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2-1.地雷踏んだ?

 =・~・=・~・=


 朝食の後、片付けをすませて早々にどこかへ出かけてしまったあの人。

 私はお昼前までに持て余した時間をおばあさんと会話しながら過ごすことにした。

 私の計画だと数日で田舎に帰れる計算だ。だからこの人のことを今のうちにもう少し知っておきたいと思った。


 なにせこの辺りだけじゃなく遠くの地域にも土地や建物を持っている資産家とのこと。

 ここの学校を卒業した後の私の生活に少しでもプラスになりそうな人脈だ、逃す手はない。


 「――へぇ、そうなんですか」

 当たり障りのない回答しかとっさには出てこないところに口下手が出ているよ、私。


 「ところでお嬢ちゃんの名前、なんて言うんだい?」

 「そうですよ名前! 私だっておばあさんの名前聞いてないです!」


 「私かい? 私はマリって名前だよ。ま、みんなばーちゃんだ、ババアだ、魔女だ、ってな感じで好きに読んでるけどね」

 「えー? 何でですか? 私はマリさん、って呼んでいいですか?」

 「お? お嬢ちゃん年寄りの扱い上手いねぇ。ご実家では祖父母の方と暮らしているのかい?」


 「あーはい……祖父は先日亡くなってしまって。祖母の方は幼いころに」

 「いやすまない、私が良くなかったね」

 「いえいいんです。……祖父が後押ししてくれたんです。私が編入するのを」

 「そうだったのかい……」


 …………


 「だから私は、絶対に編入して、ちゃんと卒業したいんです!」

 「それは、いい心がけだね」


 この町に来てから止まっていた本音が溢れ出してくるのが分かる。

 「だから、やっぱり後悔してます。同じ人を好きなもの同士ならきっといい人だ、って少ししか疑わなかった私を」

 止められない。

 「済んだことは仕方がないさ。今この町にはあの子がいる。お嬢ちゃん、あんたツイてるよ」


 ……スッと感情が元に戻る。

 「そこでなんであの人が出てくるんですか? あの人そんなにすごい方なんですか?」

 にわかには信じられない。朝ごはんすらまともに作れないような人が?

 

 「ああすごいとも。あの子の能力は普通の魔法とは全然違う。だからこそ学校へは入れないだろうけどね」

 「なるほど。だから街中での魔法の使用許可が必要だったんですね」


 「そう、これで正当防衛を形作らなくても良くなる。家賃も安定して入ってくるってわけ」

 「……なるほど……なるほど?」


 いや待って。

 「私に使ったものはどう考えても過剰な魔法でしたよ? 現に私力が使えなくなっちゃいましたし!」

 「まあその辺はあの子が言わない、って決めたのなら私からは何とも。……ただ」

 「ただ?」


 何かあるんだろうか。

 「あんたを痛めつけようだとか壊してやろうだなんて考えるような子じゃないことは私が保証するよ」

 私の目を見つめながら話を続ける。

 「会ってそう日が経ってるわけじゃないけどね。あの子は繊細だよ」


 あれ? 私の思ってた感じとは違う。

 「……あの人、おばあちゃんの親戚とか知り合いの子とかじゃないんですか?」

 「いんや?」

 「だってあんなに息合ってたじゃないですか。それが会ってそんなに日が経ってないだなんて」

 「たまたま馬が合っただけ。その証拠に私はあの子に”盗られなかった”」


 「盗られなかったって何を? まさかお金とか?」

 「違う違う。まああの子の能力は秘匿事項だけど、特別だよ? えっと……」

 

 私を指さしながら指を縦にさまよわせる。……そうだった。

 「まだ私名乗ってませんでしたよね。コホン……私はユイ、って言います」

 「おおそうかい。ユイ、ね。いい名前だ」

 この人に言われると何だが自身がついたような気がしてくる。不思議な人だ。


 「それでユイ、あの子の能力のうちの1つは、「能力を奪ったりコピーしたりする」ものだ。……わかるかい?」

 「はい、確かにそれさえあれば何でもできそうですもんね」

 「そう、何でも。今の所相手との信頼関係がないと強制的に奪ってしまうそうだよ。ユイも気を付けな?」

 「はは、どうやって気を付ければいいんだか。でも私が受けたのはそれじゃないんですよね?」


 そう、私が受けたのはただ私を押しのける感じの力だった。あれは一体……。

 「それがもう1つの能力、「痛みを移動させる」ものだって本人は言ってるがね。ホントの所はわからない」

 「そうですか……」

 私がうけた時に感じたのはそんなんじゃなかった気がしたんだけど……。


 ただ、なんとなく理解できた。

 あの人はきっと、誰にも知られずにいるのが寂しいんだろうってことが。


 「私があんたにこれを話した理由、わかるかい?」

 「……はい。でもやっぱり怖いものは怖いですよ。はっきり言っちゃいますけど」

 「はは、まあそう言いなさんな。きっとあの子なりにユイちゃんを守りたかったんだと思うけどね、私は」

 「そう、なのかな」


 出会って数秒の私を?

