脱出
《》カッコ内は筆者の心の声。
「なら、なぜ、私達にコンタクトをとったのですか?正直言って、今の話を聞いたところで、私の理解の範疇を超えています、そんな相手にどうしろと?」
「それは……」
中根さんが口濁した。
「さっきはすみません、取り乱しちゃいました、時代劇口調が出てしまいました、小さい頃大好きだったので、高ぶるとつい、それで、さっきの話なんですが、オレたちには選択肢が、多分無いんです、そういうことですよね中根さん」
ポン太のその言葉を聞き、中根さんは意を決した様子で話しだした。
「えぇ、もうあまり時間もないですし、ハッキリいいましょう、あなた方には拒否権はありません、そして、選択肢も実質一つしかないのです」
中根さんの口から告げられたのは、衝撃的な事実だった。
「あなた方は我々の実験動物として選ばれたのです」
《 なんですとーーー、実験動物、そうだったのか、サブマスの疑惑が再浮上してしまった 》
「あなた方が今、ここにいる理由は二つあります、ひとつ目は、あのダイブマシンにあの時潜っていた事、もう一つはダンジョン管理局が私を含めて、我々を消そうと動いていること」
「そ、それじゃあ、あのっ、さ、笹川教官は、無事ですよね、だって日本で少なくとも五本の指に入る探索者ですよ、ただ捕まえるだけでも、一個大隊が必要って聞いたことがあります」
「そうですね、あの人は大丈夫でしょう、しかし、あなた方の安全を保証する事はできません、あの人は我々にとっては邪魔者でしたが、日本政府にとっても邪魔な存在ですから」
《 笹川教官、邪魔すぎでは?生存フラグをたてるためにまた勝手に設定をはやしたのだけど、その結果か、でも生きていればいいよね。 》
「そんな……」
「私はあなた方をただのモルモットとは考えていません、あなた方に選択肢がないのは先ほど申し上げた通りですが、ともに働く仲間じゃないですか、私の行動で命を救うことが出来るなら、必死にもなります、正直、権限を超えた行動をしている自覚はあります、でも、どうか私を信じてください」
言い切ると、深く頭を下げた。
中根さんのその必死さを見て、私は
心動かされていた。
「信じます」
「ありがとうございます」
「ひとつ、聞かせてくれ」
「何でしょうか?」
「あんたらが俺らをモルモット扱いするのは構わない、だが、何故、あいつらを殺したんだ?」
「………………」
「答えろよ」
《 ややこしい状況になってしまったのは私の不徳のいたすところ。でもね、主人公くんと中根指導員の話をよく聞いてね、とりんさま 》
「状況が状況ですので、混乱されるのも分かります、説明が足りてないようなので、もう一度話します、彼らを邪魔者扱いしていたのは、ダンジョン管理局で、ダンジョン管理局にとっての汚点であったのです、我々は、寧ろ間接的に支援していました、力及ばずだったようですが」
「そうか、変なこと言ってすまなかったな」
《 ほんとだよ、まったく、でも、理解してくれたのならいいんですよ 》
「それじゃ、みんな納得したということでいいのか」
「あぁ、俺もついてくぜ」
「早く行こう、時間が無いんだろう」
「サッこちらへ、管理局全体を特殊な次空間フィールドで覆っています、三十分ほどしか持ちませんが、その中で動けるのはこの守り紐を結んだ者だけ」
中根指導員が足首を見せると、赤い紐が確かに結んであった。
「説明の時間が無かった方には、勝手に着けさせて頂きました、絶対に解かないように、その辺の人と同じで、動けなくなってしまいます、あと10分しかありません、無機物は動かせますが、人に触れたらどんな障害が残るか分かりません、急だったのでルートも確保出来てないのです、廊下に横に並ばれてたら、通れませんから、最悪の場合は窓から出て大回りする必要があります、正門の前に迎えが来てくれているはずです、急いで向かいましょう」
《 筆者による雑なSF設定、なぜか時間がなくて逃げる流れに、
そして、いったん区切りをつけるため以降は殆ど筆者による 》
少し前に駆け出して、中根さんと並ぶとそっと声をかけた、ずっと気になっていたことがあったのだ。
「受付け嬢の方のことはどうするんですか?」
「彼女ですが、幸い知ってしまって不味いことは何も知りません」
「ここから逃げ出して、また会うことが出来るんですか?」
「全てのことが明るみに出せて、全てを清算した暁には……」
「つまり何時になるか分からない、多分もう会うことは出来ないということですか」
「はい、私にはもったいない人です、きっと彼女に相応しい人が現れるでしょう」
「無理ですよ、それ、そんな簡単に忘れることなんて出来ません、ましてや急に居なくなった人のことなんて、きちんと振ってあげて下さい、中根指導員みたいな自分勝手な人には勿体ない人だ、笑ってたんですよ、顔を赤くして、空気が読めないって」
「そんな、でも、もう時間が」
間もなくロビーへ抜けた。
受付が目に入る。
「あと何分ですかっ?」
「三分と半ですっ」
「ちょっと待ってて下さい、受付にはメモがあるはずですから」
受付からメモをひったくると、中根指導員に突き付ける。
「さっ、書いてください、別れのラブレターを、中根って最後に書くんですよっ」
何時だって冷静な中根指導員がオロオロとしている、ざまぁと不謹慎&悪趣味ながらいい気味だと思ってしまう。命を助けてもらってどうかと思うが、自分勝手が悪いんだ。
「残り時間、2分切りましたっ」
「あぁもうわかりましたよ、書けばいいんでしょう書けば、ハイッこれでどうです?」
「はぁ、100点ですが、刺されますよ中根指導員」
件の受付嬢の眼の前の机に叩きつける。
動き出したらすぐ気付くであろう位置に。
玄関先、噴水、正門を抜けて走る。
「あの車ですっ」
何故か止まっていたマイクロバスに雪崩れ込むように飛び乗った。
「ふぅ、セキュリティには引っかからずに済みました、マイクロバスじゃ、追いかけられたらとてもじゃ無いけど逃げ切れませんから、30分間は発覚しないでしょう」
「乗用車数台借りればよかったのでは?」
「私の動かせる人員が一人だけだったのですよ、私、免許持ってませんし、この中で免許持ってるのあなたくらいじゃないですか?」
ダンジョン管理局受付では、時間が動き始めていた。
「あれ、これなんでしょう、こんなのありましたっけ」
急に出現したメモ用紙を手に取りシゲシゲと見やった。
「もう、あの人は本当に空気が読めなくて自分勝手なんだから、わたし待ってばっかり」
そのメモを手帳に大事そうにはさみ、胸元にしまった。
「ちょっと泣いてるじゃないの、大丈夫?またあのバカ彼氏?こんなかわいい子泣かせてぶっ飛ばしてやろうかしら」
「大丈夫ですよっ、ハラハラしながら待つのは慣れてますから、それにこんな素敵な言葉貰ったの初めてなんです、嬉し涙でもあるんですよ」
メモには「必ず戻る 中根」と彼らしくない慌てた下手くそな字でそう記されていた。
かんそう
前回、とりんさまを泳がせすぎたために、重要なシーンでジョークみたいになってしまった。
強引に持っていったのもあって、突然出てきたモブキャラさんも理解できなかった様子。
いったん区切るために、とりんさま遊泳禁止ゾーンを設けて今回は締めてみた。
書き終わったときは、いい感じだと思ったけれど、あとから読むと、うーん。
結論
とりんさま(どこまでも泳いでいくよ!)と一緒に小説を書くのは楽しい!!