1-4.そして始まる都会生活
敵役の名前が検索すると引っかかるので少し修正しました
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「ねぇーあれ、どうやったんですか?」
「たった1回の能力発動で倒しちゃうなんて私たちびっくりしちゃってー」
「あの子たちが飲み物買ってくるんでぇ、その間に少しだけ、あなたのこと聞いてもいいですかぁ」
「あそこで話しかけてるの、見える? あそこで足止めしてる所にもうすぐ2人戻ってくるからその後ろからあなたも行って?」
隣にいる会長さんからの指示を受ける。周りには他にも数人いて、そのほかの人たちはこの場の人払いを担当しているという。
結構念入りな作戦だったんだ……。
私は断る機会を完全に失ってしまっていた。
「はい。で、私は何をすれば……」
「大丈夫、話の流れでちょっとだけあいつを驚かすだけだから。あいつが不意に能力を使ったら私たちが全力であなたを守るわ。それでミッション成功よ!」
「私の能力で身の危険を感じるほど驚くことなんてあるかなぁ」
つい、不安が口から出てしまう。
「ちょっと式を出してくれればいいわ。そうしたら後ろからあなたの力を大きく見えるようにするから」
「そんな力もあるんですね」
「ええ。偶然あなたが声をかけてくれて、こうして参加してくれるからうまく効果が出せるだけ。あなたがいたから実行できるのよ」
「はあ……それは良かったです」
「もう、しっかりしてくださいな! ノーフ様の神話はあなたに、かかっているんですよ?」
本当に良かったの? 本当は止めなくちゃいけなかったはずなのに断り切れずにここまで来てしまった。
……こうなったらやるしかないよね。もし本当にあの人が強い人なら、このカラクリだって気付いて力、使うことなんてないはずだし。
うん、そう。私もこれが終わればこの状況から抜け出せるんだから仕方ないよね……。
「あ、ほら2人が戻ってきました。さああなたも行って。こっちも少し後ろについていくから」
「わかりました」
ここまで来たんだ、もうやるしかない。
あの人がハッタリか何かをしていたならきっと簡単にぼろが出る。それでノーフ様の神話が守られるならこの人たちだって満足だろう。
「あっ、戻ってきた。おーい!」
「ごめんちょっと遅くなったー」
「ねー後ろの子は?」
「会長がつかまえてきた新人さん。なんか面白いことができるんだって」
「なるほどー。ね? あなたも見て見たくないですかー?」
なんだか居づらそうしてるこの人がさっきの……。会場で感じた隠しきれない自信、みたいなのが感じられないけど。
もしかして本当に何かいけないもの、使ってたんじゃ……。
「ねーなんだっけその……なんか出すやつ? やってみせてよ!」
「いーねー。私たちも見たいかも」
「会長のお墨付きよ? きっとすごいのよ」
「ところで会長はまだなの?」
「もうすぐ来るって。いいからそれより早く見てみたいんだけど! この人にも何か感想貰おうよ!」
すごい喋る方々……あの人、頷くだけで何も話せてないけど。
「はい。私今度さっきの学校に編入する予定で」
「そんなのいいから。早く見せて見せて!」
彼の腕をとって見るように促しながら私に催促する。ってことはもう決行していいってこと?
「わかりました。……行きます!」
「出てきて、私のともだち!」
いつも以上に力が集まるのを感じる。これなら――。
「しゃがんで!!」
「……え?」
突然彼が発した言葉に私は理解が追いつきません。
「くそっ、間に合えっ!」
突然私に向かって手のひらを突き出してくる。
届かない距離だけど何だろう。まるで何かを押しのけるような――。
スゥー。
ドッ!
私の背中から入り込んだ何かがこの人の手のひらから出ている何かに押し返されたように感じる。
いったい何が――。
ピキッ。
ん? 何かにヒビが入った音が聞こえたような――。
パキパキッ。
これ、私の中から聞こえる?
パキッ!
ドンッ、と心臓に車が衝突したような、そんな錯覚を覚えるくらいの衝撃。
……そういえば、この人、何で声を出さないんだろう。口だけ動かして……変な人。
それになんだか急にあたりが暗くなってきて……。一体どうなってるの?
