3-2.あなたは誰?
この話でおしまいです。ありがとうございました。
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「あれ……ここは……」
「目が覚めた? あなたはここで力のすべてを吸い出されるの」
私の前には会長さんがいた。
「なんで……どうして……」
どうしてこんなことに。
「あなたが彼の期待に応えなかったからよ。ちゃんと治してさえいたらよかったのに」
わたし、これからどうなっちゃうんだろう。
「私これからどうなっちゃうんだろう? みたいな目してもねぇ。あなたから完全に力を奪う、それだけ」
「どう……して……」
「術さえ戻ってたら命くらいは助かったかもね。でもね? もう遅いのよ。」
後ろの方に視線を移す。その先で何か準備をしているんだろうか。
「じきにあの方が戻ってくる。あなたはそれでおしまい」
はは……ちょっと欲出ちゃったかな?
やっぱり治ってなんかなかったんだ。でもあの鐘が鳴るまでは痛みもまるでなかった。
私は胸ポケットに意識を集中させる。
……うん、入ってる。それにここに来る前より溜まってる気がする。
「何? 心臓なんか見ちゃって、もうあきらめたの? 往生際が良くていいわね」
ああ、こんな最後か。いやだな。
せめてマリさんにお礼言っておきたかったな。いい人だったし。
あとおじいちゃん。ごめんなさい、私もうすぐそっちに行くから。
「そうその表情よ。貴方で何人目かしら」
ああ……私本当にバカだ。でも後悔はしてないよ。
だって、あの時は確かに――。
「? 見間違えかしら」
胸ポケットの札が淡く光りだしたせいで、札が入ってるのがバレてしまった。
やっぱり何か仕掛けがしてあったのね。あの人、次あったら、ってもう会うこともないか。
「いったい何が――」
胸ポケットに手を入れて確認される。
「ん? 何もないじゃない。もしかして力が戻った? 急にそんなこと、ないわよね」
……ううん、確かに何かが起こった。
札が私の中に入ってきて、ヒビの所にはりついているような、ありえないけどそんな気がする。
温かい感じ……さっきまでの私の心だよね。
でもこれだけで足りるのかな。勝手に動いたってことは大丈夫なのかな。
「それにしても遅いわね。……何かあったのかしら。静かすぎるし」
確かにそうだ。あれだけ人がいたんだ。音位ならもう少し聞こえてもいいはずなのに……。
「仕方がないか。ちょっと見てくるからここでおとなしくしてな?」
そう言われても拘束されてるわけで。逃げるなんてできないです。
「少しだけ時間が伸びたわね。その間に神に懺悔でもしておきなさい」
そう言い残して会長は出て行った。
私は神を信じていないから、そんな時間いらないんだけどなぁ。
もうダメなら早く済ませてほしいくらい。
体に入り込まれた札も、コアの痛みを無くすことくらいしかできてないみたいだし。
なによ……ほんのちょっとだけ治るの期待しちゃってたじゃない。バカみたい。
……あー、早くどうにでもしてー。
……ガシャッ。
「よかった。まだ大丈夫だね」
ノーフ様じゃない、もっとずっと低い声。
「あなた……誰……」
寝かせられた状態では入口の状況はほとんど見えない。
「他の人たちは眠ってもらっているから今のうちに。拘束を外すけど、動けそうかい?」
「はい……よろしくお願いします」
誰だか知らないけど良かった。これで助かったのかな。
「……うん、これでいいね。立てるかい?」
まだ少しほおけてる状態だったので恥ずかしくて目は閉じていた。
だからようやくこの人の顔を見られる。
私は起き上がりながら感謝を伝えるために声の方向を向く。
「……え」
なんだかあの人に背格好が似ているような……。
「ん? どうかしたかい?」
うーん。声も少し似てる気がするけど……どうなんだろう。
それほど注目していなかったのでよくわからない。
それに、服装も黒のロングコートを着ていておしゃれだし。
うん、きっと違う人だよ。
「いいえ、なんでも。行きましょう」
「ああ」
「おお……」
本当に全員気を失っている。
いったいどうやったのか。
「ん?」
彼がこちらを見た。といっても顔には仮面のようなものをつけてある。だから素顔はわからない。
「いえ何も。急ぎますね」
「了解」
今の感じ、やっぱり何か似てる気がする。
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「今日はありがとうございました」
「いや、こっちこそ拘束されるまで間に合わず申し訳ない」
「ええ? なんで謝ってるんです? 私本当に感謝してるのに」
謝られても困るというか。
「そうか。それならよかった。……家まで送ろうか?」
「いえここで大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
「今日のことで何か聞かれたら適当に答えておいてくれると助かる」
「はい……」
何で自分で報告しないのかな?
