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追放領主のスローな異世界旅暮らし ~悪人扱いされた善人貴族は自由気ままな旅に出る~  作者: ケンノジ


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新しい町と料理人


 ベルベルの町は、三方が山に囲まれており、そのおかげでこの季節になると山の幸がよく採れる。キノコ類や栗、柿など様々な食べ物が市場に並んでおり、ククルが物珍しそうに立ち止まるので、栗の甘煮を四つ買った。


「あまっ。うまっ」


 器にある甘煮をさっそく口に入れたククルは、目をキラキラと輝かせてホクホク顔で咀嚼する。

 私も一口食べて、甘味と栗本来の甘みを楽しんだ。


「仕立て屋がいいのかな。それとも生地のお店?」


 本気で私の上着を売るつもりのククルは、通りを歩きながらあちこちを見回した。

 私の着替えは手持ちで足りると思うが、先のことを考えると、まだこの恰好のままでいいのではないかと思ってしまう。


「たっか」


 市場に並んでいる品物の値札にククルが思わず反応する。

 フジタケを見て言っており、目がくらむような値段がつけられていて、とてもではないが旅の途中で買うようなものではなかった。


 一本で銀貨五枚。人差し指程度の大きさでこれだ。

 店先に並べているものはとても綺麗だが、あれはおそらく客寄せの展示品。買うとなると、別のものが奥から出てくるのだろう。


「フジタケですから、そういうものです」

「そ、そうなんだ……」


 高級食材の価値がわからなそうなククルは、小難しそうに首をかしげていた。

 店を通り過ぎると、後ろからフジタケを買い求める声がする。


「八つください」


 思わずククルが後ろを振り返って「買う人いるんだ……」とちょっとした衝撃を受けていた。


「今が旬ですから」


 補足して私も後ろに目をやった。

 そこには、コック服に上着を羽織り、調理場から急いでお使いに来たような恰好をしている料理人がいた。


 誰かと思えば、コーディだった。

 コーディは、一時期私の屋敷で料理人見習いをしていた男性で、私より一〇歳ほど下だ。


「銀貨四〇枚ね」

「おじさん、まとめて買ったんだから負けてくんないかなー。かなり儲かったでしょ?」

「しょうがねえな。銀貨三九枚と銅貨一〇枚でどうだ」

「おっけー、おっけー、ありがとう。それでオネシャス!」


 店主が準備をしているところに、私はたまらず声をかけた。


「コーディ」

「えっ? あ――あああ!? 旦那様!」


「よしてください。もうあなたの旦那ではありません」

「なんでこんなところに?」

「旅の途中で立ち寄ったのです」

「へえええええ。いやぁ、すっごい偶然だ」


 私たちは再会の握手を交わす。


「フクロウ君も旦那様と一緒なんだな」

「むう」


 当然だ、と言いたげにリオンが胸を張る。


「今は、仕事中ですか?」

「そうなんですよー。今の料理長がガミガミオヤジで、もう怖いのなんのって」


 フジタケとお釣りを受け取ったコーディは、あの頃と変わらない笑顔を浮かべている。


「よかったら、今日飲みましょうよ! 店、早く終わる日なんで!」

「いや……その、あまり手持ちが」


 自分の甲斐性のなさがこの一言に集約されているようで、恥ずかしくなる。


「いやいや、お店じゃなくて。俺んち来てください。作るんで」


 仕事のあとに、そんなことをさせていいのだろうかと私が迷っていると、コーディは半ば強引に私と約束をとりつけ、家の場所を大声で言いながら仕事に戻っていった。


「突風みたいな人だったね。昔の知り合い?」

「ええ。私の屋敷で料理人見習いをしていた少年です。いや、今ではもう青年ですね。ハハ。たしか二年ほど勤めて、よその町でも修行をしたいと言って屋敷の仕事を辞めたのです」

「ふーん。仲良かったんだ?」

「あの通り、裏表がない性格なので、とても付き合いやすかったのを覚えてます」


 あの頃を思い出して懐かしくなってしまう。

 料理長の下で働いていた少年だったコーディ。私が仕事の息抜きに屋敷の人目につかないところで休憩しようとすると、サボっていたコーディがいた。


 あ、ヤベって顔をしたのは、今でも覚えている。

 夕食に思いを馳せるククル。


「今日は、あの人がご飯作ってくれるんだね。楽しみだなぁ」


 彼曰く、もうすぐ仕事が終わるらしく、私たちは町を散策して時間をつぶすことにした。

 フジタケが名産だと知っていたが、現地で目にすることははじめてだったので、私はフジタケを売っている店主に色々と訊いた。


「フジタケは、どうやって採っているのですか?」

「得意なワンちゃんがいるんだよ。香りが強いだろ?」

「ああ、なるほど」


 ククルは興味なさげに目を細めていたが、ある一言で目の色を変えた。


「訓練した犬なら、フジタケを見つけ出せるのさ」

「お、おじさん、それ本当!?」

「ああ。山に入る猟師たちは、みんなフジタケのにおいを覚えた犬を連れてるんだぜ」


 目に強い生気を宿らせたククルは、ミロをちらっと見る。


「くうん?」


 ……何を考えているか、すぐにわかった。


「ミロがあのにおいを覚えたら、ガッツリ儲かる……!」

「そんなふうに横槍入れられないように、近隣の店は許可を得た人からじゃねえと買い取らねえんだよ」

「なぁーんだ。名案だと思ったのにー」


 がはは、と主人は豪快に笑った。


「ククルが覚えるというのは、どうですか?」

「僕は、半獣だからね。鼻の良さの順番は、犬、獣人、半獣っていう順番だから、半獣は純粋な人族より鼻が利く程度なんだ」


 それでミロにやらせたかったらしい。

 ミロが危うくフジタケ捜索犬にさせられるところだった。


「わふん?」


 わけがわかってなさそうなミロは(当然だが)、純粋そうな顔で首をかしげた。

 私にとってもククルにとっても興味深い町で、散策するうちに時間があっという間に過ぎていった。



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