 そんなことある? って思ったけど、もしかしてあの人……私に一目ぼれ? したとか?

 ……昨日のここでの態度を思い出すと、ないって言いきれない感じがちょっと生々しくて嫌だな。

 それに何から守られなければならないの、って感じだし。


 「これで得体のしれない男、ってわけじゃなくなった。修行、頑張んなさい? あんたの力を取り戻せるのは今この町じゃあの子だけだろうから」

 うーん……なんか納得いかない。



 =・~・=・~・=


 「ここがあんたのバイト先。じゃ、入るよ?」

 「はい!」


 お昼前には移動し、明日から働くことになるファミレスへと案内された。

 昼食はここで。今日はマリさんのおごりだそうだ。


 「おすすめのランチを2人分」

 「3人分でいいですか?」

 「おや、あんたも来たのかい」

 

 私の後ろから声がする。マリさんからは見えていたようで片手をあげて隣に誘っている。

 「じゃ、失礼します」


 マリさんが奥に座りなおしたので、必然向かい合わせになる。

 ここで座りなおすのも失礼だし……。気まずい。


 「……何? この後修行を見てやるってのにその視線は」

 「はぁ? なんで私があなたなんかに! ……いや、すみません。よろしくお願いします」

 「まあまあ、そうからかってやらんでも」

 

 「そうですよマリさん。この人じゃなきゃ本当にダメなんですか?」

 やっぱり納得いかない!

 「そうは言ってもね……。ユイ? あんた自分が思ってるより状態、結構悪いんだからね?」

 

 「……そうなんですか。マリさんがそう言うなら」

 それでもやっぱり納得いかないなぁ。

 なんでこんな人が……。

 

 「それにしてもばーちゃん、名前教えたんですね。そっちも名乗ってるみたいだし」

 「そりゃまあねぇ? ひと時とはいえ一緒に住むんですもの? 名前くらい名乗り合うでしょ」

 「確かにそうですね」


 こちらをちらりと見る。

 何?

 「何か? ……あ、あなたは私の名前呼ぶの禁止ですから。出来れば記憶からも消してもらいたいですが」

 「俺そこまでなの?」

 「当たり前です気持ち悪い。私を壊したこと、もう気にもしてない感じですし!」

 昨日の殊勝な態度はどこに行ったのか。ならこれくらい言ってもいいだろう。


 「だから今日から付き合ってやるっていう話だったろ?」

 「はぁ? 人聞きの悪い言い方止めてよね? 私はただまた力を使えるようになりたいだけ! それに私、彼氏いますし」

 田舎に。まあクリスマス以来連絡もないんだけど。


 「ほお。ま、そりゃそうだわな。見た目はいいんだし」

 「何? やっぱり狙ってたの? 嫌らしい」

 「……訂正、見た目だけ、な。あれくらいで済んでよかったと思ってほしいね!」


 「はぁー? 私、このままだと編入できなくなるんですけど? それをあれくらいですって?」

 「まあまあまあ。2人とも、ここはファミレス、外の空間です。そんな痴話げんかは家の中でやって下さい」

 「何でそうなるんですかマリさん! やめてくださいよ」

 「同意見です。こんなあばずれ、こっちから願い下げですよ」


 「はぁー!? 彼氏いるくらいでそんな、ってまさか? あんたその年齢で彼女いないの?」

 「……悪いかよ」

 「まぁ―そうでしょうねぇ? こんな迷子の子犬みたいな人、誰も相手になんて。私だって今回の件がなかったら――」


 ……あれ。何だろう、この空気。

 私なんか行っちゃいけないこと言ったの?


 「お待たせしました、こちらが今日のおすすめのランチです。……ごゆっくりー」

 店員さんの視線が痛い。私明日からここで働くんですけど……。


 超気まずいんですけど!!

まだまだ続きます

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