88話
果たして彼の取った反応は、まさしく正解だったと言える。
なぜなら、精霊の手が触れたお守りの魔道具は、その触れられた部分から水が染み透るようにして物質的な存在を消失させていったからである。
完全に消えてなくなる、という意味ではない。
物質としての要素が劇的な変化を起こし、精霊の身体と同じ性質の魔力体へと、変異を遂げていったのだ。
ほんの数秒も経たぬうちに完全な魔力体と化したその変遷は、世界が秘している奇跡の一端に他ならず、ソルトに感動をもたらした。
(物質体から魔力体への完全変異……? どういう原理が働いているんだ?)
驚きと疑問によって動きを止めているソルトに目もくれず、精霊はお守りを手にしてしきりに頷いている。
かと思えば、精霊は手にしていたお守りの端を折り、その破片を口へと運んでゆく。
むぐむぐと口を動かしながら、ああ、と何かを思い出したかのように、小さな口を軽く開いた。
『この魔力、おぼえてるよ。やたらげんきなおんなのこだったよね?』
そして、精霊の言う女の子の特徴はシュガーのそれと一致していた。
髪の色から口調まで、ぴたりと当ててみせたのである。
「……もしかして、話したことあるの?」
『はなしたことはないけど、このもりに出入りしてたことはしってるよ。
めずらしくおいしい魔力だったから、よくおぼえてる』




