81話
ソルトが何の変哲も無いお守りを姉貴分に渡すはずなどなく、それは当然のように魔道具であった。
万に一つ、危険がその身に及んだ際のことを考え、発信機としての役割を持たせていたのが役に立つこととなったのである。
彼の魔道具はどちらもしっかりと与えられた役目を果たしており、ソルトの足を止めさせることなく、直線的な最短距離を、道なき道を進ませていた。
その途上で森の闇が開かれ、眩い星光が夜天の裡に灯ったのは、冒険者たちが警戒している『手負い』の功績であったろう。
「これが、魔物の持つ力か…………」
呆然と立ち尽くしたソルトの眼前に広がっていたのは、掘り起こされて倒れた樹木の数々と深く穿たれた窪地だ。
最も深いところは四メートルほどにもなるだろう。
スプーンで丁寧にくり抜いたかのようなその窪みは、歪みの少ない綺麗な半球状であった。
推測するにそれは、広範囲に及ぶほどの協力無比な一撃で形作られたに相違ない。
人間の力では到底作り得ないであろうその破壊痕に、彼はしばらく見入っていた。
見惚れていた、と言い換えても良い。
その後すぐ、彼はここに来た目的を思い出すと、窪地とその周囲の探索を開始した。
窪地を形成しただろう力に思いを馳せ、僅かな昂揚感を覚えつつ、しかし同時にその力は人命を奪ったのかも知れないという罪悪感を覚えながら、けれども心の隅からそれらの感情を排除することはしなかった。
(度し難いな……)
そう思いつつも、ソルトは心の隅に留め置かれたその非倫理的とも呼べる感情を捨てようなどと考えもしなかった。
なぜなら、彼にとってその感情は人間の持ち得ぬ力そのものへの憧憬であり、客観的な尺度で測れるものではなかったからである。




