98話
並の爆発ではない。
巨大な爆裂音を数秒にも渡って発しながら、それと同時に強烈な黄色い閃光を辺りに輝かせ、むせるような臭気を付加した紫煙を周辺一帯に広げてゆく。
その紫煙は『手負い』の血の臭いや魔力を一気に覆って隠し、なおも勢力を広げてゆくのだ。
「今のうちに!」
ソルトはシュガーの腕を取って立ち上がり、即座に反転、逃走を開始した。
足場の不得意に戸惑う彼女に暗視ゴーグルを手渡して、より一層速度を増し、一目散にその死地からの離脱を試みる。
「ねえ、さっきのってなに? 新作?」
「そうだよ。視覚と嗅覚と魔力の遮断を同時に兼ねる煙玉。
使い捨ての試作品だけど、思ったより上手くいったみたいだね」
「さっすがソルトくん! それだけ封じられたなら――」
雷撃のような凄まじい怒声が二人の後方から轟き渡るのを耳にして、シュガーは言葉を飲み込んだ。
飲み込まざるを得ない。
なぜなら、樹木の倒れる悲鳴を上げさせ、草むらを薙ぎ倒しながら大きな足音が近づいてくるのだから。
「……あいつ、真っ直ぐこっちに走ってきてるね。まずいなあ」
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないよ! ソルトくん!」




