたんだよ」

「なんで今までそれを黙ってたんだよ」

「お前が正式にムサシの守護将軍になったら話そうと思ってたさ。でも辻斬りが発生した同時期にミタマを納める神社から影打ちが盗まれたって連絡が来た。お前に心配かけねぇよう内密に処理しようとしたが結果はこの様だ。黙ってて悪かったな」


 ヨシツネは手すりにもたれて酒を飲む。その表情は辛そうで彼なりに何か葛藤があったのは確かだ。

 簡単に人の命を奪える妖刀の二振り目があると知られれば悪用される危険がある。だから次期将軍が妖刀の担い手にふさわしいか、秘密を守りぬくにふさわしいかを時間をかけて見定める必要があった。

 しかしここで疑問が残った。


「本当に妖刀は二本だけなのですか?」

「俺がまだ何か隠し事をしていると疑っているのか?」

「……はい。私の両親は四年前ミタマに斬られて殺されました。そのときはまだあなたがミタマの担い手で、神社にももう一本が奉納されていたはずです」


 先ほどホームズは自身に復讐の炎がくすぶっていると漏らしていた。それを聞いていたカルマは詳しくは聞かなかった。

 しかし事情を知ってしまったカルマは言葉を失う。

 一方その話を聞いたセンシは何かを思い出したように表情をはっとさせる。


「もしやスカーズによる惨殺事件ですか? でもミタマを持っていたなんて情報は伝わってませんが……」

「アカメが情報操作したんですよ。それでヨシツネさん、何か知ってますか?」

「いや聞いた事ねぇな。でもミタマが打たれたのは千年前だ。記録に残ってねぇのかもしれねぇ。一応こっちで調べとくからお前は辻斬り事件をどうにかしてくれ」

「わかりました」

「じゃあ頼んだぜ」


 そういって手をひらひらと振ってヨシツネは、センシを連れて天守閣の方へ戻っていく。

 残ったのはホームズとカルマだけだ。どう声をかけていいかわからず、カルマはホームズの顔を見ることができない。将軍家の妖刀が自身の無実をはらしてくれた恩人の家族を奪ったショックが大きいようだ。

 するとホームズが優しい笑みを浮かべる。


「そんな悲しい顔をしないでくれ。君が悪いわけじゃない」

「でもこんなものがあったからお前の家族やこの国の人たちが!」

「あぁ、でも僕らには悲しんでいる暇なんてない。悲しむのはこれが終わってからだ。いいね?」


 一番悲しいのはホームズのはずだ。しかし気丈に振る舞い、むしろ他者を励ます彼女を見て、カルマは気持ちを切り替えるように自分の頬を叩き力強くうなずく。

 それに満足気な表情をしたホームズは突然大きなあくびをした。


「今日は捜査を切り上げてまた明日にするか。部屋は俺の支城にあるからついてきてくれ」

「うん。お願い」


 いつもならもっと何か話しそうだがホームズの返事は短い。目元をこすりもう起きているのも限界なようだ。

 それからカルマに案内され彼の支城に用意された寝室についた。

 一人部屋にしては大きく、もう布団が敷いてある。部屋の奥には窓があり、その前に机と座布団がある。隅にはあらかじめ運んでもらった武器と服が置いてあった。


「俺は二つ上の部屋にいるから何かあれば呼べ。窓から呼んでくれてもいい」

「わかった。じゃあ明日も頼んだよ助手くん」


 それからカルマは自室に戻る。武器の整備後、ホームズは座布団に座り机に魔法書を広げる。

 そして今日のことを記した。カルマに会ったことや辻斬り犯の残した妖刀の欠片を拾ったこと。美味しい食事を食べたことなどを記した。

 全てを書き終えたホームズは筆をおく。明日はどこを捜査しようと考えていると。


「久しぶりだな、ホームズ」

「うぐっ! お前は!」


 突如後ろから背中を踏まれ縄で首を絞められる。

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