2-3.ホントにウザい
修正が完了したので、残りの3話を公開したいと思います。
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「それで、今日はどうだったんだい?」
「やっぱりあっちでは無理でした」
帰って来て早々二人で何か話してる。
多分私のこと。もう少し聞こえない感じでお願いしたいです。
「やっぱりあの方法しかダメだったか。で? 条件は話したのかい」
「ええ、まあ」
「全くあんたって子は。それじゃああの子が意識しないわけがない。ならいっそのことこれ付けていけばいいじゃないの」
「ですかね……。ま、明日、先に最終手段を試してからにします」
は?
何、最終手段って。そんなのあるなら早くやってほしいんですが?
「んん? なんだい、盗み聞きはいけないねぇ」
「え?」
あれ、マリさんにはばれてたみたい。
「ははは。何か相談事ですか?」
とりあえず取り繕う。まだセーフかもしれないし。
「あんたの今後についてだよ。で? どこから聞いてた?」
やっぱりバレてる。いやでもまだ何とかなるかも。
「今さっきですよ。最終手段とか聞こえましたけど」
「そうかい。ま、あんたに悪いようにはしないさ。ね?」
「まあ、ね」
肩をたたかれたあの人がこちらを見て苦笑いする。
いったい何なの、最終手段って。
それさえ分かればすぐにでも何とかなりそうなのに!
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「いらっしゃいませ……何であんたがここに来てんのよ」
翌日、働き始めたばかりのファミレスにあの人が現れる。
……なんかちょっとニヤついてない? きも。
「いやあ……この後また修行あるから、ついでに」
きも、超きも、なんなの!?
「私が出先で! メッセージだけで! 彼氏にフラれた哀れな女だからって落とせるなんて思わないでキモい!」
一度きっちり言っておかないと! つか上がる前に。
「あ、いや、……ごめん。時間になったら、公園で」
そんなセリフを言うだけ言って彼は出て行った。
……何なの? 店の人みんなに見られてるし。
これじゃあまるで私が悪いみたいじゃない……最悪。
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「連絡先、教えてないからってあんなやり方卑怯ですよ」
「そういうつもりじゃ」
「こっちならいいです。これ、全員が書いたこと見れる奴」
私は発信系アプリを表示する。
「アカウント、あるでしょ?」
「あ、ああ。見るのといいねだけのやつが」
「それはどうでもいいんです見せてください。……はい、これで友だちですので連絡はできます」
「おっ、せんきゅー」
「何ですかそのノリは」
だいぶキモいです。言わないけど。
「友だちってこういうノリなのかと。……友達、初めてなもんで」
「いつものままでいい。それと嬉しいからって一々書き込んでこないでね? 一応みんなが見れるところなので」
「今から公園に向かいます、とかはどう?」
「そこは適当に言葉、変換してくださいよ。身バレするじゃない、大人でしょ?」
そういえば年齢、知らないんだっけ。
「まあなんとなくやってみるよ」
「ちゃんと、してくださいね」
「了解しました」
……まあこれだけ念押しすれは大丈夫でしょ。
「ところで今日は何をするんですか?」
「最終手段、聞こえてたんだっけ。……ホントにするの?」
「何その感じ。ファミレスに私を見に来てる暇があったなら、ちゃんと決めといてください」
私はもっと真面目にやってほしいんですけど……。
口には出さないけど。
「まあそうだよね。ごめんね」
「だから、それじゃ私が悪いみたいじゃないですか。簡単に謝らないで」
「謝罪はきっちりする主義なので」
「あのねぇ。……そんなんじゃ私の好感度、全然上がらないじゃないですか」
私は早く治して戻りたいのに。
「そっちなら大丈夫。なんとか他の方法の目途が立ったから」
「なんだ。それがあるなら先に言ってください、全く」
これでこの人のことを意識せずに済むのか、よかった。
「で。今日は何をするの?」
早く本題に入ってもらおう。いつまでも無駄な時間は使えないし。
「えっと、意識を集中するときにはまだ痛みが走る状態なのかな?」
「集中するだけで、ですか……やってみます」
私の内側の力に目を向けて集中。
「……胸の奥がピリピリするくらいです。当日より全然ましです!」
「ほい了解。……うーんどうしようか」
何かまた悩み始めたんですけど。
私が来る前に決めておけるものじゃない感じなのかな、これ。
「えっと、いつもより力が使える時とかってあると思うんだけど」
「え? あっと……はい、あります」
いきなり唐突な質問。そりゃ戸惑いますよ私だって。
「その時って特に何か考えてたりする? 例えばその日にあった良かったこととか」
「そうですね……美味しいスイーツとか、推しと連絡とれたりとか通話できたりとかしたら特に!」
少し盛り上がりすぎた私を冷ややかな目で見る彼。
「……何か言いたいことでも?」
「いや? 何か都合よく使われてる感じがしただけ」
「いきなりですね。いいんです、私の人生ですから」
「そりゃそうか」
あれ、いつもみたいに突っかかってこない?
