花屋に来るお客様
私の好きな花は浜菊だ。
浜菊は、薔薇や百合のように豪華絢爛な花ではなく、どちらかといえば少し地味で道端に咲いていそうな花だ。
しかし、浜菊という花はとても丈夫だ。しかも花は長持ちする。
という、まあちょっとやそっとではへこたれない、鋼メンタルの花である。
なぜこんなマイナーな(花に失礼だけど)花を知っているかというと、私は花屋の娘だからだ。花屋なんて今どき見かけないけれど、私は正真正銘 花屋「想い花」の娘である寒咲 鈴花だ。
そして、なぜか「想い花」のお客様は問題のある…コホン、クレーマ…コホン、えー、複雑な方が多い。
今日もすごい方がいらっしゃった。
「すずちゃんおねがーい!お客様の対応してくれなーい?」
これは私の姉、愛花の声だ。姉は美人で手際よく働くが、どうもお客様の対応だけは苦手らしい。
「はーい、今行くー」
「ねえ、なんで犬を飼ってたら鈴蘭は花束にできないのよ!」
店に近づくにつれて大きな声が聞こえてきた。
「ねえすずちゃん、私には説明難しくて、お願いしてもいい?」
あーなるほど。
たしかに優しいお姉ちゃんにはちょっとこの人は対応できない…というか、相性が悪いよね。
私は目つきが鋭い。しっかりぱっちりの二重ではある。が、目力があるらしく、子ども連れの方やおじいちゃんおばあちゃんの対応には向いていない。
だけどこういう人には相性がいいのだ。
「すみません、何かお困りでしょうか?」
「そうよ!なんで犬を飼ってたら鈴蘭を花束に入れられないのよ!」
おー、またなんかすごい方だ。
優しさが全身からにじみ出てるタイプのお姉ちゃんとは対照的に、すごく木の強さが全面的に出てる感じの方だ。花で例えるなら薔薇のような。そして、びっくりするほどの美人だ。
「あの、鈴蘭には毒があることをご存知ですか?」
「え?毒?」
「はい。鈴蘭には毒があります。」
「ギャー!なんで毒のある花なんて置いてるのよ!私触っちゃったから死ぬんだわ!早く救急車呼んでよ!」
あー、うるさいなあ。ほんと静かにしてほしいわ。でもこれだとほんとに救急車呼びそう。
「落ち着いてください!大丈夫です!死んだりしませんから!」
「でも毒って言ったじゃない!」
「あの、違います!いや、毒ですけど、花とか根っことか、とりあえず鈴蘭を食べたり鈴蘭をいけてた花瓶の水を飲んだりしなければ大丈夫です!」
「え、そうなの?」
「もちろんです!!」
「あ…なんかごめんなさいね」
「いっ、いえ、大丈夫です。」
あ、なんか謝ってくれた。あんまり謝ってくれたお客様いないからちょっと嬉しい。
「ああ、だから間違って食べてしまうかもしれないってことね。」
「はい。その通りです。」
「でも、多少は大丈夫なのではないかしら?
花だし、死んだりはしないと思うのだけど。」
「いえ、鈴蘭の毒はとても強く、致死量は体重1kgあたり0.3mgと言われています。なので、小型犬の平均体重は約3kg〜4kgですから、約1gで死んでしまいます。」
「1g…少ないのね」
「はい。なので、犬や猫の口でパクッと一口食べただけでも死んでしまう可能性は大いにあります。」
「まあ…ありがとう。鈴蘭を花束にするのは諦めるわ。騒いでごめんなさいね。」
また謝ってくれた。このお客様は案外いい人なのかもしれない。大体こういうお客様は謝ってくれないし。
「あの、鈴蘭を花束に希望されてましたよね。その理由をお聞かせいただけると他の花を候補に挙げたりできますので、良ければお話していただけないでしょうか。」
「え、ああ、そうね…
鈴蘭を入れたかったのはね、私の友達のためなの。でもその子、犬を飼ってるから…教えてもらえて良かったわ。」
なるほど。犬を飼っているのは自分ではなかったらしい。
「お友達…ですか?」
「ええ、そうよ。彼女はもうすぐ結婚するんだけど、誕生月が5月なの。しかも相手は一度高校で付き合っていた人なの。一度別れたけどまた付き合い始めて結婚するの。
それで、鈴蘭の花言葉が『再び幸せが訪れる』でしょう?だから鈴蘭を入れたかったのよ。」
「それでは、フランネルフラワーとシャクヤクを花束に入れてはどうでしょうか。
フランネルフラワーの花言葉は『誠実』ですからぴったりだと思いますよ!
それに、白いシャクヤクは『幸せな結婚』という花言葉がありますから。
お客様の祝福する気持ちが十分に伝わると思います。」
「…ありがとう。あなたの言った通り、この2つを花束に入れてもらえるかしら。」
そして、そのお客様は何度もお礼を言ってお帰りになった。
何となく、また来てほしいなと思った。
「すずちゃん、ありがとう!本当に助かったわー!」
それなら良かった。
私は花屋の娘で良かったと、心からそう思った。明日からも頑張れそうだ。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
そのうち続編書くと思います。
感想もらえると嬉しいです!