こころのやみ
《》カッコ内は筆者の心の声。
今日は記念すべき初ダンジョンの日だ。前回はダイブしたけど、ダンジョンには潜れなかったので、一回目とは言えない。
いわば、下見、ロケハンそういった類のもの。今日こそ運命という暴れ馬を乗りこなして、ダンジョンに潜るのだ。
そう考えると、訓練場でのランニングにも気合が入ろうというものだ。
「よし、行くか」
「おう、今日も張り切って行こうぜ」
「うーす」
俺の隣を走る、こいつらの名前は知らないし、興味もない。ただ、同じ時期にダンジョンに入る仲間だ。仲良くやって行きたいところだが、向こうはそう思っていないようだ。
《 謎の登場人物が三人も出てきてびっくりしましたが、なるほど、同期のライバル的な、そして嫌がらせ的なものを受けるわけですね。(※彼らの出番はここまでです) 》
直接的に妨害してきたりはしないものの、睨んで来たり、近くを走ると、対抗して来たりで面倒だ。
彼らは若く訓練しているとはいえ、官僚の養成コースの出身だ。医療革命で年齢はもはや体力の無い理由にならない。脱サラして体力作りに時間が有り余ってた私とは基礎体力が比べようもなく、張り合っていたのは最初のうちだけだった。
ヘナヘナと崩れ落ちるもやしたちの横を駆け抜けて行く。今日ばっかりは気合でも負ける訳に行かないのだ。
「ふぅ~、終わった」
なんとか、最後まで走り切った。息を整えながら、シャワーを浴び、ロッカールームへ戻って着替えを済ませる。
食堂へ行き朝食をかき込むように食べる。
「ごちそうさま」
さっさと食器を片付け部屋へ戻る。
午前の座学には自己紹介のためだけに出席、もやしたちの顔を眺めてから、再び部屋に戻る。午後のダンジョンの為に、心身ともに整えておかねば。
瞑想でイメージトレーニングしておいて、身体が冷めきらないよう、ストレッチしてから行こう。
「行ってきます」
「はい、いってらっしゃいませ」
「お疲れ様です」
「はい、お疲れさん」
仮想空間へ入るためのダイブルームの入り口には警備の人が立っていて、例のスマホをかざすとゲートが開くようになっている。
《 ライセンスうんぬんとおっしゃっていた謎スマホはここで使うわけですね、とりんさま 》
入り口からしばらく進むと、地下へと続く階段があり、その下に重たい鉄の扉を開くと、その機械がある。とっても長い名前があるらしいのだが、誰も覚えてない、きっと中根指導員なら知っているだろう、多くの人はダイブマシンと呼んでいる。
卵を人の身長くらいに大きくして、メタリックなテクスチャを貼り付けたようなそれは、台座に据え置かれている。
手を触れるとそのピカピカの鏡面に触れることなくするりと突き抜けてしまう。
ダイブするときは、全身入り込む。
そうすると、ダンジョン入り口の広場に立っているという塩梅だ。
入っている間は肉体は銀の卵の中にあり、量子化しているそうなのだが、一体ぜんたいどういう状態なのか、理解出来ていない。それでも試験には問題無かったし、潜るにも問題無かった。
ダイブマシンの前には、笹川教官と中根指導員が立っており、何やら今後の予定について話していた。
「お疲れ様ですっ、今日はお二人とも、よろしくお願いします」
と、挨拶をすると笑顔で挨拶を返してくれた。
「あぁ、おつかれ、よく寝れたか?」
「えぇ、バッチリです」
「それじゃあ、早速行こうか」
「他の方々は今日は居ないのですか?」
「体力錬成の方が、進捗が芳しく無くてな、もう一週間はかかるだろう、なので今日は我々だけだ」
「はい」
私達は順にダイブマシンをくぐり、ダンジョンの入場口へ向かった。
三半規管を揺らされるような、不思議な感覚の後、地面に足がついたのを感じる。
ダイブマシンを抜けると衣類の化学繊維やゴム、プラスチックや貴金属類は木綿、布、青銅、木材などに変換されてしまう。
若干ゴワゴワになってしまったジャージや収まりの悪いプロテクターをつけ直す。目に入った光景に不思議な懐かしさを覚える。たった数日前にそこに立っていたのだ。
「ここは……」
「ダンジョンの入り口だ」
「知っていますよ」
「まぁ、そりゃそうだ」
「まずは、中に入ってみてくれ」
「わかりました」
ダンジョン入り口は何の変哲もない木製のドアだ。
マンガやアニメのようにスタンピード(モンスターの大暴走、しばしばダンジョンからモンスターが溢れ出す)が起こる訳では無いので、概念的に中と外が区切れれば良い。
ただ識別のためのバリエーションがあるらしいので、全てのダンジョン入り口が木製という訳でもない。
私は、中に入り、少し歩いてみた。
この階層は、訓練場と同じ造りになっている。
否、ここの訓練場が第一階層と同じ作りになっているのだ。同じ作りでも、緊張感は全く無く違う、なにせ出てくるのだ、モンスターが。
笹川教官の右手が上がる、指先を合わせたまま、開く。つまり停止の合図だ。
ひらひらと動かし、周辺警戒の合図。
じっと目を凝らすと、壊れた灯籠の上に警戒のつもりかゴブリンがいる。
まだこちらに気付いてはいない様子。
中根指導員が、物陰に隠れて近づき、弓を引く。
有効射程は大体、おおよそ30メートルと聞いている。あの距離なら十分に届くはず。
カシュッと、かすかに弦が離された音がした。
矢は真っ直ぐに飛び、ゴブリンの眉間に突き刺さった。
「ギャァー!!」
断末魔を上げながら落ちていくゴブリン。
あれ?死んだら消えるんじゃなかったのか……?