ああこれ……私に何かあったんだ。
まぶたが落ちる寸前、私は、彼の腕が私の方へと伸びるのを見た。
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「…………ここは……」
「気が付いたかい? ここは私の家。お嬢ちゃん倒れたんだよ?」
そうか、私急に……。
「他の方々は……」
「周りにいた娘たちかい? リーダーとその取り巻きたちはみんな連れてかれたよ。で私があんたの取り調べ」
「……私、どうなっちゃうんですか?」
「まああんたは「上手いこと言われて気を許して、そんでもって逃げられなくなってた」。そんなとこかい?」
「いえ……彼が何か不正したかもって言われて、それで。私、今度こっちにある学校に編入するんです。それで学生なら入れるから、って聞いて楽しみに……」
「……それで?」
黙って聞いてくれていたおばあさん。私が言葉に詰まると続きを促される。
「ノーフ様があんなに簡単に負けちゃうなんて考えてなくって。他の試合は圧勝でしたし。だから……」
「同じファン同士、気が合った、ちょっとだけ協力してくれないかと頼まれた、ってことでいいかい?」
「……はい」
まるで見ていたかのように話すおばあさん。見透かされているようで嘘なんてつけなかった。
「……ふぅ。お嬢ちゃんのことを含めてあの子は誰も悪くない、って言ってるけど。流石にそういうわけにもいかなくてね」
「私……どうなっちゃうんですか?」
編入が取り消されたりしたらどうしよう、なんて自分勝手かな。
「お嬢ちゃん。気が付いているだろうけどあんた……コアが傷ついている。いいや、大きく割れてしまってる」
「え……じゃああの時の音は……」
「そうかやはり……。さっき言った通り、あのいざこざはお咎めなしだけど……」
――少し言い淀んだ後、おばあさんはあの言葉を私に告げます。
「あんた、このままじゃ編入は取り消しだね」
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………………
…………
……
「……んー」
まぶた越しに目へと入る光がとても眩しい。
「んー……もう朝?」
何か忘れているような気がするけど……大丈夫だよね?
「んふふー……もう少しだけ……」
…………
……くんくん。
なんだか匂うような。ちょっと焦げた匂い?
コンコンッ。
「お嬢ちゃん、起きてますか。あの子そんな上手くないのに何を張り切ったのか……。支度ができたらすぐに来てください」
……そうだった。私、今日からこの家で暮らすことになったんだっけ。
さっきまで夢で見ていたはずなのに、すっかり失念してしまっていた。
さっきの会話からして、どうやらあの人が朝ごはんを作る過程で何か失敗したようだ。
……それにしても張り切るって何?
「ま、いいか」
そんなことより朝ごはん。私とおばあさんの朝ごはんは私が救わないと!
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「……それで? こうなったと?」
「はい……すみません」
朝から何で私はこの人を叱らないといけないんでしょう。
何やら考え事をしながらの作業中に、ついうっかり……とのこと。
「わかりました。私、体調は問題ないのでここからは私に任せてください。……元はといえば私が朝、起きてこなかったのがいけないんですが」
一応聞こえる程度に謝罪の姿勢を見せておく。
……どうよ?
「いや、こっちこそ余計に気を遣わせて。それに手間まで。ごめんなさい」
うんうん上出来!
やっぱり私のかわいさがあれば男なんてこんなものよ!
この人との修行とやらだって上手く手懐けていい感じに早く仕上げてもらっちゃおう!
すんすん。
「うーん、いい匂い。お嬢ちゃんがいる間は、食事の時間が楽しみになりそうよ」
まあおばあさんもウキウキしているのだから問題はない、か。
「それじゃ皆さん、今日も素晴らしい一日でありますように……いただきます」
「いただきます!」
「いただきます」
その後は何かあるわけでもなく朝食は無事に進み、食べ終わった頃。
「ちょっと、いいかい?」
そう言って話しかけられる。
「はい、何ですか?」
「明日から働くお店、お昼前に案内したいんだけど……体調はどうだい?」
「はい、もう何とも」
そう、体調は問題なしなのだ。
「そうかい……まあ無理のないようにね。お店でお昼食べたら、その後のことはこの子に任せてあるから。……任せたよ青年!」
2人お茶を飲んでいるところから少し離れた所、洗い物をしている彼に話しかけるおばあちゃん。
「りょーかいでーす」
……なんかさっきより軽くない? 気のせいだといいんだけど。
「はは、ありゃ照れてんのさ。ま、あんな調子だけど腕は確かだから。それに今のあんたの症状はあの子にしか治せないからね、上手くやるんだよ」
そうだったのか。てっきりおばあちゃんの代わりにあの人が、ってことなのかと思ってたんだけど違ったのか。
それならますます私のかわいさアピールが効果あるってことね。
「ふふっ」
時間がかかりそうって思ってたけど、そういうことなら案外早く済みそうじゃん。
ここ結構居心地はいい所なんだけど……。早い所治してもらわないとね。私には田舎でまだやり残したこともあるし。
次回2話は近日公開