93話
星々の淡い光が届き得ぬほど深い森の、どことも知れぬ闇の中にて、シュガーはその身を抱いて小さくうずくまっていた。
幸いにして身体には怪我らしい怪我を負ってはいなかったが、それは冒険者のメロが防護の魔法を咄嗟にかけてくれたお蔭である。
その防護によって、吹き飛ばされた際の衝撃や打ち身など物の数ではなく、軽い擦り傷程度で済んだのだ。
(でも、これって結構やばい状況だよねー……)
身体は確かに無事ではあったが、しかし第二部隊の面々とははぐれてしまっている。
抱えていたはずの銃は無く、用意してきた魔道具を入れた袋もどこかで落としてしまったらしい。
けれども探す暇を惜しんで魔物から離れるように逃げてきたから、落とした場所など分かるはずもない。
ここがどこであるのかも、日の落ちた今となっては少しも判断できないのである。
「走りに走ったから疲れてもいるし……これは詰んじゃったかな?」
深刻な状況であるにも関わらず、シュガーの声音は場違いなほどに明るい。
それは彼女が無意識のうちにおいてまだ生存を諦めていないからであり、死に対する恐怖を意識上に浮かばせないように精神的な防衛機構が働いているためである。
それに、夜が明けて多少なりとも視界が利くようになればどうにかなるという自信が、彼女にはあった。




