1-2.不意打ちの再会
本日2回目の更新です
「はいこれ、お嬢ちゃんの分」
「はい、ありがとうございます」
よそわれたご飯を受け取る。おかずの品数も多くとても健康的なものだ。
「じゃ、あたしはあの子呼んでくるから。あの子の分よそってやって」
「え、どれくらいよそえば」
「そんなの適当でいいさ。足りなきゃ自分で足すだろうし」
そう言い残して階段の方へと歩いていくおばあさん。
……そういえば私、まだ二人の名前を知らない。
おばあさんはおばあさん、あの人だってばーちゃんって呼んでたし。
あの人なんかちょっとした事情で私が驚かせようとした、ただそれだけの人。
だから2人とも、名前なんて知らない。……私も名乗った覚えがないんだけどね。
……昼間の件。
あれは私が悪いんだけど、何も私が力を使えなくなるまで痛めつけなくたってよかったのに、なんて都合のいいことを考えてみる。
正当防衛が認められたとはいえ、そんなに強い力で押し返さなくても……だよね、うん。
私のその瞬間前後の記憶があいまいなせいで、私の話は参考程度になったんだっけ。
それだけの強さで正当防衛なんて認められるわけないのに。
それにさっきのおばあさんの様子。私が覚えていない何かがあったんだ、きっと。
そうじゃないと私、こんな状況なのに何で普通に動けてるの? ってことだよね。他に体のどこにも異常はないし。
……実はただ一時的に使えなかっただけで、今はもう普通に使えたりするんじゃない? なんて考え甘いかな?
「……ちょっと試してみよう」
おばあさんが下りてこないのを確認して、私は力を使ってみる。
「……出てきて、私のともだち」
……
…………
力が集まる様子がない。
「もう一度……出てきて、私のともだち!」
……
…………
やはり力が集まる様子がない。まるで穴の開いた風船のように込めた力がそのままどこかに行ってしまってるみたい……。
いやいやいや!
自分で思っているよりずっと損傷がひどい、って言われたのをどこかで気にしてるだけよ! そうに決まってる!
……もう一度!
……もっと力をこめて!
「出てきて! 私のともだち!」
ズキッ
「痛っ! ――っはぁ、はぁ」
胸と頭がズキズキと痛む。それに呼吸が荒くなっている。私、本当に使えなくなってる……。
「無茶をしたね、お嬢ちゃん」
背後から急に声がする。
なんとなく感じていたが、やっぱり力を使おうとしているの、バレちゃってたか。
「……っ、すみません……。おばあさんを信じてないわけじゃなかったんですけど……」
「いやいいさ。でもあの子が下りてくる前でよかった。あれでいて中々に傷つきやすい」
「はい……」
少しの静寂。
「おばあさんは何で私を助けてくれたんですか?」
やはりもう一度聞いておきたかった。まだ入学もしていない私をそれも見ず知らずの人が何で……。
「何でって……理由がいるかい?」
「だってこれは私が彼に不意打ちをしようとしたからで……。自業自得じゃないですか。なのに……」
「ちょっと気になっただけさ。そんなことよりお味噌汁よそうから、手伝っておくれ」
立ち上がりながら私はそう告げられる。今日の所はこれ以上聞けそうもないか。
「はい」
私はおばあさんについていく。動きもしっかりしているが、見た目はお年寄り。やはり心配にはなる。
「あんたは自分の心配だけしとけばいい。あああと、あの子と仲良くね」
「あ、はい」
心を見透かされてるような錯覚を覚える。錯覚じゃないかもだけど。
「ばーちゃん俺が準備するから――ってホントに住むんだ、ここに」
下りてきたあの人が発した一言目の軽さに、ついさっきの失敗が頭をよぎってちょっとだけ苛立ってしまう。
「あのねぇ? 少しは準備、手伝ったらどうなの?」
なんて、その後言われたことさえ守れない、イやな子だな、私。
「あー……そうだな。すいませんでした」
「そんなに簡単に頭、下げられたらやりにくいじゃない」
「いや。君の気持を考えずに……悪かった。明日からはしっかり協力させてもらうよ」
だから。
「……そういうのが、やりにくいんです」
私が悪いのに。ただの八つ当たりなのに。……ホント、嫌な人。
「まあまあいいじゃない。早いとこ食べちゃいましょう!」
私に運ぶのを任せて、サササーっと座り込み、食事を始められるようにするおばあさん。
「……あんたも早く座り。あの子が遠慮しちゃうじゃない」
「りょーかいです」
あの人が座る。私も配膳を素早くすませておばあさんの隣に座る。
「それじゃ皆さん、今日の出会いに感謝して……いただきます」
「いただきます」
「……いただきます」
「今日もばーちゃんの料理は美味しいよ」
「今日は特別。あんたが試験だったから私が全部準備したんです。明日からは2人で、よろしくお願いします」
「僕はばーちゃんみたいにはできないけど、君はどうなの?」
おばあさんへのリアクションの前に、先に彼に会話を仕切られてしまう。
「何が僕、ですか。紳士ぶってるんですか? 私、料理には自信ありますので!」
だからつい、突っかかってしまう。
「そういうわけじゃ……。なら、料理は君に任せても大丈夫?」
「はい、どんと任せてください。その代わり、準備とかはお願いしますね」
「了解」
なんとなく会話が上手く成立してしまう。これって私が気を遣われたってことだよね? 多分。
「……やりにくい」
「ははは。この子はこういう子さ。ま、上手くやっとくれ」
こうして奇妙な共同生活は最初のイベントは無事? に通過できたのだった。
次話は明日投稿します
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