「……なに」
「いえ何でも。えーっと……それじゃあまずは……これ」
彼が札のようなものを取り出す。
「? これは?」
「札です。あなたが式を呼び出す能力者なのは聞いていたので一番親和性の高いものを」
なんで、って言おうとしてやめた。マリさんの前でやってみせたんだった。失敗だったけど。
「で? これをどうしろと?」
「何か楽しいことがあるなーと思う時には必ずこれを持っていてください。常時だとよりよいかと」
「なるほど。ここに私の思いを溜めるってことね……ふーん」
「まあだいたいそんな感じで大丈夫です」
受け取った札を眺めながら説明を受ける。何か引っかかる言い方だった気がしたけど。
「それで? 今日はこれをもらっておしまい?」
「そう……だね。お疲れさまでした」
「あ、お、お疲れさまでした」
彼が礼をするので慌ててこちらも。
「帰り道はわかるよね? 俺はここで」
「えっ」
片手をあげながらそう告げると、すぐに姿が見えなくなった。
「なんなの? これで――」
監視とかしてるんじゃないでしょうね、と言いかけてやめた。せっかく気付けたかもなのに、聞かれてたら意味ないもんね。
帰ってマリさんに聞けばいいか。
「んんーっ……っと。私は帰ろうかな」
伸びをして緊張をほぐす。やっぱりやりづらい人。
私はカバンに札を押し込んで、マリさんの家に帰った。
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「ああそれね。私にも見せてくれたよ」
帰ると夕食の用意をしてくれていたマリさん。さっそく札を見せてみたらこの反応。
「これ、彼が作ったんですか?」
「いや? 札自体は私が取り寄せたもの。あの子が今回の用途に合わせて調整したみたいだけど」
「なるほど」
調整? よくわからないけどそれって怪しくないのかな?
「なに? そんなに心配しなくたってそれで盗聴できたりしないさ。もし他の人にできたとしてもあの子にはできないからね」
「それは能力的に、ってことですか?」
「そういうこと」
まあマリさんがここまで言い切ってるなら大丈夫か。
「それより何、今日もやけに早い帰宅じゃない? 修行はどうしたのよ? 喧嘩でもしたの」
「えっと……」
私は公園であった出来事をそのまま伝えた。
「なるほどね。それでこれを……」
マリさんが札をひらひらさせる。
「それならここはいいから。あなたは何か楽しいことしてらっしゃい」
「ホントにそれで治せるのかなぁ」
「さあどうだかね。いずれにせよ今この町であんたを治せる可能性があるのはあの子だけ。何も考えず今は楽しんできな」
「うーん……そう、ですね。私、お部屋に戻りますね?」
「部屋? 外に出かけるんじゃないのかい」
「はい! ネットで推し活、です!」
怪訝な空気を感じて、私は精一杯元気に返答してみた。
「……若いのか若くないのか」
「若いですよ。むしろ最先端です」
「まあ楽しければ? 目的達成だったなら何でも問題ないか」
「そうですその通り!」
あの人からもダメだとは言われてないしね。
へへ、今日もいい声だなー。
「ユイちゃん、夕食の時間ですよー」
「はーい、今行きまーす」
すっかりくつろいている私。言われるままにマリさんに食事の用意任せちゃってるし。
それにしてもこれ本当に効くのかな?
推し活最中もちゃんと言われた通り持ってたんだけどなー。
なーんにも変化なし。
夕食の時に聞いてみよ。
残り2話です。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。