1-1.編入は取り消し?
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どうぞよろしくお願いします。
「あんた、このままじゃ編入は取り消しだね」
「そんな……」
私は一瞬で目の前が真っ暗になる。
ちょっと待って。
落ち込んだ心を奮い立たせながら食い下がる。
「待ってください! あんな……たった1度だけですよ? それだけでこんな――」
私を診てくれたおばあさんは少し遠くを見つめながら独り言を漏らす。
「あの子、手加減できなかったんだねぇ……」
あの子って、私をこんなにした人のこと?おばあさんの知り合いなの?
「お嬢ちゃん、あんた自分で思っているよりずっと損傷がひどい。……ま、それも運命。諦めて田舎へ帰りなさい」
私が考え事をしている間に結論が出たようだ。おばあさんは優しく私を諭してくれた。
その態度で今の私の状態がどれだけ悪いのか今の私にも分かってしまった。
私、本当にもう治らないの? もしかしてこの人なら、って思ったんだけど……。
やっぱり諦めたくない私はまっすぐおばあさんの目を見つめます。
「おばあさん、あなたがすごい方なら、何か治す方法を知っているんじゃないですか? 私、治せるならなんだってしますから!」
「そうは言ってもね……こればっかりは私の力ではどうしようも……」
目を伏せるおばあさん。私の力では、ってことは何かあるのかもしれない。
私はわらにもすがる思いでもう一度頭を下げる。
「それでも何とか、お願いします! 私、どうしても霊使いになりたいんです! そのために田舎からこの町に出て来たんです! だから……」
おばあさんの表情が揺れているように見える。やっぱり何か方法があるんだ!
「お願いします! なんだってしますから!」
おばあさんの目を見つめながらの懇願。
「うーん……そうだね……」
少し考えこむ様子を見せるおばあさん。よし、ここはもう一押し!
「何か道具が必要だったり、人が必要だったりするんですか? それなら私が用意しますから!」
不意に視線が合う。……私何かまずいこと言ったっけ?
「……わかった。あんたはしばらくの間私の所で生活してもらう。いいね?」
「はい! それで治せるなら!」
私はおばあさんの手を握りながらそう告げます。
「それと、もう1つ。私の弟子に修行をつけてもらいなさい」
私の手を握り返しながら念を押すような言葉遣い。さっきまでの雰囲気とは少し違うような……
「あなたには私の弟子と修行をしてもらいます。あなたの内側の力が上がればそれだけ治りが早くなる」
「はい、それは全然大丈夫ですけど……」
一体何で突然改まったような言い方をしたの?
私の疑問はこのあとの1分ほどで一気に解消していくことになる。
「ばーちゃん今日は悪かったな面倒ごとに巻き込んで。夕ご飯の用意は――」
「え……」
なんで?
「なんであなたがここに居るの!?」
「なんでこの子がここに居るのばーちゃん!」
おばあさんが頭を抱える動きが目の端に入る。
もしかして、この人が!?
「おばあさんの弟子って、この人なんですか!?」
よりにもよって――
「っていうか弟子って何だよばーちゃん!」
「そこはまあいいじゃないか。現にあの力、与えてやっただろう?」
「あれは俺が……って他人の前で何言ってんだよ、あれは秘匿事項だって」
「まあまあいいじゃないか。これからしばらく一緒に暮らすことになるんだし」
ああ……やっぱりそうなんだ。
「は? 何言ってんの? この子は俺を襲った奴らの仲間で――」
「お黙り! ……いいかい、あんたが明日からこの子に修行つけてやんのさ。いいね?」
2人の視線が私に集まる。
「わ、私は構いません。よろしくお願いします!」
とにかく誠意をこめて頭を下げる。
「そんないきなり……」
「さっきのことは周りの皆さんを断り切れなくて……。迷惑なのはわかってます! このまま田舎には帰れません!」
もう一度頭を下げる。
「そう言われても」
「シャラップ! 男がいちいち細かいねぇ。いいからやっておやり。その分家賃はまけておいてあげるから」
「いやそう言う問題でもないんだけど……」
なんだか分からないけどもう一押しでいけそうな感じ?
「お願いします!」
「……分かった。えっと明日からだっけ? ……よろしくお願いします」
「え?」
彼が差し出した手に一瞬戸惑ってしまう。
「ああいや、じゃあ明日、また」
素早く手を引っ込めた彼はそう言って階段を上がっていった。
「お嬢ちゃん、正直者だね? まあ上手いことおやり」
「はい……それで私はどうしたら」
……ミスは仕方がない。取り合えず今日は帰る予定だったので泊まるところの当てもなく。
今日から住まわせてくれないかなー、なんてちょっとだけ都合のいいことを思いながら訪ねてみた。
「そうだね、あんたにはここに住んでもらうよ、さらに三食付き。ただし、修行以外の時間にあなたには働いてもらいます。働かざる者住むべからず!」
「……分かりました。よろしくお願いします!」
よかった、今日から住めるみたいだ。もう一度、おばあさんに頭を下げる。
あとで田舎のお母さんには連絡しておこう。
「今日はもう遅いから、晩ごはん食べて寝なさい。話はまた明日にしましょう」
「はい、ありがとうございます」
こうして長かった私の一日がようやく終わる。
はあ……私、これからどうなってしまうんだろう?
この作品は今制作中の物の別視点、という形で書いております。
こっちが認められればそちらも公開していきたいと思います。。