《 えっ、とりんさま、モンスターって死んだら消えるんですか? 》
「あぁ、言い忘れていたね、当たり前だけど、ゲームじゃないから、死ぬと死体が残るが、ただ、その辺に放置してたらダンジョンに取り込まれて消えるよ、今のところ死体に研究目的以外で価値は無いけど、放っておくとあっという間にモンスターの死体だらけになって、単純に足場が悪くなるから、可能なら埋める、せめて端に寄せるくらいはしておいた方が、マナーは良いかな」
《 筆者による理由付け、使いやすいな中根指導員 》
中根指導員の説明が終わると、笹川教官からゴブリンの死体を片付けるよう言われたので、中根指導員とゴブリンの手足を持って端に寄せた。
小学生の頃、死んだ飼い犬を庭に埋めたことをつい思い出してしまった。
知識としては知っていたが、実際にそこにいて、手足を動かすとなると余計なことを考えずにはいられない。
ゴブリンの死体を埋め終えると、中根指導員が次の指示を出す。
「よし、じゃあ次だ」
「はい」
次は脇に作られた訓練場で、歩き方を学ぶ。
国内のダンジョンでは滅多に無いそうなのだが、ここには実際にあった罠が壁や床から掘り出され、移植されている。
未踏破区域は、こういった罠に長けた自衛隊員が罠にマーキングする作業の後にその他の探索者に、開放される。
しかし、地面や壁に直接触れた状態で長時間放置されると、ダンジョンに取り込まれてしまうので、定期的な見回りが必要となる。
危険な印は既に学んでいるはずなので、これを避けて歩く方法を実践してみるという練習だ。
「出血しそうなものは、大体危なく無いものにしてありますよ、ちょっとこの通路の向こうまで歩いてみてください、マークしてありますから罠の見分け方覚えてれば、一つも引っかからないはずです」
「はい」
《 筆者入魂のトラップ研修、ギルドの講習って戦い方とかよりこういうのをやるべきだよねという思い、この辺りはとりんさまもノリノリでリテイクなしで書いてくれている 》
確かに言われてみれば、赤いマーカーがいくつもある。
これが、トラップの位置を示す目印だ。
「そこの壁にあるヤツは、引っ掛けですから注意してください」
「わかりました」
私は、慎重に進み、そして何事もなく次のエリアに進んだ。
「次は引っかかってみましょうか、大体引っかかった瞬間に気付きます、その時の回避方法も知ってはいるはずです、こっちの方は赤いマーカー外してるんで、やってみて下さい、現役猟師の方にも助言頂いた力作ですよ」
危なくないとは知ってても、怖いものは怖い、ある程度のパターンは知ってても、どのタイミングで引っかかるかは分からない。
恐る恐る足を踏み出していく。
「ハ、ハハッ、気持ちは分かるが、もうちょっと普通に、そんなんじゃ、ダンジョンの一階層踏破するだけで、一年かかっちまうぞ」
笹川教官、アンタは分厚い筋肉で守られてるからいいかもしれないが、こっちの身になってくれ。
「ほらよッ」ドンと背中を押されてよろめき、スネに糸が引っかかったのを感じた、うわ、やば。
そう思った時には遅かった。
目の前にはギロチン式の刃が迫り、私の首があった部分を通過した後だった。
あのままバランスを崩さなかったら、首を落とされていただろう。
「大丈夫ですか?」
「えぇ……」
《 えーーー、とりんさま、とりんさま、ギロチンはまずいですって、布のポンポンをつけた矢とかでいいんです、ノリノリなのはわかりましたから 》
中根指導員に助けられながら、何とか立ち上がる。
「今の感じを忘れないでください」
「はっ、はい、でもでも、あんなの死んじゃうんじゃ」
「脅かすのが目的なんで迫力があるようにしてますけど見た目ほどじゃないですよ、ああ見えて、軽い木で出来てますし、当たりどころが悪くてもコブが出来るくらいです、ほら」
と、罠にわざと引っかかってさきほどのギロチンを手のひらで受け止めて見せる。
「慌てず回避しましょうって、のを学ぶ為の罠ですから」
よく見ると裏に本物の鉄の刃があって、石と擦り合わせて、それっぽい音を出す仕組みになっていた。
ほー、と思わず見入って感心してしまった。
《 軌道修正、ダミーですよ、あくまでダミー、笹川教官は脳筋だけど悪いひとじゃ無いですから 》
「ギロチン罠は、ボタン式と糸式がありますが、どっちも感触があるのと、金属の前兆音がします、それに気を付けていれば大丈夫ですよ、それに、引っかかっても向こう側へ行けるようになるのは最終日でかまいませんから、ゆっくりやって行きましょう」
「はいっ、頑張ります」
それから木製ギロチンにパコパコ殴られながら一時間ほどを過ごし、今日はここまでとなった。
かんそう
今回は比較的リテイクが少なく出来た。とりんさまもノリノリでそれっぽく書いてくれた。
正直、トラップ研修は実際小説を書くのだったら話としてやる意味が薄い。
通常だったら真っ先にカットするべき場所ではあるのだけれど、思い切ってかけたので良かった。
しかし、今回はとりんさまのこころのやみを刺激してしまったらしく、
何回か主人公くんがこちらがフォローに入るまもなく死んでしまう事があった。
結論
とりんさま(ふかいこころのやみをもつうたがい)、と小説を書くのは楽しい!!