1-3.お昼の出来事
敵役の名前が検索すると引っかかるので少し修正しました
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「へへ。結構快適じゃない? この部屋」
私に貸し与えられたのはベッドと物置がついた、一人で暮らす部屋としては十分な広さがある部屋だった。
「てっきり私――」
もっと物置のような、もしくは人一人が床に寝られるだけの所を想像していただけにびっくりしている。
さっきこの部屋を案内された時にもこんなやり取りが――。
――・・――
「こんなにいいお部屋に住んでもいいんですか?」
「はい、いいですよ。ただし、きちんとお家賃を払ってもらいますが」
「えっと……どれくらいなんでしょうか……」
「あの子との修行の時間以外に、あなたには私の知り合いのお店で働いてもらいます」
「一応お聞きしますが……どのようなお店でしょうか?」
「なあに心配はいらないよ。ただのファミレスさ」
「はい、それだったら。えっとさっそく明日から――」
「いや、あんたがどうしてもあの子との修行が嫌だ、ってなったらいけないだろ? 明日は店の案内だけさ」
「そっちは大丈夫です。私、こう見えても結構頑丈なので」
「ははは。まあそう言いなさるな。あの子もまさかこんなことになるだなんて思ってなかったろうから」
「あれは元はといえば私がいけないんです。……まあここまでしなくても、って思ったりもしますけど」
「……お嬢ちゃん、あんたあの子が何をしたのかわかってないのかい?」
「え? 驚かせてる私の後ろから彼に力を使って反撃させよう、っていうものだと聞いていたんですが……」
「……まああの子が言わないならいいんだけどね。あの危ない人たちとはきっちり縁を切りなよ?」
……一体何のことだろう?
「私はたまたま騒動の少し前に知り合っただけなんで。名前も知りませんし」
「なら、問題はないね。あとお風呂だけど」
「はい」
「ちゃんと時間決めときな。今日の所はあんたが今入っちゃいなさい」
「……あの人、そんな人なんですか?」
「その逆。気を使いすぎるんだあの子は。まあ上手くやっておくれ」
「はい……わかりました」
――・・――
あの時は肩をたたかれて曖昧な返事を返してしまった。
”あの子が言わないなら”って何なんだろう……もしかして私、何か思い違いをしてるのかも?
「……考えても仕方ないよね!」
今日は早くお風呂に入って寝てしまおう。
明日からの生活に少しだけ何かが変わる予感を感じながら私は眠りについた。
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「え……」
会場が静まり返っている。
――これは夢? まるで昼間の光景がそのまま再生されているかのように鮮明だけど。
「なんで……。私たちのノーフ様が、たったの一発で気を失っちゃうなんて……」
――私の声もはっきり聞こえる。じゃあこの後は。
「しょ、勝者受験生!!」
審判役の人の言葉で止まっていた会場の時間が動き出す。
大きな大きなブーイングの中、会場中に一礼してから去っていく対戦相手の受験生の人。
「いったい何をしたの、あの人……」
――今も覚えてる。あの時の私、大好きだったノア様が倒されたことよりも、彼の戦い、その方が気になってしまってたんだ。
――そしてこの後だ。私がここに住むきっかけになった出来事が起こったのは。
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「絶対あの男、何か不正をしたのよ!」
「そうよね! じゃないとあんな訳わかんない人に負けるはずないじゃない!」
「そうよ! あなたもそうおもわない!?」
「え!? あ、そ、そうですよね。たった一回の攻撃でしたし」
私は彼のファンが集まっていたところを見かけて、つい嬉しくてその輪の中に入っていってたんだっけ。
「何? 何か気になるところあった?」
「あなた学生枠で見に来ていた方よね? あなたの目から見て何か怪しい所とかあったりした?」
「そうよ! あんな訳わかんない人、何か不正したに決まってるわ!」
「えっと……私、この春に編入する身なので詳しいことは」
とりあえず本当のことを話す。
「編入? この学校に?」
「こんな子が?」
「何? あなた編入組なの? それってエリートじゃない! で? あなたの見立てはどうなの?」
……少々気になる言葉が聞こえたが、そこは聞こえないふりをして質問してくれた人に向き直り私は返答する。
「私の席は結構遠くてあまりよく見えなかったのですが」
「そんな前置きはいいの! で? どうなの?」
「えっと……多分不正はしてないんじゃないかと。会場の誰も、先生たちさえそんな兆候気づかなかったですし」
取りあえず当たり障りない回答を。なんかこの人たち、よからぬことをしでかしそうな雰囲気してますし。
「多分、ってことは会場中の誰も気づいていないけど何かやったかもしれない、ってことね?」
「ええっと……誰も知らない、彼にしか使えない何かがあれば、ですが」
グイッと近づいてくるこの人に押されてつい私が考えていたことを話してしまう。
「それが試験で使っちゃいけないものってことだったら……ってことね? ……! わかったわ!」
「何? あいつ不正したってこと?」
「そうじゃないかって思ってたのよねー」
「そうじゃなきゃ負けるはずないもの!」
「そうよね! 一発だったのもごまかせる限界とかだったら納得よ!」
「あの男、許せない!」
あーやってしまった。つい心で思ってたことを言ってしまった。
騒ぎが大きくなるのを感じた私は質問をくれた方にもう一度話しかける。
「でも、誰も不正だと訴え出てないですし、多分ルールの範囲だと――」
……あれ?
皆が一斉に私を見ている、というよりにらんでる?
「あなたさっき彼が不正したって言ったじゃない!」
「そうよ! 証拠がないだけだって!」
「いや、そうじゃなくて――」
まずい。
「私たちであいつの不正の証拠、聞き出せばいいんじゃない?」
「そうよ! それよ!」
「だよね! あんなボサっとした男、何かしたにきまってるんだから!」
「あいつボサーっとしてたし、きっと女に免疫ないタイプよ。私たちで落としちゃえばいいじゃない」
「そうよね! 最悪不正じゃなかったとしても「不正してました」って言わせればいいんだし」
ほんとうにまずい。
「いくらなんでもそれは――」
「――! そうよ、私たちは400人いるのよ? それくらい訳ないわ!」
「あんな男にノーフ様の不敗神話が傷つけられたなんて、あっちゃダメよね!」
話が良からぬ方向へと動くのを止められない。
何とか今のうちに止めないと――。
「会長! いました! あの男、学校の外に出るところです!」
「よくやりました!」
「それで、どこに誘導しますか?」
私の話していた人、会長って……話す人を間違えたかな私。
それにしても誘導って……この人たち本当に何かするんじゃ――
「そうね……学校見学者のふりしてぶつかって。それで近くの公園にでも誘い込んで」
「わかりました。近くにいる者達を接触させます」
「手早くね。相手は能力者よ、一応警戒して」
「了解」
「……あなた、一体どんな能力者?」
後ろでまだ何か話し合っている中、会長さんが私に問いかける。
「きっと不正なんかないですよ、だからやめた方が――」
「あ・な・た・の能力は!?」
ズイッと詰め寄られる。後ずさりしようにもすでにまわりは囲まれてしまっている。
「わ、私の能力は、「ともだちを呼び出す力」です」
「ともだち? まあ式、ってことね。いいわ、その力であの男を驚かせて何か力を使わせるのよ? 大丈夫。あなたのことは後ろから私たちが守るから」
真剣な眼差し。それにこの状況ではどのみち断れないだろう。
「わかりました。私は驚かすだけ、ですからね」
「ええ、こちらもあなたをお守りしますわ」
「会長!」
「わかりました。では行きましょうか」
私は会長さん達と共に誘い込んでいる公園へと向かった。