改めて見たらいかにも潜入とかしてそうな怪しい恰好だ。
「本当にあなた、誰なんです――」
「待って、最後に1つだけ」
「はい、なんでしょうか?」
私の疑問は遮られ、つづいて彼の問いに反応する。
「うん……今ならいけそう、かな」
「はい? いったい何を――」
「手、だして」
「手? こうでいいですか?」
やっぱりこの人も、なんて考えたのも一瞬で。
私は彼に合わせて手のひらを彼に向ける。
「触れないから心配しないで」
「? 手のひらくらい大丈夫ですよ?」
突然何を言い出したかと思ったら。
まるであの人みたいな――。
「札の分と今の気持ちでやってみるよ」
「何で札のこと知って――」
私の言葉は、彼と私の手のひらの間から発せられる淡い光に遮られる。
そして私は――。
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「おはようございます!」
「おっ、朝から元気だねぇ」
「はいっ! ……今日までお世話になりました!」
「そんなにかしこまらなくてもいいんだよ。……順調そうだね、体」
「はい! まるで何事もなかったみたい……ううん、前より強くなった気さえしてます!」
「それは何より。よかったね」
「はい!」
あの日、マリさんの家にどうやって帰ったのか。
なぜだか思い出せないが、ひとつだけ変わったことがある。
ノーフ様のことだ。
どうやら彼は特殊な能力を収集するのが目的だったようで、他にも何人か被害が出ていたのだそう。
それを聞いてもそんなにショックじゃない。
それが一番の変化。なんかすごく好きだったはずなんだけどなぁ。
「田舎でもう少し療養して……予定より少し遅れるんですが、編入もできそうです」
「それは良かった。もう怪しい人たちについて言っちゃダメですからね」
「うっ……それは善処します」
「本当にもう……戻ってきたら声かけな? いつでも世話するよ」
「ありがとうございます。私としてはここを出た後の都合を、ですね……」
「ふふっ、わかった。任せなさい」
「はいっ! 任します」
2人して笑う。うん、ここでのいつもの風景だ。
「そういえば2階の人、今日もまだ寝てるんですかね?」
「あの子はまあ、いいんだよ」
「そうですか。では改めて……お世話になりました」
深くお辞儀する。
「また今度会いましょう!」
「はい! ではまた!」
お互いに手を振る。
私はそこそこ手を振った後、田舎に帰るために駅へと向かった。
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「約2週間、長いような短いような」
療養を終え、私はこの町に戻ってきた。
今日はバレンタイン。
本当ならいたはずの彼氏もいない、全力で推してる人もいない。
学校は明後日からだからそっちでも関係ない。
「わざと避けたみたいだから、何か作っていこうかな」
ただでさえ元々の編入時期からずれてしまっているのだ。
少しでも挽回しなくては!
「っと、すみません」
「いえ、こちらこそ」
危なかった。考え事しててぶつかりそうになってしまった。
それにしてもさっきの人、なんか近かったような……。
私は振り返ってみた。
「あれ?」
もうあんなところに……足早くない?
うーん。気のせいってわけじゃないんだけどな……多分。
なんか……知ってる人のような気がする。
思い出せないってことは、やっぱり知らない人なんだろう。
名前だってなにも浮かばないし。
「よし! まずはこれから住む部屋に行って、みんなに配るもの作って、それから――」
私のこの町の魔法学院での生活は……始まる前はちょっと良くなかったけれど……これから始まるんだから――。
どこかの一部分や、1セリフだけでも良かったと思ってくれる方がいたら嬉しいです。